J1リーグファーストステージ第9節 vs柏レイソル 2004.5.9 国立競技場

 

 

 昨年までは、柏戦と言えば試合前のサポーターのイジり合戦について書くのが恒例になっていたんだけど、今回は面白いやりとりは特になし。まったく残念なことだ。観客の少なさ以上に寂しい印象の、雨の国立競技場。

 

 キックオフ。柏は従来の3バックからSBがあまり上がらない4バックに変更し、中盤も下平・ドゥドゥ・リカルジーニョが3ボランチ気味に構える。連敗中だけにまずは守備を固めるという意図が明らかだったが、逆に言えば相手にある程度攻められることを想定した作戦であって、実際その通りになってしまう。3ボランチの所でMFが積極的にプレスをかけることで、ボールは東京が支配。柏は前で構える2トップ+谷澤になかなかパスをつなげず、苦し紛れのロングボールを蹴りこんではジャーンや茂庭にはね返された。8分、右サイド早いリスタートから石川がDFとGKの間を抜ける速いクロスを通し、ファーサイドで戸田が頭から飛び込んだがわずかに届かず。12分、ショートコーナーから石川が入れたグラウンダーが茂庭の足下にこぼれ、すわ絶好機かと思えたが、茂庭がドリブルでDFを抜きにかかって失敗(ちょっと無理だった!)。20分には浅利の意表を突くロングシュートがゴールわずか左上を抜ける。25分前後には3回続いたCKが全てはね返され、梶山のシュート気味のラストパスもルーカスに通らず。失点の危険を感じない時間帯、東京の攻撃が連続して淡々と時間が流れていく。

 しかし、形勢有利に見えた東京も、サイドで石川・加地・藤山が押し上げてクロスを上げる一方で、中央からの攻撃はやや低調。今野が盛んに前に出ようとしているもののパスの精度は低く、またトップ下の梶山も下平のマークがきつかったかボールタッチは少なめ。チャンスはそれなりに作っても、最後の4バックがなかなか破れない。点が取れないまま30分が過ぎると東京の中盤プレスも遅れ気味になり、柏の2トップ+谷澤にボールが収まってチャンスが生まれるようになる。32分、左サイドでドリブルから切り返した谷澤がファーでフリーになっていたFWゼ ホベルトに絶妙のクロスを上げる。幸いヘディングシュートは当たりがゆるく、土肥が弾き出して事なきを得た。34分、スルーパスでDFのギャップに入ったFW菅沼が強烈なミドルシュート(土肥キャッチ)。39分にはペナルティボックス付近のドリブルでDFを引き付けまくった谷澤がまたもフリーになっていたゼ ホベルトにラストパスを通すが、雨でボールが伸びてスライディングシュートはわずかに届かず。

 どことなくヤバい雰囲気が広がり始めた前半終了間際。逃げかけた流れを引き戻したのは、やはり今一番「ノッている」男だった。40分、柏陣左CK。石川の蹴ったクロスにGK清水が触ってボールはファーへ流れる。そこですかさず反応したのは、今野。素早く落下点に駆けつけ、ゴールは背中方向にあったものの、思いきりよく足を振り上げてボールを叩く。シュートは動きの止まった柏DFの間をきれいに抜けてゴールネットを揺らした。何とも地味なヒーローの、何ともど派手なオーバーヘッドシュート。お前は翼くんか(笑)?苦しくなり始めた時間帯なだけに、非常に価値あるゴールだった。もちろんゴール裏からは「オーバーヘッドー、とうきょう!!」のコールが飛ぶ。ハーフタイムにリプレイを見たら、あの場面柏DFは2人がかりでルーカスに付きっぱなしになっていた。それは東京のゴール前対策としてはやっぱり間違っていると思うぞ(笑)。1−0のまま前半終了。

 

 後半。前節に続きまたハーフタイムにヒロミ檄が飛んだか、開始直後から右サイドを中心に東京がラッシュをかける。1分、右サイドを駆け上がる石川が弾丸のようなロングシュート!サイドネットに突き刺さる。3分、再び石川がDF近藤を置き去りにして低いクロス、DFの間に走り込んだルーカスがボールに触るが枠へは飛ばせず。足を負傷して出場も危ぶまれていた石川だったが、この時間帯に見せたスピードと技巧は素晴らしいの一言。後ろをフォローする加地もなかなかに動きが良く、復活した「二枚刃攻撃」の局地的破壊力で敵を圧倒した。そして6分、また左からのCK。なぜかジャーンがどフリーになっており、頭でゴール右隅に叩きこんで余裕の2点目。あまりにあっけない得点だったが、試合後にリプレイで見たらDFが1人思い切り滑ってすっ転んでいた。今にして思えば、この日はこうして雨に助けられる場面が多かったような気がする。ともあれ、これで2−0。流れ的にも割と楽に逃げ切れるかと思えたが…。

 9分、柏は菅沼・ドゥドゥを外して玉田・茂原を投入。この交代を機に、一気に形勢は逆転する。東京はあくまで同じペースでやろうとしたのだと思う。が、玉田級のFWが入ればそれまでとは怖さが違うし、2点差の状況であれば心理的にも受身になりやすかたのだろう。加えて右に茂原が入ったことで、それまで藤山1人で十分支えきれた(たまに波戸が上がる程度だった)右(東京からみれば左)サイドのバランスが柏に傾いた。バックスタンドから見ると、ボールが動くエリアが次第に東京陣へ移動していくのがよくわかった。11分、右から茂原が入れた浅いクロスを加地がクリアしそこねて玉田の足下に入ったが、シュートは身を翻したジャーンがギリギリブロック。18分、玉田の、ちょっとビックリするような強烈ロングシュートが東京ゴールを襲い、土肥が横っ跳びワンハンドではたき落とす。

 東京も石川のスピードを武器に柏陣までボールを持ち込むのだが、そこからボールが全くつながらない。攻撃は散発的になり、レイソルの波状攻撃を自陣ではね返すシーンが続く。ただ、14分には藤山の彼らしい左サイド→中央のドリブルから戸田のクロスにつなげ、こぼれ球がペナルティボックス付近まで上がった藤山の足下へ。この時まるでモーセのエジプト脱出のようにDFはきれいに左右に分かれ、ゴール全体が見えるまさに絶好機だったのだが、オールドファン数千人の期待を乗せたシュートは…はるか銀河系の彼方へ(笑)。いやー、前半の浅利の好シュートといいこれといい、まったくもう…。

 20分、浅利が後ろからのスライディングタックルで警告を受ける。浅利のこの手のプレーが出るようになると、彼自身だけでなくチーム全体にとっても文字通り「危険信号」だ。21分、そういうヤバげな空気の中、イエローカードを受けて悔しさむき出しにボールを叩きつけたゼ ホベルトのプレーに土肥ちゃんが大興奮。主審に詰め寄って茂庭が懸命になだめにかかるという珍しい場面が。ゴール裏も「どーい!」コールで落ち着かせようと(?)する。なんとか事態が収拾された後、両手を下向きに「落ち着け!」のジェスチャーを味方に見せる茂庭。いやー、なんかいい光景だったなー。25分には茂原から好クロス、ゼ ホベルト・リカルジーニョの連続シュートをいずれも加地が体張ってブロック。

 28分、東京は梶山OUT、馬場IN。しかし、馬場は独特のドリブル・ボールタッチができる選手ではあるが前で長くキープできるタイプではなく、押し込まれる苦しさは軽減されない。29分、東京は敵陣でボール奪ってDF3人にアタッカー3人の絶好機。が、ルーカスはあくまで自力でのシュートを狙ってDFに当ててしまう。ため息。30分にはルーカスOUT、阿部IN。ここは「点を取らなければならない」状況ではなかったので守備力のあるルーカスを残すという手もあったと思うのだけれど、しかしルーカスの疲労が著しかったか、あるいは既にこの交代パターンが既定路線になっているのか。結果的に、パッサーのいない布陣に投入された阿部はシュートはおろかボールにもほとんど触れず時間が流れていく。阿部と馬場は前線で孤立して「各個撃破」され、時たま石川だけが力業でシュートまでもっていく、という状態。

 31分、玉田がペナルティボックス左角でドリブル突破を図り、やや遅れてタックルに入った加地が倒してしまうが笛は鳴らず。…助かった!36分にはまたしても茂原が好クロス、玉田が頭で流してファーでフリーになったゼ ホベルトが浮かすヘディングシュート、土肥が危うく弾き出す(結果的にオフサイド)。この頃、東京ゴール裏から「こうげきー、こうげきー、はらとーきょー!!」のコール。そして37分、ハーフウェー付近から茂原(まただ!)のスルーパス。玉田が鋭く東京DFの間に飛び出し、追いすがる茂庭を従えながら、飛び出してくる土肥の体を越す浮かしシュート。ボールは、カバーに走る茂庭が微妙に届かない速度でゴール内へ転がっていった。「さすが!」と感嘆するしかない見事な得点。2−1。不本意ながら試合はスリリングな展開に。

 残るは10分ほど。もちろんレイソルは前がかりだ。東京は3枚目のカードとしてチャンを投入(石川OUT)、完全に押し込まれてはいたが、ジャーンと茂庭が持ち前の強さで敵をはね返し、浅利・藤山が体を張ったスライディングタックルでピンチの芽を摘む。44分、ゴールライン近くまで上がった波戸のクロスに玉田が飛び込み、土肥の飛び出しが遅れる!…ヒヤリとした瞬間だったが、ボールは際どく逆サイドへ抜けていった。そしてロスタイム突入。さあ逃げ切り態勢だ!……しかし、ここからが(というか、もっと正確に言えばチャン投入以後)が感心できない。状況的に追加点は望みづらいのだから、前の選手はよほど恵まれた局面にでもならない限り、キープ等で時間を使うことを第1に考えるべきだろう。しかし、残念ながらそういう意図・工夫はあまり見られなかった。チャンなんか点取る気満々で単騎柏ゴールに突進(笑)して、でボール取られてたし。鹿島戦の終盤は何だったのだろう?ともあれ、最後のCKのピンチも(この日何十回目かわからないが)ジャーンが頭ではね返してしのぎ、2−1のままタイムアップ。東京、今季初の連勝である。

 

 柏レイソルは、とにかく失点を最小限にとどめて我慢し、ここぞという所で玉田・茂原を投入して勝負、というゲームプランだったのだろうが、セットプレーから2点を許したことで結果的には裏目に出た形に。ここのところ序盤に先制される試合が続いていた東京としては、正直助かる消極策だった。もっとも、後半玉田・茂原を投入してからの攻撃はなかなかに迫力あるもので、今後の可能性という意味では収穫があったのではないだろうか。この敗戦で7戦勝ち星なしではあるが、顔ぶれを見ても決して駒が足りない訳ではなく、今後盛り返してくることは間違いないと思う。特に、何度も言うが、玉田と茂原。玉田の直線的な突破力は1人で東京DFラインを一気に押し下げるほどの威力があったし、茂原はスペースさえあれば質のいいクロスを高い確率で上げられることを示した。この2人には敵ながら感心させられてしまった。

 東京は、この日も決して出来がいい方ではなかったように思うが、それでもセットプレーでシブく得点を重ねて何とか勝利をゲット。こういう試合できっちり勝点3取れるか1に終わるか、そこが上位に食い込めるかソコソコのところにとどまってしまうかの分かれ道かもしれない。そういう意味では、終盤のあの「もったいない」ボールの失い方、下手くそな時間の使い方は何とかならないものかと思ってしまう。確かナビスコの鹿島戦では、リードして以降それなりに巧く時間を流していたように見えたのだが…。ホームという意識が強すぎたのだろうか?

 この試合も、前節に引き続き今野がヒーローになった。とはいえ、彼と浅利のコンビは相変わらずパスの展開力・構成力という点では難がありありで、得点もセットプレーからのもの。あまり今野の攻撃力が炸裂!と喜ぶわけにもいかないだろう。ただ、我らがポジティブ・シンキング監督の言うとおり、彼の前へ前へ出る姿勢は買いたいし、それは原流「攻撃サッカー」=攻撃的守備からの早くて速い展開、というコンセプトにもマッチしている。さらに言えば、そこは宮沢に欠けている部分でもある。前後左右の移動力に秀でる今野、バランス感覚と鋭いスライディングタックルを武器とする浅利、長短のパスの質で勝負したい宮沢、そして「要」としての力を持つ三浦。この4人の使い方が今季の東京の成績を大きく左右するのだろう。

 他、個々の選手では、ジャーンの速いハイボールをはね返す強さは驚異的なものだった。ま、この人は遅いボールだとポカやったりするのが玉にキズ(笑)なのだが、この日は文句なしのMOM。藤山は左SBで守備を安定させている姿にビックリ。左のレギュラーだった頃、ショルダーチャージで相手を飛ばすほど強いDFだったか?アタッカー陣で頑張ったのは、とにかく石川。トイメンの近藤を全く相手にせず、まるで無人の野を駆けるようにチャンスを量産した。これで戸田以外にもクロスに「合わせる」力のあるFWが入っていれば、もっとアシストにつながって彼の評価も上がると思うのだけれど…今は仕方ないか。

 

 主審の西村さんは、スタンドにストレスを与えないレフェリング。つまりは「いい出来」だったということだ。ゼ ホベルトがボールを叩きつけたシーンも、東京側が早いリスタートを目論む場面ではなかったし、それほど悪意のある行為にも見えなかったので退場させなかったのは正解だろう。先日の奥谷氏の事もあったので(笑)拍手の一つでも送りたい所なんだけど、さほど荒れない試合においてはいいレフェリングほどかえって目立たなかったりするので、審判ってやっぱり報われない役割だなと思ったりもする。ともあれ、拍手。


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