J1リーグファーストステージ第14節 vs京都パープルサンガ 2003.7.27 国立競技場
試合はFC東京の猛攻で幕を開けた。キックオフ直後、後方からの浮き球に反応した阿部が左サイドDFの背後に突進。ゴールライン寸前から上げたクロスはGK平井も抜き、味方の詰めが遅れたせいで得点にこそならなかったものの幸先のいいスタートとなった。東京はアマラオが先頭でポスト役をこなし、その後ろではシャドウ役の戸田と左サイドで1.5列目に張る阿部がDFライン裏への飛び出しを狙う。宮沢ら後方の選手は、ボールをとると即座にDFの頭越しにフィード。狙いが明確で手数をかけないシンプルな攻撃。緩急・位置取りの段差をつけて入れ替わりつっかけてくる3トップを京都DFは捕まえるのに苦労し、序盤は圧倒的な東京ペースとなった。
2分、敵陣でボールを奪った局面。宮沢のスルーパスに反応した戸田がDFラインを斜めに横切るようなコース取りで抜け出し、平井が前へ出たところでとっさにボールを浮かせる。GKの頭上を越えたボールは京都DF懸命の戻りも届かずそのままゴールへ吸い込まれた。戸田お得意の「いつの間にか抜けている」ニンジャ・アタックが炸裂し、早々と東京先制。ゴール裏からは「秒殺ー、東京!!」のコールが飛ぶ。
勢いに乗った東京はそのまま攻めまくる。3分、FKからのはね返りを拾った石川の強烈なミドルシュートがわずかに外れてサイドネット直撃。ゴール裏から今度は「10−0、東京!!」のコールが飛ぶ(笑)。京都はほとんど攻撃を組み立てられず、あの中払がドリブルミスでラインを割って大ブーイングを浴びる場面も。8分には金沢のクリア気味のキックが京都DFラインの背後へ飛んだところにアマと戸田が走り込み、GKの小さなクリアをアマラオがオーバーヘッドでシュートするも枠を外れた。「オーバーヘッド〜東京!!」。9分には東京陣での激しい奪い合いからボールを確保した石川が狙いすましたスルーパスを戸田に通し、GKと一対一になるがシュートは思いっきり平井の体に当たってしまった。12分にはアマラオがDFからボールをさらってループ気味に狙うも、またしても枠に飛ばず。
そうこうしているうちに東京の攻勢は一旦(とその時は思えたのだが)収束し、徐々に京都がチャンスを作るようになっていく。16分、東京のDFライン前にぽっかりスペースが空き、そこに入った石丸から走り込む鈴木慎吾にスルーパス、土肥が勇気ある飛び出しでギリギリセーブ。19分にはスローインのこぼれ球を右サイド上がっていた角田が拾い、角度のないところから右足でシュート回転のシュート、ゴールわずか左上に外れる。東京は前がかりになっていた分最初から中盤守備はけっこう薄く、カウンターの危険は感じられていた。その上守備的ハーフ石丸の守備の穴を埋めようとする指示・動きが効を奏してか京都DFが東京3トップの動きにきっちり対応できるようになり、さらに宮沢がボールを持った瞬間にプレッシャーをかけられることで東京の前線と中盤は分断されてしまった。こうなると出場停止でケリーを欠く東京の攻撃は、一転タメのない単調な攻撃と化してしまう。茂庭・ジャーンが繰り返しボールをもぎ取るも中盤の劣勢は隠せず、完全に京都ペースとなってしまった。
25分、再び角田が右サイド角度のないところからシュートを放ち、今度は枠内へ飛んだところを土肥がCKへ逃れる。そのCKのこぼれ球がゴール前で林の目の前に落ちるが、至近距離のシュートを土肥が弾いて難を逃れた。32分にはペナルティエリアすぐ外で徳永がファウルを犯してしまい、中払のFKがバーを直撃するピンチ。37分にも中盤で軽々とパスを回された末に中払のシュートまで持ち込まれる。京都の攻撃はワンタッチ・ツータッチでパスが回ることが多く、サイド攻撃重視というところも含め、ちょっとだけ(レベルは違えど)ジェフのサッカーを想起させた。東京の方は早くも宮沢の電池が切れ始め(笑)、加えて徳永と文丈の動きにもキレがない。40分を過ぎてからはバテが出たか両チームとも上がりが非常に遅くなり、そのまま1−0で前半が終了した。
後半頭から東京は動けていなかった文丈を下げて浅利を投入。前半途中からは戸田が左に回って阿部が前へ出る形が多くなっており、守備をやや強く意識していたということなのだろう。京都の方は松井OUT大野INという積極策(と言っていいだろうな)に出た。序盤は激しいボールの奪い合いから一進一退の攻防になり、2分には石川の力ずくのサイド突破からの低いクロスに戸田が頭で飛び込む(惜しくも合わず)。しかし、時間が進むにつれ再び京都が押し込んでいく展開に。京都は軽快なパス回しから鈴木慎のサイドチェンジ→中払のドリブル突破というのが一つのパターン。一方の東京はFWめがけたロングボールが多く、「タテの東京、ヨコの京都」などと言えば聞こえはいいが、実際は苦し紛れに蹴りこんだボールを拾われては左右に揺さぶられてしまうのだった。
11分、右サイドを中払が持ち上がってグラウンダーのクロスを入れ、ゴール前で受けたFW町田がターンでジャーンをかわしてシュート、土肥が絶妙の間合い取りでナイスセーブ。13分には金沢がゴールライン際の不用意なボール処理を町田にかっさらわれ、土肥ちゃんがまたしても鋭い飛び出しでボールを奪う。東京はなかなか前へボールをつなげず、18分に宮沢から右サイド駆け上がった浅利に浮かしたスルーパスが通った場面でも、浅利のトラップがやや乱れてクロスはDFにブロックされてしまった。19分、京都は鈴木和に代えて故障明けのエース黒部投入。怖さが確実に増す。21分にはカウンターの態勢から石川が右→中へきれこんでシュートを放つもDFに当たった。22分には左→右とグラウンド幅一杯に使った展開から角田が突破、絶好のクロスがゴール前アタッカーに合いかけ、さらにこぼれ球をMF斉藤がシュート(浅利ブロック)。
完全に受け身になってしまった東京は24分、阿部に代えて鈴木規郎を投入して流れを変えようとするが、しかしすぐには効き目が出ない。28分、大野の強烈なミドルシュートが枠内へ飛び、土肥が横跳びではじき出す。この時間帯に失点せずに済んだのは、ひとえに土肥ちゃんの「当たり」と、あとはピンチ時にアマラオまでが自ゴール前まで戻る伝統の「全員一丸守備」のおかげに他ならないだろう。29分には町田がスルーパスを受けドリブルでペナルティエリア内へ進入、浅利が必殺スライディングタックルで防ぐ。ヒヤリとするシーンが続く。
ようやく東京が反撃を見せたのは31分になって。ピンチを防いだ土肥のスローからカウンターとなり、石川→右サイドに回っていた規郎とつながる。規郎はスタンドの大声援(しかし人気のある男だ)を受けて迷わず勝負、DFの網をかいくぐるようにペナルティエリア付近に突入し、シュート。枠内に飛ばなかったのが何とも残念だが、しかしこれで京都の攻撃一辺倒にややブレーキがかかった(というのはひいき目だが(笑))。39分にペナルティエリア近くで与えたFK、鈴木慎吾のキックを土肥がパンチではね返すと、41分にはとっくに電池の切れていた(笑)宮沢に代えて藤山投入で守備を固め、長い長い(どこでそれだけ止まってたんだろう)4分のロスタイムに入るや試合のペースを落とし、東京はどうにか逃げ切りに成功したのだった。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、ホームゲームでしかも最下位相手としては満足しがたい試合内容に、スタンドの喜びようはいつもに比べるといささかおとなしめだったような気がした。
試合終了後、1stステージのホーム最終戦ということで控え選手も含めてチーム全員が一列に並び、スタンドに挨拶。原監督がやや神妙な面持ちで「足りないのは点です」という簡にして要を得たコメント(そりゃそうだ!)を言ったのには笑ったが、勝ち試合の後だけにスタンドも暖かく、ゴール裏からは「原東京!!」コールに「ハ〜ラとうきょうハラとうきょう〜、ハラハラとうきょう〜」の歌(テツandトモのメロディのやつね)が飛ぶ。ヒロミファンの私としては嬉しい光景だけれど、でもみんな、ちゃんと監督がしゃべり終わってから騒ごうな(話が聞き取れないじゃん(笑))。
京都パープルサンガはこの敗戦で1stステージ最下位決定。1月の天皇杯制覇から、まさに急転直下の様相である。やはり極端から極端へ行くのは良くないというか、以前の「札束びらびら大量補強→結果J2降格」のトラウマが未だに残っているのか、昨年の好成績でマークされることくらいわかっていただろうに、補強があまりにもお粗末だったという感は否めない。朴智星の穴を攻撃全体のクオリティで補おうとはしているのだろうけど、やはり最後の詰めが甘くなっているように思えた。まあ、いなくなった人のことをいつまでも言っても仕方がない。この日見た限りでは中盤のコンパクトな守備・グラウンドの幅を存分に使ってサイドで勝負する攻撃というコンセプトは見えたし、パス回しのスピードやオーバーラップのタイミングなんか見る限りではビム監督の戦術も浸透し始めているように思えた。バランス感覚あふれる石丸のプレー、鈴木慎・中払・角田らのサイドアタック等も「おっ」と思わせるものはあり、これで松井・黒部のコンディションが戻ればまだまだ挽回は可能ではないだろうか。まずは最終節、手負いの鹿をホームで屠り去って勝点を二桁にのせておくことだ。
FC東京は、開始早々の先制パンチでもぎ取った1点を死守。最近の傾向、「得点力不足」と「守備安定(もちろんGKの力も含めて)」がわかりやすい形で出た試合となった。ここのところアマラオのポストプレーがないとまだちょっとつらいと感じる場面が多いが、今度はケリーがいなくなると攻撃のタメがほとんどなくなってしまうのを再確認させられてしまった。ケリーは次の磐田戦も出られないわけで、今回と同様の戦術で行くのか、それとも代わりに誰かケリーの位置に入れるのか?馬場は意外とそういうタイプのプレーヤーじゃないみたいだし、梶山はいくら何でもちょっと早い(いや、原さんならやるかもしれんが)し、あと思いつくのは喜名くらいか(彼はまた怪我でもしてるのか?)……また苦労しそうではある。さすがに磐田にこの攻撃は通じないだろう(服部いないらしいのでわからんけど)。
個々の選手では、なんといっても土肥ちゃんが素晴らしかった。至近距離で慌てることもなくきちんとコースを塞ぐポジショニングはもちろん、キャッチング・パンチングでミスがなかったのも良かった。間違いなくリーグ戦5試合連続完封の立役者である。ジャーンは前に出る守備は相変わらずいいけど、町田にやられかけた場面があったのと、あと不用意なバックパスがちょっと気になった。茂庭はあまり判断を間違えなくなっているし、アタッカーの足下に食いつくような動きが見られたのも嬉しかった。開幕直後とは見違えるような安心感である。徳永・金沢の両サイドバックはあまり良くなかった。DFライン全体で左右に振られるのは仕方ないとして、その後の対処でちょっと足が揃いすぎ。徳永の動きの重さは、慣れぬプロ生活に海外遠征もあって疲れが出ているのかもしれない(あとは、大学の中間試験が忙しいとか(笑))。文丈については…怪我人に無理さすなってば(笑)。宮沢は攻撃の組み立てを1人で引き受けて負担過重だったかもしれないが、電池切れるのがいつもより早かったのは疲れからか?阿部はここのところオフサイドにかかる数が多いのを気にしているのか、前に出るタイミングが悪くてなかなかシュートに絡めない。シュート打ってこその阿部なのに。石川は(後ろからの助けがなかった割に)まあまあ。浅利と戸田は個人の持ち味を出した。規郎は、あのシュートは決めてほしい(そしたら常時ベンチ入りだ)。アマラオは……今季無得点に終わったらどうしよう。
次の磐田戦は現地に行けないのでちょっと1stステージの総括っぽいことを。原監督のコメントではないが、FC東京というチームは着実に「勝つ力」をつけてきていると思う。数字的にも勝点25は過去最多、現在4位で次勝てば3位ないし4位で、いずれにしろ過去最高順位となる。14試合で10失点(リーグ最少)・ホームゲーム無敗も文句なしに素晴らしく、J2時代以来こんなに安心して試合を見ていられるのは初めてだ。問題は総得点14(ビリから2番目)ということか。1試合1得点のペースでは、まあどんなに失点を低く抑えても優勝は難しいだろう。「90分間攻撃サッカー」というより「90分間守備サッカー」(笑)と呼ぶにふさわしい現況である。ただ、では点を取るにはどうしたらいいかというとなかなか難しいところで、今うまく行っているものを変に変えてバランスを崩すのも怖い。いずれにしろ小さな試行錯誤を繰り返していくしかないのだけれど、とりあえず次の磐田戦は久々の強敵相手になるわけで、得点よりもむしろ「強いディフェンス」が本物であることを証明しなければならないだろう。1stステージは「内容(得点)より結果(勝点)」と割り切ってしまえば、出てくるのはブーイングよりも拍手ではないだろうか。
あと、ちょっと気の早い話だが、個人的には2ndステージでは「アマラオ後の世界」を垣間見せる戦いをしてほしいと、密かに思っている。