ナビスコカップ予選リーグ vs横浜Fマリノス 2003.3.8 横浜国際競技場
なんというか、「待ちかねていたプレゼントの箱を開いたら、中は空っぽだった」という感じの試合であった。
東京のスタメンはアマラオがお休み(コンディション不良?)で阿部・戸田の2トップ。腰痛の土肥の代わりに小沢が入った他は昨年と変わらぬメンツ(出場停止金沢の代わりは藤山)。開幕前の宣言通り、4−4−2の配置で戦うことになった。控えはチャン、文丈、梶山、小峯。ユース上がりの梶山をいきなりベンチ入りさせるところがいかにもヒロミらしいところか。一方横浜は新加入の久保・マルキーニョスが2トップを組んで右に由紀彦を置く、補強を前面に出した新鮮なメンバー構成であった。GKに負傷者続出で初お目見えの榎本哲が先発だが、その前に並ぶ4バックは波戸・中澤・松田・ドゥドラと間違いなく日本最強のDF陣。
試合前、さっそく東京側スタンドからお約束の「ユキヒコー、ユキヒコー、俺たちーのーユキヒコー!」の歌が飛び(横浜の方はこれ歌ってませんでしたな)、それがすぐに「ユキヒコー、ユキヒコー、君たちのユキヒコー!!」に変わり、ついに「ポンコツユキヒコ!!」コールへと進化(笑)していった。ただでさえオキニの選手はイジりたくなる東京サポーター、そりゃこの日はネタが由紀彦中心になるのはもう見え見えだったのだが、結果的には試合の方も由紀彦を中心にして回っていくことになったのであった。
キックオフ。いずれも4バックでプレス志向の両チームだけに、序盤はがちっと陣形が噛み合って狭いスペースでのボール争奪戦が続く。どちらかというと中盤のボール支配ではやや横浜優勢の様子であった。東京でイマイチだったのは宮沢の動きで、今回のシステムならばやや左目で攻撃の起点とならなければならないはずだが、前に出てくる相手に対し受け身気味に浅利と同じ高さまで下がってしまい、おまけにパスをさばく判断もいささか遅め。苦し紛れの横パスが連続し、あるいはFWめがけたいきなりのフィードを出しては横浜の強力4バックに余裕ではね返される。なかなか攻撃の糸口がつかめない。対する横浜はどちらかと言えば左からの攻めが多く、奥が動き回ってボールに多く触れ、前線のアタッカーへつないで行く。ただしあと一歩でシュートまで持ち込める、という場面でいまいちコンビネーションが合っていないようであり、由紀彦にもいいパスが出ない。こちらも不満足な立ち上がりだったろう。
試合が動き出したのは15分。宮沢のスルーパスが縦に走る戸田に渡り、ペナルティボックス手前で併走するケリーへパス。ケリーがDFの位置を見て左斜め前へはたくと、そこには阿部がフリーで走り込んでいた。阿部のコンパクトな振りのシュート!……次の瞬間ゴールの枠が揺れ、たのだが、左ポストを直撃したボールはマリノスDFの足下に飛んでクリア。突然の大チャンスを逃してサポーターが頭を抱えたその直後、今度は横浜が素早く右を駆け上がる由紀彦にパスをつなぎ、鋭いクロスにゴール前走り込んでいた久保が頭で合わせる。これも決まったかと思えるタイミングだったが、小沢がすんばらしい反応ではじき出してノーゴール。この攻防で確実に試合は活気づいた。22分には戸田のクールさとはほど遠い(←褒め言葉)スルーからケリーがオーバーヘッドシュートを放つ(GKキャッチ)。「オーバーヘッドー東京!!」。
試合が面白くなってきたところで、案の定東京サポーターの口も滑らかに(笑)。「由紀彦点とれ!」「笑ってユキヒコ!!」(ホントに笑ったのか?)「笑顔がステキ!!」。まさに「由紀彦デー」である。
前半も中頃を過ぎると中盤もばらけ、東京は宮沢・浅利からの右サイドへのフィードに加地のオーバーラップも加わり、横浜は由紀彦へのパス回数が増えて交互にチャンスを作っていく。しかし、敵に回すと由紀彦のプレーは実に怖いねえ。マークに入る藤山をドリブルの緩急で外しつつ、正確なクロスを上げてくる。私は一昨年あたりから非東京ファンのサッカー好きと飲む時など「佐藤由紀彦こそJリーグ最高の右サイドアタッカーである」と公言してはばからなかったのだが、あれはあながち身びいきでもなかったのかもしれん(笑)。それでも、お互い不安だったGK(榎本の方は「榎本ニセ者!!」呼ばわりされていたが(笑))が意外と安定していたこともあり、スコアは0−0から動かない。
28分、敵陣中央でDF3人に囲まれながらナイストラップで阿部がキープし、ケリーへスルーパスを通す(シュートは正面)。34分、石川→阿部からつないでケリーがDFをよけつつコースを狙う技ありのシュートを打つも、榎本が横っ飛びでナイスセーブ。36分には東京ゴール前の混戦からフリーの由紀彦にパスが出るが惜しくも(笑)オフサイド。39分には左サイドライン際で出かかったボールを阿部が中澤から奪い取り、そのままドリブルで切り込んでCK。燃えるプレーを見せてくれた。42分には右サイドから逆側へ流れたクロスを、全く角度のないところから久保が反転シュート、わずかに枠を越える。久保のどこからでも強シュートを打てる特長は相変わらずだった(それが枠に飛ばない弱みも相変わらずだけど(笑))。
で、ロスタイム。「このまま0−0で終わればまあまあでしょ」という感じで見ていたその時、試合の流れを決定づけるプレーが飛び出した。マリノスの長すぎるパスが転がってゴールラインに向かっていた場面、茂庭がゴールキックにしようと相手陣に背中を向けて減速したその時、背後から由紀彦がとんでもないスピードで追いすがり半身回り込んで倒れながらクロスを上げる。意表を突く展開に東京のDFはとっさに反応できず、ボールを見てしまう。きっちり上がっていたマルキーニョスがボールを拾い、前へ出る小沢をかわしつつゴール左に突き刺した。明らかに東京側の油断が生んだ、逆に言えば最後まであきらめずプレーした由紀彦とマルキーニョスの頑張りが生んだゴール。そこで主審の笛が鳴り、まさに最悪の雰囲気のまま後半を迎えることになった。
後半開始早々、ジャーンが遅れ気味のタックルで由紀彦を倒してイエローカード。この時点で流れが良くないことは明らかだった。49分にはジャーンがまたしてもタックルをミスしてマルキーニョスの突破を許し、クロスに久保がヘッドで合わせてボールは枠ギリギリへ。ポストに当たったボールはゴールライン手前20cmくらいの位置を転がり、小沢が必死にかき出して失点を逃れる。命拾い。このラッキーさを反撃ムードにつなげたいところだが、やはり横浜DFは堅い。55分前後のケリーと藤山のシュートはいずれもDFがブロック。59分には由紀彦が右サイドから中へ切り込んでシュートを放ち、わずかに枠外へ。いやあホントがんばるよなあ…と思ったところでいきなり由紀彦OUT・清水IN。さすがは岡田監督、こういう試合では絶対にムキになる男だけに、由紀彦の活動限界が近いのをよくわかっていたのだろう(笑)。
このあたりから試合は膠着してしまう。東京はリズムが良くない時にありがちなケリーの持ちすぎプレーが非常に目立つ。宮沢も相変わらず前への絡みが乏しく、宮沢・浅利ラインとアタッカー4人とが完全に分断された状態。焦れたケリーが下がって来てボールを抱えるとまた球離れが悪くなり…という悪循環。そういえばJ2時代の終盤に連敗して苦しんでいた頃のチームとアウミールの関係性がこんなだったかなあ、とふと思った。マリノス側は別に攻撃の手をゆるめるわけではないのだけれど、どちらかと言えば無理をせず、中盤では「東京側につっかけさせておいて受け流し、裏を狙う」攻撃を心がけているように見えた。ただし松田は別で、監督の交代もシステムの変更も何のその、持ち味の「将軍ドリブル」でボールを持ち上がって攻撃に無理矢理(笑)アクセントをつけていた。
後半途中からは、本当に時間のたつのが速かった。何もできないまま、目立ったチャンスを作れないまま、どんどん時計の針が回っていく。68分に戸田に代わってチャンが入っても、75分に浅利に代わって梶山(なぜ文丈でない?)が入っても流れは変わらなかった。東京サポーターも沈黙してしまい、いつもの威勢の良さは全く見られない。弛緩した空気の中宮沢や梶山が守備に行っては交わされ、せっかくボールをとって相手陣に入っても前へ運べぬまま延々と横方向へのパスが続く。唯一可能性を感じさせたのは阿部で、65分石川のクロスに飛び込んでGKと交錯、84分には中央へ入った石川(かな?)のスルーを巧みに受けてDFに挟まれながらもシュートへ持ち込む(GK正面)。しかし、あまりにもチャンスは少なかった。最後は横浜に東京陣で悠々とパスを回されてゲームセット。ロスタイムに敵陣で得たスローイン、加地のロングスローがファーサイドへ抜けたけれど誰も走り込んでおらず、追う選手もいなかったシーンがとても寂しかった。
試合後、サポーターのところへあいさつに来る東京の選手に対して、ミョーに暖かい拍手(と一部「キャー!」「○○さーん!」的な歓声)が送られてたんだけど、あれはいったい何だったんだろう。別にブーイングしろとは言わんけどさ。
横浜Fマリノスは攻撃の場面でコンビネーションの不一致も見られ、まだ仕上がり途上なのだろうという印象。しかし同時に、オフに戦力補強を行った効果は確実に見え、大いなる可能性を垣間見せた試合でもあったように思う。Jリーグ最強のメンツを揃えたDFはそのまま維持すればよく、必要なのは攻撃力の増強・バリエーションの多様化。そのために獲得した由紀彦・久保・マルキーニョスの3人がそこそこ活躍したことで岡田監督は確かな手応えを得たのではないだろうか。特にひたむきなプレーで決勝点を生んだ由紀彦のような選手の加入はサイド攻撃の薄く、どちらかといえば「殿様サッカー」色の強かった(松田除く)チームにとって良い刺激になるだろう。あまり選手層の厚みは感じられないが、それは他の強豪にとっても同じこと。岡田体制1年目から優勝争いに絡んでもおかしくはないように思える。
対してFC東京は、初戦からいささかへこむ結果であった。「攻撃サッカーの強化」がテーマだったはずなのに、アマラオを欠いていたとはいえ完封、それも後半はほとんどチャンスを作れないままズルズルと破れてしまったのだから。3年前、昇格初戦の東京になすすべなく敗れた横浜のだらしなさを思い出した(ホント、逆転しとるがな)。後半の戦いぶりからすれば誰が悪いという問題ではないのかもしれないが、宮沢にはもうちょっと頑張ってほしいと思う。せっかく「純粋守備的」MFの浅利が相棒にいるのだから、もっと前、2トップになってスペースが生まれる左寄りのスペースで攻撃に絡んで行かなければ駄目だ。特にこの日はSBが金沢でなく藤山だったのだからなおさらだ。彼がただの「配球役」に徹してしまうのであればケリーの位置も下がり目になって攻撃が薄くなってしまい、それならば喜名や文丈(2人ともコンディションに不安があるのかもしれないけど)を使った方がずっといいと思う。とにかく、もっと足を動かしてくれい。あと、この試合では選手交代にも疑問が残った。梶山を早く使いたい気持ちはわかるのだけれど、1点ビハインドの場面で起用するのが良かったのかどうか。あそこで「状況を見て流れを変える」役を期待するとすれば、ベテランでかつ色々な引き出しを持つ文丈だったのではないだろうか。
他の選手では、茂庭は明らかなポカをしてしまったが、由紀彦のプレーから「最後まで」の気持ちを学んでほしいと思う。1回くらいの失敗で落ち込んではいかんぞ。ジャーンの動きにキレがないのは不安だ。小沢の目途がついたのは一つの収穫。加地はオーバーラップの切れが増しているような。藤山・浅利は各々の能力は出した。石川とケリーははまあまあの出来だったと思うが、やはり彼らがパスの出し手になっていてはいけない(宮沢の責任は重大だ)。戸田は戸田なりの仕事をしている。阿部は……ポストに当てたシュートは確かに決めてほしかったけど、そこで頭を抱えたりうつむいたりしなかったのは個人的に好印象だ。まだ周りと生かし生かされの関係にはなっていないながらも自力でチャンスを作れる力強さも持っていて、これからずっと良くなりそうな感じではある。ポストアマラオの得点源、彼に賭けてみるのも悪くない。
しかし、由紀彦は攻守(守備もけっこう頑張っていた)に活躍できて良かったねというか、新天地で幸先のいいスタートを切ることができた。これで東京のファン・サポーターも安心して(あるいは腹の底で怒りつつ(笑))「横浜Fマリノスの佐藤由紀彦」を受け入れられる(あるいは突き放す(笑))のではないだろうか。