J1リーグファーストステージ第3節 vs東京ヴェルディ1969 2004.4.3 味の素スタジアム

 

 

 面白かった。両者が時間帯を分け合って攻め合い、ゴールを奪ったり防いだり。実に楽しめる「シーソーゲーム」だった。

 

 立ち上がり、攻勢に出たのは東京の方だった。テンポよくパスを回し、主に左サイドからチャンスを作る。開始直後に金沢のクロスがペナルティエリア内の阿部に渡りかけ、6分には戸田がドリブル突破を図ったこぼれ球を阿部が拾ってミドルシュート(DFブロック)。8分にはペナルティエリアすぐ外のFKで石川が真っ直ぐゴールに向かうシュート性のボールを蹴り、GK高木が胸で弾いたところをルーカスが頭で狙うが、わずかにバーの上を越えた。さらに11分にも戸田→今野→金沢とワンタッチのパスワークからクロスが上がり、ペナルティエリア内へ走り込んだ今野がDFと競りながらシュート、ゴール左へ外れる。ルーカスも相変わらず積極的で、16分には中央で浮き球をナイストラップ、巧みなターン・ドリブルから鋭いミドルシュートを放つもバーを越える。

 東京の攻撃をしのいだヴェルディは、昨年11月のような「ショートパスをつなぎながら全体が前進」ではなく、よりシンプルに2トップへボールを集める攻撃で反撃。14分、スルーパスに反応した「恐るべき15歳」森本が完全に金沢の裏をとり、際どいクロスがエムボマに合いかけたがジャーンカット。エムボマは(特にジャーンのマークが外れた時の)ロングボール処理には威力を発揮、ヴェルディ陣から次々と長いボールが蹴られ、中抜きの攻撃に東京のプレスディフェンスは無効化した。そして18分、右サイドライン際でジャーンが森本からボールを奪い、前へフィードしようとしたキックがMF平野の正面に。平野はペナルティエリア外で左足を一閃、絶妙の弾道のループシュートが土肥の頭を越えてゴールに吸い込まれていった。0−1。さらに休む間もなくヴェルディは攻めたて、19分にはゴール正面で森本が左右に鋭いステップを切って茂庭・徳永を振り回し、シュート。逆をつかれながらも土肥ちゃんが片足でかろうじてセーブする。21分にはロングボールでエムボマがDFライン裏に抜け出し、ペナルティエリア内でシュートを放つもわずかに枠外。

 前半半ばを過ぎると、今度は右の石川を軸に東京も再びチャンスを作れるように。26分、左サイドの金沢から大きく逆サイドへ振ったボールが猛然とDFラインを追い越す石川に渡り、バウンドボールを右足でボレーシュート、高木がワンハンドで弾き出す。29分、中盤のこぼれ球を宮沢がダイレクトで右へ展開、石川が抜け、クロスがDFに当たったボールをもう一度拾って左足でシュートするも枠外へ。春にしては暑い気候も影響したか両チームともやや動きが鈍めで、中盤をボールがスルーしていく中東京は押しながらもあと一歩破りきれない。特に気になったのは、ルーカスが前でガンガン突っかけるのとは対照的に、その後ろで阿部が消えてしまっていることであった。石川が右を破ってもゴール前に走り込むのはいつもルーカスと戸田で、これでは2トップにした意味がなく攻撃にも厚みが出ない。逆に30分、森本がスピードあるドリブルで茂庭をちぎり好クロスを上げるが、徳永カット。36分にはペナルティエリア付近でセカンドボールを何度も拾われて三浦淳のシュートを許すもボールはバーを越えた。

 40分を過ぎるとヴェルディは意識的にボールキープに注力し始め、東京ファン・サポーターが大半を占めるスタンドのイライラを誘う。東京は石川やルーカスがチェイスするのだがなかなかボールはとれず、逆に隙を見て縦のボールが飛んでくる。ロスタイムには、ペナルティエリア内で浮き球を受けたMF小林大が勝負してシュートまで持ち込む場面もあった。0−1のままハーフタイムへ。東京がいつも通り「走り、走らせるサッカー」をやっていたのに対し、ヴェルディがいつもの「小さく速く」とは違って「大きく前へ」ボールを動かすシーンが目立った前半だった。今ひとつスッキリしない戦いぶりに、ゴール裏からはケリーコールも起こる。

 

 後半立ち上がり、「オヤ?」と思った。リードしたヴェルディが慎重に出てくるかと思いきや、前半よりも陣形を前に押し出してショートパス、という本来の(?)サッカーを試みているように見えたのだ。無論東京としてはその方が攻守共にやりやすく、同点ゴールもそれを利用するような形で生まれた。5分、ジャーンのロングパスに反応した戸田がバッチリのタイミングでDFラインの裏に抜け、右足アウトで戸田とは信じられぬ(笑)見事なトラップを見せてシュート!ボールは前に出てきた高木の左を抜いてゴールイン。1−1。ただの汗かき屋ではなく、こういう「一発のプレー」もあるから戸田は外せないのである。力強いガッツポーズ!!

 得点直後、東京は存在感のない阿部に変えて馬場を投入。馬場はDFラインと守備的ハーフの間にうまく入り込んでボールを収め、前で裏を狙う戸田・ルーカスにパスを供給してチャンスメークの役割を果たす。9分、馬場がパスカットからスルーパス、左サイド抜けたルーカスが中央上がる今野へ向けてクロスを上げ、DF林がたまらずペナルティエリアぎりぎり外でハンド。絶好の位置のFKだったが、ルーカスの蹴ったボールは45°の角度で宇宙へ向けて飛んでいった(笑)。11分にはルーカスがペナルティエリア右で粘り、クロスを戸田が胸でファーへ落として今野がシュート、高木セーブ。14分にはヴェルディ陣中央で馬場が1人2人とドリブルでかわしてタメを作り、駆け上がる金沢へパスを通す。ヴェルディの守備網をかき回す馬場の活躍にスタンドからはどよめきが。未だかつて、こんなに馬場のプレーがウケたことがあったろうか(いや、ない)

 劣勢に陥ったヴェルディはMFウーゴを投入。DFの上がりも増え、その攻撃的姿勢が功を奏してまたしても流れが変わる。15分、ペナルティエリアすぐ外から林が放った強烈なミドルシュートを徳永が頭でかろうじてブロック。18分、土肥のミスキックを拾ったウーゴが左サイドを突破、グラウンダーのクロスをエムボマがゴール正面にはたきシュート。この時土肥は前に出ていてGK不在のピンチだったが、ゴール寸前で今野がスーパークリア。しかし、ヴェルディの波状攻撃は続く。19分、三浦淳が上げたロングボール、エムボマが金沢をノックアウトしつつゴール前へきれいに落とし、オーバーラップしていた米山がDFライン裏に抜け、左へはたく。平野が上げたクロスは緩やかなものであったが、ファーサイドでジャンプしたエムボマが2人のマーカーをものともせず頭で叩きこんだ。1−2。これでヴェルディは完全に元気を取り戻し、21分にはオーバーラップした柳沢のクロスに森本が飛び込んでわずかに届かない場面も。逆に東京は、この時間帯気持ちがはやるのかアタッカーが前に張りついて攻撃の流動性が失われ、パスの出しどころに困った馬場がボールを失う場面が目立った。

 25分、東京は戸田に代えて特別強化指定の栗澤(※追記2)を投入。その直後、東京を救うジャーンの同点ゴールが飛び出す。ヴェルディ陣でのFK。宮沢のキックは大きな弧を描いてゴール前ファーサイドへ飛び、DFの前に体を滑り込ませたジャーンが鋭いヘディングシュートを突き刺した。2−2。試合の流れからすればもちろん勢いに乗るのは東京。しかしヴェルディもウーゴや平野の突破力は健在で、まだ「死んでない」状態。29分、カウンターから4対3の場面を作られるが、ウーゴが焦って早めのロングシュートで枠を外し、助かる。33分には左サイドのスローインからまたしてもウーゴがスピードに乗ってペナルティエリア内へ進入、角度のないところからシュートを放つもバーの上に外れた。34分、東京はキックの精度を欠いていた宮沢を外し、文丈投入。若いチームだけに、ベテランが入るとビシッと締まった雰囲気になるものだ。

 決勝点が生まれたのは36分。センターサークルでボールホルダーに石川が絡み、馬場がボールを奪う。そこから宮沢(※追記3)→石川とつないで中央のルーカスから右サイドへ開いた石川へ。石川は逆サイドフリーで上がる栗澤目がけて正確なクロスを上げ、待ちかまえた栗澤が頭で丁寧に折り返す。と、ゴール前へ飛び込んでいたのは馬場。前へ出る高木と交錯するようにして頭ですらし、きれいにゴール右隅へ流し込んだ。3−2。ついに逆転。ゴール裏へ走っていって歓喜を爆発させる馬場、大騒ぎの場内、そしてダイナミックなジャンピングガッツポーズを見せる原博実(笑)。これは、ヴェルディという相手を考えても、試合展開を考えても、そして多くのプレーヤーがタッチしながら最後まで流れるようなリズムが失われなかったという点においても、まことに快感度の高い得点だった。ユータ、ようやった!!!

 直後の37分、自陣でボールを奪った栗澤がすかさずスタートを切っていたルーカスへスルー。完全に裏へ出たルーカスは大きなドリブルで一気にペナルティエリアに達し、高木もかわして体勢を崩しながらも左足でシュート。完全に決まったかと思えたが、しかし懸命に戻ったDFウベダがカット。「それでも入らないか!!」。スタンドでは多くのため息と、少数の笑い(笑)が入り交じる。40分を過ぎると東京は適度にキープしつつ逃げ切り態勢に突入。文丈が入った効果は一目瞭然で、彼のところからパパパッと指示が伝播していくのがスタンドからもよくわかった。そして、走って走ってプレッシャーをかけ続けるルーカス。41分にはヴェルディが米山→林のスルーパスで、42分にはルーカスが高木と競ってそれぞれチャンスを作るが逸機。ロスタイムの三浦淳のロングスロー連発攻撃も全員守備でしのぎきり、ついにタイムアップ。押しつ押されつの大激戦をFC東京が制した。

 

 

 先制されて追いついて、引き離されて追いつき、追い越して。FC東京のファン・サポーターにしてみればたまらない展開。「なるほど、これが『攻劇サッカー』というやつか」と納得させられた90分間であった。なにしろ「攻め勝った」喜びを味わえてこその原東京だろうと思うのである。また、ケリーの不在や五輪組のコンビネーション不安といったネガティブな要素を乗り越えた結果がこれなのだから、そういう意味でもこの勝利は大きい。これで五輪組のコンビネーションが合ってきて、ケリーや加地や規郎が戻ってきたら……かなり期待できそうだ。起用法を考えなきゃいけない監督はすげえ大変そうだが(笑)。

 個々の選手について。土肥ちゃん(200試合出場おめでとうございます)は何となく飛び出しの判断が悪いように思えたが、海外遠征の疲れが残っていたか?ジャーンはある意味この試合の主役。自分のミスを自分で取り返す姿はまことに格好がよかった。他のDFはボチボチといったところか。今野はセカンドボール拾いまくりな上に意欲的な攻撃参加を見せ、早くもフィットしてきた感じ。献身的で巧いだけではなく、きっと賢いのだろう。宮沢は何だかキックがボールの芯に当たっていないような感じだった。セットプレーの精度を欠いては彼を使う意味がなく、ポジションも安泰とは言えないだろう。戸田と石川は持ち味を発揮。文丈はさすが。馬場は相変わらず「軽い」プレーも散見されるものの、ボールもちゃんと追うようになっているし、ドリブルに粘りが出てきたし、独特の感覚をきちんと生かせるようになってきたのは大きい。栗澤は状況判断にセンスを感じさせてくれた。最も心配なのは阿部で、ほとんどシュートも撃てず、いったいどうしてしまったのか。もっと味方に生かしてもらうよう動かないと。あと、ルーカスには色々な意味で楽しませてもらった。一生懸命頑がんばってしっかり勝利に貢献しているのに、しかしそれがちょっとオモロいシーンを生んでしまうところが何というか…ねえ(笑)。

 あと、ヴェルディの森本君、確かに「恐るべき15歳」だと思う。静止(ないし低速)状態から相手を抜きにかかる時の加速力やボールの受け方といった所に才能の片鱗、というより今ある実力が垣間見えた。ただ、まだ1点も取っていない(この試合危なかったけど(笑))選手についてメディアがこぞって大騒ぎするというのも異常ではないだろうか。本人は自分が「スターシステム」に乗せられつつあることを自覚しているらしく、コメントからも素っ気なさ・冷たさが感じられるのだが、しかし15歳の少年がそういう振る舞いをしなくては自分を維持できない状況にはやはり首を捻らざるをえない。せっかくの逸材、できるだけそっとしておいてあげないと。

 

[追記1]
 この試合は、両チームゴール裏の横断幕も面白かった。これまであまりネタ系に走らなかったヴェルディ側にも「幕府の狗がっ」(新撰組とかけてます)とのダンマクが上がり、東京側は「おまえ何中だよ」(もちろん森本に対して)「稲城≠東京」(あれ?ホントは東京なんだっけ?)の2つを掲げていた。まあ個人的には、わざわざ相手の所に行って下品な絵で無駄に煽ったりするよりも、このテの内容の面白みで勝負してほしいと思うのである。ヴェルディ側の「お前の大事な宝物を取り戻せ」とかいうフレーズは相変わらず意味不明だけどね(笑)。

[追記2]
 「栗澤」という名字はけっこう珍しいので(←言い訳)、この観戦記の中でも「栗原」とか誤表記していたところがいくつかあり、WEBにUPしてから気づいた(笑)。慌てて訂正。すんませんでした。

[追記3]
 宮沢だと錯覚していたのだが、既に交代してるんだからんなわけはない。「あれは金沢」との指摘をいただきました。なーるほど。


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