J1リーグセカンドステージ第14節 vs東京ヴェルディ1969 2003.11.22 味の素スタジアム

 

 

 試合前から、スタジアムにはいつもとは違う雰囲気が漂っていた。それはそうだ。この試合は今季最後のホームゲームであり、にっくきヴェルディとの東京ダービーであり、優勝へ向けて勝たなければならぬ試合であり、そして何より我らがアマラオのラスト・ホームゲームなのである。ヴェルディ側ゴール裏では東京サポーターの挑発(これ自体は意味のない行為に思えたが)に対してヴェルディサポの一部がくってかかり、岡元や堀池や鈴木ら「東京ガスOB」も来場(もちろんゴール裏からは「オ、オ、オッカモトー!!」コール)、「You’ll Never Walk Alone」の合唱中にアマラオの思い出映像が流され、選手入場の際には東京ゴール裏で花火が上がった。みんなわかっていた。あらゆる意味で特別な試合だったのだ。

 

 キックオフ。戦前の予想通り、両チームの全く方法論の異なるサッカーがぶつかり合う。ヴェルディは攻撃の際も、選手がスペースへ向かって走り込むというよりお互いの距離を保ち、速いショートパスをつなげてくる。ポジショニング自体は比較的柔軟ながら、チーム全体のフレームを保ったままグイッと前へ押し出してくる感じだ。一方東京はいつも通り攻撃的な守備からサイドに展開し、速く大きくゴールへ向かってクロス・シュートを打ち込む。ボールをとるや石川・戸田がスペースへ向けてダッシュ、陣形がブワッと開いて行く様は、ヴェルディとは全く対照的であった。立ち上がりは中盤のきついチェックが効いて、やや東京優勢で試合は進む。8分、エムボマから奪ったボールをケリーがすぐに右へ展開、石川のクロスに戸田が頭で合わせてファーストシュート。17分には中央ドリブルで持ち上がるケリーからペナルティエリア内でフリーになっていたアマラオへパスが通るも、折り返しのクロスが弱くDFにカットされる。

 東京が攻めながら決定機をつかめないでいるうち、次第にヴェルディもチャンスを作り出す。ヴェルディの攻撃陣は中央で短いパスを交換しながら前進。さらに山田卓也が右へ左へ顔を出して流動性を高めているうち、中へ絞り込む東京守備の裏をとる形でサイドでフリーになる選手が現れ、そこを起点に突破するシーンが多く見られるようになる。19分、左サイドでボールを受けた平本が縦に抜け、グラウンダーの折り返しがマークの外れていたエムボマの前に転がるが、シュートは幸運にもゴールわずか右に外れた。21分、東京が敵陣早いチェックでボールを奪い、右サイドオーバーラップしていったジャーン(!)からのクロスをケリーが頭で狙うが、ゴールわずか左に外れた。試合は均衡し、緊迫感のある攻防が続く。

 26分、ハイボールの競り合いからジャーンが敵陣右のスペースでどフリーになっていた石川へパス、石川はドリブルで深く前進してからクロスを上げるが、精度が低く逸機。29分、フィールド中央でのFKから文丈が強い楔のボールを入れ、ペナルティエリア付近で受けたケリーが反転してシュートを撃つもゴール右上に外れる。32分、ヴェルディの細かいつなぎから左サイドを破られるが、中央のエムボマ・三浦淳へ折り返しつないだところを土肥が押さえる。37分、MF根占のドリブル突破からパスがペナルティボックス内の平本に通りかけるが、文丈が何とかクリア。38分にはCKのはね返り、右サイドでボールを拾った田中隼がチェックに入る宮沢をドリブルでかわすピンチ(金沢クリア)。さらにCKから波状攻撃をかけられ、最後土肥とエムボマが交差してこぼれたところを山田がシュートするも枠外へ。42分、右サイドでフリーになっていた柳沢にパスが通り、戸田のチェックが間に合わずペナルティボックス内へ進入を許すが、クロスを茂庭がカット。とにかくこの時間帯は中盤のプレスのかかりが悪く、押し込まれて苦しい状況だった。

 東京も終了間際の44分、カウンター気味の速い攻めで久しぶりにチャンスを作る。スピードに乗ったドリブルで中へ切れ込む石川から右をオーバーラップする加地へパス、加地はダイレクトでクロスを上げ、ファーサイドから戸田が飛び込む!これは今まで何度も得点を奪ってきたパターンであったが、今回のヘディングは残念ながらゴール左上に外れた。結局0−0のまま前半終了。

 

 後半、東京と同様勝たなければ優勝争いから脱落するヴェルディは、立ち上がりから人数をかけて点をもぎ取りにかかる。宮沢のところでプレスのかからなくなっている東京は自陣に押し込まれる形に。しかし、相手が前に出てきてくれたのは東京の攻撃にとってはかえって好都合だったのかもしれない。時間が経つにつれ、ケリーを起点にサイドからの速い攻めが再び活性化していった。3分、ケリーがピッチ中央からDFと競り合いつつ一気にペナルティボックス付近までドリブルで前進、アマラオへのラストパスは惜しくも通らず。5分、田中隼を起点にゴール前右から左へパスで振られるが、山卓のヘッドは土肥がキャッチ。7分にはFKからのこぼれ球を拾った石川が切り返しなから好クロス、戸田が再びどんピシャのタイミングで合わせるも、わずかに枠をとらえられず。11分にも自陣から右ライン際を石川→加地→アマと滑らかにつなぎ、クロス。DFの間に飛び込んだ戸田のヘディングが今度こそ決まったかと思えたが、GK高木が横っ跳びでCKに逃げる。チャンスを作りながら決められない東京。先週の松代を思い出し、イヤな感じがした。

 激しい攻防は続く。13分、ヴェルディが東京ゴール前で波状攻撃をかけるも何とかしのぎ、そこからのカウンターで今度はヴェルディゴール前での波状攻撃に。FK・CKが連続するが、しかしゴールには至らない。コーナー付近に流れたクロスボールを必死に追いかけるアマラオの姿が印象的だった。18分にはMF林のシュート気味のボールを田中がポストに入って落とし、走り込んできた交代出場のFW桜井がシュート。完全にやられるタイミングではあったが、これも幸いわずかにゴールマウスを外れてくれた。20分にはジャーンが上げたロングボールをペナルティエリア内でケリーが左スペースへ折り返し、どフリーで走り込んできた石川がシュートを放つが思い切りふかしてしまう。

 ここで東京は文丈に代えて阿部を投入。アタッカーを増やして勝負をかける。24分、セットプレーからの早い仕掛けで石川がドリブル突破してグラウンダーのクロス、ペナルティエリア内で阿部が流して金沢がシュートするが、これまたふかして逸機。27分には右FKからのアーリークロスをアマが頭で落としたボール、阿部がいい出足からボレーで狙うも、高木が正面でキャッチ。残り時間が少なくなっていたこともあり、選手のプレーやしぐさには次第に焦りの色が見られるように。特に石川はボールが来ないと両手を挙げて不満を表し、さらにこの日は(この日も?)阿部となかなかコンビネーションが合わず、阿部がボールを受けにサイドへ流れてくると怒りを露わにして「中へ入れよ!」と手で指示する姿も見られた。しかし、空回り気味ではあったけれども、気持ちを前面に出して戦ってくれる彼の姿は、私にとっては決して不快ではなかった。

 そして30分、ついに東京の攻撃が得点に結びつく。金沢から左サイド駆け上がるケリーにパスが通り、カウンターの体勢に。ケリーはドリブルでDFを振りきりながら一気にペナルティエリア内へ進入、中でアマ・阿部がDFと併走しているのを見て抜群のタイミングでクロスを上げる。ボールはヴェルディDFがアマへ引きつけられていくその頭上を越し、ファーサイドに走り込んでいた阿部が跳び上がって渾身のヘディングシュート!!阿部の気迫が乗り移ったかのように、ボールは猛烈な勢いでゴールへ飛び込んでいった。阿部の、久々の、いかにも彼らしい、ストライカーのゴール。場内はまさに興奮の坩堝という感じで、この日ばかりは「東京ブギウギ」さえも統率のとれた歌声にはならなかった。先ほどまで怒鳴っていた石川が真っ先に阿部に駆け寄り、抱き合う。そして皆がゴール裏へ走ってアマラオを囲んでまた抱き合う。その光景を見て、勝利を確信したのは私だけではないだろう。

 先制を許し、ヴェルディはさらに前がかりになる。そして東京はその裏をカウンターで狙う。ボールはヴェルディが支配しながら、チャンスの数では東京も劣らない。クロスはジャーンがはね返し、ドリブルで勝負を挑まれると茂庭がくらいつく。38分、ペナルティボックスすぐ外でFKを与えるピンチも、高い集中力ではね返す。逆にボールをとるや阿部・ケリー・石川が右から左から襲いかかるが、ヴェルディもロペスや米山が粘ってこれまたなかなか決定機に至らない。延々と激しいボールの奪い合いが続く。闘志むき出しの両チームの選手たち。いい試合だと思った。

 しかし、あと一歩のところで東京はこの好ゲームをものにすることができなかった。43分に敵陣でパスカットして独走したケリーが米山もかわすが、ドリブルが長くなったところを高木に押さえられる。ここで東京は石川に代えて浅利を投入、逃げ切りフォーメーションでゲームを締めにかかる。が、その直後の44分。フィールド中央から三浦淳がペナルティボックス目がけて高く蹴ったボールが、DFにしてみればこの上なく処理しづらい弾道を描く。「うわ、これは…」。落下点に入りかけたジャーンもボールに触ることができず、途中出場の飯尾が東京ゴールに背中を向けてボールを確保。DFが詰めようとした瞬間に飯尾は鋭く反転してシュート、土肥の横っ跳びも届かず、ボールは無情にもゴール左隅に吸い込まれていった。大騒ぎになるヴェルディゴール裏。それと対照的に、わずかなため息を残して静まりかえる大部分のスタンド。呆然と立ちつくす東京の選手たち。まさか、こんな結末が待っているなんて。

 気を取り直したように東京ゴール裏で「トーキョー!!」コールが叫ばれ、最後の力を振り絞って勝ち越し点を奪いに出る東京の選手たち。47分にはジャーンも上がる総攻撃をかけ、阿部→アマラオ→宮沢→ジャーンとつないで、最後はケリーからペナルティボックスへ走り込む戸田へラストパス。しかしこれもロペスの必死のカバーリングで防がれてしまい、東京の最後のチャンスが潰えた。そのまま1−1で試合終了。スタンドで聞こえるは落胆の声とため息ばかり。足早に出口へ急ぐ人も多かった。私は……目の前で繰り広げられた光景がまるで何か現実でないような気がして、しばし呆然とピッチを眺めていた。

 

 

 東京ヴェルディ1969は、アルディレス監督の招聘がやはり成功だったのだろう、技術志向の強い、リズム感のあるショートパスで攻め寄せるサッカーが復活したように見えた。やはり、読売クラブの時代からから見ている人間としてはその手の戦い方こそ「ヨミウリ」あるいは「ヴェルディ」の名にふさわしいと思うし、選手たちも自信を持ってそれを実行しているようである。さほど約束事で締めつけないが、しかし個々の選手には役割意識を持たせるあたりがアルディレスらしいところ。田中隼のドリブル、山卓の運動量、平本・桜井のゴールへ向かう意識、そうしたものが(いずれも元々あったものではあるが)うまく噛み合いつつあるのが今の状態なのだろう。ま、アルディレスという人はある程度までチーム力を高めることはできても頂点を極めた実績に乏しいので、またしばらくすると壁にぶつかるかもしれないが。この日は、3日前の代表戦の疲れがあったのかエムボマの動きがイマイチだったのは残念(幸い?)だった。

 FC東京は、序盤からスリリングなサイド攻撃を見せ、なかなかゴールを奪えないと見るや後半攻撃的な布陣を引いて先制点をもぎ取ったが、最後の最後でまたしても(2ndステージで3回目か…)逃げ切りに失敗した形になった。直前の浅利投入が失点に影響したかどうかは微妙なところで、同点ゴールにつながるロビングはあまりにも絶妙の弾道で上がったものだからある意味アンラッキーだったと思うし、でも一方で飯尾がボールを足下に収めてからの寄せの遅さはやっぱりフォーメーション変更の影響があったのかな、という気もする。ボランチ1枚外し→アタッカー投入で攻撃態勢にシフトして、思惑通り勝ち越したので今度はアタッカー外し→ボランチ投入というのは一見理にかなっているんだけど、文丈と浅利のキャラの違いもあって、即座にバランスとるのは難しかったのかもしれない。ま、「浅利を入れて逃げ切る」のはこれまでもやってきたことだし、締めのオプションとして持っておきたいのは確かなので、チームとして変化への対応力をもっと上げていかなければならないということなのだろう。…と、ゴチャゴチャ失点について述べたが、それ以前に幾度となくあった決定機をもう一つでも決めていれば勝っていた試合なのだから、本当の「敗因」はそちらに求めるべきなのだろう(笑)。

 個々の選手について。DFはいつも通りの出来だったが、両サイドは守備に追われる中それでも攻撃にも顔を出しうる判断・バランス感覚が良かったと思う。宮沢はヴェルディの速いパス交換に振り回されてしまった印象。浅利は持ち味を発揮する以前に貧乏くじを引いてしまったような。ケリーは引き続きキレキレ中で、頼りすぎるのはいけないと思いつつもとりあえずボールを預ければ何とかしてくれる感じである。石川は良きにつけ悪しきにつけ若さムキだし(笑)だったけれども、こういう経験を重ねて行くことが大事なのだと思う(彼に限らず、だが)。阿部は前節あたりから本来の軽快さが戻ってきたようで、ゴール前でボールが来さえすれば(あるいは呼び込めさえすれば)これからも大いに仕事をしてくれるだろう。戸田は…ゴール前でボールを受けてシュートするまでは最高なのだが…。阿部と戸田のいいところを足して2で割ったらスーパーストライカーができるかもしれない(笑)。そして、アマラオ。精一杯頑張ってくれた。今はそれくらいしか言えない。得点はなくても、あれだけ走って攻守に貢献してくれたら文句なんて言えるわけありません。

 

 この日が最後のホームゲームとあって、試合終了後には選手・スタッフ一同揃っての挨拶があった。そこでの原監督のスピーチがまた傑作で、

 「今日は全力で戦いましたが、勝点3は取れませんでした」 (まー確かに、全力を出したのはよくわかった)。
 「もっとシュートを練習して……点取りたいです!」 (わはははは、そうだそうだ、それでこそ原さんだな)。
 「選手・スタッフ、チームは確実に強くなっていると思います」 (うんうん)。
 「残り1試合全力で戦って、天皇杯に向けていい準備していきたいと思います」 (そうそう、頼むよ)。
 「みなさんの声援でいつも、我々勇気づけられています。ただ、もっと強いチームにしなきゃいけないという風に、思っています!!」 (いや、ホントにそうだ、そうなんだよ!!)。

 残念きわまる試合結果に落胆していたこの日、原監督のちょっと可笑しな、でも真面目で気持ちのこもった言葉でどれだけ救われたことだろう。スタンドからは拍手が起こり、ゴール裏から「攻撃、攻撃、原トーキョー!!」のコールが湧き起こる。つくづく人柄なんだよなあ。

 

 そして選手たちは場内一周。盛大な拍手が送られたが、特に列の最後尾で手を振るアマラオにはひときわ大きな歓声が送られる。ゴール裏ではお馴染みの「シャー!」、そして立ち止まってさらに手を振る。一旦メインスタンドに戻りかけて、でもまたゴール裏を振り向いて、名残惜しそうに見つめるアマラオ。その顔は涙でくしゃくしゃになっていた。もう、少なくともリーグ戦では味の素スタジアムでアマラオの勇姿は見られないのである。そう考えると、思わず私の目にも……。次の試合がリーグ戦の、そして(出るとすれば)天皇杯のいずれかの試合がアマラオの本当の「ラストゲーム」(東京の選手としての)になる。東京サポーターとしてのこれまでの集大成、そしてこれからも東京を応援し続ける者として、一つの時代の終わりをしっかりこの目に焼きつけておこうと思う。あと少しだ。がんばれ、私たちのキング・オブ・トーキョー。


2003年目次へ            全体の目次へ