J1リーグファーストステージ第1節 vsアルビレックス新潟 2004.3.13 味の素スタジアム
試合開始数十分前にバックスタンド2階へ上がると、既にアウェイ側1階は新潟サポーターでぎっしりであった。優に1万を超えるであろう、オレンジの人の波が揺れる。J2優勝の勢いをそのまま開幕ダッシュへ持ち込むべく意気揚々と乗り込んできた様子がうかがえた。だが、この日の味の素スタジアムは決して新潟色に染まってしまった訳ではなかった。開幕セレモニー。スタンドの3分の2は東京ファン・サポーターの掲げる青と赤のボードにより2色に染め分けられ、東京スカパラダイスオーケストラの演奏がこだまする。テンポの良い『DOWN BEAT STOMP』、優しいメロディで誘いかける『スタジアムへ行こう』、そして生演奏だけにいつもよりもソウルフルに感じられた『You’ll Never Walk Alone』の大合唱。もしかすると試合へ向けてのムード作りという点においては、これまでのセレモニーの中で一番の出来だったかもしれない。「ああ、始まったんだなあ」。FC東京と私たちとの、長くて楽しいシーズンのスタートである。
キックオフ後、高まった場内の雰囲気をエネルギーに変えたかのように、FC東京が一気にラッシュをかける。いきなり1分、ペナルティボックスに金沢が突入して混戦になり、一旦はクリアされたものの素早いスローインから鈴木規郎が左サイドのスペースを駆け上がりクロス、ニアに入ったルーカスの頭で流したシュートがバーを叩く。これで前半の勢いが定まった。東京は両サイドを戸田・規郎が駆け上がり、さらに加地・金沢がそれを追い越していく。中央では宮沢が高い位置取りで圧力をかけ、前ではルーカス・阿部の2トップが精力的に動いてDFをかき回す。6分、金沢のクロスをファーで待ちかまえた戸田がヘディングでGK野澤の頭越し狙うが、バーを越えた。9分にはペナルティボックス左で規郎が倒されFK、DFのタイミングを外すような宮沢のグラウンダーに規郎が飛び込むも、枠を外れる。11分には自陣CKからのカウンター、規郎が豪快なドリブルで右サイドのスペースに持ち出し、そこからカットインしてシュート(野澤キャッチ)。この日は五輪予選で石川を欠いているため、右サイドよりも規郎のドリブルを核に左サイドの攻撃が目立った。
一方の新潟は4バックの前にアンカーとして桑原を置き、その前で山口が全体を「仕切る」布陣。東京のサイド攻撃をケアしたのかいつもに比べてSBの上がりが少ないのだが、にも関わらず右サイドでは規郎・金沢に宮沢まで加わる分厚い攻撃を止められない。むしろSBが下がることが東京アタッカーを呼び込んでいるようにも見えた。後方と前線の距離は大きく開き、山口も守備に追われて効果的なフィードができず、攻撃は縦のボール中心の単発的なものに。高い球はジャーンがはね返し、低い球は藤山がカットする。17分にようやくエジミウソンがスピードあるドリブルでジャーンを振りきり、切り返して上げたクロスが寺川に合いかけるが、トラップが大きくなって決定機には至らず。
15分、後方からのロングボールを規郎がダイレクトで中央へ入れ、ターンでDFの体をずらしつつペナルティボックスへ走り込んだ阿部がシュート、わずかにオフサイド。18分・19分にはルーカスが右に流れてパスを受けドリブル勝負、ゴール前へ決定的なクロスを入れる場面が繰り返されたが、戸田・規郎が合わせきれず逸機。21分、左展開から規郎が中へ切りこみ、上がる宮沢へスクエアのパスを通してそのままミドルシュート(野澤キャッチ)。分厚く、次々とフォロワーがボールホルダーを追い越していく攻撃はまさに「激流のごとく」新潟を圧倒したが、しかしシュートがなかなか決まらないのは例年通りであった(笑)。注目のルーカスは、守備では積極的にプレシャーをかけ、パスを受けては足下で柔らかくボールをさばき攻撃の展開を助けていた。ただ、ロングボールに対して体を張って競る姿がほとんど見られないのはちょっと気になった。
東京の猛攻がようやく得点に結びついたのは25分。左ライン際、金沢と宮沢のDFの網をかいくぐるようなパス交換から金沢が裏に抜けてクロス。ゴール正面でジャンプした阿部がDFに競り勝って頭で叩きつけ、野澤の脇を破った。東京2004年初ゴールは背番号11の得点。もちろん誰がとっても得点は得点だが、いい選手がファーストゴールをとってくれた、幸先のいいことだと思ったのは私だけだろうか。1−0。
先制されてようやく目が覚めたか、ここで新潟もややポジショニングを修正。山口の位置が高くなり、SBの上がりも見られるようになってチャンスが生まれるようになっていく。30分、新潟にペナルティボックス付近でFK・CKが連続するピンチ。CKに上野が合わせたが、バウンドしたボールは土肥ちゃんが正面でキャッチ。それでも東京の優勢自体は変わらず、31分にはプレスの間隙をぬって宮沢がドリブルで持ち上がり、ペナルティエリアへ走り込む戸田へスルーパスが通るもシュートは間一髪ブロックされる。36分にはペナルティボックス内でのルーカスの巧みなポストプレーから阿部がシュート(野澤セーブ)。この時間帯はDFの方向感覚を狂わせるようにワンタッチ・ツータッチで目まぐるしくパスがつながり、何というか、一味違うセクシートーキョーという感があった。
終盤には、さすがに東京もちょっとお休みという感じでまったりムード。集中力も弱まってミスパスが増え、中盤でのつぶし合いで時間が流れていく。ロスタイムには両チームにチャンス。東京はペナルティボックス付近のFKで宮沢が入れた速いクロスにニアで戸田が合わせるもバーを越えてしまう。新潟は中盤の出足よいチェックから鈴木健太郎が早いタイミングでクロスを入れ、ペナルティボックス内のエジミウソンに通りかけたが、間一髪金沢がクリア。結局1−0のままハーフタイムへ。東京にしてみれば全体的な流れとシュートの数からいって、もう1〜2点はほしいところであった。
後半、新潟は前半の終盤と同様、というよりそれ以上に前がかりに修正してきた。山口の位置取りはサイドハーフと同じくらいまで高くなり、中盤のプレスから早く速くボールを運んで行く。立ち上がりは攻め合いとなった。4分、ペナルティボックス付近でのFKからCKになり、アンデルソンの頭にどんピシャで合うもボールはゴールわずか右を抜けていった。7分、右サイドを寺川が突破、低いクロスを入れるも土肥がキャッチ。10分には早いチェックから東京がショートカウンターの体勢になり、阿部→中央で突進する文丈とつないでこぼれ球をルーカスシュート、さらにこぼれ球を加地が拾ってシュート(野澤キャッチ)。東京もそれなりにチャンスは作るのだが、宮沢の足は早くも止まりはじめ、金沢は寺川の圧力にさらされて上がれないため攻撃に厚みが出ない。中盤のプレッシャーでも劣勢。加地は元気だったが彼に絡む選手がおらず、右サイドドリブルしてクロスを上げられないままゴールラインを割る場面もあった。
15分、新潟はほとんど存在感のなかったファビーニョに代えて鈴木慎吾を投入。これでサイドの力関係は完全に逆転し、試合の流れも大きく新潟へと傾いていく。20分には山口のスルーパスに反応したエジミウソンがDFラインの裏に抜けるが、クロスは上野の頭を越してしまう。21分、ペナルティボックスすぐ右からのFKが阿部にピタリ合い、野澤の手を弾いてゴールかと思われたがライン上山口が必死にボールをかき出してクリア。24分には浮き球のワンツーパスで山口がペナルティボックス内へ突進、東京DFが懸命にはね返す。新潟はサイドへの早い展開で東京のSBとウイングを外へ剥がしてからボランチ近辺へパスを入れるパターンで次々とチャンスを作る。東京のプレスは一歩ずつ遅れ、そこをうまくかいくぐられている感じであった。
24分、すっかり消えていた規郎がOUT、チャンIN。チャンは攻守において独特の足腰の強さを発揮するが、しかしチーム全体としては疲労が目立ち、一ついいプレーがあってもそれが連動していかない。阿部・ルーカスも少しパスがずれると踏ん張りがきかない様子であった。28分新潟のカウンター、鈴木慎の放ったミドルシュートが東京DFの足に当たりコースが変わる。ドキッとさせられた場面だったが、ここは土肥が体勢崩しながらも残した足ではね返してナイスセーブ!!29分には右から左へエジミウソン→山口→鈴木慎と渡る速攻で鈴木慎がDF裏に抜けるが、土肥が鋭い出足で一対一を制す。
31分、新潟は寺川OUT栗原INでアタッカーをリフレッシュ、これに対して東京は直後に文丈OUT浅利IN。文丈(この人は意外と省エネタイプだ)にはまだ余力があるように見えたので、宮沢を代えるべきだと思えたのだが…。浅利は相変わらず派手さはないものの、堅実な「火消し役」として前後左右へ守備の穴を埋め続ける。36分、ペナルティボックス左でチャンがFKを獲得、ジャーンのヘッドはクリーンヒットせず枠外へ。37分には新潟が左サイドへ素早い展開、スペースを鈴木慎が駆け上がって強烈なミドルシュートを放ち、土肥がパンチで防ぐ。40分頃になると、東京は自陣に押しこまれっぱなしにしまう。しかしここで新潟の前に立ちはだかったのはやはり土肥ちゃん。味方との接触で一度は倒れ込みながら、ペナルティボックスへどんどん入ってくるクロスを体を張ってキャッチし続けた。まさに守護神の面目躍如であった。
43分、山口OUT、船越IN。パワープレイで1点をもぎ取る気か。これに対して東京はロスタイムにルーカスに代えて増嶋を投入、船越のマークに当たらせる。栗原投入に呼応した浅利投入といい、ここら辺の采配合戦は「これでどうだ!」「そうくるか。ならばウチはこうだ!!」という両監督の声が聞こえてきそうでなかなか楽しかった(我ながら妄想気味だが(笑))。その増嶋、最初のハイボールの競り合いでいきなり顔に船越の肘うちを受けていた。プロの洗礼というか、「ああ、せっかくの
大事な商品イケメンが!」というか(笑)。東京はもはや相手陣のボールを追わず自陣を固め、がっちりと最後まで守りきる。何度か痛い逆転負けをくらった昨年の轍は踏まないという意思の表明なのだろうか、いつになく徹底した守備固めだった。ともあれ、そのまま試合終了。危なげなく、とはいかなかったものの、めでたくJ1開幕戦連勝記録は「5」へ伸びたのであった。
アルビレックス新潟は、やはり初のJ1ということでスピード・個人能力その他慣れるまでに戸惑いもあっただろうし、ホームで開幕戦を迎えた東京の気迫に押されたということもあるのだろう。ほとんど自分たちのやりたいサッカーをできないまま受けの姿勢で前半45分を戦うことになってしまい、結果的にはそこで失った1点が致命傷となったのであった。ただ、後半に見せたサイド中心のアグレッシブなサッカーは魅力的なもので、チームのポテンシャルとしては十分J1で戦えると思う。というか、2トップの破壊力では劣るものの、その他のパーツは2000年のFC東京よりも戦力が整っているのではないだろうか。反町監督の優秀さは今さら言うまでもなく、今後このチームがJ1レベルにもまれてどう強くなっていくのか。秋の再戦が楽しみである。個々の選手を見ると、鈴木慎吾のスピード感溢れるアタックには目を見張らされた。鈴木健と合わせて今年は左がストロングサイドとなるのかもしれない。山口は文字通りチームの中心選手で、彼の出来がチーム全体に大きく影響を及ぼしそうである。寺川は持ち味のダイナミックなドリブルがあまり見られなくて残念。この試合に関してはファビーニョの不調も大きかった。
FC東京は、これでクラブ結成以来シーズン開幕戦全勝である。よく考えたらすごいことで、開幕戦の多くがホームで行われていることと合わせて、まことにサポーター冥利に尽きると言えよう。加えてこの試合の前半は、「攻激、攻劇、攻撃サッカー」というチームのスローガン通り、興奮ものの猛攻を見せてくれた。J1に上がってからの東京は、どちらかと言えば右が攻撃的左が守備的という「右肩上がり」のチームだったが、鈴木規郎を左ウイングに入れることで左からの攻撃も活性化することを再確認。SBもボランチも積極的に攻撃参加、ルーカス・阿部の2トップもトリッキーなパス回しで相手に脅威を与え、「このサッカーならば何も文句はありませーん」という感じであった。ただ、相変わらずシュートが入らない(笑)のと、やはり前がかりのテンションがあまりに高すぎると90分もたないことも改めて思い知らされた。力を入れて攻める時間帯と休む時間帯をチームとして意識的に使い分けられるのが理想なのだが……その域に達するのはまだ先になりそうだ。あと、この試合の後半のように受けに回った時にケリーがいないと、前でキープして守備陣に息をつかせることができないので苦しさも倍増である。
個々の選手について。鈴木規郎の突破力はやはり魅力的だ。右サイドからクロスが入った時にもう少しゴール前で絡めるともっといいかも。金沢・加地の両SBは金沢が攻撃方面に、加地が守備方面に力を伸ばすことでバランスが良くなってきている。ジャーンは大きな負担を受けながらよく支えてくれている。土肥ちゃんはもう文句なしでしょ。宮沢は湘南戦に比べるとずっとよく動いて攻撃参加していたので、「よしよし」という感じ。後半足が止まっちゃうのはもう仕方がないので、選手交代で対応したいところ。戸田は…熱心にシュート練習してそうだけど(笑)…確率を上げるよりもとにかくチャンスをもっと増やすしかないか。下手な鉄砲も(以下略)。期待のルーカスは、足技は巧いのだがヘディングには期待できなさそうで、前線の基点にはなってくれるんだがシュートをやたらブロックされていたのがちと気がかり。まあ、1試合見ただけではよくわからない。決勝点を入れたのは、やっぱり阿部吉朗だった。昨年もそうだったが、ホントこの男は大事な試合で決めるというか、無駄撃ちのないFWである。頼れるストライカー、あるいはアマラオの11番を引き継ぐ者として、今年も大いに活躍してくれるだろう。
オフシーズンの間、代表の試合等もあってそれはそれで燃えたりするのだが、こうしてみるとやっぱりFC東京の試合が最高だと強く思う。きっと、他のJクラブのサポーターたちの多くも同じ思いなんだろう。「自分たちのクラブ」だからこそ得られる喜びがある。さあ、1年間がんばろう。