J1リーグセカンドステージ第3節 vs横浜Fマリノス 2003.8.30 味の素スタジアム
「ファイヤーワークスナイト」に相応しい、派手な花火が上がりまくった試合だった。
この日は夏休み最後の試合、そしてライバル意識の強い(こちら側だけか(笑))両チームの対戦とあって、3万5千人が詰めかけた味の素スタジアムは熱気ムンムン。そんなスタンドの雰囲気に煽られるようにして両チームは立ち上がりから激しいボールの奪い合いを見せた。開始直後にジャーンが由紀彦を倒してイエローカードをもらう。東京にしてみればここ2試合イヤな負け方が続いているだけに、何としても流れを取り戻そうという気持ちが強かっただろう。一方の横浜は怪我で久保・奥を欠き、さらに複数の選手がコンディション不良をおして出場する苦しい状況。1stステージの成績と今季の対戦成績などどこへやら、ピッチ上では全く対等な者同士の勝負が繰り広げられていた。8分には横浜側のそれたパスが東京側ゴールラインへ転がり、それを追う茂庭の背後から由紀彦がダッシュ。忘れもしないナビスコ杯予選第1戦の失点と全く同様のシチュエーションになったが、当時とは比べものにならない精悍さを備えた茂庭ががっちり抑えてゴールキック。「これは行ける」という感触をはっきりつかんだ瞬間だった。
序盤の東京は後方から前線へ縦方向のフィードボールを多用。FWのスタートとのタイミングがピタリ合い、またマリノスのDFラインの押し上げが鋭さを欠いた(松田は全くダッシュがきかない状態だった)せいもあって、得点にこそ至らないもののチャンスを作る。特に阿部は中澤との競り合いで何度も先にボールに触り、その体調の良さがうかがえた。そして16分、横浜陣でのゆっくりとしたパス回しで一瞬ボールが止まったところを文丈・石川が猛然とプレッシング、ボールを奪った文丈から右へ開く石川へ間髪入れずパスが通り、石川は素早く持ち上がってグラウンダーのクロス。走り込む阿部が中澤と競り合い体勢を崩しながらもつま先でシュート!ボールはゴール天井に突き刺さった。原サッカーの基本とも言える「攻撃的守備」からの電光石火の速攻。「これだ、これが見たかったんだ」と叫びたくなる素晴らしい得点だった。1−0。
いい形での先制点に、東京の攻撃は一気に加速。19分、敵陣右サイドでボールを受けた石川が今度はDFをかわしてからミドルシュート(GK榎本キャッチ)。20分、横浜陣での東京ボールのスローイン、横浜DFの足が止まったところ石川が判断良くスタートを切り、右サイドを抜ける。中でFW2人がDFを連れて上がる姿を見るや石川はその後ろに走ってきていた金沢にパス、金沢が思いきり良くシュートを放つと、DFに当たって方向の変わったボールがゴール右隅へ吸い込まれていった。2−0。もう東京側(バックも含む)スタンドは大騒ぎ。高揚したゴール裏からは絶え間なく様々な応援歌が飛び出し、超久しぶりの「東京ナメんなヨ!」「東京ロケンロール!!」の歌まで聞くことができた。祭りだ、祭り。
東京のパス回しはさらに活性化。ともすれば浮いた存在になりがちな阿部もしっかりパス交換の流れに乗り、ケリー・戸田と3人のポジションチェンジが攻撃に流動性をもたらす。右では石川・加地がしっかりサイド攻撃を作り、中盤では文丈・宮沢が「前へ出る守備」を実践。「セクシー!東京!!」。一方、ノリにノる東京側に比べてマリノスは意気消沈。それもやむを得ないというか、強行出場していた選手のうちまず21分に松田が、続いて31分に遠藤(接触で怪我が悪化したらしく、足を引きずる様が痛々しかった)が交代。また、戦術的には奥の欠場が何よりも痛手だったと思われる。それなりにボールはつなぐのだが、東京の「詰め」をかいくぐってようやく敵陣に入っても中央付近でこちらのDF網を突き崩すようなパス・動きに乏しく、決定機に至らない。
30分、東京はパス交換から右へ展開、石川がペナルティエリアへ切りこんで一旦はボールをとられたものの奪い返し、フォローの加地へ渡す。加地は狙いすましたクロスをファーサイドへ上げ、逆サイドから飛び込んできていた戸田がジャンプして頭で叩きこむ。3−0。これも「DFの視界から消える」ニンジャ戸田の特長が出た、スカッとする得点だった。ここまでは全く文句なし。レアル・マドリード戦とは違った意味で「真夏の夜の夢」という感じの理想のゲーム展開であった。
開始からのテンションがあまりに高かったゆえか、終盤は東京もややゆるみ気味になった。33分、マリノスの縦方向へのロングボールを茂庭が早く見切りすぎ、あわてて飛び出した土肥がFW坂田にかわされたが、角度のないところからのシュートはゴール右に外れた。それまでとは一転、東京陣での攻防が続く。ただし、マリノスの攻撃は遠藤→阿部祐大朗の交代で増えたアタッカーに早めにボールを当てることで生まれるものが多く、最も恐れていた両サイド(由紀彦・ドゥトラ)からの崩しは少ない。崩されていない状況でのクロスはジャーン・茂庭が確実にはね返す。しかし、そのまま3−0で終わるかと思った44分、ペナルティエリア外での宮沢と阿部祐の競り合い、スタンドからは阿部のファウルに見えたのだが…「動かざること山のごとし」上川主審は20mほど離れた背中方向からどこをどう見たのか、マリノスボールのFKとなった。9人壁も空しくドゥトラがゴール左隅にきれいに決め、3−1。まだ2点差あるとはいえ、主審や相手との相性も考えるとちょっとイヤな感じの折り返しとなった。
ハーフタイムの花火は、バックスタンドからはガラス越しに火花が見えた程度だったが、それでもとてもきれいに感じられたのはリードしているゆえの余裕だろうか。
後半キックオフ時、「ナオヒロー、ナオヒロー、おれたちーのーナオヒロー!!」コール。今季これまでの3戦でこの手のコールをやった後は(結局負けたので)非常に「悔しまぎれ」感が残ったものだが、この日は完全移籍後の試合ということもあって大いに胸を張ることができた。
試合の方は開始から一進一退という感じであった。前半の終盤に引き続きペースが落ち気味の東京に対し、マリノスは監督からの指示か、ややサイドからの攻めが増えていた。今季のマリノスの大きな武器はセットプレーで、アタッカーに高くて強い中澤らが加わって複雑な動きで相手DFを攪乱、正確なクロスを頭で叩きこむというシーンを何度も目にしている。だからこの時間帯のFK・CKには非常に緊張したのだが、ジャーン・茂庭の強さに土肥ちゃんの果敢なキャッチングが加わって事なきを得た。あるいは、久保がいなくて良かった、と言うべきか。11分、ペナルティエリア内やや右でフリーとなっていた阿部にパスが通り、シュートも打てたタイミングだったが、クロスを狙って合わず逸機。確かにマリノスDFと東京アタッカーが併走するその後ろでケリーがフリーになっており悪い判断ではないと思うのだが、ここはストライカーとして断固シュートしてほしかった(味方もそれを予期していたのだし)。14分にはCKからの中澤のボレーシュートを戸田が顔面で防ぐ。さすが戸田、としか言いようのない好プレー(笑)。
16分、右サイドへのロングボールの放り込みに阿部が反応し、榎本がペナルティエリアを飛び出してクリア、した時にボールが胸でなく腕に当たったように見えたのだが、ノーホイッスル。この時、副審がハンドをアピールしなかったのだから実は微妙なところだったのかもしれないが、遠くでとぼとぼ歩いて眺めていただけのくせにわざわざ「腕じゃなく胸だ」とジェスチャーで示す上川主審はいったい何様のつもりか。「あーた、今の場面、ぜってー見えてなかっただろうが!!」。17分には石川から前線へ送ったパスがDFに当たってケリーの足下に落ち、ケリーは横に流れてDFを振りきりつつシュートを打つも枠を外れた。そして20分、石川が右サイドでドゥトラとタイマン勝負してCKを獲得、ショートコーナーでボールはペナルティエリア内の宮沢へ。パスがややずれたせいでダイレクトのシュートは打てずマリノスDFが寄っていったその時、宮沢は切り返しつつ右足へボールを持ちかえ、意表をつく右足シュート!!ボールはカバーに戻るDFに当たりながらゴール内へ転がっていった。4−1。これで勝敗は決した。
再びお祭り騒ぎのスタンドからは「攻撃ー、攻撃ー、ハラトーキョー!!」の歌が延々と続く。23分には戸田が左サイドで相手パスをカットして一気にペナルティエリア脇まで突撃、中へ切りこんでシュートを狙う。強引なプレーだったが、DFにとって脅威となるためにFWはまずこれをやらねばならないだろう(小ぎれいに「うまい」プレーは本当に例外的でいい)。24分にはロングボールがジャーンの背後にこぼれて坂田と土肥が一対一になるも、土肥が胸で防ぐ。26分のCKでは宮沢が両手を上げてスタンドに盛り上げを要求し、それなのにボールがファーサイドのゴールラインを割ってしまって点を仰ぐ。あれは多分直接入れていいところを見せたかったのだろうが、まあ見かけによらずみやざーもお茶目さんではある(笑)。34分には東京ゴール前での混戦から茂庭が持ち出し、左サイドでフリーになっていた石川にスルーパス。石川はそのまま駆け上がって、これも自分で狙えるシチュエーションだったが、中央の阿部を狙ったクロスが合わず逸機。大差の試合なんだしマスコミ向け・ファン向けにはシュートしても良かったと思うが、しかし今季はこれまでシュート狙いすぎの感があったので、ここでもクロスにこだわってくれたのはちょっと嬉しかった(しかし、我ながら「打て」だの「打つな」だの勝手なこと言ってますな、私(笑))。
終盤はさすがに夏の試合だけあって、間延びした攻防が続く中どんどん時計が進む感じであった。が、金沢の超山なりな(笑)ロングスロー(※注)をケリーが頭越しシュートを狙ったり、由紀彦に東京ゴール裏から「佐藤!佐藤!」コールが浴びせられたり、茂庭がスラロームのようなフェイントで巧みにゴールキックをとったり、ドリブルで駆け上がる由紀彦に交代出場の浅利が鋭利なタックル(笑)を浴びせたり、ゴール裏の「ユースケ!ユースケ!」「原動け!!」コールに応えて本当に近藤祐介がリーグ戦初出場、「ハーラ!ハーラ!」コールで盛り上がったりと、サポーター的には楽しい場面の連続でもあった。最後はお約束の「眠らない街」が流れる中タイムアップ。こんな楽しい試合なら、いつまでも続けたかったとさえ思った。
横浜Fマリノスにしてみれば、今季一番苦しかった試合だったのではなかろうか。久保・奥が欠場、松田・遠藤は前半を戦いきることさえできず、柳も満足な状態ではなかったようだ。はっきり言って今日のマリノスは1.5軍がいいところで、内容に関しては参考外、ポテンシャルの半分も発揮してはいなかっただろう。この試合に関して言うと、たるんだ後方のパス回しに加え、中央付近の攻撃に工夫がなかった(ために東京DFを中へ集められなかった)のと東京の右サイドへのマークが甘かったことで、本来強みであるはずのサイドの攻防にまで完敗してしまった。現代サッカーはやはりサイドがキモなのである。聞いたところによると、岡田監督は試合後に選手と一緒に並んでゴール裏サポーターに頭を下げたそうだ。これだけ怪我人が出れば監督の力だけではいかんともしがたいと思うけれども、そこはやはり「常勝を目指す」ことを宣言したプライドゆえであろうか。2ndステージは3試合でまだ勝ち星なし。このままの調子が続けば、確かに1stステージ「王座」の価値が問われかねないが、それはマリノスが悪いのではなくJリーグの制度の欠陥のせいである。
FC東京にしてみれば、名古屋戦の大逆転負け・ナビスコ浦和戦の敗退と悔しい試合が続いていただけに、イヤな感じを吹っ飛ばすような会心のゲームであった。もちろん相手チームの状況を考えればスコア通りに評価できない部分もあるが、それは棚に上げるとして(笑)、とにかくいい面が色々と出たことが喜ばしい。まず、1点目のとり方がすごく良かったこと。今年のチームは安定感は非常にあるのだけれど、その一方でどこかに突き抜けられないもどかしさがあった。やっぱりスペイン流の攻撃サッカーを目指すのであれば、「前へ出る守備」からの速攻は欠かせない。遅攻やセットプレーである程度取れるようになったからといって、本来目指すべき方向を忘れてはいけないと思うのだ。次に、サイド攻撃が機能したこと。少なくとも攻撃力だけで言えば、徳永よりも加地が入った方がやはり威力はあるようだ。石川もクロスとシュートをバランス良く使い分けることができた。ま、右が強いのは元々分かりきっていることなので、そちらが封じられた時にどう攻撃を組み立てるかという課題は従来のままだが。あと良かったのは、点をとったメンツ。阿部・金沢・戸田・宮沢。思い起こせば昨年の開幕戦、小林成光の2得点も良かったけど、それ以上に原さんの「攻撃サッカー」に可能性を感じたのは、実はDF伊藤がゴールした瞬間だったのだ。「90分間、攻撃サッカー。」という標語によって表されるべき思想(笑)の本質は、単に「ずっと同じペースで攻撃する」とか「シュートをたくさん打つ」ではなく、「いつでもどこでも点をとりに行けるだけの攻撃性をチーム全体が持つ」ということだと私は(勝手に)思っている。だから、得点者が固定するよりも様々なメンツが点をとってくれた方がいい。
個々の選手では、まず石川の活躍を抜きにしてはこの試合を語れないだろう。石川君は、サイドアタッカー、というかウイングプレーヤーなんだから、左足のシュートももちろんいいけどまず縦に抜いてクロスを供給することを考えねばならないだろう。今季は(マークがきつくなってきたせいか)あまりにも前者に偏り過ぎている印象だが、クロスがあってこそシュートが生き、シュートがあってこそクロスが生きることを忘れてほしくはない。監督の「10点ノルマ」なんて、字面通りに聞かないで自分なりに解釈しちゃえばいいんだよ(笑)。FWでは阿部・戸田はそれぞれ「らしい」ゴールをあげたのでいいでしょう。近藤君とチャン君はとりあえずボールには触った、ということで。ケリーは周りの動きの良さに乗って「使い、使われる」プレーができていた。中盤では文丈が守備面で活躍、宮沢はペナルティエリア内の小器用なプレーという新境地(笑)を開拓し、浅利は5人目のDFの役割をきっちり果たした。金沢はよく左サイドを埋めていたし、加地は守備を破綻させなければ徳永に決して劣らない。土肥はいつも通りの守護神ぶり。ジャーンのキレが怪我の影響もあってイマイチなのはちと気がかりだけれど、その分茂庭が広いエリアを確実に守れるようになっているのでまあ大丈夫だろう。茂庭は本当に成長している。まだ不用意なプレーが無くなったわけではないが、その分歯を食いしばる根性プレーを見せてくれている。前半、どこを痛めたのか、右腕を脇腹にくっつけて顔をしかめながら頑張りとおした姿にはちょっとだけ(と言っておこう(笑))感動した。エライ!!
[追記1]
スペシャル審判様だか国際主審様だか知らないが、上川徹氏はどうしてあんなに走らないのだろう。「走る量は少ないけどポジショニングでカバー」というわけでもなく、微妙なプレーが発生した際、たいていは遠くでとぼとぼ歩きながら眺めているというのはどうした訳か。アドバンテージのとり方などは以前よりマシになったような気がしないでもないが、しかし肝心のファウルに関するジャッジが信用できないのでは観ている側としては堪らない。走力というのは、審判としてのスキルの中で基本中の基本だと思うのだが。[追記2]
試合後のヒーローインタビューは宮沢。よって1人だけ遅れてスタンドに挨拶に来たのだが、その時の手の振り方のぎこちないこと……。両手揃えて顔の脇でひらひらさせるの、それやめい(笑)。まあ、垢抜けないところが彼のいいところでもあるのだが。[注]
後から指摘を受けたのだが、金沢ではなくチャン君だったらしい。いや、地味な外見が似ていたもんで(笑)。どうもスイマセン。