J1リーグ第26節 vs大宮アルディージャ 2005.10.1 駒場スタジアム

 

 

 どこぞのテレビ局の安っぽいフレーズではないが、残留のためには「絶対に負けられない」一戦は、予想通り(いや予想以上に、か?)苦しい戦いに。窮地のチームを救ったのは、ここ最近戦列から外されていた男たちだった。

 

 キックオフ。いきなり宮沢のフィードで戸田がペナルティボックスへ入り、ボールキープしたところをGK安藤に倒されたが笛は鳴らず。立ち上がりは大宮が優勢。高いDFラインで目の細かい守備網を作り、ボールを奪うや時間をかけずワンタッチパスを多用して攻め込んでくる。中盤に憂太と宮沢を入れた新しい布陣で臨む東京はなかなかパスをつなげず、速いパスに走らされては自陣深くでようやくはね返す場面が続いた。5分、バイタルエリアにおけるパスワークから斜めのスルーパスでトゥットが裏に抜け、前へ出た土肥がかろうじてシュートに触ってCKへ。右サイドに配置されたトゥットは、パスを受けると必ずと言っていいほど対面の藤山にドリブル勝負をしかけてくる。馬力の違いはいかんともし難いように思え、「厳しいなこれは…」というのが率直な第一印象だった。

 しかし、次第に新布陣にも慣れてきたか、時間の経過とともに東京がペースをつかむ。憂太・宮沢という視野の広さとパス能力を兼ね備えた選手が入ったことで攻撃の構成はスムーズになり、さらに憂太のキープ力も加わって「中盤で勝つ」状況が生まれた。11分、今野のパスカットから憂太→ルーカスとつなぎ、ルーカスがミドルシュート(枠外)。16分、左に流れた憂太からバイタルエリアを横切るようなグラウンダーの折り返し、走り込んだ栗澤がシュートするが、DFに当ててしまう。18分、ルーカスのスルーパスで栗澤がペナルティボックスへ突入。21分、カウンターの態勢で左の憂太から逆サイドへ鋭いパス、宮沢をオーバーラップした加地がDFを振り切ってゴールライン上をえぐっていったが、惜しくもゴールキックの判定。

 東京優位はなお続く。憂太はいい意味での「王様プレー」を見せ、宮沢のこぼれ球への競りかけや、栗澤のさりげなく憂太・ルーカスを助ける動きも光っていた。一方の大宮は中盤を省略して縦のパスを狙うが、アタッカーに合わずあっさり処理される場面が多い。30分、栗澤がDFラインへ突っかけてから右へ展開、加地が鋭いクロスを入れてアタッカー3人が飛び込んだが合わず。36分、藤山がフラフラッと敵陣深くへ持ち上がり、DFに囲まれたかと思った瞬間に巧みな持ち出しからペナルティボックスへ進入、マイナスのクロスをルーカスが反転シュートするもバーの上。40分には宮沢の浮き球に飛び込んだ戸田がDF2人とともに潰れ、憂太の前にボールがこぼれたが…バウンドが(憂太の背に比べては(笑))大きすぎてシュートできず。

 チャンスを作りながらもなかなか得点できない東京。こういう流れでは一発カウンターの失点が怖い。41分、タッチライン際で藤山がボール処理に手間取ったところをトゥットがかっさらい、茂庭のカバーリングも届かずグラウンダーのクロスが土肥の脇を抜き、無人のゴール前をボールが横切って冷や汗(ジャーンが追いついてクリア)。結局、0−0のまま前半終了。憂太・宮沢を中心にボールをよく動かす東京の攻撃は、行き詰まっている「シンプルにサイド攻撃」とは一線を画したものだったが、しかしそれでも無得点は無得点。嫌な感じがした。

 後半開始。10月らしからぬ暑さの影響もあるのか、前半に比べるとやや緩めの攻防が続く。気になったのは、ファウルで止まる場面が増えつつあったこと。前半は無難だった家本主審だが、後半に入ってからは神経質に吹きすぎのようにも感じられた。そんな10分、大宮陣でのFKを憂太が早いリスタート、戸田が反応してゴール前で一対一になり、倒れながら前に出る安藤と交錯。ここで、家本さんは躊躇なく戸田にレッドカードを提示。バックスタンドの私からはちょうど真反対の出来事で、何が起こったか正確な事はつかめなかったが、家本さんは「足で踏んだ」とのジェスチャー。しかし、あの際どいボールに突っかけないFWはいないし、とても戸田が意図的に踏んだようには見えなかった。一発退場は厳しい…。10人になった東京は宮沢を左に位置させてバランスを保とうとする。が、やはり攻撃は停滞気味。東京ベンチは宮沢→阿部の交代準備。ここで宮沢を外してしまうのは惜しいが…先制点が生まれたのはそんな時間帯だった。

 15分、中盤の底の宮沢から中央やや左の憂太へパス、憂太は右足インサイドでダイレクトに折り返し、これがDFと併走するルーカスへの絶妙のスルーパスに。ルーカスのシュートはペナルティボックスの縁まで飛び出した安藤に防がれたものの、こぼれ球が中央を上がる宮沢の足下へ。宮沢とゴールまでの間に障害物はなく、私も思わずシュート前に「やった!」と叫んでしまった(これで外れてたら大恥もんだった)。必死に戻る大宮DF。その間を冷静に狙う宮沢。シュートはGKとDFの間をきれいに抜けてゴールへ吸い込まれていった。本当にやった!!飛行機ポーズでチームメイトにもみくちゃにされる宮沢。よりによって、ホサれていた憂太と宮沢と、先々週救急車で運ばれたばかりのルーカスがやってくれた!!もちろん宮沢の交代は一旦取りやめに。

 先制された大宮は金澤→斉藤、続いてデイビットソン・純マーカス→島田の交代で攻撃態勢へシフト。それまでの縦一辺倒に比べると、サイド経由での攻めを意図するように。16分、CBの間にトゥットが突進して抜けかけたところ、間一髪茂庭がクリア。さすがにボールは支配され、楔のパスやクロス、CKの数が徐々に増えていく。次々に上がってくる大宮アタッカー。しかし、茂庭が食いつき、ジャーンが芝まみれになりながら耐える。攻撃時には憂太や栗澤が無理せずゆっくりとしたパス回しを見せ、体のキツそうなルーカスが懸命にボールを追う。24分、DFライン前でパスを受けたFW桜井がドリブルから強烈なミドルシュートを放ち、土肥がかろうじてはじき出す。27分には左サイド島田からのクロスをトゥットが枠内へのヘディングシュート、土肥が倒れ込んでキャッチ。

 28分、東京は宮沢に代えて梶山投入。その前に何度かDFライン前のスペースを使われていたし、宮沢の疲労も考慮したのかもしれない。それはそれでわかる。が、代わりが梶山…。この日の東京は控えのGKとDFを入れない「背水メンバー」だったが、それにしても三浦文丈もいたのである。守備固めとしては正直微妙な交代であったし、それよりも消耗が明らかだったルーカスの交代が先決だと思ったのだが…。31分、右サイドスルーパスで抜けた藤本から、DFとGKの間にグラウンダーのクロス、ジャーンが桜井と競って倒れながらクリア。もう上がれない東京。時折自陣深くまでルーカスや憂太までが戻りながら守る。大宮は藤本に代えてターゲットマン森田を投入。35分、左右に揺さぶられてマークが緩くなったところ、右からのクロスに逆サイドのトゥットが飛び込んでヘディングシュート、完全に決まったように見えたがポストわずか右を抜けた。ここでようやくルーカス→吉朗の交代。

 終盤になると東京は明らかに時間稼ぎを意識したプレーが増え、一方大宮はダイレクトに森田の頭を狙ってくる。ジャーンとのど迫力の競り合いが繰り返され、こぼれ球を藤山や今野が拾ってクリア!さらに大宮は、トニーニョまで前戦に上げて完全なパワープレーシフト。「事故」を恐れるこちらにしてみれば非常に嫌な戦法であった。ジャーン・茂庭を除けば高さの足りない東京守備陣だが、藤山や加地が競り勝てないまでも体を寄せ続ける。ロスタイムに突入。CKを、長駆戻っていた吉朗がクリア!さらに、東京陣ペナルティボックスすぐ外でのFK。島田のキックは壁に当たってチャンス脱出!…と思ったところ、(栗澤と交代で入っていた)文丈が早く前に出過ぎたとの判定で、警告&FKやり直し。しかし、東京の選手たちの集中は最後まで切れなかった。島田のキックはまたも壁に当たり、直後のCKを憂太が頭でクリアしたところで終了のホイッスル。苦しんだ末につかんだ大きな勝利であった。

 大宮アルディージャはよくトレーニングされたチームで、立ち上がりのソリッドな戦いぶりや、終盤のアーリークロス攻撃などを見る限り、決して侮れぬ手強さのある相手であった。ただ、トゥットの突破力を除けば一発で局面を変えられるような個人技はなさそうだし、訓練されているがゆえに一本調子に陥りがちなところもあるのかもしれない。思えば2000年あたりの東京もああいう感じのチームであったような気がする(って、今もあんまり変わってないか)。こういう、大駒の補強よりも組織力のアップにより「いいサッカー」を目指すチームには好感が持てるのだが、きっと今後もデリケートな戦いが続くのだろう。自分で突き落とそうとしておいてナンだが、J2に落ちぬよう頑張ってほしい(東京が落ちない限りはね)。

 FC東京は、大幅な布陣の変更(次も同じで行ってほしい)に加え、試合中思わぬアクシデントに見舞われながらも勝点3を確保することができた。ファンとしては、前半に見せてくれたパスワークの改善されたサッカーに加えて、戸田の退場後に泥臭くひたむきな「東京らしい」サッカーも味わえたのは大きな喜びであった。もちろん、勝ったからこそ言えることではあるのだが。この試合は選手たちが本当によく頑張った。特に憂太や宮沢は、今季は納得のいかない起用が続いていただろうに、よく腐らず自分を磨いていたものだと思う。試合後の宮沢の心底嬉しそうな顔を見て涙が出そうになった。ずっと、こういう戦いを観たかったのである。「やればできる」のである。いや、良かった!

 個々の選手について。まず、繰り返しになるが、何といっても馬場憂太の先発は成功であった。彼のボールキープと正確なパス出しが攻撃にまとまりとリズムをもたらしてくれた。足腰の強さ、パスのアイデア、そして何といっても「俺が攻撃を作るんだ」という明確な意志。東京はケリーに続く中盤の将軍を得たのかもしれない。次に、久々の出場だった宮沢の頑張り。サイドアタッカーを置かない布陣ゆえに華麗な展開パスこそ少なかったものの、戸田を走らせるパスは効いていたし何より守備面での貢献が大きかった。狭い中盤での競り合い、こぼれ球を宮沢が懸命に足を伸ばして落とし、憂太や栗澤につながる場面が何度もあった。そして決勝点の場面。2年前の日立台でアマラオの前にボールがこぼれたシーンが頭に浮かんだ。サッカーの神様には感謝しなければなるまいよ…。

 もちろん、他の選手たちも健闘。明らかに重たそうな体にめげず、ここぞという場面で走り通したルーカス。憂太の「影」として攻守のバランスを保ち続けた栗澤。体を張って大宮のパワープレーをはね返し続けたジャーンと茂庭。馬力とスピードで上回るトゥットに食い下がり、意外な(失礼)攻め上がりも見せた藤山。不運な退場となったが、前半は相手DFラインを脅かし続けた戸田。頼もしかった土肥ちゃんと今野。バランスに気を配った加地。交代選手3人も大きなポカなく(でも、梶山はもうちょっと判断を良くしてほしいな!)やり通してくれた。

 

 あえて1つ苦情を言うなら、これだけ選手たちが頑張って踏みとどまった試合なんだから、試合後のスタンドへの挨拶は選手だけでやってほしかったと思う。最近はいつもそうだとはいえ、原監督が後からノコノコ出てきたのは、ちょっと興醒めであった。いったいいつまで続けるつもりなのだろう?結果が出始めているからこそ、そろそろ一区切りつけてもよいのではないか。そして、「勝利の功績は選手に。敗戦の責任は指揮官に。」という姿勢を貫いてほしいと私は思うのだけれども、それは間違った美意識なのだろうか?

 あと、せっかくこの試合頑張っても、次の試合でグダグダに逆戻りしたら台無しであることも忘れてはならない。「勝って兜の緒を締めろ」という(こういう場合特に当てはまる)格言もあるし、11位に浮上したといっても、大分や柏など下位のチームが調子を上げてきていることを考えれば、まだまだ東京は残留争いから脱出できたわけではない。もしかしたら、ボーダーラインは勝点30台後半になるのかもしれないのである。

 


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