負傷と笛に苦しむ戦い、若きレフティーが東京を救う。
両チームとも、ここまで開幕2連勝。かたや、メンツはほぼ昨年と変わらないながらも開幕戦で「攻撃サッカー」を披露、鹿島を4得点で粉砕したFC東京。かたや、オフに大幅な補強を施し、2試合とも1−0のスコアでしぶとく勝ち進んできた横浜Fマリノス。前者は開幕後の怪我人続出で若手を起用せざるを得ず、後者は出場停止の主力も戻ってベストメンバーで臨む初めての試合である。ともに好調でありながら、しかし対照的な戦いぶり・チーム状態の2チームの対戦となった。
球場入りしファンクラブテントに行くと、「新人研修中」と書かれた紙が下がっていて、新人の鈴木君と近藤君がスーツを着込み恐る恐る(笑)特典のカード(もちろん彼らのサイン入りなどではなく、普通に配っている選手写真入りのやつ)を配っていた。「研修中ですのでサインや記念撮影はご遠慮ください」という張り紙も。プロスポーツ選手とはいえまずは社会人として普通に育てなければ、というクラブの姿勢が良くわかる光景だった。いかにも「東京ガス」らしく、素晴らしい。カードを受け取りつつ近藤君に「頑張ってくださいね」と声をかける。ちゃんと目を見て「ありがとうございます」と言ってくれました。好印象。ホント期待してるんだから、怪我を治したら頼むぜ。
その後、スタンドへ。さすがに首都圏の人気(市原とか緑とかに比べれば)チームだけあって、アウェイ側のゴール裏もホーム側と遜色ないくらいに入っている。チーム力・動員力その他を考えたら、個人的にはむしろヴェルディよりもマリノスをライバルとしたいと考えるのだが。で、スタメン発表を聞く。横浜は奥も松田も戻り、まさにベストメンバー。一方の東京は前節で「ダイナモ」三浦文丈が大怪我。代わりに中盤の要となるべき喜名も負傷中で、今回は守備的MFの浅利が先発することになった。下平が出場停止の左SBには藤山が、右ウイングには由紀彦が戻ってはきたが、ともにまだ万全ではないとの話。控えでFWに松田、ボランチに新人・前田が入ったのは、台所事情の苦しい中での開き直りにも似た抜擢か。
キックオフ前、東京ゴール裏からお約束の「能活!」「城彰二!!」コールが飛ぶ。横浜側からのリアクションはない。その後もコールは「首都東京!」「3年負けなし!!」と続き、しまいにゃジュビロ相手によく使う「女声!!」も出た(確かに「ナオキー!」とかいう黄色い声がやたら聞こえたような。あと、はたして奥ギャルは移籍してきたのだろうか)。やはり反対のゴール裏からは反応なし。うーん、2年位前のへたれ状態からは脱しようだが、やっぱり横浜の人々はおとなしい。まあコールに関しては、ちゃんと返してくれるのって、結局柏サポーターくらいなんだけどね。
キックオフ。Fマリノスは、3−5−2の陣形から、テンポの良いパス回しで攻め込んできた。中澤が入ってグッと堅くなった感じの3バック、攻守にスピードのある両サイド。攻撃の中心はもちろん「坊ちゃん」中村俊輔で、彼を後ろから上野、脇から奥が支える。前線にドッシリと構えるのは、おなじみの「俺王」ウィルである。サイドの上がりやボールキャリアーのフォローなどの動きについて約束事もそれなりにできているようで、ここ2〜3年の戦術的なまとまりのなさから考えると、全体のバランスはグッと良くなっている印象だった。10番のキノコ君も体調は良さそうで、ひらりひらりとDFをかわして行く。奥も豊富な運動量で俊輔を助け、ボールをリンクさせていく。ただ、開幕時から太りすぎが心配されていたウィルはやはり動きが重く、彼の周りでかき回すべき清水も目立たない。
東京は、開始直後こそ前へ出ようという意識は強かったものの、徐々に自陣に押し込まれていった。文丈を欠いたことによる影響は明らかで、マリノスの速いパスに対応が後手後手に回りがちなこともあって、中盤でのプレスのかかりが悪い。代役出場の浅利は元々ボールキャリアーに対して引きながら時間とスペースを使って守るのが得意であって、前へ出て攻撃につなげるアグレッシブさとなると見劣りするのは否めない。ボールを獲得するゾーンは開幕戦に比べると低くなり、どちらかと言えば昨年までの「自陣からのカウンターサッカー」に近い形になった。3分にはケリーのドリブル突破から右サイド由紀彦の鋭いクロスが上がり、初めてのチャンスをつかむ(ヘディングに飛んだアマと小林成が重なってノーゴール)。しかし、自陣からパスをつなげていく形ではいかにも苦しく(藤山と周りのコンビのぎこちなさも出た)、その後は自陣からようやく出たあたりでボールを奪われることが多くなって守りに追われる展開となった。ジャーン・伊藤の異様に落ち着いたCBコンビが相手2トップを封じたおかげで、何とか事なきを得る。
前半から両チームのプレー以上に目立ったのは、梅本レフェリーの神経質な笛だった。とにかくフィジカルコンタクトには敏感で、何でもない接触で試合を止めては両チームの選手に動揺が走る。スタンド(特に東京ゴール裏)からはものすごいブーイングが起こり、それがかえってレフェリーを意固地にさせたのか、今度はイエローカードが出まくる(結局、両チーム5枚ずつ)。それほど荒れた試合ではなかったのだが…。サイドラインやオフサイドをちゃんと見ていない副審といい、明らかにプレーヤーと観客にストレスとなるこの日の審判団だった。東京はチェックに入るとすぐに笛を鳴らされるので守備のリズムがつかめず、またセットプレーが多くなることは明らかに横浜側に有利。頭の中で何だかイヤ〜な感じがしてくるのであった。
16分、ペナルティエリア外正面、俊輔のゴール右下スミを狙ったFKは土肥ちゃんが横っ飛びで弾き出す。その後の波状クロスも、パンチ4連発で全てボールはペナルティエリアの外へ。互角以上の時にはうっかりミスをしたりもするが、不利な展開の時には非常に頼りになるのが土肥というGKである。前半半ばになると、後方での苦戦に苛立ったアマラオが自陣まで下がって守備をする場面が増えた。気持ちはわかるのだが、しかしこの形だとボールを奪ったとしても前に人がいないのだよ…。26分、ペナルティエリア隅ちょい外からゴール方向へ巻いてくる俊輔のFK、敵味方入り乱れてなだれ込んでくる状況で土肥ちゃんは一旦はボールをはじいてしまうが、体をかぶせてなんとかセーブ。29分、ウィルのミドルシュートもがっちりキャッチ。
32分、敵陣で(これならOK)ボールを奪取したアマラオから右の由紀彦へ。クロスにアタッカー3人が飛び込むが、すんでのところで中澤にクリアされる。マリノスは3バックがとにかく強く、東京は中央突破がほとんどきかない。よってチャンスはサイドに偏ることになる。が、左は藤山にキレがなく、右は由紀彦がクロスを入れる時は良いのだが、彼が中に入っていくとその後を埋める小林稔が力不足(ナザ・ドヴトラが相手だから仕方ないけど)で、勝負を挑んではことごとくボールを失い、裏を突かれてピンチを招いてしまう。いかにも得点は遠い感じであった。
前半も終わり頃になると俊輔のドリブル姿がやけに増え、マリノスも攻め手を欠いて膠着状態に。ボールを支配しているのは相変わらずマリノスだが、決定機はなし。確かにバランスは良いのだが、もう一つパンチに欠けるというか。結局、互いにノースコアのまま前半終了。
後半キックオフ前、東京側ゴールで守備位置につこうとした榎本に「ヨシカツ!」コール。まあお約束ではあるが、しかしそれに手を挙げて応えた榎本は実にエライ(笑)。
後半の立ち上がりは、前半最後の停滞を振り払おうと、マリノスの積極的な攻守が目立った。アタッカーの飛び出しに、東京は「裏をとられ」かける場面が増える。浅利は相変わらず利いておらず、他の選手もルーズボールや後方からの飛び出しへの反応が鈍い。とにかくマリノスの前からのプレスが目立ち、自陣でのボール回しにも苦労するありさま。ボール支配は変わらずマリノス優勢であった。8分には浅利が俊輔を引っ掛けてしまい、ゴール正面でFKのピンチ。ウィルのシュートはバーを越える。
梅本主審は相変わらず不可解な基準でホイッスルを連発。副審とCK・GKの判定がちぐはぐになることも続き、スタンドからは「くそレフェリー!」「4級審判!!」の声が飛ぶ。試合自体の攻防とは別のところで、完全にヒートアップ。よくよく考えてみるとそうしたコールは何の得にもならず、しかも審判を敵に回してチームを不利にすることさえあり得るのだが、しかしバックスタンドから見ていてもそう言いたくなる気持ちは十分にわかった。15分前後にはFK・CKが連続し、ゴールラインへの苦しいクリアが続く。DF陣がゴール前に集中したところで走りこんできたノーマークのナザにゴロで出され、心臓が止まる思いを味わう。シュートはホームランボールになってホッ。
18分に浅利のスライディングカットからカウンターの形になるが、コバから逆サイド由紀彦へのサイドチェンジは大幅にぶれて逸機。ぶつ切りの試合に加えてパスミスが続き、東京は完全にリズムを失った状態になっていた。21分にはペナルティエリア内に上がった浮き球を土肥ちゃんがパンチしそこねるピンチ、DF陣が懸命のクリア。ドリブルからボールをサイドラインに出してしまった由紀彦には、ゴール裏から「由紀彦しっかり!」のコール。苦しい状況の中、東京ベンチに動く気配は全くなし。確かに、負けているわけでもなく、一番利きそうなボランチの交代要員は出場経験のない前田。処方箋を見出すのが難しいところではあった。
27分、横浜は左サイドのコンビネーションからDFの裏に抜け出し、逆サイドでフリーになっていた俊輔にボールが渡る。が、シュートは当たり損ねてノーゴール。「俊輔も 右足ならば ただの人」。しかし30分、横浜陣でドリブルしていた小林成がパスを出しあぐねたところでボールを奪われ、カウンターの形に。横浜は中央から右に流れていた俊輔に渡し、俊輔はプレッシャーを受ける前に早めのタイミングでピンポイントのパスをゴール前、なぜかマークの外れていたウィルへ。人がついていなければスピード不足など何の関係もなく、ウィルは苦もなく頭で合わせてゴールへ叩き込んだ。一貫して優位に試合を進めていた横浜が、ついに先制。東京にとっては重過ぎる1点であるように思えた。直後の32分にも藤山のバックパスミスをウィルにカットされ、GKと1対1になるピンチ。土肥がペナルティエリアの外にまで飛び出してクリア。
36分、ボールに競りに行っただけのアマラオにわけのわからないイエローが出たところでようやくベンチが動き、由紀彦に代えて松田を投入。松田が前線に張り、アマラオがやや下がり気味(それ以前から下がっていたが)の形に。東京はケリーにボールを集めて攻撃の基点としようとするが、しかしケリーが横に流れてボールをさばこうとすると横浜のDF・MFはうまく縦を切リ、2人がかりでサイドラインに追い詰めてくる。小林成もこの日はそれほどいい動きがなく、ゴール前の松田めがけた強引なクロスもゴールの予感を抱かせるようなものではなかった。逆に、波戸にサイドを破られるわ俊輔にドリブルであしらわれるわ、マリノスの攻撃の方がやりたい放題であった。
そうしているうちに、はやロスタイム。ケリーが敵陣でボールを持つが、しかし後方からのフォローも前線での動きも乏しく、出しあぐねたあげくにようやく助けに来たアマラオへ。アマはそこから右コーナー方向へドリブルで持ち込み、CKをゲット。最後のチャンス。ここでキッカーの宮沢はこれ以上ない軌道のボールをニアサイドに入れ、ケリーが合わせてゲット。1−1。まさに土壇場での、同点劇。半狂乱になるスタンド、自分が入れたかのように飛行機ポーズで走り回るアマラオ、抱き合いベンチ前で重なる選手たち、ガッツポーズをしながら飛び跳ねる原博実(笑)(ホント、いい味出してるわ、このオッサン)。延長戦に突入。
延長前半、俊輔のパス展開を軸にグラウンドを広く使って攻めるマリノスに対し、縦の速い球を武器に反撃するFC東京。4分、松田がドリブルでこの試合はじめて横浜陣中央を突破、DF2人を交わしてペナルティエリアに侵入したがシュートは枠を外れた。9分、右サイドから俊輔がドンピシャのクロスを上げるが、しかしウィルのヘディングシュートはミートせず土肥がキャッチ。10分にはFKからのこぼれ球に安永が詰めるが、またしても土肥ちゃんが体を投げ出してセーブ。終了間際には宮沢の意表をついた反転クロス(シュート?)が横浜ゴールを襲うも、DFラインに当たってノーゴール。
延長後半になると、もはや余力のなくなった東京は右サイドで星・小林稔が突破を図るもチャンスメークはならず、あとはもう前線の松田めがけて放り込むだけのサッカーになっていった。横浜の方は1つでも多く勝点を得るべく、さらに攻撃を続ける。ひたすら耐える東京。0分、俊輔が縦方向のドリブルでDFラインを突破、かろうじてクリアするもののCKがゴールマウスを襲う(土肥パンチング)。折り返しのCKも中澤が頭で狙うが、アマラオが体を寄せて枠を外れる。6分、右サイドに流れた安永からちょうどDFラインとGKの間にセンタリングが入り土肥の飛び出しが遅れるが、しかしウィルの足はわずかに届かなかった(デブだったからだろうか)。10分には中村→ドゥトラのサイドチェンジからクロスがゴール前に入るが、バウンドがウィルに合わず、助かる。さらに11分には俊輔のFKに合わせたナザの弾丸ヘッドがゴールマウスに飛ぶ。土肥ちゃん必死の反応で弾き出す。さらに松田が詰めるも、ボールはサイドネットに突き刺さった。
結局、そのまま1−1のスコアで試合終了。押していたマリノスにしてみれば悔しいであろう、劣勢の東京にしてみれば幸運な、勝点1ずつを両チームが得ることになった。
横浜Fマリノスは「3年負けなし」のコールが語るとおり、近年東京と当たる時にはだらしないサッカーを繰り返して「お得意様」のイメージを我々に植え付けていたわけだが、しかしこの日はバランスの良いサッカーで終始試合を優位に進め、勝ち点3まであと少しのところまで達した。おそらく、今年のマリノスが大崩れすることはない。というのは、ナザ・松田・中澤とJ屈指の強力3バックを揃えたからだ。後ろが安定しているチームは成績も安定する可能性が高い。中盤の底の上野とサイドのドゥトラ・波戸も安定しており、後方に全く問題はなさそう。ウィークポイントがあるとすれば、前の方と、あとは選手層の問題か。120分間優位に試合を進めながらわずか1得点にとどまったのは、ウィルの太りすぎ(笑)と2ndストライカーとの役割分担の不明確さが大きな要因だろう。ウィル自身は時間がたてば自然とキレを取り戻すとは思うが、もう一人のFWがもっとDFをかく乱するようでないと、ウィルも2列目以降の飛び出しも生きないのではないだろうか。90分でけりをつける得点力がないと優勝争いは厳しい。あと、俊輔のコンディションは良さそうだが、しかし彼がこのチームにいるのは最初の7試合のみである。その後はどうするのだろう。奥や久永ではとても代役にはならないだろう。上野が怪我をした場合も含め、バックアップの充実も大きな課題になるに違いない。聞くところによるとカルロス・ゴーン氏は今季のノルマとして「3位以内」を厳命したようだが、微妙なところではある。
FC東京にしてみれば、何とか勝点1を拾えて良かった、という試合内容だった。勝点3を取るのはあまりに困難だった。原監督もそれをわかっていたからこそ、「守備的MF」浅利を最後まで出場させたのだろう。三浦文丈の穴は思っていた以上に大きい。「より高いゾーンで守備をする」という今季のコンセプトからすれば、ボランチ以前で「つっかけて奪い、即座に反応したアタッカーへ送る」という流れが理想だが、この日はそうした形はなかなか見られなかった。相手のパスワークに振り回されているうちに全体の陣形が下がり、ボールをとっても相手ゴールは遠く、もしくは守備に追われるうちにアタッカーの反応も悪くなっていく。一度そうした悪循環に嵌ると、現在の怪我人も多いチーム状態では打開するのはなかなか難しい。今年1年文丈がいないとすれば(どうもそうなりそうだが)、代わりの中盤の選手は誰になるのか。もしくは戦い方を修正してくるのか。原監督はいきなり、高度な手腕を問われることになるのかもしれない。
この日東京の選手で目立ったのは、ジャーンと土肥と宮沢。ジャーンは抜群のポジショニングと強さで、まさに鉄壁。ウィルもほぼ完封(失点シーンは別の選手がマークに行くべきで、仕方がない)。開幕戦でも書いたが、彼のところで相手の攻撃をはね返すシーンがあまりに多いので、思わず笑いがもれてしまう。トラップなどで高い技術をかいま見せながらもひたすら真面目に仕事をこなし、タックルをかわされた後なども無表情なままいそいそとバックアップに走る姿も好もしく、今度からは「ジャーン(笑)」と表記したいくらいである。土肥は、いわゆる「スーパーセーブ」と形容されるようなものは2つほど(それでも凄い)だったが、横浜のキノコクロスをことごとくネコパンチ(笑)ではね返し、失点を最小限にとどめた。そして、何といっても宮沢。相方の浅利が怪我もあって満足にプレスをかけられない状況下、「かっさらい、前を向く」動きと種類豊富なミドルパスで攻守に貢献した。同点ゴールを生んだCKのボールも全く素晴らしいもので、喜名もいない今、彼の存在がなければ東京の攻撃はどれほど単調なものになってしまうだろう。欲を言えば、もっとミドルシュートや直接FKでも相手に脅威を与えてほしい。それができれば、これからもレギュラーを確保していけるだろう。
最後に、この日の審判団について。主審と副審とでろくにコミュニケーションもコンビネーションもとれていない状況や基準のはっきりしない判定の下で、どうして選手は素晴らしいプレーを披露できるだろうか。全くもってピッチの上の当事者にもスタンドの観客にも、ストレスのかかるレフェリングであった。
2002年3月16日 東京スタジアム
Jリーグファーストステージ第3節
FC東京 1−1 横浜Fマリノス