J1リーグファーストステージ第14節 vs名古屋グランパス 2004.6.19 味の素スタジアム

 

 

 あんたスゲエよ、ルーカス。

 

 序盤は名古屋ペースで試合が進んだ。名古屋は両SBが低いポジショニングで、後方重視に見える布陣。ラインを上げる時には4バックなのだが、守備時には守備的ハーフとDFが一体となってスペースを埋める、見た目5バックになる状況も多かった。東京は頭を完全に塞がれた状態で攻めあぐむ。規郎・戸田がDFラインの裏を突く場面は少なく、慎重な立ち上がりを意図したのかSBの上がりも乏しい。サイド攻撃はほとんど死んだ状態であった。また、中央の馬場憂太は動きにややキレを欠き、懸命にボールはさばくのだがブレ気味のミドルパスがDFに当たったりアタッカーの頭を越したり。おまけに久しぶりのコンビとなった文丈と今野も、前方が停滞している中でお互い前に出るのか守備を固めるのか、手探りに近い状態でプレーしているように見えた。ペナルティボックスまで進めない中、14分に憂太が、19分に徳永がロングシュートを放つが、ともに決まらず。

 対する名古屋の方は、左右に広い守備網で東京の速攻を封じ、ボールを奪うと広いバックラインで横パスの揺さぶりを入れてからウェズレイ・マルケスの強力2トップに縦パス、そこにフォローの岡山・中村が絡む形でチャンスを作る。2分、DFのギャップを突いた岡山が直線的なドリブルで突破、シュートはゴール右に抜けた。その後もペナルティボックス内へのラストパスを東京DFがようやくカットする場面があり、東京は完全に押し込まれてしまう。ただ、東京のサイド攻撃を警戒してかそれとも元々そういう戦術なのか、海本幸・中谷が両サイド駆け上がる場面は少なく、攻撃にやや厚みを欠いて東京の4バックを崩し切るには至らない。時間がたつにつれ、試合は拮抗していった。

 前半中頃になると、両チームともチャンスメークに苦労する、やや煮え切らない状態で試合が進んでいく。34分、FKからゴール前今野が頭でジャストミートするが、川島が正面でキャッチ。36分、右からのアーリークロスを憂太がきれいに落とし、中央のルーカスに渡るがトラップが大きく、DFクリア。41分にはカウンターからマルケスが左サイドを突破してクロス、逆サイドでウェズレイがシュートするも、威力がなく土肥ちゃん余裕でキャッチ。そしてそのまま0−0で終了かと思われた42分、東京は自陣で茂庭が一旦奪ったボールを取り返され、速攻から中村がクロス。土肥と徳永がお見合いをするような形になって徳永が空振りし、どフリーでファーサイドに走り込んでいた岡山がスライディングで蹴り込む。0−1。この場面、直接お見合いした2人以外でもボールウォッチャーになっている選手が多く、後味の悪さで場内は失望のため息に包まれた。ホント、東京は「いい時間帯」にとられてしまうことが多い。

 

 しかし、ハーフタイムにヒロミの檄も飛んだか、めげない東京は後半立ち上がりから反撃に出る。SBが前に出て、前半よりも明らかに攻撃的姿勢に。1分、金沢のクロスのこぼれ球をペナルティボックス内で拾ったルーカスが胸トラップからボレーシュート(川島正面)。3分、左サイドに流れてパスを受けた憂太がフェイントでDFを翻弄し、ヒールで戻して金沢のクロス、惜しくもゴール前フリーの規郎に合わず。ところが6分、東京陣でウェズレイのヒールキックから角田がドリブル突破、ジャーンがスライディングタックルで止めたものの、ボールは東京ゴール側へこぼれ、きっちりフォローしていたマルケスが拾ってシュート、土肥の横っ跳びも届かずゴールイン。前がかりになりかけたところでの「崩されてはいない」形の失点に、スタンドの落胆ぶりには大きなものがあった。0−2。

 すかさず原監督が動く。10分に戸田に代えて梶山、14分には馬場に代えて阿部を投入。が、勢いづいた名古屋は攻撃の手を緩めておらず、交代選手もどちらかと言えば守備に追われがちで、なかなか攻勢には移れない。場内に焦りの雰囲気が生まれ始める。「こんなボロ負けしたら、(試合後に予定されていた)監督挨拶はエライことになるな……」そんな考えも頭をよぎり始めた時間帯、我々は信じがたい光景を目にすることになったのだった。

 18分、名古屋陣ハーフウェー近くでパスを受けたルーカスは、迷わずドリブル開始。股抜きで1人かわし、さらに左右から挟み込む2人を引きずりながら勢いよく前進。この状況において他のアタッカーの反応は鈍く、ルーカスは単騎ペナルティボックスへ突入することになった。もちろん名古屋DF陣が待ち構える。「こりゃあ、またシュートをDFに当てちゃうのかな」と思った次の瞬間、強引にドリブル突破したルーカスの姿がスパッと赤い壁の後ろに現れ、独特の踊るようなシュート!!ボールは川島の脇を破り、ゴールネットに突き刺さった。いや、冗談抜きで腰が抜けそうになった。マラドーナみたいにきれいではないが、それでも都合5人は抜いたのか?まさしく超ウルトラスーパーゴールである。加えてルーカスは、ゴール内に転がったボールを川島を突き飛ばしつつ確保するガッツ(笑)も見せ、場内のムードは一変した。「行ける!」と。

 試合は一気に盛り上がる。息を吹き返した東京と、流れは渡すまじとする名古屋との攻め合いに。19分、マルケスが浮き球の巧みなトラップからペナルティボックスへ突進、速いクロスを土肥ががっちりキャッチ。20分、右サイドオーバーラップした海本幸のクロスをマルケスがボレーで叩き、ゴールわずか右に外れる。22分には東京がペナルティボックスすぐ外絶好のFKを得るも、サインプレー失敗で逸機。26分には逆に名古屋がペナルティボックスすぐ外のFKからウェズレイがシュートを放つも、土肥がキャッチ。

 25分、東京は試合の流れを決定づける交代。文丈OUT、宮沢IN。技巧派レフティーの久々の登場に、スタンドから大歓声が上がった。宮沢は期待に応え、悪い時の頼りなげなそぶりなどどこへやら、戦う姿勢を表に出して奮闘する。金沢の積極的な上がりも加わって左サイドから次々とクロスが上がり、CKを連取。場内割れんばかりの「宮沢!」コールが後押しする。26分には金沢のミドルシュートを川島がはじき、規郎がつめるもオフサイド。交錯した川島と規郎がにらみ合いになり、ゴール裏はさらにヒートアップ。

 そして30分、左サイドからショートコーナー。ペナルティボックス内に入った梶山が巧みなフェイントでDFをかわし、ゴールライン際から落ち着いてマイナスのグラウンダーを入れる。それを受けた選手のトラップはやや大きく跳ねたが、浮き球をトゥキックでゴール中央に蹴り込んでゴールイン。……で、最初誰が入れたのかよく見えなかったのだが、ゴール裏へ駆け出す姿を見てようやく事態を把握した。「茂庭だ!!」。足に怪我を抱えているはずなのに、猛ダッシュで看板を飛び越え、スタンドへ向かって両手を挙げるモニ。もちろんゴール裏は大興奮。この時思わず「早く戻れ!」と叫んでしまったのだが(早く逆転を狙ってほしかった)、今にして思えば正しかったのはモニの方だ。彼にしてみれば記念すべき公式戦初ゴール。まず一サッカー選手として思い切り喜びを表すべきだし、さらにチームとサポーターが一体となって攻撃に勢いをつけるためには、あの「煽り」は極めて効果的だったように思う。東京が、そして味スタの雰囲気が、名古屋を圧倒する。

 もう東京は止まらない。32分、CKからジャーンの落としを阿部がオーバーヘッドで狙ったが、ファウル。33分、徳永がDFとGKの間を通す好クロス、梶山・阿部が同時に飛び込んで梶山のシュートがゴールポストを直撃。さらにクリアボールを宮沢が鋭いロングシュート(川島パンチ)。34分には名古屋のカウンター、サイドチェンジから中村が金沢の裏のスペースを突いてペナルティボックスへ突入、シュートを土肥が横っ跳びでセーブ。危ない場面ではあったが、もう脳内麻薬出まくり状態のスタンドにとっては、ファインセーブもまた雰囲気を盛り上げてくれるクスリとなる。そして36分、ペナルティボックス内で秋田を背負いながらスローインを受けたルーカスが、細かいフェイントでDFをずらしつつ振り向き、右足でシュート!ボールはDFの間を抜け、川島の横っ跳びも届かずゴール右隅に飛び込んだ。もう半狂乱の東京サポーター。ベンチへ飛び込んでいくルーカスと、他の選手たち。突然ストライカーっぽくなってしまったルーカスのゴールで、ついに東京は逆転した。3−2。

 残りの時間、名古屋はFWジョルジーニョを投入して最後の反撃に。東京はルーカス・阿部が前がかりになる相手の裏を狙いつつ、逃げ切りを図る。41分、ペナルティボックス内でクリアし損ねたイーブンボールが上がる危ない場面も、土肥ちゃんがマルケスと激突しながらセーブ。43分には阿部が楔のボールをうまくDFライン裏にはたき、走り込んだ規郎が思いきったシュートを枠外に飛ばす。「眠らない街」の歌声が響く中、主審のホイッスルが鳴って試合終了。整列する選手を「You’ll Never Walk Alone」が包み、東京サポーターにとってこたえられない試合が完結した。

 

 

 名古屋グランパスにしてみれば、昨年2ndの意趣返しをされた心境だろうか。2点リード、東京には怪我人も出ていたし、普通に考えればそのまま逃げ切れる展開だった。前回同じシチュエーションを体感しているだけに、名古屋サポーターにはかける言葉もない(かけてほしくもないだろうが)。印象的だったのは、名古屋の戦術が「サイドアタッカーいらない系」の守備的布陣であったこと。やっぱり浦和と同様、すげえ強力な2トップを持っていると、そういう方向へ行ってしまうのだろうか。それとも、この日に限って東京のサイド攻撃を警戒したのか?2トップと岡山・中村というアタッカー陣は魅力的なので、サイドからたたみかけるようになると怖い攻撃になりそうである。もっとも、この敗戦については、攻撃よりもルーカスに個人技を発揮させてしまった守備の方が問題なのだろうけど。

 一方、FC東京にしてみれば、実に快感度の高い勝利であった。試合後の挨拶で原監督が「今日は皆さんの応援のおかげで」と2回繰り返したのは、あながちサービスだけでもあるまい。ルーカスの素晴らしい1点目、宮沢の登場、そして愛すべきお調子者茂庭の初ゴール(おまけに、チーム通算200ゴールだったとか)を経て、決勝ゴール。スタンドに座っていても、0−2の段階ではどん底に近かった場内の雰囲気が一つ一つの好プレーごとに高まっていくにつれ、試合の流れも東京へ傾いていくのがよくわかった。基本的に、サポーターが「俺たちの熱い思いがチームを勝たせた」などとヌカすのは大嫌いな私だが、この日の東京に関しては、選手の健闘とファン・サポーターの大声援が相乗効果を生んで逆転勝利をもたらしたと言ってもいいのではないか。もっとも、チームとしてはちょっと集中力を欠くようなプレーから先制されたのは大いなる反省点で、「0−2にされた時には挨拶しないで帰ろうと思いました」という原監督の言葉も、おそらく嘘ではないだろう(笑)。まあ、勝って兜の緒を締めろ、だ。

 しかし、ルーカスには本当に驚かされた。文句なしダントツの殊勲者。窮地のチームを救い、さらにはエースとしての地位をたぐり寄せる大仕事。先日の2得点は憂太の助けもあったんだけど、今日は本当に「一人でできた!」という感じである。1点目、ドリブルを開始した時点では既述の通り疑心暗鬼だった(ルーカスの「シュートブロックされ率」の高さは周知の通り)のだが、まさかDF全員抜いてしまうとは。「なるほどその手があったか!」と思わず膝を打ったぞ(笑)。2点目は完全にストライカーの得点。本当に、いったいどうしちゃったんだろう(笑)。今後も彼がペナルティボックスの中でガンガン勝負できるのであれば、これはかなり面白いことになりそうである。

 他の選手では、憂太はちょっとお疲れか。久々先発の文丈もあまり目立たなかったけれど、これはボランチ2枚の役割分担の問題でもあったように見えた。目立たないと言えば今野も目立たなかったし。金沢は後半の攻撃で大いに貢献。梶山は休養の効果か、キレたフェイントで2点目を演出。憂太も梶山も休ませつつ使えるのであれば問題なし、か。宮沢の復活は個人的に非常に嬉しい。何よりも彼のミドルシュートで絶叫したいし、ゴールを決めた後の照れくさそうなガッツポーズが見たいのである。元々力はある男なのだから、調子を取り戻してきたのは頼もしい限りだ。あと、気になるのは徳永で、今季一貫して言えることだが、ちょっとプレーが軽かったり寄せが甘かったりという場面が多いように思える。デビュー時の安定感はどこへ行った?今の状態なら、あえて徳永を使う理由がよくわからないのだが…。

 で、次はアウェイの浦和戦。鹿島が横浜に負けてくれることを期待しつつ、ぜひとも勝って3位を取りたいものである。それに藤山のJ1での100試合出場(次ジャーンは出場停止)が加われば最高なのだが、さて。

 


2004年目次へ            全体の目次へ