第83回天皇杯4回戦 vsヴィッセル神戸 2003.12.20 香川県立丸亀競技場

 

 

 試合前。入場後、ピッチ中央で両チームの選手が列を組んで握手を始める。あれは普通試合後にやるものじゃなかったか?もしかしたら天皇杯では普通のことなのかもしれないが、ちょっと「おや?」と思わされた。で、そういう場面ではやはりカズの存在感が凄い。胸を張って列の先頭にたち、東京の選手一人一人の肩を叩いては堂々と(健闘を誓って?)声をかけていく。「さすが」と思わされると同時に、その立派な態度に東京の選手がのまれなければいいし、東京にもああいう選手が1人ほしいと思った。

 

 キックオフ。東京は負傷の石川に代わり阿部が右のウイングハーフに入り、アマはベンチ、トップは近藤先発の布陣。立ち上がりからボールは東京が支配。いつものようにケリーが中央で起点となり、その後ろでは宮沢がミドルパスを展開、阿部・戸田の両ウイングは積極的に中へ入り、加地・金沢がクロスを入れていく。加地は3回戦の不出来とはうって変わり、素早いフォローでハーフライン付近まで押し上げては次々にアーリークロスを放り込む。石川がいない分、コンビネーションでの迷いはなかったのかもしれない。阿部はポジショニングのおぼつかなかった一時期に比べるとMFの位置に入っても動きはしっかりしており、33分にはGK掛川の頭越しを狙ったミドルシュートがバーを叩いた。対する神戸はカズがサイドに流れて起点となり、それを追い越す朴の動きは目立ったものの、攻撃はあくまで単発的なものであった。

 しかし、東京はなかなか先制点を奪うことができない。これにはまず、石川不在の影響があった。阿部も決して悪くはないのだが、元々左の戸田もサイドアタッカータイプではないため、石川がいないとゴールライン付近までえぐって崩す動きが全体的に乏しくなってしまう。加地のアーリークロスはそれなりに正確でも、神戸の屈強DFに待ち受けられた状態ではシュートを枠に飛ばすことすら難しい。また、やはり近藤は1トップのFWとしては力不足であるように見えた。とにかく足下へのボールの収まりが悪すぎる。はたくボールもDFの寄せを意識しすぎているのかぶれまくりで、ポストプレーと呼べるものはほとんどできていなかった。もっとも、これは彼の能力不足というよりも適性の問題のようにも見え、この日のメンツならば阿部をトップに置いて近藤はサイドで突破させる(馬力はありそうだ)のがいいのではないかとも思った。そしてそれらに加え、この日は宮沢のキックの精度もイマイチであった。ルースプレーで崩せなければセットに期待がかかるのは当然だが、いつもなら非常に(守る側にとって)いやらしいコースに行くCK・FKが、枠からそれたりDFの正面に飛んだりする。得点を期待させる雰囲気には遠かった。

 それでも、優勢に試合を進めていただけに1点でも先に取れれば何ということもなかったのだろうが、あいにく先制したのは神戸の方だった。37分、中盤で宮沢が土屋につぶされて守備の「真空状態」が生まれたところを逃さず、一気にアタッカーが上がっていく。そこから右サイドへ展開、クロスを次々につないでファーサイドへ流し、最後はフリーの朴が思い切り蹴りこんでゴールネットを揺らした。東京にしてみれば一瞬の隙を突かれたような、やや悔いの残るであろう失点だった。そのまま前半が終了。

 

 後半。東京はアマラオ投入(近藤OUT)。この大会、負ければアマにとって即東京での最後の試合となる。観ている我々の間にも緊迫感が漂う。ともあれ頼りになる1トップの登場、さあこれでボールが回り始める……のだが、さすがに神戸もそこは警戒していたのだろう。アマにはしつこくDFがチェックしてなかなか前を向かせてもらえない。ならばと左右にはたいて加地・金沢のクロスにかけるが、やはり土屋・北本・シジクレイらの餌食になってしまう。押し込むが、チャンスは生まれず。放り込むが、はね返される。このリズムを繰り返すうち、観客わずか5千人というスタンドの雰囲気も影響したのか、次第にやや弛緩した雰囲気が流れ始めた。

 神戸の2点目は、そんな空気の中での出来事だった。64分、神戸の長い浮き球への対処が遅れ、ジャーンがクリアに失敗。またしても生まれた「真空状態」の中でFW小島の足下でボールが跳ね、落ち際を叩いたシュートがあれよという間にゴールへ突き刺さった。スタンドから見ているとボールが高く上がった時点で危険が感じられたのだが、それに対する東京DFの動きは緩慢あるいは集中力を欠いたもののように思えた。ここ数試合不調ぶりが目立つジャーン絡みでもあり、11月の東京ダービーの失点シーンが頭をよぎった。0−2。神戸側の応援歌がスタンドにこだまする。

 それでもゴール裏から湧き起こった「トーキョー!トーキョー!」コールにも後押しされ、反撃に出る東京の選手たち。ベンチも積極的に動き、61分には戸田に代えて鈴木規郎を、66分には文丈に代えて梶山を投入する。今シーズン通じて梶山は「足下はうまいんだけどフィジカルと判断はまだまだ」という印象だったが、怪我明けのこの日は従来より進歩したプレーを披露。右へ左へ動いてはボールを確保し、自らの飛び出しとパスで攻撃に勢いをつけていく役割を果たした。そして71分、右サイドに張ったケリーにパスが渡る。ケリーはゴールライン方向へドリブル突破すると見せかけてヒールでボールを残し、マーカーのDFを完全に「釣り上げた」。このボールをフォローした加地が低く鋭いクロス、中央に走り込んでいた阿部がダイブして頭で合わせる。ゲット。1−2。負けているシチュエーションでなければ必ず「セクシー東京!」のコールが出るはずの、素晴らしく美しい攻撃だった。

 追撃の1点に勇気づけられた東京はなおも攻撃に出るが、数分後に混戦から阿部が押し込んだかに見えた場面はオフサイド。これでやや場内の空気も沈静化し、後は攻めながらもチャンスをなかなか作れず、スタンドの歓声も寒空に溶け込んで再び緩んだムードが漂う。時計は着々と進み、80分、85分、そして90分。とうとうロスタイムに突入。ここでドラマは起こった。時間がない東京は後方からロングボールを放り込み、ゴール前で混戦が発生する。ボールを拾ったケリーがトリッキーな動きからノールックのヒールパス、DFの背後へ流れたボールへ阿部が詰める。「決めろ、吉朗!!」東京サポーター全員の願いを背に受けた阿部はスライディングのシュートで掛川の脇を抜き、ボールはゴールラインを越えていった。土壇場での、起死回生の、同点劇。力強いガッツポーズの阿部、半狂乱の東京サポーター。対して神戸サポーターは静まりかえる。この瞬間は完全に逆転勝利の流れかと思えたのだが……。

 

 延長戦。もちろん東京は攻勢をかける。阿部が右サイドから、規郎が左サイドから突破を図り、さらに梶山が中央から押し上げて圧力をかける。が、しかし。よりによってこの勝負所で、東京は決定力を欠いてしまうのであった。ゴール真っ正面「これは決めるしかない」という感じだったアマラオのシュートは枠を外れ、セットプレーから飛ばしたケリー(それとも規郎だったか?)のヘディングシュートは掛川横っ跳びのセーブに阻まれる。さらにクロスに合わせた阿部のヘディングがゴールポストをかすめる場面もあった。しかし入らない。PK戦になれば再び形勢は互角に戻ってしまうため、スタンドで応援している我々としてはとにかくVゴールで決めてほしいのだが、さすがに延長の後半にもなると明らかに脚が止まりはじめ、押し上げも遅々として波状攻撃に至らない。一方の神戸ももはや途中出場の播戸の突破力に頼るのみで、一度播戸と藤山が競って播戸が裏に抜ける場面もあったが、これはファウルの判定。最後は淡々と時間が流れ、試合はついにPK戦に突入した。

 

 PK戦は神戸側のゴールで行われることになり、さっそく神戸サポーターはゴール裏に集まって東京側キッカーを妨害しようとする。ただ、これは思っていたよりおとなしかった(というか常識の範囲内で良かった!)し、東京が先攻なのも好材料なように思えた。PK戦の場合、先に蹴りこんでプレッシャーをかけた方が有利なように感じるのだが…選手はどう思っているのだろう?東京はアマラオ・ケリーと決め、神戸も2人続けて成功。3回戦の時と同様、淡々とシュートが決まっていく状況がより緊迫感を大きくしていく。

 東京側の3人目、阿部が前に進み出たのを見た時、思わず「蹴らせない方が……」という言葉が口を突いて出た。この試合、阿部は2得点の大活躍。しかし、サッカーをよく観ている人間なら経験的にわかることと思うが、そういう選手(その試合ないし大会において活躍が目立つ選手)に限って外しがちなのだ、PKというものは。案の定(と言ってはいけないのかもしれないが)、阿部のゴール右隅を狙ったシュートは掛川に阻まれてしまう。シュートコース自体悪くないように見えたが、掛川の読みにピタリ合ってしまったのと、高さがいささか中途半端であった(本当はもっと上を狙いたかったのかもしれない)。硬い表情で戻ってくる阿部。そんな阿部を笑顔で出迎え、肩を抱くアマラオ。さすが私たちのキングオブトーキョー。結果的に彼の振る舞いによって私たちは少なからず(精神的に)救われることになったし、その光景は感動的ですらあった。が、おかしな言い方かもしれないが、それを見た瞬間、私は敗北を覚悟した。あまりにも、そう、これから高みを目指して勝ち上がっていくはずのチームにしてはあまりにも美しすぎる光景であるように思えたのだ。東京は金沢・ジャーンと成功するが、神戸も確実に決め続け、最後は菅原がゴール左隅に蹴りこんで神戸の勝ち抜けが決まった。

 飛び上がってゴール裏に駆けていく神戸イレブン。逆に肩を落としてうなだれる東京の選手たち。涙を流す加地、目を赤く腫らした阿部。ノックアウト方式、「生きるか死ぬか」の大会だけに、コントラストはこの上なく明確だった。もちろん、はるばる東京から駆けつけた私たちも無念でならない。なにしろアマラオと共に戦うのは、今のチームで戦うのはこれが最後となってしまうのである。初タイトルもはかなく消えた。その上、敗戦自体もショッキングな形であった。突如突きつけられた現実を前に、引き上げてくる選手たちに懸命に拍手を送りながらも、もしかすると私の目にも涙が浮かんでいたのかもしれない。

 そして。一旦選手たちが引き上げた後、アマラオが再びピッチに姿を現す。もちろん、彼を愛し、彼が愛してきたサポーターにお別れをするために。名残惜しそうに何度もゆっくりと手を振り、頭を下げるアマラオ。サポーターからは「アマラオ!」コールと「愛して〜る〜」の歌が飛ぶ。かつて味わったことのない、厳粛な雰囲気がスタジアムに充満したように思えた。再び引き上げてくるアマラオ。なおもサポーターに笑顔を見せ、手を振る。これが本当に最後となってしまうのか。もう東京のユニフォーム姿は見れないのか。様々な思いが私の中でも交錯し、メインスタンド最前列に立つ我々の目の前でアマが退場しようとするその時、一言「ありがとう」と彼に言った。

 

 FC東京の2003年は、この敗戦をもって終了となった。最後にちょっとだけ、今シーズンの総括的なことを。

 収穫の多い年だった。年間順位は過去最高の4位。1stステージではリーグ最少失点、2ndステージではリーグ最多得点と、前後期において全く異なる戦いをしながらも安定した成績を収めることができた。スタンドで見ている我々の実感としても、国内クラブ相手、特にホームでの戦いならば、どことやっても互角かそれ以上の戦いを挑めるようになってきたように思う。横浜・鹿島相手の大勝はそれをある程度裏付ける結果であった。また、夏には「世界最強クラブ」レアル・マドリーと親善試合を行い、世間の注目を集める中完敗はしたものの「東京らしい」サッカーを披露できたことは大きな自信になり、自らのアイデンティティーを確認することもできた。観客数も増加し、クラブとして順調なステップアップを果たすことができた1年と言っていいだろう。個々の選手を見ても、戸田は著しく成長し、茂庭や石川も順調に実力を伸ばし、藤山はCBという新境地を開拓した。新加入の阿部は印象的な活躍を見せ、金沢・徳永もしっかりと貢献、文丈も復帰していぶし銀の仕事をし、まさに「役者が揃ってきた」という感がある。

 もちろん、課題も明らかになった。勝負所での弱さ。1stステージの清水戦、2ndステージの磐田戦とガンバ戦、そして東京ダービー。「ここで勝てれば」というポイントにおいて、特に2ndステージでは素晴らしい内容のサッカーをしながら、勝点3を奪いきることができなかった。強さが足りない、と言ってしまえばそれまでだが、しかしプレッシャーの少ない試合では爆発的な得点力を見せることが多いだけに何とかならないものかと思ってしまう。これは、優勝争いを繰り返すことで場数を踏むしか解決法はないのかもしれないが。それと、2ndステージの名古屋戦・市原戦・ヴェルディ戦ではリードした状況から守備固めに失敗し、勝点を逃す「もったいない」パターンが繰り返された。若いチームだけに「攻撃が最大の防御」であったことは否めず、今年に限っては最後まで攻撃に徹する采配の方が当たることが多かったようだ。ただ、いくら攻撃サッカーをモットーとしていても、やはりどこかで「逃げ切る」パターンも身につけなければリーグ戦で優勝することは難しいだろう。終盤守備的な選手(浅利)を投入して逃げ切りモードへ移行する時、その変更をいかにスムーズにこなすかということは今後も問われるに違いない。

 さて、そして来年である。既に戦力と戦術の骨格はある程度固まっており、これからは精度を高めオプションを増やしていくことでチーム力を高めることになる。原監督も3年目。いよいよ本気でタイトルを取りに行くシーズンになるのだろう。来期はアテネ五輪の予選・本戦、さらにはW杯予選もあるため、かなりの変則&過密日程になることが予想される。石川・茂庭・加地・土肥らは各カテゴリーに招集されることが予想され、選手のやりくりは相当厳しいことになりそうだ。だが、2005年以降は1シーズン制に移行することも予定されており、リーグ戦が短期決戦となるのも来年が最後である。何とか1つでもタイトルを獲得し、再来年からの「真の実力により優勝が決まる」戦いを前に経験と自信とステータスを得ておきたいものである。原監督にとっては腕の見せ所だろう。

 移籍関係では、札幌から今野の加入が決定している。気迫溢れるプレーでU−20代表を引っ張った彼ならば、きっと東京の中盤に新たなエネルギーを与えてくれるに違いない。また、外国人枠にはフランスのレンヌからFWルーカスを獲得。万能タイプの選手とのことなので、東京の4−2−3−1フォーメーションのトップとしての働きが期待される。まだこれから補強も行われるであろうし、彼らの活躍を想像するのはオフシーズンの大きな楽しみとなるだろう。

 その一方で、アマラオ、小峯、加賀見、喜名、伊藤哲といった、これまでチームに多大なる貢献をしてくれた選手たちが退団してしまうのは、応援してきた身としては非常に寂しいことだ。特にアマラオは……「絶対に代えのきかない」存在としてクラブ内、そしてサポーターに対して求心力を発揮してきただけに、彼のいないチームがどうなってしまうのか、正直言って予測がつかない(ついでに言うなら、彼の退団の経緯については釈然としない部分もある)。ただ、アマラオが去り、埋めることのできない部分は残ってしまうにしても、彼がクラブに遺してくれたものはしっかりと受け継ぎつつ、私たちは前へ進んでいかなければならない。とりあえず次の「エース」が必要だ。単にポジションで言うのならルーカスがその役割を担うことになるのだろうが、私はやはり阿部吉朗に期待したい。今年は新人ながらリーグ戦で6ゴール(カップ戦も合わせると10ゴール)。それも、先制・勝ち越しゴールや同点ゴールといった価値の高いものがほとんどであった。シーズン終盤に見せた魂のこもったプレー、そしてPK失敗の後アマラオに抱きかかえられた姿は脳裏にしっかり焼きついている。東京を代表する選手、立派なエース・ストライカーになってほしい。そう切に願う。

 アマラオについては、しばらく時間を置いてからまたゆっくりと書きたい。


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