J1リーグ第34節 vsセレッソ大阪 2005.12.3 長居陸上競技場
4万4千人の大観衆で桜色に染まった長居スタジアム。「勝てば優勝」のセレッソだったが、前半・後半のいずれも早い時間帯に奪ったリードを守りきれず。終了間際、今野の同点弾がリーグ制覇の夢を霧散させた。同じ大阪のガンバが逆転優勝し、セレッソはなんと5位まで転落(賞金差なんと1億6千万円!)。2000年に続いて2度目の、土壇場の悲劇。なんというか、変な言い方だが、「泣ける試合」だった。
両チームとも攻撃の意図は明確だった。セレッソは「西澤大作戦」。1トップ西澤からのこぼれ球にMF古橋・森島と両外国人が絡んでいき、サイドは二の矢として進出。西澤は持ち味の技術に加え、体を張って戦う姿勢に溢れ、ハイボールのほとんどに競り勝っていた。対する東京はお得意のサイド速攻。中央でのボール奪取からとにかく両サイドの規郎・戸田をガンガン走らせる。試合は開始後すぐに動いた。3分、不意を突く早いスローインから右サイド久藤がクロス、西澤が豪快なヘディングシュートを決める。大いに沸く長居のスタンド。だが、選手の精神面を考えれば、セレッソにとっては少々早すぎる先制点だったかもしれない。「このまま行けば」の気持ちこそが怖いのである。
その後、案の定というか、東京が試合を支配。この日の東京は攻撃陣の連携が良く、特に今野はパスカットの勢いそのままに右へ左へ猛然と攻撃参加。サイドの数的優位からウイングの鮮やかな突破が何回か見られた。20分、梶山の持ち上がりから左サイドでフリーになっていた規郎へスルーパス。規郎はきっちり逆サイドのゴールネットにシュートを突き刺し、同点に追いつく。ナイスシュート!セレッソ側は緊張があったのかマークの受け渡しがぎこちなく、特にボランチ下村が全く効果的なプレーを見せられずに中盤で完敗していた。終了間際には気を取り直したように攻勢に出るも、せっかく得たPKは土肥の執拗な抗議の甲斐あって(笑)MFゼ・カルロスが失敗。
しかし、後半先に得点したのはセレッソだった。またも3分、ペナルティボックスでの混戦からこぼれたボールを西澤が鮮やかなボレーで叩き込んで勝ち越し。西澤の戦いぶりはセレッソサポーターにしてみれば頼もしいことこの上なかったに違いない。「エースの働き」とはこういうことを言うのか、と感心させられた。ただ、やはりこの得点も「いい時間帯」ではなかったのかもしれない。また気持ちが守りに入ってしまったのだろう、まだまだ時間は大いに残っているのに腰の引けたパス回しが増えてしまった。ズルズル下がってしまっては持ち味の組織守備は機能しない。そして、個人の勝負なら東京に分がある。
失うもののない東京は選手交代で先手を取る。栗澤に代えて宮沢、さらに梶山に代えて祐介を投入。早めに敵陣深くへボールを放り込み、セレッソDFにプレッシャーをかけまくる。前節川崎戦でも功を奏した戦法である(原さんらしい繰り返し方だ)。宮沢が、吉朗が、ジャーンが、今野が次々とシュートを放った。完全に受けに回る桜色の選手たち。西澤が見事な胸トラップから放った反転ボレーも枠外。それでも、セレッソDFはすんでの所でしのぎ続け、33分には混戦でGKが飛び出したところをジャーンが押し込みかけるが、DF柳本がゴールライン上に飛び出して間一髪クリア。このプレーを見て「これは逃げ切るか」と思えたが…。
後半44分。宮沢の蹴ったCKはセレッソDFの届かない軌道でバウンドし、走り込む祐介がボレーシュート。一旦DFがブロックに成功するも、セカンドボールを今野が胸できれいに落としてシュート!間髪入れぬ早業に今度はGKもDFも動けず、人垣の間を抜けたボールがゴールへ吸い込まれるのを見届けることしかできなかった。同点。喜び抱き合う東京の選手たち、そして愕然と立ちつくすセレッソイレブン。あまりにも残酷なコントラストであった。そしてロスタイムは互いに攻め合うも決定打はなく、そのままタイムアップ。静まりかえり、一拍おいて潮が退くように少なくなっていくスタンドの観客。桜散る、か…。
セレッソは、ややぎこちなさはあったものの、西澤にボールを集める意図は明確だったし闘志も感じられたし、なるほどこれは好チームだと思わされた。だけど、早く点を取りすぎたこともあって、「勝たなければ」という気持ちが裏目に出た。もう少し普通に戦わなければいけなかったのかもしれない。正直に告白すると、西澤の奮闘や、足を痛めながらもドクターを振り切るようにピッチに駆け込んでいく森島の姿を見て「セレッソに勝たせてやりたい」と思った。しかしかなわなかった。試合後の挨拶で声を詰まらせる小林監督や悄然とピッチを一周する彼らの姿を見ると、涙が出てきそうになった。何の慰めにもならないが、本当にいいチームといいゲームをすることができて、FC東京も幸せであったように思う。
セレッソの夢を砕いたのは今野。先週のホーム最終戦の後、帰りの電車で「こういう時に最も空気を読まないのは、多分今野だよね。ロスタイムに弾丸ヘッドで同点ゴールとか。で、泣き崩れる森島や西澤の脇で憂太と2人で例の「カニ踊り」をしちゃうんだよ(笑)。そうだ、そうに違いない!」という話をビワコビッチさんと2人でしていたのだが、まさか本当にそういう展開になるとは。憂太がいないのは不幸中の幸いだったな(笑)。まあ冗談はともかく、同点弾だけではなく今野は素晴らしかった。変なミスパスも減り、現在攻守ともに大黒柱とでも呼ぶべき存在。
また、今野だけではなく、東京はチーム全体としてもなかなか見応えのあるサッカーができたのではないかと思う。規郎はすっかり自信をつけて堂々とプレーしており、茂庭・ジャーンも西澤の鬼気迫るプレーにはやられたものの、それ以外のアタッカーはほぼ完封していた。宮沢は途中出場だったが、彼がボールを蹴るだけでサポーターも盛り上がり、攻撃力が一気に倍増するような気がする。残念だったのは、阿部のシュートが精度を欠いたのと、梶山にいくつか不用意なプレーが見られたことか。とはいえ、全体的には相変わらずの良い雰囲気で、天皇杯は非常に楽しみである。
アウェイ側ゴール裏に詰めかけたFC東京サポーター。原監督の進退が取り沙汰されている状況だけに、試合前から試合後まで留任を求める(?)「原東京!」コールが続いた。ただ、試合後挨拶に来た原さんの表情はあくまで硬く、「来年も!」のコールに対するお辞儀も何だか「ごめんなさい」と言っているように見えた。隣に座っていたカミさんと顔を見合わせ、「やっぱり辞めるということなんだ」と頷きあう。もしかしたら、僕にとってはこれで東京の監督としての原さんは見納めかもしれない。来週は観戦に行けないので、何とかして愛媛で浦和を破り、準々決勝へ駒を進めてほしいものである。
そういえば、東京のゴール裏に1人ガンバのサポーター(?)が紛れ込んでて、試合後に青黒の旗を振りながら騒いだりしていたようだが、あれはちょっといかんのでは。今回東京は結果的にガンバのアシストをする形になったわけだが、東京はあくまで東京の誇りのために戦うのであって、別に反セレッソでも親ガンバでもあり得ないのだから(少なくとも今回は)。