J1リーグセカンドステージ第15節 vs柏レイソル 2003.11.29 日立柏サッカー場
まさか、最後の最後でこんなとんでもない試合が待っているとは。これだから油断できんな、「原東京」は。
前半は苦しい戦いになった。全体的に低調な東京のパス回し。特にアマラオに代わって先発した近藤祐は動きが硬く、ポストプレーヤーとしての体の使い方も身についていないため、楔のボールをうまく展開できない。渡辺毅の密着マーク下で早くはたこうと焦っては横パスがぶれ、ターンしてゴールに向かうこともままならない。ならばと攻撃的MFからの展開に期待がかかるも、神出鬼没の大明神にいつの間にやらサイドへ追いつめられて攻撃が行き詰まってしまう。ジーコ好みのテクニック系MFでないせいか、近頃代表に選ばれず地味な印象もある明神だが、その動きの質・量は鈍るどころかますます磨きがかかっているように見えた。右へ左へ前へ後ろへ、タックルして外されてもすぐ起きあがってボールに詰めて……大げさでなく、守備的MF2人分くらいの仕事はしている。
で、東京が攻めあぐねているうちに柏が効率の良い攻めを展開。難しいことは何もしていないのだが、あいにくの雨でイマイチのピッチコンディションにシンプルな攻めがうまくマッチしたか、菅沼・玉田らアタッカーがスピードでどんどん仕掛けてくる。東京は中盤のパスが詰まり気味な状況を打開しようと前に出た茂庭が裏をとられたりして、ピンチの数はさほどないながら、セットプレーから2失点を喫してしまう。強くなっていく雨の中、東京得意のスピーディで広い展開も普段より困難なように思われ、まさに柏の思うつぼという感があった。0−2で折り返し。
ハーフタイムにはレイソルの企画した風船飛ばしがあるということで、東京サポーター側も青赤の風船を用意。スタンドに黄色の風船が舞った後、「よーく考えようー!」と某保険会社のCMソングに乗せて2色の風船がゴール裏(とメイン・バックの一部)から飛び上がった。「明るい家族計画」という横断幕とともに(笑)。後から考えれば、この時けっこう(柏側が飛ばしてから)間が空いたりしたんだけど、警備員の人たちも柏サポーターも落ち着いて「待ってくれて」いたんだよなあ…。
後半、アマラオ登場。近藤君には気の毒な事をしたと思うけれど、やはり年季が違うということなのだろうか、アマを起点に左右へテンポよく開けるようになって東京の攻勢へ。それでもなかなか得点できずに苛立たされたものの、17分の萩村退場がターニングポイントになった。相手が10人になったのを見た瞬間に東京はそれまで中盤を支えていた文丈をあえて外し、阿部投入。この原監督の好判断が大逆転劇を演出することになった。
まず20分に石川渾身のミドルシュートがDFに当たってコースが変わり、幸運なゴール。喜ぶ間もなくボールを拾い、センターサークルにセットして構える東京イレブン。もうこれで止まらない、止まるはずがない!!降りしきる雨もなんのその、東京自慢の攻撃陣が大きく速くボールを動かし、右から左から中央から、柏DFが息もつけぬほどの大波状攻撃をかけ続ける。石川の弾丸クロス、加地のオーバーラップ、阿部の突進、戸田の飛び出し、宮沢の精密キック、ケリーの機転、モニ・ジャーンの気迫、それらを支える土肥の怒声と黒子役の金沢。2003年最大の総攻撃が続く中、30分過ぎに石川のクロスからのこぼれ球を”ストライカー”阿部が泥臭く押し込んで同点。さすがに抱き合う選手たち。私も大いに興奮し、思わず「抱き合ってる場合じゃない!早く戻れ!勝つんだ!!」と叫んでしまった。
そしてさらにガンガンガンガン攻めたてて、迎えた後半38分。左サイドでDFと対した阿部が強引に勝負、ゴールライン際まで突破して左足で(!)素晴らしい弾道のクロス。これをファーサイドに走り込んでいた茂庭(!)がヘディングシュートしたのは見えたのだが、あとはいったい何がどうなったのか……気がつくと、GKが飛び出してがら空きのゴール寸前、アマラオの前にボールがこぼれていた。思わず神の存在を確信したよ、私は。サッカーの神様というのは本当にいるんだな、と(柏サポーターが見たのは「サッカーの悪魔」だろうけど)。いくら宇宙開発を試みようとも(笑)外しようのない大チャンス、アマがいつもの大げさなフォームで蹴りこんでついに逆転。大狂乱の東京サポーター。ゴール裏、そしてバックスタンドでも音程の外れた絶叫が響き渡る。「うおぉおおおおおおお!!!!」。
その直後、左からのCKをファーで阿部がシュートし損ねたのか意図的に落としたのか(後者だとしたら、神様は阿部だな)、またボールがアマラオの前に落ちる。右足でゴール右隅を撃ち抜いた。4−2。もうワッショイワッショイ、こうなったらアマのハットトリックでしめるしかない!!ということでさらに攻撃を続ける東京。後で考えると、ほとんど狂ってたな(笑)。阿部なんて、カウンターで2対2くらいになって自分でも十分シュート撃てるのに(この日の出来なら決まった可能性も高いだろう)、あえてアマラオにパスしてチャンスを逃しちゃったり。とても楽しく、「これが最後」と思うとちょっとせつない、まさに「アマラオ大感謝祭」。だけど、まあさすがにそこまでは神様も甘くなかったのかアマの3点目は入らず、そのままのスコアで試合終了。優勝も降格も関係なかったけれど、最後の最後でとんでもないものを見ることができた。絶対に忘れられないであろう試合。とても幸せな気分だった。……そう、タイムアップのホイッスルがなるまでは。
試合が終わって、ゴール裏から数人のサポーターが選手の方へ駆け寄っていった時はまだ「何やってんだ、馬鹿が。警備員ガンバレ」ってな感じで余裕しゃくしゃくに眺めていたのだが、それに同調してゴール裏からゾロゾロと何十人も降りてきたのにはさすがに引いた。背筋に寒気が走った。最初に入ったヤツはゴール裏の中心にいるイケイケさんの一人だったらしいが、そういう連中が実行して煽ったからって、自分の行動のもたらす結果も考えずにホイホイ従う追従者の何と多かったことか…。彼らは何を勘違いしているのだろう。この日しなければならなかったのはあくまでアマラオへの「お別れ」であって、あんな馬鹿騒ぎではないはずだ(スタンディング+拍手+声かけで何の不足がある?)。ましてや場所は「よそ様の庭」日立台で、しかも柏のホーム最終戦だった。それを台無しにして…柏サポーターが怒ってすっとんで来たのも当然(ピッチを縦断してきたのはいかんが)だし、周りからも罵声の飛ぶ中思わず「やっちまえ!」って叫んじゃったよ。フクロにされてもしょーがないでしょ、あれは。その柏サポーターに対して「帰れ!」コールをした奴らは最低だ。
もう一度思い出してみよう。なぜ僕たちは(そしてそれ以上にレイソルのサポーターは)日立台が好きだったのか。それは選手(ピッチ)とスタンドの距離が他のJ1スタジアムにはない近さで、しかもその間を仕切るものはほとんどなく、プレーヤーの戦いを間近で感じ応援できるからではなかったか。そういう素晴らしい環境はいかにして維持されうるのか。それは、何よりも、「観客がピッチに入らない、物を投げ込まない」という信頼関係の上に成り立つものだろう。主催者には選手や審判を守る義務がある。今日みたいな馬鹿げたことをやっていてはとても日立台など使うことはできないし、だからこそ柏のゴール裏サポーターはフェンスの向こうで騒ぎながらも、それを乗り越えるのは自制していたのではあるまいか。勘違いしてはいけない。4年前に東京が新潟で昇格した時のピッチ飛び込みも含め(あの時は特別な状況があったから個人的には「仕方ない」と思うけど、それを言い訳とか正当化の理屈にしてはいかんよね)、そういう行為は「いいか、悪いか」で言えば悪いに決まってるのだ。イタリアのサッカー場みたいな数メートルのフェンスで仕切られたスタジアムなんて御免こうむるぞ。
そして、「金町ダービー」の楽しさは柏サポーターとの敵意とユーモアに溢れるかけ合いにもあったわけで、それを一方的にこちらからぶち壊してしまったのだということはしっかり自覚せねばなるまい。選手紹介前の素晴らしい歓迎のアナウンスも、ハーフタイムの「風船上げ」の際の場内警備の親切な対応も思い出してみるがいい。柏の皆さんの色んな好意を無にしたのだよ、東京サポーターは。つくづく、今回の騒ぎは「独りよがり」という言葉がぴったりだと思う。戦う際に敵意を表してもいい。罵倒も挑発もありでしょう(内容によるが)。でも、心のどこかで相手方や試合を成り立たせている第三者への共感と敬意を忘れてしまっては、フットボールの試合そのものが成り立たないのだ。
あんな馬鹿げた行いのせいでリーグ戦最後の選手たちに拍手もできなかったら、と思うとはらわたが煮えくり返ったが、そこは(警備担当者の抵抗もあったろうに)東京の選手たちが後で出てきて挨拶をしてくれたので助かった。何と素晴らしい選手たちかと、そこだけは涙が出そうになった。まったく、あの日の東京サポーターにはもったいない選手たちだったと思う。アマラオを筆頭として。
帰り道、携帯電話で「俺、ピッチに入っちゃったよ!土肥に触ったし、もう超カンゲキでさー!!」などと自慢げに話しているヤツがいて、不愉快なことこの上なかった。何で劇的に勝利した試合の後でこんな気持ちにならなきゃいかんのだ。もしかして、何年後になるかわからんが(というか早ければ天皇杯だな)優勝した時にも大混乱になってスッキリ喜べないのだろうか。そんなことを考えるとまた気持ちが重くなってくる。乱入した連中は、サッカーの神様とアマラオの顔に泥を塗ったんだ。