数的優位も、カウンターの前に沈む。ため息の連敗。
いつも感心するのだが、清水のサポーターはアウェイでも本当に熱心に駆けつけてくる。ゴール裏いっぱいに広がるオレンジの波。3週間前に見たベガルタサポーターと比べても3〜4倍の規模。踊りも指先まできちんと揃っている感じで、あそこまで行くとサッカーの応援を楽しんでいるのか踊りそのものに重点があるのかわからないような気がしないでもないが(笑)、まああれが彼らなりに確立されたスタイルなんだからとやかく言うことはない。東京ゴール裏からはまた拍手が飛んでいた。最近、いい人ぶってないすか、みんな(笑)。
清水のメンバーは一昔前に比べて非常に地味に感じられるものだった。戸田が出場停止、澤登もサブで森岡や平松の姿もない。三都主・バロンの2トップにトップ下安貞桓は確かに豪華なメンバーだが、若手の多い後方と比べるとちょっと頭でっかちな感じでもある。安はさすがに人気(笑)があり、名前が呼ばれるや清水側からは歓声が、東京側からは大ブーイングが飛ぶ。東京の方は右サイド先発由紀彦で石川はベンチにも入らず、「早くも来季を見据えたか?」とドキッとさせられた(実際は軽い負傷のためらしい)。戸田の代役は馬場。期待の若手ついに初先発、ということで盛んに「ゆーた!」のコールがなされる。戸田とは全く違うタイプだけに、どういうことになるのか興味深くはあった。
キックオフ。清水は後ろの人数が多く、以前のような両サイドの突破力を中核とするオフェンスは陰を潜め、アタッカー3人の個人技を生かして得点を狙うよりソリッドなスタイルになっていた。試合が始まるやフィールド中央に近いエリアに選手が集まってボール争奪戦になるのだが、清水はパスの回りが良く、東京はなかなかボールを奪えない。安がボールを持つたびに東京ゴール裏からは盛大なブーイング。しかし東京サポーターの敵意などどこ吹く風、安は軽やかなボールさばきで攻撃を組み立てる。いきなり5分、ペナルティエリア外から斜め前の三都主にボールを預けると同時に加速、ワンツープレーであっという間にDFの裏に出てゴールを揺らす。我々から見て反対側でオレンジの大軍団が飛び上がり、東京側は沈黙に包まれた。前途多難さを感じさせる立ち上がり。0−1。
しかし幸運なことに、案外あっけなく東京は追いついた。ようやくアタッカーがボールを前向きに持て始めた7分、左サイドでアマラオと馬場のコンビで突破を図りかけたこぼれ球、ペナルティエリアのだいぶ外であったが宮沢が大きなストライドで走り込み、思い切ってロングシュート。ドライブのかかった強い球がGK羽田の手前で大きく弾み、逆をつくような形になってゴールイン。宮沢らしい、あっと驚く同点弾。「シュートは打たなきゃ入らない」。まさに積極性が生んだゴールだった。
これで東京は勢いに乗り、パスワークでチャンスを作り始める。9分、右サイド持ち上がるケリーからライン際の加地を経由、縦に抜けたケリーが上げたクロスを中央で待ちかまえる由紀彦がボレー、ワンバウンドのボールを羽田が横っ飛びで弾き出してようやく防ぐ。19分には敵陣中央でパスカットした馬場からアマラオにスルーパスが通るも、切り返そうとしたところでDF大榎が戻ってシュートできず。この頃にはオーバーラップした藤山からのクロスも見られ、両SBに本職が戻ってバランスの良いサイド攻撃が復活した感じであった。一方清水の方は攻撃の厚みはさほどないのだが、やはり三都主のスピードが脅威なのと、安はフリーでボールを持つと「ため」をしっかり作り、市川の上がりを待ってから展開するなど存在感を発揮。しかしセンターバックと土肥が落ち着いて対処、決定機は与えず。
29分、試合に転機が訪れる。茂庭と絡んだバロンが2枚目のイエローで退場。さらに直後に三都主が茂庭に深いスライディングで警告、東京ゴール裏から「殺せ!」コールが飛ぶなど一時騒然とした雰囲気になる。清水のターゲットマンの退場、東京側は「よし!」と喜ぶわけだが、しかし嫌な感じがしなかったわけではない。こういう場合失点の危険は減る一方、相手に引かれてしまうと崩すのには苦労することになる。特に東京の場合、数的優位というのを存分に生かして勝った記憶というのがほとんどないのだ。案の定清水は前に三都主を残すような形で陣形を下げ、東京は右に左にボールを回すのだがあと一歩シュートまで持ち込めない。終了間際にケリーが放ったシュートも羽田の正面を突き、そのまま同点で前半が終了した。
この日は2万4千人の観客が入った上に「12月下旬の気温」と言われるほどの寒さで、ハーフタイムのトイレは大混雑であった。バックスタンドの混雑を避けようとメインスタンドへ回り、戻って席に着くと既に後半は3分を経過。そして私は、座った瞬間に(寒さのせいじゃなく)凍りつくことになった。東京陣でボールを奪った清水が、アタッカーの数は少ないながらもスピードに乗ってカウンターの体勢に。東京ゴールまではまだ距離もあり、ここは当然時間を稼ぐ守備をするべきだったのだが、パスが安に渡ったところで茂庭が前に出てかわされてしまい、一気に大ピンチになった。それでも安から三都主へのラストパスにジャーンがしっかりついていって何とかなるかと思われたのだが…。三都主はジャーンを半身かわしながらふわりと浮かしたシュートを放つ。ボールは伸ばした土肥の手をわずかに越えバーの下をわずかにくぐる、絶妙の軌道を描いてゴールへ吸い込まれた。清水にとってはこれしかない、東京にとっては最もやってはいけない形での勝ち越し点。しかも、後半開始早々の「いい時間帯」。「またかよ」と思ったのは私だけだろうか。
1点リードした清水はそれまでにも増して攻撃に人数をかけなくなり、三都主・安以外のフィールドプレーヤーで守りを固める形に。ただでさえ攻めあぐねていた東京は、これで完全に苦しくなった。突破口を開こうとパスを回し続けるがなかなか防御網の穴は見つからず、バックラインでのパス交換が増え、そのうちボール回し自体のスピードも精度も落ちてスタンドで「あ〜あ」というため息とブーイングが増えていく。むしろエスパルスの方が効果的な縦のボールで得点機会を作る気配があったくらい。注目の馬場もスペースのない中トラップ・パスのわずかなズレからボールを失う姿が目立つ。こうした時でも存在感を示したのは由紀彦で、宮沢のクロスをダイレクトボレーで叩いて清水ゴールを襲うなどスピードと技術でDFの裏を突きかける場面が何度かあったが、フォローも少なく散発的な見せ場にとどまった。
18分、この状況を見かねた東京ベンチが動く。藤山に代えてサウスポーの鈴木を投入。鈴木はピッチに入ると三本指を立てて3バックの指示。守備を減らして左右からの崩しを狙う。攻撃のチャンネルが増えたことでパスの回りは良くなり、清水は自陣深くへじりじりと追いつめられていった。19分には左から鈴木が上げたクロスが逆サイドへ流れ、タイミングよく上がっていた茂庭がまことに不器用そうな、しかし気持ちは伝わる必死フェイントで勝負し、DFをかわしてクロスを上げる。20分には三都主が猛スピードのドリブルで東京ゴール前まで突進するが、加地・浅利の2人マークに土肥ちゃんの飛び出しで何とか防ぐ。
こうなってくると当然クロスのターゲットを増やすべきで、その通り24分に馬場OUTで福田IN。この日の采配の意図はスタンドで見ている限り非常にわかりやすかったと思う。さて、これで東京の狙いは一層明確になった……はずなのだが、そう割り切ってガンガンクロスを放り込むのにプレーヤーがやや躊躇するところがあったように見えた。特に加地がボールを持った時には迷いが見え、自分の後ろにセンターバック2枚しかいなかったことと足の調子が万全でなかったことも考慮したのだろう、余裕をもってボールを持ち上がってもなかなかクロスを上げず、由紀彦やケリーの助けを待つようなそぶりが見えた。しかしこの時点で由紀彦は前線でパスを待ち受け、ケリーはフィールド中央でボールさばき役に徹していたためフォローに赴かず(あるいはフォローするにしても遅くなり)、結果的に一度ボールを戻してビルドアップし直すシーンも。なかなかクロスが上がらないのを見て「早く上げろって!」と苛立ち始めるスタンド。そのうちジャーンや茂庭が次々にオーバーラップしていくことでいよいよ前にボールを入れざるを得なくなり、やっと加地も縦に勝負、あるいはアーリークロスを上げまくる態勢になった。
いくらアタッカーの数を増やしたとはいえ相手DFが既に待ち受けるところへ放り込んで行くのだから、確かに一回のプレーで決定機になる確率は低い。しかしこうした状況である以上、何度となくボールを上げ、はね返された球をまた拾って繰り返すしかない。29分には由紀彦の突破でとったCKからのこぼれ球がゴール正面で待つ鈴木の足下に落ちるが、懸命に足を伸ばして放ったシュートはバーのはるか上へ。35分には加地のクロスが福田の胸へすっぽりと収まる大チャンス。ストライカーとしての最大の見せ場。が、しかし、福田はトラップした瞬間に前につんのめってしまい、急いで体勢を立て直してシュートを放つもすでに羽田が飛び出してコースを消していた。逸機。さらに東京は右から左からクロスを上げ続けるが、しかし選手の配置があまりにもゴール前に張りつきすぎたか、セカンドボールを拾える位置に選手があまりおらず、波状攻撃にならない。清水はそうして拾ったボールを素早く安と三都主につないでカウンター、あるいはコーナー付近に流れて時間を稼ぐ。38分には鈴木のクロスに福田がファーサイド頭で合わせるも、羽田ががっちりキャッチ。42分には安のダイレクトボレーシュートがゴールポストを直撃。そして、いよいよ「最後のチャンスか」という終了間際のCK、東京は土肥までもが猛然と攻め上がる総攻撃(最後尾に残された浅利がどうポジショニングしていいのか困惑するほど)。しかしこんな盛り上がる時に限って宮沢のキックは大きくぶれ、ボールはファーに流れて見せ場にもならず。結局、1−2のまま試合終了。東京連敗。
清水エスパルス、というよりゼムノヴィッチ監督(紹介時に清水側スタンドからブーイングが飛んでいた)はやはり今季の不調が堪えた(というより首がかかっている)のだろう、「魅せる」ことは脇に置き、守備をしっかり固めて少数の優れたアタッカーのカウンターで得点するという、乏しい戦力で勝点を拾うには最も適した「現実サッカー」に変貌していた。一サッカーファンとしては、以前の両サイドに市川・三都主を並べたダイナミックな攻撃サッカーがとても魅力的だっただけに残念に感じるのだが、しかし怪我人続出・補強費欠乏(推定)のチーム事情を考えると四の五の言っていられないのだろう。少なくとも、負けた側がとやかく言ってはいけない(笑)。安貞桓はW杯での活躍から予想していた以上にいいプレーヤーだった。スピードもテクニックももちろんあるが、それ以上に素晴らしいのが視野の広さ。彼を経るとボールの展開していく方向がとたんに広がる感じで、周りのプレーヤーを存分に生かすことができる。こういうプレーヤーはトップよりもその後ろに置くのが正解だろう。それと決勝点を決めた三都主だが、確かに相変わらず速いしうまいんだけど、少々冷静さを失いがちだったのが気にかかった。ちょっとした接触で足を押さえて転げ回るのもやめた方がいいぞ。ブラジル出身だか何だか知らないけど、キミは中田英のような堂々としたプレーでも立派に通用するんじゃないのかね。
FC東京は、試合運びの下手さ加減もここに極まった、という感じのゲームだった。はっきり言って自滅だと思った。相手は主力数人を欠いたエスパルス、しかも早い時間帯で退場者を出してくれて「はい、勝点3どうぞ」というプレゼントのシチュエーション。「いえいえ、そちらこそ勝点3どうぞ」と丁重にお返ししてどうする(笑)。まあ、後半点が取れなかったのは清水の必死なディフェンスもあったし、あれだけ引かれると駄目なのは東京の伝統なのである程度やむを得ないと言えないこともないような気がしないでもない(笑)のだが、しかし後半立ち上がりの不用意なディフェンスからの失点はいただけなかった。今季負ける時はいつも立ち上がりか終了間際にやられているような気もするのだが、気のせいだろうか?先に失点せず、勝点3をちらつかせながらグラウンドの幅を広く使って振り回していけば、相手の守備陣だってそのうち必ず崩れるものを。あと気になったのは、鈴木・福田と投入した後選手間で攻め方についてやや意志の不統一があったように見えたこと。クロスを早めに放り込むのか、それとも一回パス交換で崩しにかかるのか。ベンチからもっとはっきりした指示があって良かったかもしれないし、それ以前にグラウンドに出てる誰かがしきらなくては駄目だろう。ジュビロみたいな「大人のチーム」でない限り、「今、我々はこうしなければならないんだ!」と11人をまとめられる「キャプテン」が必要なんだが……。
個々の選手では、由紀彦は切れた動きで何度かチャンスを作っていた。ゴールへの意欲もあったし、良かったと思う(終盤はあまりに中に入りすぎていたという意見もあるが)。アマラオはちょっと目だたなすぎたような。ケリーは、劣勢になるとタメすぎで失敗するシーンが多くなる。馬場はもう少しトラップやパスの精度を高めないと…。身体的に懐の深さが望めないのだから、半径1mのスペースで勝負できるようにならないとDFのいいターゲットである。鈴木は左サイドで健闘していたけど、中央あるいは逆サイドから切れ込む動きも見てみたいと思った。宮沢はよく動いてボールを拾い、パスまでの判断も早く合格点だろう。加地は足の故障を気にしていたそぶりもあるが、それでも柔らかい上がりは健在。茂庭君は2点目の場面を素直に反省しましょう。だけど、あの気合い満点のフェイント勝負は素晴らしかったと思う。あと、福田は……あれ決めんと一生点なんてとれんぞー!
ま、残り2試合、それでも2連勝すれば3位には手が届くかもしれないというところにまだツキがあるような気もする。今度こそ「終わりよければ全てよし」。例年の終盤失速癖に終止符を打ち、初の賞金獲得を成し遂げてほしいと思う。敵は、いずれも赤い軍団。
2002年11月16日 東京スタジアム
Jリーグセカンドステージ第13節
FC東京 1−2 清水エスパルス