ヤマザキナビスコカップ第1節 vs鹿島アントラーズ 2004.3.27 味の素スタジアム
負けは負けだからもちろんハッピーとまではいかないが、しかし決して暗く落ち込むような内容でもない。目の前に転がる失望と先々への期待の狭間で不思議な気持ちの午後だった。
選手入場前、ナビスコカップの開会宣言をするために『ひらけ!ポンキッキ』(というと古いのか(笑)。もとい、『ポンキッキーズ』)のガチャピンとムックが登場。可愛らしい彼らの姿(ちゃーんと宣言用のマイクも持ってきてましたな)に私なんぞは大喜びだったのだが、場内はどことなく微妙なムードだったような。なぜなんだろう?
立ち上がり、いきなりの失点シーン。わずか1分、鹿島はMF野沢が左サイドに流れたFW平瀬にシンプルなパスを送り、平瀬はそのままゴール方向へ斜めにドリブル、徳永の寄せが甘いと見るや思い切り左足を振り抜いて逆サイドのゴールネットを揺らした。あまりにもあっけない先制点。守備に関しては加地よりもむしろ信頼が置けるはずだった徳永の、気の抜けたようなミスでもあった。
五輪代表組が加わりA代表組が抜けて大幅にメンバーが変わった東京は、やはり攻守共に連携のぎこちなさが目立った。特に5人中3人が代わったDFライン・GK(ルーキー塩田)は不安定で、その前でワイパー役を果たすべき今野もどことなく所在なげというか、なかなかプレッシャーのかけどころがつかめない様子であった。一方の鹿島は中盤でボールを奪うと手数をかけず早いタイミングでサイド、あるいはDFライン前のスペースに入る2トップへパスを送り、即座に勝負。いかにも鹿島らしい、意思統一されたソリッドなサッカー。東京もすぐさま反撃態勢に入って前がかりになり、阿部がDFをかわして決定的なグラウンダーのクロスを送る場面(惜しくも逆サイドのアタッカーがシュートできず)も作る。ところが17分、茂庭が中盤まで攻め上がったところでボールを奪われ、カウンターの形に。瞬く間に小笠原から左サイドを疾走する平瀬へパスが通り、平瀬からのクロスをDFラインのギャップに飛び込んだFW深井が合わせ、ゴールイン。これまた思わず口をあんぐりと開けてしまうような失点だった。
ここでぶちキレたのがルーカス。DFのミスからの2失点、さらには接触の度にバタバタ倒れる鹿島選手の姿も彼の闘争心に火をつけたか、異常とも言える勢いで鹿島陣のボールを追いかけ回し(20分には勢い余って警告を受け、さらにヒートアップ)、味方にも大きなジェスチャーでパスを要求。25分、鹿島最終ラインのパス回しをかっさらってGK小沢と一対一の状況に。「おおっ!」と腰を浮かしかけたのもつかの間、シュートはゴール枠から逸れる。しかしこれで東京の攻撃に火がついた。東京は大きく陣形を押し上げ、左右から鹿島守備陣を揺さぶる。慣れてきた今野が中盤でボールを奪いこぼれ球を拾えるようになり、宮沢から左右へ展開、次々とクロスボールが上がる。39分には戸田がタイミング良く裏へ抜けて一対一になるが、案の定(笑)シュートは小沢を直撃。そこから波状攻撃で鹿島DFラインを2度3度と崩し最後は金沢がフリーでシュートを放つも、ボールは枠外へ。さらに終了間際にはスピードでDFを抜き去った石川がゴールライン際をえぐってクロスを入れたが、ルーカスを狙った(?)阿部のヒールキックがDFにカットされて逸機。結局1−1のままハーフタイムへ。
後半になっても東京のボール支配は変わらない。比較的早い時間帯には、石川のクロスがDFの間を抜けたところをルーカスが空振り(?)、こぼれたボールを阿部がシュートするも勢いなく小沢セーブ。鹿島は徐々に引いて守りを固め、カウンターを狙う。11分には深井に代えてファビオ・ジュニオール投入。中盤の攻撃は今野が高速チェックで潰し、ロングボールはやや危なっかしいながらも茂庭・藤山がしのぐ。試合が膠着し始め、東京の攻撃も息切れし始めたように見えた15分、戸田OUT馬場IN。時間帯といい、選手のチョイス(戸田はスペースがないと生きない)といい、この采配はまことに納得できるものであった。実際、馬場はリズムを変えるという意味では機能、鹿島守備網の「隙間」に入ってボールを受けることで何度かチャンスを作った。ただ、惜しいことに最後のところでプレーに精度を欠いた。右サイドから中へ切りこんで強引に打ったシュートはバーの上を越え、ルーカスのスルーパスで抜け出した場面ではトラップミスでシュートを撃てず。
この東京攻勢の中で、鹿島はDFラインで最も弱さを見せていた池内を外し、ルーキー岩政投入。岩政は昨年強化指定選手として東京に在籍していただけに、東京ゴール裏からは「岩政狙え!!」のコールが飛ぶ。まあ、実際ウイークポイントだったのかもしれないが、なにしろ2点差つけられている状況ではそれどころではなかった(笑)。
東京は26分に宮沢OUTチャンIN、30分には阿部に代えてお久しぶりの小林成光を投入。小林は味方も使いつつゴール前へ積極的に顔を出し、シュートチャンスをうかがう。また、この時間帯になると徳永の中央でのドリブルが多く見られるようになる。選手交代で中盤が薄くなったのと、守備でのミスを取り返したい気持ちもあったのだろう、自陣右サイドから斜め方向に仕掛け、チェックに入るDFを1人、2人と豪快にかわしながら前進する。加地ほどには石川を追い越す動きでチャンスを作れない分、違う持ち味を発揮しようとしたのかもしれない。徳永の内側で突出する動きが石川をフリーにしてそこへ展開、という形にできれば面白かったと思うのだが…。34分には右サイドからのロングボール、藤山が中途半端なポジショニングとなったその裏に平瀬が抜け、一対一の場面となるも塩田が体で止める。
終盤には茂庭も前線に上がり、東京はパワープレイ気味の総攻撃。40分、徳永の積極的姿勢が実を結んだ。鹿島陣をドリブルで右サイドから中寄りへ持ち上がり、ペナルティエリア外から強いボールを撃ち込む。これが鹿島DFの脚に当たってこぼれ、ややファー寄りで待ちかまえていたルーカスの前へ。ルーカスは確実に右足で流し入れてついにゴールゲット!1−2。すぐさまボールを持ち帰り、同点を目指す東京。その後も押して押して押しまくり、ゴール前で何度も混戦になってあわやという場面もあった(特にシュート寸前で小笠原がカットに入った瞬間!)。が、しかし。結局あと一歩というところでゴールは奪えず、そのままタイムアップ。今年のナビスコカップ、初戦は苦いスタートとなった。
この試合は、典型的な「鹿島に負ける時はこんな展開」という負け方であった。鹿島は明確な狙いを持って臨んできていたし、そもそも重要な時間帯や力の入れどころ、すなわち「勝ち方」を知っているチームである。その相手に対して東京はフワフワとした試合の入り方をしてしまい、早い時間帯に2失点。これでは勝てない。ただ、前の試合から半分メンバーが入れ替わった状態ではある程度は(それにしても重大すぎるミスもあったが)やむを得ないとも言えるし、コンビネーション面などで課題が明確になったという意味で意義のある試合ではあった。特に前半半ばからの猛攻は迫力も厚みも十分で、「今はまだ痒いところに手が届かない」感じだが、「一旦手が届けば体中どこでもかけるぜ!」という可能性を垣間見せてくれたと言えよう(なんだそりゃ)。徳永と加地とのキャラの使い分け、今野と宮沢の役割分担、DFのコンビネーションといったテーマを1つ1つ(もちろんできるだけ早く)つぶしていくことで確実にチームは良くなっていくだろう。何しろパーツは粒ぞろいなのだ。全く悲観する必要はない。ただし、決定力だけは……頑張れ攻撃陣としか言いようがないわな。
個々の選手では、とにかく塩田にトラウマが残らないことを祈る。少なくとも失点は彼の責任ではない。徳永は残念なミスをしてしまったし石川とのコンビは練習ですり合わせなければならないが、しかし後半のドリブル突破はなかなかに印象的であった。茂庭・藤山のCBコンビは頑張ってはいたけれども、ジャーンが入ると入らないとではやはり違うのかな、と。「強さ−カバーリング力」の割合(絶対値ではなく)で言うと「ジャーン7−3」「藤山2−8」「茂庭4−6」という感じなので、ジャーンと藤山あるいはジャーンと茂庭ならいいんだけど、茂庭・藤山だと2トップに並んで前に出てこられた時にやや強さ不足の感がある。金沢は、いつも通り金沢であった(笑)。今野はほとんど練習にも出ていなかったとのことなので、序盤戸惑ったのは仕方がないだろう。途中からはボールハンターぶりを発揮していたし、時間をかければ大丈夫。宮沢は、そこそこのプレーはしていたものの大いに不満が残った。というのも、せっかく文丈の代わりにキャプテンマークを巻いているのにチームを引っ張ろうという姿勢が見られなかったから。例えばルーカスが警告を受けてエキサイトしていた時、あそこでなだめに行く立場にあったのはやはり宮沢ではなかろうか。いつも思うのだが、もっとピッチ上を支配する意欲を持ってほしい。
石川は徳永の支援が得られず戸惑っていたものの、途中からは吹っ切れたようなドリブル突破を見せてくれた。頼りになる。戸田は戸田なりに頑張っている。馬場はその面白い感覚を生かすべくプレーの精度を上げてほしい。コバは、とりあえず出たことが収穫だ。チャンはちょっと目立てるシチュエーションではなかったか。ルーカスは、監督に何か言われたのか、これまでに比べてハイボールに対して競りに行こうとしていた(全て競り負けていたが(笑))。頭も丸めて気合が入っていたのだろう、がむしゃらなプレーで1点をもぎとったのは良かった。ただ、ストライカーとしての特性は見られないし、ポストプレーも得意でなさそうだ。器用貧乏にならないことを願いたい。そして、やっぱり阿部はもっとシュートを撃たないといけないだろう。ルーカスがやや後ろ目、阿部はそれより前にという意識がいいと思う。ちょっと2人が同じプレーをやりすぎのような。
ま、何にしても、原監督(試合後のコメントがいつになく激辛だった)のことだから、それなりに修正してきてくれるとは思う。ちょっと気になるのは、ケリーが戻ってきた時にどのアタッカーを外すかだが…。