「3年連続初戦敗退」という不名誉。

 

 

 FC東京にとって天皇杯といえば、かつて東ガス時代に準決勝まで進出して名を上げた大会。縁起はいいはずだが、ここ2年はいずれも2部のチーム相手に初戦敗退という不名誉な結果に終わってしまっている。幸い今年はチームの体制も変わって気分一新、2ndステージでは過去最高の順位を獲得、天皇杯前に行われる解雇通告もわずか4人にとどまって特に問題なく大会を迎えられる状況(のハズ)。アマラオ・ケリー・福田を欠いているとはいえ、それで若い選手たちのモチベーションはかえって高まるのではないかとも思え、優勝云々はともかく「3度目の正直」として初戦は突破してくれるだろうという期待は大いにあった。が、しかし。結果はあえなく「2度あることは3度ある」になってしまったのであった。不名誉の上塗り。

 

 この日はとにかくディフェンス(DFラインに限らず)が悪かった。サイドバックはスコンスコン抜かれるわカバーリングには行かないわスペースを埋める意識は足りないわこぼれ球への反応は悪いわ大事な局面でフッと気を抜いて棒立ちになるわ……そりゃ点も取られるし(もっとやられてもおかしくなかった)何点取ったって勝てやしない。イーブンボールへの執着心など、一部選手を除いて概ね湘南の方が優勢であった。変に格上意識を持ってしまって油断したのか、相手の気迫に押されたのか、それとも天皇杯という大会をナメていたのか。激しいチェイスをかけ、ボールを奪うや思い切りの良い勝負を挑む湘南アタッカーを前に「おいおい!」と叫びたくなるような気の抜けた守備を連発し、前半だけで2点を献上。1点目はギャップだらけのDFライン裏にきれいにスルーパスを通され、2点目は終了間際にFKからつながれ続けた末の失点。ボールホルダーへの詰めの甘さが生んだものだった。

 一方攻撃の方は、いい時間帯と悪い時間帯とがはっきり分かれていた。前半はトップに阿部でその後ろに馬場、右に石川左に鈴木という配置だったが、イマイチ機能しないというか、個々の選手がバラバラに戦っている状態だった。これは、一つには馬場のプレーぶりに問題があったように見えた。おそらくドリブラーでMFという意識が強い馬場君はやや後ろ目でパスを受けてボールを持ち上がろうとするのだが、これが湘南DFの格好の餌食に。囲まれボールを奪われ、湘南のカウンター攻撃の起点になってしまっていた。さらに前の阿部との距離も離れすぎで、阿部に楔のボールが入ってもなかなかチャンスに発展しない。また、石川は理由はよくわからなかったが存在感が薄く、左サイドでは鈴木が活きのいい動きで突破を重ねたものの、そのクロスに飛び込むのが身長の低い阿部一人では得点に至りようがない。結局前半は藤山のアーリークロス(?)を見事なダイレクトボレーで叩いた阿部の1得点にとどまった。

 

 で、「いっそ鈴木と馬場はポジションチェンジするべきだ」と思ってみていたら、案の定ハーフタイム明けにそれに近い動きが。鈴木が中央に寄って阿部との2トップフォーメーションになり、馬場がそれを斜め後ろで支える形に。これが効いた。パートナーを得たことで阿部の運動量とボールの収まりの良さがより生きるようになり、鈴木も思い切りのよい切り込みでゴールを狙う。開始早々、加地からのグラウンダーをペナルティエリア付近で馬場がダイレクトで折り返し、中央でDFのマークを外していた鈴木が落ちついて蹴り込み同点。続いて8分には馬場のシュートともパスともつかぬキックがGKとDFの前に転がり、阿部がDFより一瞬早くスライディングで飛び込んでゴールへ押し込む。あっという間の逆転。この時間帯だけは中盤でも2〜3人で相手を挟んでボールをとれるようになり、イケイケドンドンの雰囲気だった。ま、欲を言えばここでもう1点ほしかったが…。残念ながらダメを押すまでには至らず。そうこうしているうち、次第に湘南の早くて速いプレッシャーが復活していき、流れは再び相手側へ。

 後半22分に戸田弟にこぼれ球を蹴り込まれて追いつかれた後、おそらく中盤に活を入れる意図で馬場OUT三浦文丈IN。お久しぶりの文丈は試合の流れに乗るのに苦労していたように見えたけれど、それでも前線でボールに絡んで決定的な場面を演出(石川へのラストパス。シュートはわずかに枠を外れた)。大黒柱復活か…と思われたその直後、左サイドから切り返しでDFをかわそうとした際に踏ん張りきれずあっさりボールをとられ、その時に痛めたのかどうか、わずか10分程度の出場で下平に交代してしまった。結果、活が入るどころかかえって沈鬱なムードが広がる。さらに中盤に浅利・宮沢・下平と3人の守備的MFが並ぶことになり、バランス悪いことこの上ない陣形に。ここは宮沢が前に出なければならないはずだが、明らかに不調の宮沢は攻撃に絡むことができず、かといって守備でも効かないまま。彼も含め、後方からは精度の低いロングボールを蹴り込む姿ばかりが目立った。以後、東京はほとんどチャンスは作れないままに。そして守備は加地が完全にバテきったこともあって崩壊寸前、守勢に回り続けることになったが、湘南の波状攻撃を土肥ちゃん(とゴールのバー(笑))の好セーブでなんとか防ぎ、しのいでしのいで延長戦に持ち込んだ。

 

 Vゴール方式の延長戦、残された交代枠は1つ。ここで選択肢は2つあった。1つは、加地に代えて小峯を入れて守備固め。もう1つは松田を入れて力づくで点を取りに行く作戦。両方の交代をしたいのは山々だったろうが、しかし文丈の緊急交代という事態がそれを許さなかったのだから仕方がない。で、原監督が選択したのは後者だった。これはこれで間違いとは言えないだろう(阿部は足を引きずりだしていたし)。松田は入って早々ハイボールに競り勝ってみせ、試合の行方にわずかながら光が差したようにも見えた。が、その段階でもはや東京に「もう1点」の時間は残されてはいなかった。13分に東京左サイドを湘南のアタッカーが突破、相変わらずカバーリングの反応が遅れる中飛び出した土肥ちゃんを見て冷静にマイナス方向のMF加藤へ折り返されると、もうシュートを阻むものは何もなかった。がら空きのゴールにボールが吸い込まれ、狂喜乱舞する湘南側ゴール裏を除いてスタンドが静まりかえる中、試合終了の笛が鳴って東京の3年連続初戦敗退が決定した。

 

 湘南ベルマーレは粗々ながら気迫のこもったプレーで東京を撃破。ひとたびピッチの上に立てば1部も2部も関係ないことを見事証明してみせた。技術面ではややお粗末な面も観られたものの、チャンスでの思い切りの良さ・守備のしつこさ・勝負を諦めない気持ちなどは明らかに湘南の方が上回っていたと思う。個々のプレーではFWの坂本と戸田が、スピードあり恐れずに挑んでいく姿勢ありで実によく見えた。DFの白井も当たりが強く、ワンツーパスを試みようとする東京アタッカー(ボールを離した後)にオブストラクション気味に体を寄せて抜かせないズルさが手強い印象だった。他の選手はそれほど印象には残らず。まあ、こうなってしまった以上(笑)、J2びいきの私としてはこの辺のチームにできるだけ上に行ってほしいものだと思う。

 FC東京は、昨年一昨年に続き、今年もシーズン最後でスタンドの怒りを買うような試合をやらかしてしまった。モチベーションの欠如、と書くと何となくわかったような気になってしまうものだが、それにしても既述のとおり、それは「格下」相手の油断なのか単にやる気がなかったのかそれとも天皇杯の価値を低く見ていたのか、いったいなんなのだろう。「何となく」プレーしていた選手が多かったように見えたし、時折ただ事ではないくらいの集中力・責任感の欠如が見られた。コーナーキックで目の前にボールが転がってきているのにカットしに行かないプロサッカー選手ってなあ何なんだよ、というか。少なくともこの試合は有料でファン・サポーターを集めていて、戦っている選手たちはサッカーでメシを食っているのである。試合後通路で「ATAVO東京」のMakoPさんに声をかけたら、「やる気がないんなら出るなっての!」と怒っていた(ちなみに私の連れも同様のセリフを吐き捨てていた。「それで地域リーグとかの1チームが代わりに出られる!!」と)が、私も全く同じ気持ちだった。まだトップレベルで1つのタイトルもとってないチームがこういう大会で頑張らなくてどうするよの、あーた。

 選手の中で最も不調が際だっていたのは、おそらく石川だろう。普段の活躍からは信じられないほどの消え方。ボールをもらってもドリブルかパスかの判断が非常に悪く、チャンスを作るどころか攻撃停滞の要因になってしまっていた。いったいどうしてしまったのだろう(と言いたくなったのは彼だけではないが)?また、宮沢の調子もひどかった。守備でボールホルダーに真っ直ぐ突っ込んでかわされ続けたのはまだいいとして(よくないけど(笑))、パスはぶれるわコーナーキックでゴール前にクロスも上げられないわ、攻撃で全く貢献できなかったのはいただけなかった。浅利も、スペースを埋める本来の役割を充分には果たせず。あと、加地は攻撃で得点にからんだものの守備では一対一で抜かれまくり、後半半ばでスタミナを失ってウィークポイントと化してしまった。守備で合格点の仕事をしていたのはジャーンと土肥くらいだったろうか。攻撃陣では、初登場の阿部が予想外に良い動きをしていた。前でボールをあれだけ「受けられる」選手がいると味方は大いに助かる。ドリブル勝負であまり勝てなかったのはまだプロのDFと対峙する経験が少ないからだと思われ、後半開始直後のように彼の近くでサポートする選手を配置できれば、ちょっと面白いことになりそうである。鈴木は意外と細かいパス交換がうまく、サイドよりも中に入った時の方がいい仕事ができていた。あと、馬場については、長くボールを持つよりもワンタッチ・ツータッチでさばく意識を強くした方が才能を生かせるのではないだろうかと思う。まあ、若手アタッカーについて(だけ)はやや収穫があったと言っていいだろうか。

 

 ともあれ、これで東京の今シーズンは終わり。リーグ戦といいナビスコカップといい、新しい可能性の広がりは見えたものの結果についてはやや物足りない感じで、天皇杯も最悪の形であっという間に終わってしまった。ファン・サポーターの胸の内(というか腹の底(笑))にはいろいろと溜まっているものもあるのかもしれない。それでも、監督が替わってまだ1年目。今後の上昇を目指すスタートの年としてはそれほど悪かったとも私は思わない。紆余曲折のこの時期を、生かすも殺すも来年・再来年次第。是が非でも、数年のうちには「ああ、あのモヤモヤした年があったからこそ、今の喜びがあるのだなあ」と2002年を振り返ってみたいものである。がんばりましょう。

 

 

2002年12月15日 東京スタジアム

第82回天皇杯全日本サッカー選手権 3回戦

 

FC東京 3−4(V) 湘南ベルマーレ

 


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