J1リーグ第28節 vs東京ヴェルディ1969 2005.10.22 味の素スタジアム

 

 

 内容なんて関係ない。「とにかく勝つ」事が何よりも重要であった。そして、我らがFC東京は、そんな試合においてよく戦い、よく踏ん張り、90分間最後まであきらめなかった。嬉しい勝利だった。

 キックオフ。相手の急造4バックを揺さぶる狙いもあったのか、東京DFラインから長めのフィードが何本か。いずれもはね返されるが、前からのプレスでヴェルディにスムーズなパス回しを許さず、押し込んでいく。梶山や今野も積極的な位置取りでセカンドボールを拾って攻撃に絡む。ピッチ幅一杯のサイドチェンジなどもあり、可能性を感じさせる立ち上がりだった。ただ、戸田の動き出しとパス出しのタイミングがずれていることや、ルーカスへのボールの収まりが妙に悪いのは気になるところ。また、憂太もMF戸田にマークされてなかなか前を向かせてもらえない。7分、自陣深くからのパスを受けに戻る憂太に対し、戸田が後方から激しいスライディング(もちろんファウル&警告)。ピッチ上の雰囲気が厳しさを増す。ヴェルディの選手たちの気合も伝わってきた。9分、ルーカスとのきれいなパス交換から阿部が左サイドを抜けたが、クロスは中央の戸田に合わず。

 そうこうしているうちに、ヴェルディも攻撃の形を作り始めた。東京の中盤が上がった後のスペースに入り込むMFジウを起点として、ワシントン・森本の2トップに左SB相馬の突破も交えてチャンスを作る。14分、CKのこぼれ球を相馬が拾い、今野の寄せを外してクロス、ワシントンのヘディングシュートがバーの上を抜ける。17分にもジウのドリブルから森本のシュート(枠外)。そして19分、DFラインから左サイド駆け上がる相馬へのフィードが通り、戸田と藤山の対応が遅れたところをゴール前へ鋭いクロス、土肥が一旦ははじくものの、足から飛び込む森本がそのボールを押し込んでゴールイン。いい流れから一転、お株を奪われたような「シンプルなサイド攻撃」での失点。嫌な感じだった。21分にも中央のジウからの展開で森本がシュート(土肥キャッチ)。

 流れを取り戻すには攻め返すしかない。東京は前がかりに。この日中盤で目立っていたのは梶山。どこかで今野エキスでも注射されたのか(笑)、よく走り、しつこく食いさがり、ボール奪取の勢いそのままに敵陣へ進入していく。23分、右サイドから切れ込んだ今野がシュート、DFに当たったこぼれ球を戸田がボレーで叩くが、ボールはGKとルーカスの間を抜けてしまう。24分、中央を持ち上がった梶山が左右のステップでCBを幻惑しながら左足でミドルシュート、わずか左に外れる。中盤の健闘に対し、アタッカー陣はやや出来が悪い。戸田やルーカスの動きは鈍く感じられ、阿部もやや孤立気味。ボランチと入れ替わってパスをさばく憂太や、足の怪我をおした金沢の上がりが攻撃を支える。34分、金沢からの縦のボールを受けた憂太が鋭いターンでDFをかわし、阿部へスルーパス。タイミングドンぴしゃのクロスが入るが、飛び込む戸田わずかに合わず。

 38分、左サイドから金沢がゴール前へ浮き球を入れ、阿部が飛び込んでGK高木の前で触るが、ボールはゴールネットの上。さらに39分、右サイド憂太のスルーパスで戸田が抜け、ゴールライン際からグラウンダーのクロスを入れるも、ルーカスの寸前でDF林がカット。チャンスを作れどなかなかゴールへ結びつかない、もどかしい展開。しかし、1つのスーパープレーがゲームを変える。44分、ペナルティボックス前でパスを受けたのは梶山。胸トラップで落としたところでDFに遮られかけるが、相手の寄せより一歩早いタイミングで右足アウトサイドにかけたシュート。ボールは不思議な伸び方をし、高木の横っ飛びも届かず右ポストに当たってゴールへ吸い込まれた。スタンドから歓声が上がるまでに0.5秒ほど間があったのは、皆呆気にとられていたからだろうか?梶山らしい、梶山にしかできない超次元プレーロナウジーニョみたい、と言ったら大げさだろうか?ともかく、悪い雰囲気は一掃され、前向きな気持ちでハーフタイムを迎えることができたのだった。

 後半の立ち上がりはやや東京が押しながら、双方ともバランスを崩さず膠着気味にゲームが進む。東京は中盤の安定とアタッカーのイマイチぶりは相変わらず、ヴェルディ側の攻撃も、たまにワシントンや森本にパスが渡っても全て茂庭が抑えきる。6分の憂太のロングシュートは枠の左にそれ、9分に森本が入れた低いクロスは茂庭がワシントンの寸前で倒れ込みながらクリア。東京は14分に戸田OUT鈴木規郎INの交代。ルーカスを先に外してもいいような気がしたが、試合の流れと時間帯を考えれば概ね妥当な交代であったように思う。ただ、入った規郎は猪突猛進で周りの選手とうまく絡めず、単独突破しても狙いの定まらないクロスをはね返されるばかりで、試合の流れを変えることはできなかった。19分、ペナルティボックス外でルーカスがDFを背負ったポストプレー、脇にはたいたボールを憂太が体勢を崩しながら狙うが、うまくミートできず枠を外れる。

 20分、ヴェルディの中盤を支えていた戸田が負傷退場。そして21分、東京はルーカスに代えてササを投入。この、アクシデントと極めて適切な交代が相まって、試合が動くことに。22分、今野のアーリークロスのはね返りを拾った憂太がペナルティボックス前まで持ち上がりミドルシュート、ひっかけてしまい左に外れる。頭をかかえ、ピッチを叩いて悔しがる憂太。両チームの選手たちの気持ちそのままに、攻防は激しくなっていく。25分、相馬が梶山をはね飛ばしながら左サイドを突破、えぐって低いクロスを入れる。ニアにはジウが走り込んでおり危ない場面だったが、茂庭がスライディングでブロック。29分には東京の波状攻撃。中央の梶山から右サイドの阿部へパスが通り、鋭いグラウンダーのシュートを高木がかろうじてはじいたところにササが詰めるも、わずかに届かず。その直後、自陣で中途半端なクリアをMF久場に拾われてスルーパスでワシントンが抜けるが、土肥が飛び出して間一髪クリア。

 この時間帯になると中盤のプレスは効かなくなり、試合はカウンター合戦の様相を呈してくる。もはや理屈ではなく、両チームの闘志のぶつかり合いになっていた。31分、平野の超強力なロングシュート、土肥の横っ飛びも届かずポストを直撃するも、ボールはゴールの外へ。32分、藤山のアーリークロスはミスキックのように思えたが、フラフラッと上がったボールはファーのゴールマウス角に飛び、わずか数十cmの差で枠外。これが入っていたらそれこそ大笑いだった…。37分、左サイドから立て続けにフリーのジウがクロスを入れるが、いずれもモニがカットして大事には至らず。38分、規郎のクロスを高木が小さくパンチ、ペナルティボックス内で憂太が拾い、ボールを浮かした切り返しでDFを外してからシュート!決定的な場面だったが、ボールはポスト右を抜けてしまう。またも倒れ込む憂太。40分にはササの強烈なロングシュートがCKとなり、そのクロスにモニが合わせるもバーの上。

 42分、憂太OUT、栗澤IN。憂太を外すのは惜しかったが、おそらく原監督はヒートアップした試合の中、栗澤の判断力に期待したのだろう。そして、この采配は的中する。終盤の攻勢もヴェルディDFにはね返され続け、引き分けも覚悟し始めたロスタイム。敵陣中央での素早いパスワークから栗澤が持ち上がり、シュートフェイントでDFを引きつけてから右に流れていたササへ。ササはフリーではあったが、ゴールへの角度は極めて小さいように見えた。が、迷わず右足を振り抜いてシュート!鋭い、弾丸のようなボールが、跳ぶ高木とニアポストの狭い間を抜けてゴールネットに突き刺さった。すごい!スゴイ!凄い!!もちろん東京側のスタンドはエライ騒ぎ。殊勲のササに駆け寄って抱きつく選手たち。そして当人のササは…意外と冷静そうだった。両手を広げて「仕事はしたぞ」と言わんばかりに誇らしげな表情。うーん、頼もしい。スーパープレーはできないが気の利く栗澤のファインプレーと、ササのまさしくスーパーなシュートによって生まれた得点。素晴らしい得点。もちろんそのまま試合は終了。FC東京が接戦をものにした。

 この日の東京、闘志や積極性では文句なしであったが、一方で攻撃のコンビネーションやプレーの精度といった点では課題が残り、また一部選手(特にルーカス)の動きはあまり良くなかったように思う。しかし、この試合は残留争いにとって決定的な意味をもち、おまけに「東京ダービー」であることも考えれば、内容云々よりも「とにかく勝つ」ことが大事であった。そして、選手たちは苦労しながらも90分間戦い続け、ベンチも適切な選手交代を断行。最後の瀬戸際でようやく勝負をものにした。これはもう完全に満足の行く結果といっていいだろう。こういう試合の後にあまり文句を言っては、バチが当たるというものである(と言いつつ、後で期待込みの苦言を書くのだが)。

 賞賛すべき選手としては、まず梶山を挙げたい。金沢や茂庭の助けもあったとはいえ、よく走りよく攻撃し、守備もしっかりしてチームを支えてくれた。思わず「クラゲ」と形容したくなるような浮遊ぶり・意志の感じられないプレーは影を潜め、チームの勝利に向けて気持ちを前面に出していたのが何より嬉しかった。クールなプレーぶりもいいけれど、困難を超えるためには時に熱いものも必要なのである。プレーの傾向としては、高い位置で攻撃に絡む場面が多かったのが良い。前から書いているように、やはり彼は前に出てナンボの選手なのである。同点ゴールも、先制されて反撃するもエンジンがかかりきらず、嫌な雰囲気になりかけていただけに非常に大きかった。あんなシュート、梶山以外の誰が決めることができようか!

 次に、途中交代で逆転ゴールを決めたササ。ボールに触る機会は少なく、シュートもわずか2本しか撃てなかったけれども、そこできっちり仕事するのはさすがリベルタドーレス杯得点王。決勝点は難しいコースをパーフェクトに撃ち抜いたもので、爽快感はとてつもなく大きかった。梶山にロナウジーニョが入っていたとすれば、こちらはちょっとエトー入っていたかも。また、DF陣の中では茂庭の健闘が光った。スピードで勝負する森本・体の頑健さを前面に出すワシントンというタイプの異なる2人を相手にし、速さと強さの両方で対抗して抑えきった。ジャーンの脚の不安をカバーして余りあるプレー。今やもっとも信頼できる選手と言っていいかもしれない。GKではないけれど、「守護神」と呼びたくなるような。あと忘れてはならないのが、負傷をものともせずチームに安定感とダイナミズムの両方をもたらしてくれた金沢。ベテランの頑張りには本当に頭が下がる。

 ちょっと残念だったのは憂太の出来か。今日も「司令塔」とも言うべき役割は果たしていたが、やや周りと合わない場面が多かった。気迫も運動量も十分にあったが、きついマークに存在が消え気味の時間帯があり、後半何度かあったシュートチャンスで枠に飛ばせなかったのはいただけない。チームの将来を担うべき選手だけに、こういう試合でこそきっちり決めてほしかったと思う。ただ、ミスの後のピッチを叩いて悔しがる姿は見ていて胸が熱くなったし、終盤のセットプレー時にスタンドから沸き起る期待感はすごいものがある。もっともっと高みを目指してほしいと思う。

 この勝利により、東京は9位まで浮上。混戦のリーグだけに勝点3の威力は大きく、大宮戦の勝利と合わせてあっという間に1桁順位である。これでどうやら残留争いの泥沼からは一歩抜け出せたようだ。さて、そこで問題は、これから何を目指して戦っていくか、だろうか。一戦一戦勝敗と内容を追求していくのはもちろんとして(もう少し勝点取らないと「安全圏」ではないし)、天皇杯を本気で獲りに行くのか、それとも来季を見越した戦い方・選手起用をしていくのか。難しいところだとは思うが、個人的には、ここらで「05年ベストのFC東京」を見せてほしいとは思う。1年間苦しい思いをしたから、最後くらいは、ね(もっとも、「終わりよければ全てよし」でもないとも思うが)。次の試合はホームに首位のガンバ大阪を迎える。「FC東京健在なり」をアピールするには格好の対戦相手ではないか。

 

 東京ヴェルディや、「東京ダービー」については、また別の機会に改めて書きたいと思います。

 


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