熱い日差しの中、若手の活躍で3得点。「まずは1勝」。
年々行う意義が怪しくなってきているように思えるナビスコカップだが、今年はW杯開催年ということもあってまたしても開催方式変更、4チームずつによるグループリーグ制が採用された。代表メンバーが抜けた各チームにしてみれば若手を試す絶好の機会というところだが、代表なるものに縁のない我が東京はリーグ戦と同じ戦力で臨め、むしろガチンコ勝負でタイトルを獲れる絶好の機会である、はず、だった。1ヶ月前までは。現実には、3月のリーグ開幕以後何かに祟られているとしか思えぬ勢いで怪我人が続出。「ガチンコ」どころか若手を(「試す」のではなく)使わざるを得ない状況に追い込まれた。手持ちの戦力による「立て直し」の大会、それがFC東京にとってのナビスコカップである。
会場は久しぶりの駒沢陸上競技場。天気は快晴に恵まれ、周りの公園は家族連れや犬の散歩をする人々でにぎわっている。スタンドの入りもいい。発表は1万1千人、スタンドに空席はほとんどない。空席というのはやはり寂しさに結びつきがちであるので、こういう大観衆の望めぬ大会であればそれに見合った会場でやれるのはいいことだ。横浜国際なんて、3万入ったってガラガラに見えてしまうのだから気の毒にも思える。まあ、駒沢は屋根もナイター設備もないのだから、悪天候だったらそんなこと言ってられないのだが。
バックスタンドで「けが人出すな! 東京安全推進部」(だっけか?)の横断幕を久しぶりに見かける。そうか、これがなかったからみんな怪我してたのかも……。
両チームの練習が始まり、スタメン発表。清水はアレックス・市川・戸田を代表で、伊東・森岡・斉藤を怪我で欠いて飛車角桂馬落ちという感じの顔ぶれ。対する東京は、浅利まで戦線離脱してしまったので中盤の底には下平が入り、アマラオお休みで福田先発。で、なんと、数日前にレンタル移籍が発表されたばかりの石川「なおりん」が右ウイングハーフでスタメンに。まあ即戦力と見込んだからこそシーズン途中のレンタルとなったのだろうが……驚いた。まさにヒロミマジック、スリリングだぜ。あと、この試合でも控えGKは登録なし。ただし練習ラストのお楽しみ、スーパーユーティリティDF小峯のキーパー練習もありませんでしたとさ。
キックオフ。戦前の予想通り、清水の攻撃は迫力不足。前に出てくる東京をパス回しでいなしつつSBの裏を狙ってサイド攻撃をかけてくるのだが、フィードのボール自体いい球が少ない上、左右の代役サイドハーフのクロスの精度もあまり高くない。いつもは厄介な澤登も後方からいいボールが出なくては一瞬の技術を生かせず、目立たない。唯一警戒すべきなのは一発のあるバロンなのだが、ほとんどの攻撃はそこに至るまでにジャーンがはね返してしまうため、とりあえず危ない場面は生まれなかった。
よって東京が優位に立つ、はずなのだが、こちらの攻撃もまたパッとしない。ボールを獲得する、宮沢が正確なフィードをしてアタッカーにボールが渡る。ここまではいい。が、そこで行き詰ってしまうのが今の東京の苦しいところ。布陣的にケリー・石川・加地が右サイドをつないでクロス、というパターンがどうしても多くなるのだが、中央で福田あるいは戸田が競ってもこぼれ球を清水DFに拾われてクリア、という繰り返しに。シュートを打っても遠目からのものが多く、せっかく裏へ出かけた戸田が清水の代役DFに簡単に当たり負けたシーンには首を傾げざるを得なかった。そうしているうちに段々とプレーが雑になり、こぼれ球への反応も遅れていく。特に、ジャーンがクリアしたボールを拾われると危険な形も生まれそうに(ミドルシュートが全く枠に飛ばないので助かった)。自陣CKで前線に3人残しておく作戦もいつの間にかなくなってるし。ゲームは弛緩しつつ均衡状態に移っていった。暖かい日差しの下、駒沢でボールが青と橙の間を単調に行き来する様は、J2の頃のアルビレックス新潟戦を思い出させた(今の新潟と戦ったらそんなことも言ってられないかもしれないが)。
ストレスのたまる展開に、いい加減「勝つ気あんのか!今すぐチームに小峯か小池を注入しろ!!」と叫びそうになったその時、頼りになる男がまたやってくれた。19分、右サイドからのクロスを福田が完璧に競り勝って落とし、後ろから走り込んできた宮沢が左足一閃!強烈なシュートはゴール右上隅に飛び、バーにはねてからGK黒河の体に当たってそのままゴールイン。1−0。「攻撃サッカー」を標榜しつつ先制点のとれない展開に苦しむ試合がここのところ多かっただけに、大きな1点だった。これで東京は勢いにのり、主導権を握る。それまで地味なプレーに徹していた藤山がお得意のリターンプレーから左サイドを切り崩し、それが功を奏したか右サイドも加地がスペースに走り込んでいいクロスを上げられるようになる。25分には再び福田が落としたところにケリーが走り込んでボレー気味のシュート、前はポッカリと空いていたが枠を外れてしまった。
2点目がなかなか入らないまま時間はたち、いつの間にか40分過ぎ。清水の攻撃で右サイドからクロスが上がり、バロンのジャンプに東京DFの対応が一瞬遅れる。叩きつけられるボール。完全に1点かと思われたが、土肥ちゃんが素晴らしい反応で枠外へはじき出す。いかに優位に試合を進めていようと、ホントこういう一発で点を取れるプレーヤーだけは気が抜けない。そしてその直後、右サイドで石川が裏のスペースへ抜け出るチャンス。石川は脇目もふらず(とその時は見えた)ゴール方向へ斜めに切り込んでいき、スピードで完全にDFを振り切ってGKの目前へ。自分でシュートも打てるタイミングだったが、石川はDFが自分へ集まってくるのを見越し、落ち着いて中へ平行方向のセンタリングを入れる。ノーマークのケリーが叩き込んで2点目をゲット。石川が思い切りと判断の良さを発揮した、先週来「ゴール方向が空いているのに切り返す場面はもうゴメンだ」と思っていた私にとっては胸のすくような、見事なアシストだった。そのまま前半終了。両チームの力関係からして逆転される可能性は薄いように思え、あとは何点差でまとめるかが興味の対象となった。
後半になると私の座っている側に東京が攻めてくることになったのだが、目の前にやってきた清水のDFラインを見ていると、あと何点入るかますます楽しみになった。ギャップはしょっちゅうできるわ上げ下げに鋭さはないわで、FWからしてみるとじっくりラインを見つつ飛び出すタイミングを計れるような感じ。この程度のDFラインなら容易に攻略できるようになってもらわないと困るのである。しかし、なかなか3点目は入らない。この日は気温はそれほど高くなかったが日差しはとても強く、試合途中からははっきり「暑い」と感じられる気候だった(私はTシャツ姿になって観戦していた)。朝は冷え込んでいただけに、選手にしてみれば体力的に(そして精神的にも)相当きつい状況であっただろう。加地の上がりはめっきり減り、藤山は自陣へこもる形になった。結果として福田・ケリーらアタッカー陣が前線で孤立してしまう。
また、これは前半からの傾向でもあったが、慣れた布陣でないだけにコンビネーションははっきり悪い。例えばFWやサイドハーフがDFラインの動きを見極め、さあ飛び出そうかというところでパスは出ず、オフサイドにかかるまいとスピードを緩めたところでボールが飛んできて「あ〜あ」という場面は何回もあった。とにかく攻撃を継続できず、あっさりと相手にボールを渡してしまう。もっとも清水の方もそこを突いて攻勢をかける力はなく、東京が優位にゲームを進める状況はそのまま。ただ、ほとんどフリーポジションで駆け回るMF平松はDFが捕まえづらく、15分過ぎには平松のクロスからバロンが再びヘディングを叩きつける。が、これも土肥ちゃんがファインセーブして2−0は変わらない。
試合が膠着したところで期待がかかるのはやはりアタッカー、それもFWであり、サポーターが1トップ福田のゴールを待ち望んだとしても何ら不思議はないだろう。そうした時間帯、スルーパスに反応した福田がDFラインの裏へ抜け出した。ボールを受けたのが右寄りだったこともあってペナルティエリア内までボールを持ち込んだ時にはやや角度がなくGKも前へ出ていたが、とにかくシュートチャンスではあった。しかし福田はそこで慎重になったのか、中を見て平行のクロスを入れ、あえなくクリアされてしまう。スタンドに漏れるため息。確かに前半に石川が見せて賞賛を受けたのと同じようなプレーではあったのだが……。私の後方に座って前半から「福田ぁ!何やってんだ!!」とか野次っていたオヤジ(福田のことばっかり言ってたからきっとファンなのだろう)が「福田ぁ!お前の職業は何だぁ!!」と叫ぶ。そう聞かれて「FW」などと柳沢のような答えをしてはいけない。断固「点取り屋」と答えるべきなのだ、福田健二的には。
村松OUT大田IN・横山OUTツビタノヴィッチINと渋めの交代(つーか、渋いメンツしかいないのだが)をしてくる清水に対し、東京は石川OUT星IN、戸田OUT・馬場INとヤング(←死語?)な構成にチェンジ。これがしばらくは機能せず、ギクシャクしたサッカーが続く。サポーターから「ご〜ぉる!ご〜ぉる!、ふ、ふ、ふっくだ〜!!」(「ジンギスカン」のメロディで)とコールを受け続ける福田は今度は積極的になり過ぎというか、要求したボールが来ずに怒りを露にしたり(これ自体は悪いことじゃないけど)相手につっかけてファウルを繰り返したり、気合が空回り気味。星は相変わらず周りの状況、特に加地のオーバーラップを「感じてない」し。馬場もパスの出しどころを見つけるのにやたら時間がかかる様子。パスの出し手と受け手の呼吸ってのはその時の状況しだいだから、練習だけじゃ培いきれないものもあるのだろうな。とにかく、時間ばかりがただ過ぎていった。
そんな流れを断ち切ったのは、出場選手中最年少のプレーヤー。33分、フィールド中央でドリブルする馬場が清水DFのギャップを見つけてスルーパス。ドンピシャのタイミングで抜け出した福田は今度こそ迷うことなくゴール目がけて突っ走り、GKと一対一になったところで冷静にインサイドキック、ゴール右隅へ流し込んだ。3−0。3−0!!(うーん、いい響きだ)。ガッツポーズする福田、サポーターの方へ走ってくるかと思いきや、メインスタンド側に走っていく。「あれ?」。福田の走っていくその先には……そう、我がことのように両手でガッツポーズする原監督の姿があった。浦和レッズの監督時代、我慢して使っていた大柴が得点するとやはり喜びを全身で表現していたのを思い出した。こういうシーンの積み重ねでチームというのができていくのだ、きっと。
その後は加地を強引なファウルで倒した平松がボールを持つたびに東京サポーターがブーイングで野次り倒して、でもそれで意地になったのか彼が東京陣を斜めにドリブルで駆け上がるとDFのチェックが全然追いつかなくてピンチになってしまったり、ロスタイムには伊藤がバロンと絡んでPKになって、でもやっぱり澤登がまた外して東京サポーターから「のぼり!!」コールが起きたりと、それなりに楽しめる時間帯(まあどうあっても勝ちなんだから気楽だわな)を経てタイムアップ。大会初戦としてはこれ以上ないスコアで、FC東京好発進である。
清水エスパルスは今日のメンバーならば力がガタ落ちなのは明々白々で、まあ参考外だろう。特にDFラインは、あれでは3失点も仕方がないというもろさ。カップを本気で取りに行くのならば、もう少し引き気味の布陣にしてひたすらバロンをターゲットにして接戦に持ち込む手もありだが、まあせっかくの(というのもなんだが)代表組不在なのだから、若手育成に徹するのだろう。
FC東京は実にリーグ開幕戦以来の複数得点で、1ヶ月以上手にしていなかった勝利をものにした。内容的には仙台戦の方が上だったように思えたが、しかし相手関係はともかく「ちゃんと点を」「3回も」とった、という事実は大きい。今季新加入の選手が活躍したことは、夏以降の戦いを考えても喜ばしいことだろう。あとはコンビネーションか。こればかりは試合を重ねるなりある程度メンバーを固定するなりしないとどうしようもないので、怪我人の復帰状況を見据えつつ根気強くやっていくしかない。
個々の選手では加地・石川・馬場はいいところを見せ、及第点の出来だろう。外国人メンバーとベテランは問題なし。ちょっと伊藤にミスが出るのが気がかりか。負傷退場の戸田は脚の具合にもよるが、「ここが強い」というわかりやすい長所が無いのが苦しいところだ。福田についてはやはり期待をかけすぎかもしれないと思いつつ、でも今のところアマラオの後継者は彼しかいないのだから頑張ってもらうしかない。見ていてプレーの動作幅が大きいのが気になるので、シュートももう少しコンパクトに速いモーションで打てるようになればいいのだが(言うは易し、行なうは難し)。あと、最近毎試合ほめているような気もするが、宮沢のプレーの素晴らしさ。巧く、勇気もあって、ゲームの構造を読む賢さがある。今や攻守の要で、あとは経験を積んでいけば東京の不動の中軸になれるだろう。怪我だけは心配なので、球離れの早さは常に保ってほしいと思う。
いずれにせよ、これで「まずは1勝」。次は、どんな戦いを見せてくれるのだろうか。
2002年4月27日 駒沢陸上競技場
ヤマザキナビスコカップ 予選リーグ第1節
FC東京 3−0 清水エスパルス