由紀彦復活も、逆転負けで不敗ジンクス途切れる。

 

 

  FC東京は前節、首位ジュビロ相手に1−6という記録的スコアで大敗。失点を恐れず果敢に挑んだ姿勢こそ評価できるものであったが、しかし内容的には相当の実力差を感じさせる厳しい試合であった。今節はアウェイで横浜Fマリノスと対戦。過去横浜国際における対戦では3戦全勝という成績を収めているだけに、ここはジンクスに乗ってチームを勢いづけたいところだ。一方の横浜は1stステージの優勝争いはどこへやら、2ndステージでは苦戦が続き、この試合で敗れれば監督解任とも言われる状況。ともに負けたくない、負けられない試合であった。

 

 試合前、ウォームアップを眺めながらメンバー発表を聞く。東京サポーターにとってビッグニュースなのは、何といっても佐藤由紀彦の復帰であった。実に5月以来のJ1の舞台。スタンドからは怒濤のようなコールが巻き起こる。他にも有望な若手が何人か出てきてはいるけれども、やはり由紀彦のピンポイントクロスは何物にも代え難い大きな武器であるし、たとえそれがなくとも、J2以来一緒にやってきたかけがえのない存在なのだ。その他、今回はアジア大会の代表に選ばれた石川・茂庭が不在で藤山がスタメン復帰。横浜の方では、理由はわからないが中澤の不在が気になるところであった。

 

 キックオフ。慎重に試合を進めようとするマリノスに対し、東京はいつも以上に激しく速く、前へ前へとボールを取りに行く。由紀彦は我々の期待以上の動きを見せ、身体能力よりもポジショニングとタイミングでいい形を作る本来の持ち味を取り戻していた。クロスが上がるたび、サポーターからは拍手と歓声が上がる。そんな中、試合が動くのは思いのほか早かった。10分、右サイドを加地がドリブル。前方では由紀彦が縦にスタートを切っていたが、横浜DFの注意がそちらに向いたのを見て加地はやや早めのタイミングでクロスを上げる。ボールは滑らかな弾道でゴール前に入り、DFと併走していたアマラオが獲物に飛びかかる獣のようなジャンプでヘディング一閃、GK榎本の逆を突いてゴールイン。あまりにも鮮やかな得点に横浜ゴール裏は一瞬静まりかえり、東京サポーターは狂喜乱舞した。最高の立ち上がり。

 これで東京は完全に勢いに乗る。宮沢が、下平が、ジャーンが、伊藤が、次々と前がかりにボールを「刈り取」り、前方へ送っていく。中央ではアマが抜群のキープ力で基点となり、右サイドは由紀彦・ケリー・加地がキレキレのコンビネーションを見せ、横浜3バックの横からゴール前へ正確なクロスが次々と上がる。ケリーは左サイドでも宮沢・戸田とのパス交換で守備網をかき回し、相手の陣形が右寄りにシフトしたと見るや逆サイドへ大きなサイドチェンジを行って喝采を浴びる。まさに「圧倒」と言って差し支えのない東京の攻勢だった。一方の横浜は3ボランチに見える布陣を引いていたが、東京の圧力の前にMFはなかなかハーフウェーラインを越えることができず、両サイドの上がりもほとんど見られない。そこで2トップへ縦のボールを入れてDFラインの裏を狙うことになるが、DFが堅実な処理を見せる限り可能性は薄いように見えた。横浜ゴール裏からはじれったい戦いぶりに「動け!動け!」コールが起こり、それが東京サポーターの「横浜動け(笑)!」コールを招いてしまう。全くもって東京は選手もサポーターもノリノリであった。「セクシー東京!!」

 ところが、結局追加点は入らずじまい。アマラオとジャーンの惜しいヘディングはあったものの、今にしてみればボール支配率の高さとパスワークの鮮やかさの割には枠内シュートがあまりにも少なかったような気がする。1つには、東京はいつも通り右サイド経由の攻撃が多かったのだが、そちらは横浜にとってもストロングサイドということがあったか。東京が左サイドを突くうち右サイドにスペースが生まれ、すぽーんとフリーの加地へ横パスが通る場面が何回かあったが、初めのうちはそれが大きなチャンスになっていたのが、いつの間にか2人の外国人による素早いカバーリングが行われるようになっていた。ドゥトラは攻撃参加を控える代わりに左サイドに出っ張るような形で加地の上がりをケアし、たとえそこから由紀彦にボールが渡っても、さらにナザが待ちかまえている。結果、由紀彦のプレーはやや窮屈になり、そこから技術で正確なクロスを上げるにしても時間がかかってFWのマークはきつくなる。それと、右からの「わかりきった」クロスに競り合う展開は、もう1人のFW戸田の特性にマッチしていなかったようにも見えた(彼らしい飛び出しが成功しかけたのは、ケリーのスルーパスに反応してオフサイドとなった1回だけのように記憶している)。しかし、どこまで続く「2点目の壁」

 そうしているうちに29分、試合は急転直下の展開となる。ジャーンが自陣でボール処理を迷った末にサイドラインに出して横浜アタッカーの上がりを招き、この試合初めてマリノスの波状攻撃に。押し込まれた東京はコーナーキックに逃げるが、それをあっさりウィルに頭で叩き込まれて同点を許す。スイスイ順調に攻め続けていただけに、東京側は選手もスタンドも愕然とした表情を隠せない。これで完全に雰囲気が変わり、それが選手の動きに反映されていく。東京の中盤でのプレスのかかりは極端に悪くなり、奥らに抜かれ裏をとられる姿が目立つようになる。そうなると当然遅れ気味のタックルが増え、後ろからのファウルとなってしまう。31分に宮沢が2度目の警告で退場となったのは、そんな流れの中でのことだった。宮沢のあのプレーだけが問題だったのではなく、恐らくあの時間帯、山西主審は東京の誰かがファウルをしたらカードを出すつもりだったのではないだろうか。

 セットプレー一発でチームの勢いを失った上、攻守のつなぎ目を失って数的不利な状況に。前半の残り、東京がひたすら守勢に立たされたのもやむを得ないだろう。横浜はボランチが東京陣ペナルティエリアとセンターサークルの中間に位置するまで陣形を押し上げ、サイドのドゥトラと波戸もそれまでが嘘のようにサイドアタックを繰り返す。包囲網から次々とパスがペナルティエリア内に飛び込み、終了間際には波戸とウィルのあわやのシュートに土肥のセーブが続く。こうなると東京はカウンターから得点を狙うしかないのだが、40分、上がったドゥトラの裏を突いて右サイドを駆け上がった由紀彦が低くゴール前にピンポイントで落ちる絶妙のクロスを送るも、戸田が決めきれず。劣勢のまま前半が終わった。

 

 後半、東京は前にアマラオ1人残し、戸田をより左MF的にして4人の中盤と4人のDFラインで守りを固める。が、マリノスのようなボール・ポゼッション重視のチーム相手にこれをやると相手の攻撃を呼び込んでやるようなもの。東京は前半にも増して自陣に押し込まれる状況になった。マリノスはさすがに「強者のサッカー」もできうるというか、引きこもった東京の陣形を見て左右に丁寧にパスを回して揺さぶり、隙ができたところで個人が突破を図る。はね返りは上野と永山が冷静に拾い続ける。特にドゥトラの攻撃力は凄まじく、由紀彦・加地の2人がかりのディフェンスも苦にせずチャンスを量産。土肥ちゃんの冷や冷やもののセーブショーが続く。特に危なかったのは18分で、2人のマークを外したドゥトラのクロスにウィルが頭で合わせたのを、斜め後方に跳びながらワンハンドで弾き出した。業を煮やした横浜は松田・ナザも上がるようになり、さらに久永・坂田と投入して決勝点を狙う。が、ぎりぎりのところで東京は粘り続ける。

 これに対して東京は少ない人数で反撃を試みるも、頼みのサイドアタッカーが守備に追われる状況ではつらい。惜しかったのは19分のチャンスで、加地との弧を描くようなゆるやかなパス交換から由紀彦がフリーでペナルティエリア内に突入するが、ファーを狙ったクロスがDFにカットされて逸機。あと、後半中頃にナザが足を痛めていた様子だったのだが、そこを突こうとするそぶりもなかったのは…。そして22分、由紀彦OUT・小峯IN。この交代が発表された時には「原さん、ついに(笑)ご乱心か」ぐらいに思ったのだが(当然、戸田を外して喜名か福田を入れるものだと思っていた)、そうではなかった。何とジャーン・伊藤・小峯がDFラインに並んでそのやや前あたりに藤山が位置、加地は守備よりもむしろ1人で右サイドアタックを担う変型3バックフォーメーションに。これで守備がやや安定してしまったのだから、まことサッカーとは選択肢の多い知的ゲームだと思う。試合は膠着。しばしば東京DFの攻撃参加も見られるようになり、「これはわからんぞ」。そう、いくら不利な状況でも1点を巡る勝負なら何が起こるかわからないのだ。小峯はマイボールで多少危なっかしいプレーを見せつつも精力的な動きで守備に穴を作らず、時にはロングシュートやダイビングヘッドまで披露して味方(っていうか、喜んでたのスタンドだけ(笑)?)を盛り上げた。

 そして東京は33分に戸田に代えて福田を投入。これでどんな形でもいいから1点とったならば、(不利な状況下での)理想的な戦いだったと思うのだが…。この日の福田はまた物足りないプレーに終始してしまった。出場時間は短いのだから、もっと(少ない可能性を少しでも広げるべく)前線でボールを追ってほしかったし、また後方からパスが出そうなタイミングでの動き出しも思い切りの悪いものだった。オフサイドなんていくらかかってもいい、こんな中途半端なプレーするくらいならアホみたいでいいから前へ前へ飛び出してくれ。そう思ったのは私だけだろうか。

 結局東京が反撃の糸口をつかめない中、残り10分を過ぎた頃から再び横浜が攻勢をかける。39分、ウィル→ドゥトラとパスがつながってのシュートを土肥が弾き、こぼれ球を清水・奥がたて続けにシュート、DF陣が懸命にブロックする。さらにピンチが続く中、加地が足をつらせ、他のDFも前半から振り回され続けたのが効いてきたのか動きがガクリと落ち、スタンドで見守る私としては「せめて延長戦まで持たせてくれ」の気持ちだった。が、しかし……。ロスタイム、横浜がスローインからボールをつないでドゥトラがグラウンダーをゴール前に入れる。東京のDFの大半は反応が遅れ、走り込んだ奥のシュートに唯一反応した小峯が何とかブロックするも、ボールは再び奥の足下に。このセカンドボールにもやはり東京のDF陣は動くことができず、至近距離からのシュートが土肥ちゃんの脇を抜いて1−2。そのまま試合は終わり、退場の判定と同点前後の落差に釈然としない気持ちが残ったまま敗戦を迎えることになった。

 

 本文中ではあまり触れなかったが、この日東京サポーターのストレス要因となったのは、チームの戦いぶりよりも山西主審のレフェリングだった。東京の強い当たり(正当なチャージと思えるものも含めて)に対して敏感に笛を鳴らすのにも不満の声が挙がっていたのだが、それより私が気になったのは、判定する際のポジショニングの悪さとゲームコントロールの仕方についてである。山西さんの立ち位置は、プレー地点から遠すぎることがしばしば目についた。ペナルティエリア付近の出来事についてセンターサークル近くからジャッジされて、果たして納得できるだろうか?それと、宮沢が警告2発で退場になった件については、宮沢が特に悪質なプレーをしていたとは誰も思っていないだろう。おそらく、開始早々の1枚目は東京が(チームとして)ガンガン行っていたことが、2枚目はやはり東京が(チームとして)後追いのタックルが多くなっていたことが背景にあるのだろう(念のために言っておくが、あくまで憶測ですよ)。必ずしも宮沢である必要はなく、そういう意味では不運なのだが、しかしだからこそ特定の選手に連続警告して人数バランスを崩してしまうのはいかがなものかとも思えた(ラグビーのシンビンみたいに事前に口頭で警告していたのなら話はわかるが)。そして、この私の推測が的外れで、山西さんが本当に宮沢の2プレーをともにイエローに値すると考えていたのなら、やはりその技術には大いに疑問を持ってしまう。

 横浜Fマリノスは、クビのかかっていたラザロニ監督の指示なのか、開始からやたらと慎重なプレーが目についた。「勝ちに行くサッカー」というより、「負けないサッカー」という感じであった。前半半ばまでのやられっぷりはとても優勝争いをするチームとは思えなかった。しかし、ウィルのさすがの同点弾と「幸運な」(と書いたらマリノスファンに悪いかな)宮沢退場が選手の積極性を呼び起こして東京をペナルティエリアに押し込め、かなり手こずったものの最後10分の大攻勢に結びついた。このチームの選手の能力は依然として相当なもので、潜在的な爆発力は磐田にも劣らないだろう。が、スポンサーや人事の関係もあって「とにもかくにも結果を残さなければならない」状況が過剰に才能集団を縛っているのかもしれないと思った。戦力的には、中村なきあとの要は間違いなくドゥトラで、左サイドにおける攻守の貢献度には計り知れないものがある。奥はドゥトラやウィルに比べれば目立たなかったが、それでも決勝点の場面の走り込みは彼らしかったし、そもそも期待過剰の向きもあるのでまあよくやっているのだろう。今のフォーメーションだと、やっぱりもう少しトップ下らしい選手がほしいのでは。

 FC東京は、不利な判定もあって先制点をまたしても生かすことができなかった。これで何度目の逆転負けになるのだろう。ただ、前半25分くらいまでの攻撃が素晴らしかったのは疑いようもなく、由紀彦・加地・ケリーのコンビネーションは石川不在を全く感じさせないものだった(10人になってからは、石川のような個人で突破できる選手がほしかったけれども)。このまま由紀彦が再び右に定着して、戻ってきた石川を左サイドに入れたらさぞかしすごいことになるぞ、というのはポジティブ・シンキングが過ぎるだろうか(笑)?それと、後半の由紀彦→小峯の交代とそれに伴う3バック化には目から鱗が落ちた。戦い方が広がるというのはもちろん望ましく、この試合の一つの収穫だろう。

 先制点から勝ちきれない要因としては、もちろん「2点目の壁」があるのだが、追いつかれた際の選手の見るからにわかる落ち込みようがとても気になってしまう。この試合なんて、セットプレーで追いつかれたとしてもそれまでの内容では全然上だったのだから、「もう1点取ってやるか」くらいの気持ちで行けばいいと思うのだが、浮き足だって焦ったあげくの数的劣勢である。どうにかならんものか、もっと(土肥ちゃん以外に)苦しいときに声を出す人間はいないのか、守備的MFとCB・SBのベテランは何をやっているのか、ドゥンガを呼ぼう、文丈早く戻ってきて、などと色々考えてしまう。あと、何回も書いていることだが、やっぱり今の東京の「突撃サッカー」は中盤守備が非常にキツい。宮沢・下平が前に出られて、あるいはDFラインがボランチに近づいている時には問題がないのだが、一旦裏をとられ始めるともう止まらず、磐田戦や今回のようになってしまう。攻勢の緩急・陣形の上げ下げなどもうちょっとチーム全体でカバーして行けるようにならなければ、「攻撃サッカー」は絵に描いた餅、あるいはスーパーMFが必要になってしまう。

 個々の選手では、由紀彦と加地ははっきり素晴らしかった。下平も守備の場面でよく動いて指示も出して、頑張っていた。小峯のハッスルプレーには勇気づけられた。イマイチだと思えたのは、守備に追われていたとはいえ戸田と、あと途中出場で「何もできなかった」福田だろうか。特に福田は、苦境のチームにあって一発を狙っている意図だけは何となく感じられたのだが、しかし前でボールを追ったり半ば無駄なスタートを切ったりという相手に脅威を与える動きがあまりにも少なかった。はっきり言って、チームに貢献できていなかったと思う。衰えの見えるアマラオがいつまでもキングに収まっているわけである。

 まあ長いシーズン、先日の東京ダービーみたいに判定に助けられる試合もあれば、こういう試合もあるのは仕方がない(納得は行かないが)。スパッと切りかえが効くかどうか。そこが問題だ。

 

2002年9月28日 横浜国際競技場

Jリーグセカンドステージ第6節

 

横浜Fマリノス 2−1 FC東京

 


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