J1リーグファーストステージ第7節 vs横浜Fマリノス 2004.5.2 味の素スタジアム
試合前、ゴール裏から恒例の「佐藤!」コールと「俺たちーのーナオヒロー!」コール。ただし、この日は佐藤由紀彦が出場しなかったため、空振りもいいところであった(笑)。
立ち上がり、横浜がピッチの幅を広く使いつつグッと陣形を押し上げ、攻勢に出る。東京は金沢の不在も影響してかサイドの守備があまり利かず、いきなり受身に回ってしまう。2分、田中隼のクロスを一旦ははね返すものの、セカンドボールをつながれて再び田中へ。田中がもう一度上げたクロスはゆるく高いもので、土肥が余裕でキャッチできるかに見えた。しかし、そこへ安貞桓が競りかけて行き、土肥の手からボールがこぼれる。ワンバウンドしたボールを安がボレーで蹴りこんで横浜があっけなく先制。一見安のファウルにも見えるプレーだったし、土肥もそれをアピールしていたようだが、しかしあそこはFWならばラフプレーにならない程度に競りかけて当たり前の場面。そもそもゆるいクロスというのは案外処理が難しいもので、土肥ちゃんの「両手キャッチ」の選択・態勢はちょっと安易に見えたのだが、どうだろう。次のキックオフ、ルーカスが怒りまくっていたのが印象的だった。
開始から10分を過ぎる頃になると、横浜もレギュラーDF3人を欠く後ろへの不安があったのだろう、上がりすぎずゆっくりボールを動かして東京の前へ出る守備をかわそうという意図が表れてきた。早く失点を取り返したい東京はいきり立ち気味で、ボールホルダーに突っかけようとしてはかわされ、ようやくつかまえた時には過剰に強く当たって(いるように見えて)しまい、浅利・チャンが立て続けに警告を受ける。この日主審を務めた奥谷氏は神経質、というよりよくわからない基準で頻繁にファウルを取り、ジャーン・ルーカスをはじめとして東京の選手たちは明らかにストレスをため込んでいた。ゴール裏からも「ハ〜ゲ〜!」のコールが飛ぶ。また、東京はメンバーがガラリと変わったせいかコンビネーションがイマイチで、攻撃のパス回しもギグシャクとした感じ。守備意識の高い横浜にスペースを消され、いかにも厳しそうな雰囲気であった。
しかし、それでも東京は強引に主導権をたぐり寄せてしまう。横浜側のパス回しの緩慢さにつけ込む形ではあったが、ボールを奪ってから間一髪のパス・ドリブルを連続させる攻撃は個々の能力の高さを示すもので、思わず感嘆しそうになった。8分、梶山がハーフウェー付近から巧みなターン・ドリブルで持ち上がり、ペナルティボックス手前絶好の位置でFKを得るも、石川のキックは壁を直撃。15分、ルーカスのスルーパスで戸田が左サイドを抜けてペナルティボックスへ突入するが、クロスはDFにブロックされる。17分には梶山からルーカスへ早いタイミングのスルーパス、一旦はカットされるがこぼれ球をタッチライン際で石川が拾い、一気に持ち上がってグラウンダーのクロス。これを走り込んでいたルーカスが後ろに流し、どフリーになった戸田がゴール正面でシュート!完璧に決まったかと思えたが、ボールはGK榎本の正面に飛んでしまいノーゴール。「決定力とはつまりシュート力のことなのだ」とため息をついた瞬間だった。
その後も東京は攻め続け、ルーカスらが何度もペナルティボックス内でパスを受ける。しかし、どのシーンも必ず「あと一歩」で終わってしまう。29分、戸田が放ったミドルシュートは榎本が押さえた。茂庭やジャーンの上がる姿も次第に目立つようになり、30分には加地のアーリークロスがすっぽりジャーンの足下に入ったが、シュートは榎本が横っ跳びでセーブ。横浜も坂田のスピードを武器に奥からのスルーパスで逆襲を狙うが、いずれも茂庭やジャーンがカットして事なきを得る。34分にはチャンが倒され再び絶好の位置でFKを得るも、ルーカスのキックがまたしても壁直撃。38分にはチャンの豪快な持ち上がりから梶山→今野→右へ張り出た石川とつないでクロス、はね返りをまた右へ展開して今度は加地がクロスを入れるが、ルーカスの落としに反応した戸田のシュートはDFにブロックされる。結局、チャンスを量産しつつも決めきれず、前半は0−1のまま終了。ここで追いつけなかったのが結果的に敗因となったか。
後半。前半受けの態勢になりすぎたことを反省したのか、横浜は前目からプレッシャーをかけるようになり、柳想鐵あたりが前へ出るシーンが増えた。その圧力に押され、かつ前半攻め続けた反動もあったのだろう、東京は思うようにパスがつなげなくなり、再び横浜ペースへ。立ち上がりに加地・石川のクロスが連続して上がったものの、いずれも横浜DFがあっさりクリア。8分、左サイドから奥がDFとGKの間へ鋭いグラウンダーを入れ、坂田が飛び込んでわずかに届かず、戻っていた戸田がようやくクリア。10分には横浜陣での横パスをカットされてから波状攻撃となり、最後は安の強烈なボレーシュートを土肥が横っ跳びで弾き出す。東京も懸命に左右へボールを散らし、時たまクロスが上がりはするのだが、飛び込むのがルーカス・戸田・梶山というメンツではなかなか「競り勝ってゴール」という形にはならない。
15分、東京は浅利に代えて文丈。「司令塔」の投入によって攻撃の再加速を狙う。が、しかし。16分、CKのはね返りをボレーシュートしようとした坂田の足下に梶山が飛び込み、ファウルを取られる。この30mはあったと思われるFK、奥が蹴ったボールは緩やかな弧を描き、そのままゴール右隅ギリギリの所に飛び込んだ。見事な、としか言いようのないスーパーFK。2−0。奥はその直後のFKでも際どくポスト脇を抜けるボールを蹴っており、フリーキッカーとしての怖さを存分にアピールした。18分、阿部の勝負強さにわずかな希望を見出すべく、東京は戸田OUTで阿部IN。19分にはペナルティボックス内ルーカスのポストプレーから梶山が粘ってスルーパス、ルーカスがGKと一対一になったかと思った瞬間にオフサイドの笛。ため息が漏れるが、久々の際どいチャンスでもあった。こうした形で、シューターとして東京で頼れる阿部にシュートを撃たせられれば…。
しかし、21分、試合は唐突に「終わり」を告げる。マリノス陣内で加地の横パスが奥にカットされかけたところ、そうはさせじと文丈が足を伸ばしてボールに先に触ろうとする。接触。奥が倒れ、長い笛が鳴る。文丈に対しまず黄色い紙が提示され、続いて赤い紙が。2回目の警告による退場。イーブンに近いボールに飛び込んだプレーだけに決して悪質なものとは思えず、もちろん納得が行かない文丈は奥谷主審に詰め寄る。場内も騒然。東京側スタンドからは怒号が飛び交う。しかし判定が覆るはずもなく、おまけにさほど執拗な抗議をしていないように見えたルーカスにもイエローカード。両手を挙げて「理解不能」のジェスチャーをする茂庭。これで勝負あり。東京の選手たちの気持ちは完全に切れた。本当は、切れてはいけないのかもしれないが。
26分に石川に代えて栗澤が投入されるも、事態は全く好転しない。ボールをとられるやがら空きとなった今野の脇のスペースから展開され、前がかりの加地・チャンの後方スペースを存分に使われる。本当ならば栗澤が絞るか梶山が下がるかして今野を助けるべきだったのだろうが、栗澤はサイドでDFに囲まれ、梶山にももはやその力は残っていなかった。マリノスはカウンターで何度となく決定的なチャンスをつかみ、結果として追加点が入らなかったのが不思議なほど。対する東京はチャンスらしいチャンスを作れなくなり、わずかに石川のミドルシュートが榎本の正面に飛んだくらい。最後の20分間は、東京サポーターには本当につらい時間帯であった。自チームがもがいて何もできず、相手の攻撃がスムーズにピッチを進んでいく光景を見るのは苦痛以外の何ものでもない。結局、そのままタイムアップ。「くそレフリー!!」の大合唱が響き渡る中、我々にとって最悪の試合は幕を閉じた。
横浜Fマリノスは、なんというか、東京に比べてはるかに「勝者のサッカー」、勝点につながる戦い方をしていた。これは認めざるを得ない事実だ。立ち上がりにラッシュをかけたのは東京対策としてまことに正しく、リードを奪うや無理せず下がり気味に東京の攻勢を受けとめつつ、坂田を走らせるカウンターで追加点を狙う、と。ま、やや受けの意識が強くなりすぎ前半には危ない場面も数度あったが、後半にきっちり修正してきたのはさすが。DF3人を累積警告で欠く苦しい状態の中、しかしそういう事態になれば3バックへ変更する戦術的な柔軟性がマリノスにはあるし、代役出場した河合の奮闘も目立った。まことに悔しいが、現在のところは東京より一段上のチームであると素直に讃えておきたい。早く追いつきたい、追いつかねばならないのはもちろんだけれど。
FC東京は、戻ってきた「代表組」5人が一気にスタメン復帰。そのせいでギクシャクした感じがとれないまま序盤に失点し、懸命に反撃するも点が取れず、後半は失速しかえって追加点を奪われてしまった。「開始早々に失点→反撃→届かず突き放される」のパターンは磐田戦と全く同じだし、スタメンが固定できないことは今年の課題としてシーズン前から分かりきっていたことなのだから、いずれにせよ何だか「進歩がない」ように見えてしまう。行き詰まり、と言ったら言い過ぎだろうか。早く「代表組」、特に五輪代表の連中がフィットしなければ上位進出はおぼつかないだろう。今は個人能力のある「代表組」の復帰が戦力の純増につながっていない状態なのである。遅くとも広島戦くらいまでには、問題が解消しているといいのだが。
あと、この日は采配にも疑問符がついた。浅利を先発起用した意図は?文丈を休ませたかったのかもしれないが、だとしてももっと早くに交代していれば、と思う。やっぱり相手がガンガン攻めてきてこその浅利だし、前へ出なければならないのなら文丈が必要だったのではないか。浅利・今野のコンビというのも適性としては「似た駒2枚」という感じで、守りきりたい終盤ならともかく、普通の状況では好ましくないと思う。また、金沢の不在は確かに痛かったが、代わりにチャンを使うのは妥当として、右に同時に加地を入れるのは守備の面でちょっと…。あと、交代で言えば、栗澤を入れる時、石川ではなく梶山と代えるべきではなかったろうか。
個々の選手では、土肥ちゃんは最近どうも安定感が欠けてしまっている。茂庭・ジャーンは問題なし。チャンはSBとしては守備力が足りないか。加地は攻撃時に工夫が足りないし、石川と全く合わなくなってしまったのは一体どうしたことか。浅利は試合展開とのミスマッチが気の毒だった。文丈もチームに気合を入れようと頑張ったのが裏目に出た感じで、やっぱり気の毒。今野は、現状中盤の後ろの選手なんだと思う。石川はよく奮闘した。梶山は攻撃によく絡んでいて、もうしばらく同じポジションで見ていたい。戸田は…シュートって、やっぱりセンスなのかなと思う。残念だが。そして、東京の「1トップ」は…。ルーカスはクロスにしろスルーパスにしろ、1度足下に収めてから動き直すので、DFにしてみればあまり怖くないタイプではなかろうか。東京は周知の通りサイドアタックが生命線のチームだが、いくらクロスが上がっても中央に直接合わせられるシューターがいないのでは、ちょっとどうにもならない。ルーカスは頑張り屋だしそれなりにいい選手だと思うのだけれど、東京に必要な選手という意味では正直首を捻ってしまう。
最後に、この日のレフェリングについて。負けた方があれこれ言うのは「負け犬の遠吠え」でしかないし、判定でこの試合の勝敗がひっくり返ったとは思えない(それは横浜に失礼だ)わけだが、でもやっぱりこの試合を語る上で奥谷主審の不可思議な(?)レフェリングに触れずにはおれない。土肥がファンブルした場面、あれはとらない審判がいても仕方がない、と思う。文丈の退場についても、足の裏を見せかつ実際に接触があったのは確かだから、不運だし断じて「ラフプレー」ではないと思いつつも、強引に納得できないことはない。でも、2点目の失点につながった梶山のファウルはどうなんだろう。あの時梶山は足を上げて「危険な方法でプレーする」という種類のファウルと判断されたのだろうから、せいぜい間接FKではないか?と思ったのだが(ルールに詳しい人、教えて下さい)。あと、他にもいくつか「何でファウルなんだろう」あるいは「何でファウルじゃないの?」と首を捻るようなプレーがあった。つまり、基準がはっきりしていないのだ。手を使うプレーに厳しいことは推測できたが、ならば後半12分、梶山がマリノス陣ゴールライン際で手も使わず、見事なボディコントロールで田中隼と体を入れ替えたプレーがファウルにされたのはどうしたことか。文丈が退場になってからしばらく、やたら東京に甘く横浜に厳しくなったように見えたのは私の目の錯覚だろうか。ついでに言うと、アドバンテージの取り方もまた下手くそであった。ファウルを受けた側がボールを確保し続けて展開しようとしているのに、そこで笛が鳴ることが何回もあり、「それならばなぜファウル後すぐにプレーを止めないのか」と思う。奥谷主審の判定には東京側のみならず横浜のゴール裏からも不満の声が上がっていた様子で、対決ムードの強さからスタンドが敏感になった面もあったにせよ、訳のわからない笛を吹くレフェリーがGW大観衆の楽しみとなるべき試合を担当したのは、我々はもちろんJリーグにとっても不幸なことであった。
ま、だからといって、そんな判定に対し過剰にイラついて我を失いがちだったことは、東京としてはあくまで反省点と考えるべきだと思うが。……厳しすぎる見方だろうか?少なくとも、サポーターが我慢しきれずに「くそレフリー」とか「ハゲ」とか大合唱しちゃううちは、選手に「それでも冷静にやれ」なんて言えないか。