J1リーグセカンドステージ第9節 vs鹿島アントラーズ 2003.10.4 味の素スタジアム
かなり形が崩れて混沌としているが、しかしそれなりにおいしくいただけました、というごった煮的な試合だった。
前半、立ち上がりの激しいボール争奪戦から徐々に東京が優位に試合を進めていったのだが、そこで見られた戦いぶりはいかにも東京らしく、しかし今年になってからはあまり見られなかったものだった。つまり、頭にアマラオを頂いたサッカー(「イヤな目」言うところの「アマラオ大作戦」ですな)。東京はセンターラインの強靱さで鹿島を上回っていた。数少ない鹿島のチャンスは茂庭・ジャーンが確実につぶし、1週間の休養が効いたか文丈・宮沢のダブルボランチは見違えるような運動量で中盤のスペースを埋め、次々とボールを前線へ供給する。ケリーはプレッシャーを受けながらもリンク・プレーヤーとして攻撃を組み立て、そしてその前では……チーム最年長のFWが、鹿島の強力CBと互角の戦いを繰り広げていた。アマラオの調子が今季最高だったのは誰の目にも明らかだろう。楔のボールは高い確率で足下に収め、あるいは頭で競り落とし、スペースへのパスに反応すれば鋭いダッシュでボールを追う。今まではヘディングもスルーパスもすぐに諦めてしまう姿が目立っていたのに…。アマラオに当てるパターンから左右へ、あるいはMFの飛び出し。バリエーションは当然、多くなっていく。対する鹿島はボランチ付近でプレッシャーをかけられ、なかなか小笠原・本山の2枚看板へいい形でボールを渡せない。平瀬・深井の2トップも非力さは否めなかった。
17分、加地のロングスローをアマラオが頭でファーサイドに落とし、カットに滑り込んだ秋田の足に当たってボールがゴール右隅へ転がり込む。ラッキーな、しかしアマのいつになく力強いプレーが生んだ先制点だった。1−0。さらにその直後、カウンター気味の態勢になったところ中央に下がってボールを受けたアマラオは、左サイドからDFライン裏へ走り込む戸田へこれ以上ないタイミング・長さのスルーパス。全速力の戸田は名良橋を背中に従えたままペナルティエリアすぐ外まで走り、そこでたまらず名良橋が真後ろからのタックルで倒して一発レッドカード(※追記1)。鹿島は深井に代えてDF石川を入れ、ここからは「攻める東京、守る鹿島」の形が明確になった。
引いた相手に対して攻めきれず、一発逆襲で追いつかれてさらに引かれてどん詰まり、という悪いパターンが一瞬頭をよぎった(最近ちょっと疑心暗鬼で(笑))が、しかしこの日の東京はちょっと違っていた。よかったのは、慌てず落ち着いて、サイドチェンジを交えながら左右に揺さぶって攻撃したこと。鹿島はSB(しかも若手)が次々に引き出されているうちに4バックの位置と距離が不安定になり、所々で綻びを見せるように。32分、宮沢が相手MFの狭い隙間をぬうようなパスをアマラオに通し、アマは一瞬DFを引きつけてから右サイドでフリーになっていた石川へはたく。石川は素晴らしいスピードでペナルティボックスへ突入、曽ヶ端がシュートコースを切りに前へ出たのを見て冷静にその脇を抜くクロスを入れ、中央で走り込んでいたケリーが蹴りこんでゴール。抱き合う選手たち。実に、いい時間にいい形でとったものだと思った。2−0。
こうなるともう止まらない。この日は「ブラジルDay」ということで恒例のサンバのリズム(※追記2)が場内に轟いていた(ちょっと、いやかなりうるさかった(笑))のだが、その音に追われるように次々と東京アタッカーが鹿島ゴールに迫る。金沢が宮沢とのワン・ツーで抜け出してきわどい場面をつくり、戸田は加地の絶妙クロスに得意の「水平ダイビングヘッド」で飛び込む(シュートはGK正面)。イケイケドンドン。相手が鹿島だけに、これは相当に痛快であった。「こうげき、こうげきぃ、ハラとうきょー!!」。加えてこの時間帯は守りの方も危なげなし。鼻を負傷中の茂庭はバットマン宮本ばりのフェイスガードをつけていたが(金髪のバットマンだから黄金バットだな)、判断の良い飛び出しとFW・ボールの間に体を入れる巧みなプレーでボールを奪いまくり、前がかってカウンターをくらいそうになっても中盤で三浦文丈の
小ずるい反則プロフェッショナル・ファウルが炸裂した(笑)。そして終了間際、中へ入った石川から右へ出たケリーへパスが出(普段少ないパターンだけにやりたい放題感満点だ)、ファーサイドに上がったクロスを跳び上がったアマラオが「いくら何でもこれは大げさでは」と思えるほど大きなアクションのヘディングでゴールへ叩きこみ、3−0。両腕をピンと伸ばすお馴染みのポーズで駆け回るアマ。もう、サポーター的には涙ちょちょぎれる光景である。大満足のまま前半終了。
後半、いつも通りというか、攻め疲れもあったのか、立ち上がりから東京は前半とうって変わって中盤のプレッシャーがゆるくなり、さらに上がりも遅くなった。一方鹿島は3バックに変更してアタッカーを増やし、サイド経由のパス回しからチャンスを作っていく。クロスが上がる分にはジャーン・茂庭が待ちかまえているだけにさほど問題はないのだが、しかしそうして横へ意識が行った時の真ん中が怖い。小笠原がボールを浮かす巧みなトラップで東京DFラインの裏に抜け出したり(シュートはバーの上)、フェルナンドのロングシュートがバーを叩いたりといった場面が続く。東京は石川が前半の負傷で開始すぐに引っ込み、代わりに阿部が登場。意欲的な動きでゴールを目指すが、いかんせん前半に比べると前線へのボール供給量はガタ落ちしており、なかなか阿部までボールが回らない。
58分、ペナルティエリア左、茂庭が体勢を崩した小笠原からボールをもぎ取ったか、と思った瞬間に茂庭が倒されてホイッスル。詳しい状況は見えなかったが、高山主審は即座に小笠原へ2枚目のイエローカードを提示。こちらにしてみれば一番怖い選手が勝手に消えてくれただけにありがたいのは確かだったが、しかし東京側にしてもあまり気持ちのいい状況ではなかった。既にバテ始めていた加地は52分に思いっきり相手のユニフォームを引っ張って警告を受けており、また阿部もオフサイドの笛が聞こえぬままシュートを蹴りこんでイエローをくらっていた。片方のチームを退場させた(しかも2人)レフェリーがもう一方にも退場者を出してバランスをとろうとするのは世の常。我々にしてみれば、いつ2人のどちらかがいなくなってしまうか気が気ではなかった。小笠原が退場になってまだ鹿島の選手が主審に抗議している最中、土肥ちゃんが阿部をわざわざ呼び寄せて何ごとか叫んでいる。腕をサイドへ突き出すようにしていたのでおそらくポジショニングの指示だと思うのだが、あまりに口調が激しかったので「これはもしや、『絶対にイエローもらうなよ』と言ってるんじゃないか」とも思えた。もしそうだとしたら、試合の流れをよく読んだ適切極まりない指示だと言えるだろう。
11人対9人になった直後の60分、東京陣でのFK、虚を突くようなタイミングでフェルナンドがゴール前に入れ、ボールは走り込む秋田と競り合うジャーンの頭をかすめてゴールイン。数的不利で「もうセットプレーしかない」状況・時間帯でのこの得点。まったく鹿島らしいというか…。いくらチーム力が低下しても、こういう所だけは健在である。「腐っても鹿」。2点差で相手は2人少ないとはいえ東京も相当動きが落ちてきており、この試合で一番いやなムードになったのはこの時間帯だった。
しかし、そこでズルズルといかなかったのがこの試合の東京のいいところ。68分、アマラオから右の加地に展開、その前で走っていた阿部がゴール前に入ってDFを引きつけ、加地は空いたスペースをドリブルで持ち上がってからペナルティボックス内へ斜めに転がり入る強いクロス。これをニアで待ちかまえていた戸田がダイレクトで叩きこんでゴール!鹿島の反撃ムードを断ち切る、「試合を決める」1点だった。これでまたイケイケの場内。東京は運動量の落ちていた文丈に代えて梶山を投入、阿部がペナルティボックス内で強引なヘディングシュートを放つなど、「さあ、あと何点入るか」というムードさえ感じられたのだった。あのままガンガン行けていたら、本当に記録的な点差になっていたかもしれない(ならなかったかもしれない(笑))。
ところが、そうは問屋が卸さないというか、74分にDFと激しくボールを競り合った阿部が2枚目のイエローで退場になってしまう。スタンドから見ているともう接触があって鹿島のDFが吹っ飛んだ瞬間に「待ってました!」という感じで高山レフェリーが走ってきたので、「ああ、退場だ」ということはすぐにわかった。ホイッスルが聞こえなかった1点目といい、ちょっとガツンと行きすぎた(笑)2点目といい、ちょっとかわいそうなイエローであったし、またどう考えても東京側が退場になりやすいシチュエーションであっただけに、はまってしまったのが至極残念でもあった。途中出場で周りの選手よりイキがよかったので、色んな意味で主審の目に留まりやすかったということもあるのだろう。
ここでもう1人危なっかしかった加地を下げて藤山を入れたのは、原監督の好判断だろう。2ndステージになってからの課題は「優位な状況を保ったまま試合を終わらせる」ことだから。ま、その藤山がやる気マンマンにオーバーラップして右足で棒球クロスを上げたりしたのは置いておくとして(笑)。鹿島の方は内田・平瀬に代えて本田・中島を投入するも流れは変わらず、そのまま試合は膠着してロスタイムへ。ここで、それまでさほど目立たなかった梶山が突如アグレッシブさを発揮、中央をドリブルで持ち上がってスルーパス、そこに殺到した金沢と戸田が飛び出す曽ヶ端を踏みつぶすようにして(笑)乗り越え、最後は金沢が蹴りこんで5点目をゲット(※追記3)。「眠らない街」も歌われる中、静かに終わればそれでいいはずのシチュエーションでこんなことを東京の選手にさせたのは、やっぱりサンバの威力(※追記4)があったのだろうか。そのまま5−1で試合終了。色々あった試合だったが、結果を見れば一目瞭然、圧勝である。
鹿島アントラーズは、得点シーンのあたりでわずかにらしさを見せたものの、全般的にはチーム力の低下がありありと感じられる内容であった。移籍した鈴木・柳沢に加えて負傷でエウレル・中田浩・相馬まで欠いては、いかに深井や青木が才能ある選手といっても、実戦向きの戦力が不足している印象は否めない。この試合に関して言うと2人の退場は確かに痛かったが、名良橋はもう言い逃れのしようもない一発退場プレーだったし、小笠原の方は日頃の行いがたたっているのでは(だって、1枚目のイエローの時なんて主審に背を向けて一顧だにしないんだもの)(笑)。もうちょっと若手が育ってくる(もしくは中田が復帰する)までは、2枚看板(小笠原・本山)に加えて秋田・本田らベテランに頼らざるを得ない試合が続く。トニーニョ・セレーゾ監督が若手育成に向いているとも思えないので、もしかするとそう遠くないうちに大きな「手術」が必要になるのかもしれない。
FC東京にしてみれば、5−1というスコアももちろん、相手が10人になってから前半終了までの戦いぶりのよさが大きな収穫と言えるだろう。引く相手に対してドンドン前へ蹴りこむのではなく、しっかり左右に回して綻びを作り出す(それでいて最後の最後は個人が勝負を挑む)サッカーができたのは大きい。後半バテるのが早いようにも見えたが、あれはそれだけ前半攻めまくっていたからだろう。そして、ファン・サポーターにとってもチームにとっても嬉しかったのは、アマラオの動きがびっくりするくらい良くなっていたことだ。よくボールに触り、よく判断し、うまくはたき、積極的にゴールを目指す。久々に「キング」と呼ぶに相応しい堂々たるプレーぶりであった。この日は10月にしては暖かく、その陽気が彼の体調を上向きにさせたのか、それとも単にこれまでの調子が悪すぎたのか、それともこれが「ロウソクの炎は消える前が……(以下自粛)」(笑)。
他の選手では、(前半の)宮沢が良かった。惜しみない動きでボールホルダーにプレッシャーをかけ、しばしば文丈と見間違えるようなタイミングでスペースに飛び出して攻撃を活性化させる。相方の文丈も、攻撃ではさほど目立たないながらも鹿島に負けぬプロフェッショナルぶり(笑)で敵の攻撃を寸断した。土肥ちゃんは阿部へのコーチングがまるでカーンみたい(←褒めすぎ)だったし、金沢は攻守にバランスよく参加、茂庭は柔らかく力強くほぼ完璧な守備を見せた。ジャーンはオウン・ゴールはあったもののそれ以外は問題なく、加地は攻撃で創造力を十分発揮した(守備の方は……(笑))。石川は早々と負傷してしまったけれど、それまでは短刀のような切れ味を見せてくれた。戸田はシャドーストライカーとして文句なしの働きで、貢献度はアマラオに迫るほど。阿部は残念な結果になったが、彼は何しろまだ1年目であって、これもいい勉強になるのではないだろうか(もう1回同じ事やったらアホだが)。梶山は、正直言ってまだよくわからない。藤山は…試合を「殺す」のは苦手そうだ(笑)。
まあ、こういう試合で全般的に出来がよく見えるのは当たり前とも言え、大切なのはやっぱり次。2週間間が空いて、その間A代表(何と3人も!)やらU−20代表(何と何と5人も!!)やらで選手が抜ける次の試合こそが、今の「ノリ」を上位進出につなげていく鍵になるに違いない。しかも相手は浦和レッズである。是が非でも、何が何でも、どんな手を使ってでも(笑)勝ちたいところだ。
最後、この試合のレフェリーを務めた高山さんについて。退場者が3人も出たのであれこれ言われているようだが、私にはさほど悪くない審判であるように思えた。前半から鹿島のラフプレーはしっかり罰してくれていた(それで東京にリズムが出た)し、かと言ってヒステリックに吹きまくるという感じでもないし、名良橋のプレーには毅然と一発レッドを出したし、よく走るし(上川SRの2倍くらいか?)、加地(と、あと多分小笠原も)の警告もちゃんと近くで見ていたので文句は言えないし、「いい審判じゃないか」という感じで見ていられた。ただ、阿部の退場がちょっと……。東京ホームということもあり、あれで一気にスタンドの印象が悪くなってしまったような。東京側にも退場者を出してバランスを取りたいのはよくわかったけれども、1枚目がかなり理不尽な感じでもあったし…。もうちょっと踏みとどまってほしかったな。90分間さばききる力についてはやや不足しているような気もしたが、まだまだ若い人らしいので、これから精進してもっと良い審判になってほしいものだと思う。
[追記1]
しかし、ファウルせずに名良橋が我慢していれば、「どうせ戸田だから枠外れたに決まってんじゃん!」という説も有力である。[追記2]
試合前には恒例のパレードがあって、ほとんど裸と言ってもいい極小のコスチュームを着たおねいちゃんたちがスタンド前で踊り狂ったりしていたのだが、この日バックスタンド最前列を埋めていたのは少年サッカーチームのちびっ子諸君であった。子供にはもったいないというか(笑)、これはこれでいい教育というべきか。[追記3]
その晩一緒に飲んだけんと氏曰く、「死んでいる相手(曽ヶ端)のこめかみに銃を当てて、「やめろー、もう死んでるー!」と止める声を無視して引き金を引くような」ゴール(笑)。[追記4]
原監督は試合後に「これなら毎試合ブラジルDayをお願いしたいくらいだ」と語っていたそうだが、それはちょっと勘弁してもらいたいような(笑)。