杜の都が黄色く燃える。東京、決定力の差で完敗。

 

 

 昨年来、「仙台スタジアムに行ってみたい」という気持ちは常に私の中にあった。新しいサッカー専用スタジアム、スタンドをまっ黄色に染める熱狂的なサポーター、そして「敗者復活」的ストーリーを背負ったメンバーはいずれも魅力的であったし、また昨シーズン最終戦の劇的な昇格決定と今シーズンの快進撃はさながら2〜3年前の東京の姿を見ているようでもあった。「この目で確かめたい」。4月の日曜日に組まれたアウェイゲーム、仙台行きを決めるのにも全く躊躇はなかった。

 

 実際に訪れてみると、やはり仙台スタジアムは素晴らしかった。仙台駅から地下鉄と徒歩でわずか20分というアクセスの良さ、サッカー専用ならではのピッチの近さ、スタンド全面を覆う明るい屋根。観衆はこの日もほぼ満員の1万9千人で、東京側ゴール裏を除いてはまさにまっ黄色に染め上げられている。コアなサポーターはバックスタンドに陣取っているが、それ以外でも連動して旗がうち振られ、ノリのよい大音響の合唱が場内を揺らす。メインに座った私の周りも、いかにも自信と喜びに満ち溢れた表情の黄色い人々(年齢構成は、本当に様々)で固められた。アウェイとしての最高の雰囲気に、震えがきた。

 マッチデイ・プログラム(100円)を購入。「今日の見どころ」なるコーナーの見出しに太字で「超攻撃とはいえ仙台の攻撃力にはかなうまいとあるのに頬がほころぶ。「かなうまい」かあ。しめの言葉が「今日の見どころは、仙台の攻撃に尽きるのである」なんてのもいいぞ。マッチデイとしてはまことに真っ当なひいきっぷり。本文も東京の事をよく見てるような詳しい書き方をしているし、他のコーナーで「攻守の要は宮沢」と書いてあるのも的確な見方。やるなあ。「気になるヤツら」として小林の名が挙がっているのは「あちゃ〜」という感じだったが(笑)。

 試合前の練習で両チームの選手が登場する。規模は違えど、それぞれに歓声が沸き起こる。東京は小峯が先頭で入ってきた。顔には不敵な笑みが浮かんでいる。「よっしゃあ、俺の舞台だ」。彼の表情から勝手にそんな台詞を読み出して、前節の大敗はとりあえず頭から消えた。「どんな状況でも、やはりコイツがいる限りは戦える」。が、しかし、その後のメンバー発表では小峯の名前は控えに入っていたのだった。東京は右SBで加地が初先発。心配されていたケリー・ジャーンも復帰し、由紀彦と福田はサブ。バイク事故のコバの代わりは戸田。一方の仙台はマルコス・福永を欠く中藤吉が久しぶりにスタメンで、財前がサブメンバーに入った。体調不良のGK高橋の代役は、ヴェルディからやってきた小針。どちらもベストとはいかないが、リーグ中断前最後の試合でそれなりに格好のつく面子は揃えてきたようだった。

 アナウンス時はさして気にもとめていなかったのだが、この時なぜか東京の方にはサブのGKの名前がない。急な体調不良あるいは怪我でもあったのだろうか()。先発陣がアップを終えかけ、控え選手のシュート練習が始まったところでおもむろに小峯がキーパーグローブを取り出す。まさかとは思ったのだが、見ているとそのまま本当にゴールマウスの前に立ってシュートを受け始めた。で、けっこうよく止めるんだ、これが。グローブをつけている最中も飛んできた球を両足を器用に使ってはね返し、低いボールは横っ飛びでキャッチ。「おお、けっこうやるじゃないか。もしかして、ホントに行けるかも?」と思ったその時、頭の上をかる〜く越されてやんの(笑)。「んな背の低いキーパーはいないだろ(笑)!」との心ない(つーか、身も蓋もない(笑))野次も飛んでいた。まあ、試合中に土肥ちゃんが怪我しなくて良かった(笑)。

 

 

 キックオフ。ベガルタサポーター、大迫力の応援を開始。対する東京ゴール裏も負けじと声を振絞ってコールを飛ばす。戦いの臨場感。体が熱くなる。そして、ピッチを挟んだスタンド同士のバトルに触発されたか、立ち上がりから飛ばしまくる両チーム。中盤の狭いエリアで激しいボールの争奪戦が続く。次第に優勢になったのは東京の方で、前線からのチェイシングで仙台の攻撃を分断し、ボールを奪取するや素早いパスワークで押し込んでいく。攻撃の中心になったのは縦のライン宮沢とケリー。両サイドのキープ力に不安の残る中厳しいマークをかいくぐってためをつくり、スペースへボールを流してチャンスを作り出す。右サイドが空けば星が走り込んで鋭いクロスを挙げ、さらに加地も積極的な上がりでフォローする。あと目立ったのは藤山で、ギリギリのタイミングで相手のパスをかっさらっては味方とのワンツーパスを経てオーバーラップしていくお得意のプレーが蘇ってきた。完璧に崩したとまで言える形は少ないものの、アタッカーは次々とシュートを放ってベガルタゴールを脅かす。

 一方、マルコス・福永を欠く仙台の攻撃は、頼みの岩本テルが低い位置どりになりがちなこともあって東京の守備網を崩す場面はほとんどなく、確率の低いアーリークロスや山下を狙ったロングパスが増えていった。そのほとんどをジャーンが防ぐ(そして、ボールをはね返すたびにゴール裏から「ジャーン!」とかけ声が上がる)。藤吉もキレを欠いていたし、一度DFの処理ミスから決定的な場面を作られたものの(シュートは宇宙開発)、危なげのないゲーム運びをすることができた。

 それでも東京がリードを奪えなかったのは、仙台の両CBリカルドと小村の活躍に負うところが大きい。リカルドは正直言ってTVで見ていた時はそれほどいい選手とも思えなかったのだが、生で見てみると全然違う。次のプレーに対する読みが素晴らしく、常にいいところにポジションをとっている。「ああ、あそこが空けばシュートだ!」って時に限って必ずいるんだ、コイツが。で、そんなクレバーなプレーを見せる相方を横目に、小村は相変わらずの肉体派(笑)。ペナルティエリア内での競り合いに強さを見せる。スピードはそれほどないのでぶっちぎれるような気もするのだが、リカルドのカバーリングがうまく後方のコースは消されている。いいコンビだ。

 それと東京に「あと一押し」が足りないのも確かで、例えば右サイドで星がキープした時必ずと言っていいほど加地がダッシュで追い越しにかかるのだが、それに気づかず星は早いタイミングでクロスを上げてしまう。カウンターならあれでも良いのだが、押し込んでいる状況では加地にゴールライン際までえぐらせた方がチャンスが広がるようにも見えた。また、そうして仙台ゴール前で崩しきれない場面が続くと自然とミドルレンジのシュートが増えてくるわけだが、東京にとっては不幸なことに、この日は代役GK小針が大当たり。藤山・戸田の強烈なシュートはいずれも枠に飛んでいたが、小針が鋭い反応で弾き出す。スタンドからは割れんばかりの「小針!」コール。きっと、あの大声援が小針をスーパーサイヤ人にでもしていたのだろう。あんないいキーパーだったっけか?結局、前半は0−0のまま終了。

 

 ハーフタイム、トイレに並んでいたら、バンダナ姿の訛りの入った仙台サポーター(坊主頭。ちょっと怖め)が「なあ、兄ちゃん」と肩に手を置いて話しかけてきた。突然の出来事に、緊張する私。「今日はつまんなくない?」「は?」「いや、試合よ。今日はイマイチだよなあ」「え、パスもそれなりにつながっているし、攻守の切り替えのはやいいいゲームだと思いますけど」「いやあ、東京も小林いねえし、もっと華麗なプレイが見たいと思わねか?小林早く戻ってくればいいのになぁ」「はあ」。いや、それだけの話なんですが。

 

 後半、やはり陣地的には東京が優位に試合を進める。が、ゴールは決まらない。東京側にしてみれば次第に焦れてくるような展開が続き、そうしているうちに仙台のパス回しがスピードに乗ってくる。息切れ覚悟の今季のスタイルだけに、先取点はとてもとても大事なのだが…。微妙なゲームの流れを感じとったのかどうか、仙台は11分に早くも藤吉を引っ込め、財前投入。沸き返るスタンド。直後に仙台のチャンス。岩本の弾丸シュート、土肥ちゃんがかろうじてCKに逃げる。いつの間にやら自陣に押し込まれた形になっている東京。そして左サイドから蹴られたボールに小村が飛び込み、土肥の横っ飛びも届かずゴールネットが揺れた。あっという間の暗転。大観衆が揃って立ち上がりガッツポーズと歓声をくりだす中、東京サポーターの座るゴール裏近辺だけが静かに取り残されていた。

 この先制点が東京のリズムを失わせた。前半のようなワンタッチ・ツータッチでの速いパス回しは影を潜め、攻撃エリアは右サイドの狭いところに偏り、チャンスにもアマラオやケリーに預けては囲まれボールを奪われるシーンが増えていった。アマラオもやわらかいボールタッチからシュートに持っていこうとするのだが、元々それほどモーションの速い方ではないだけに足下を狙われてしまうと苦しい。裏を狙うはずの戸田も抜けそうな場面で切りかえして逸機するなどイマイチな印象だ。23分に由紀彦、27分に福田が投入されるが、いずれも周りとの連携を欠き(体調もイマイチだったかもしれない)状況を打開できない。時間はどんどん進んでいった。一方の仙台は前半とうって変わってグラウンドを広く使うサッカーを展開。ポジションチェンジも交えて左右から揺さぶってくる。特に動きの落ちてきた加地のサイドは狙われまくり、岩本・山田・シルビーニョがたびたびスペースに飛び出してチャンスを作った。結果として加地は引くも上がるも難しくなり、東京の攻撃が薄くなった。

 30分、東京が攻め込んでチャンスを逃したところで仙台はカウンターの体勢に入り、やや右寄りを疾走する山下目がけてロングボールが入る。山下は迷うことなくそのままのスピードで縦に抜け、ペナルティエリアに入ったところでシュート。ボールは飛び出した土肥ちゃんの脇を抜け、ゴールに吸い込まれていった。山下の飛び出しには伊藤がついていったのだが、完全にスピードで振り切られた形になった。とにかくプレーの選択に躊躇がなかったのが良く、東京の攻撃とは対照的でもあった。ともあれ、0−2。アウェイでの2点差は、果てしない重みに感じられた。

 それでもまだ東京は切れておらず、反撃に転ずる。仙台は4バック+森保ががっちり守りを固めた状態でサイドからも中央からも容易には崩れなかったが、唯一可能性を感じさせたのはセットプレーだった。宮沢の左足、そしてジャーン・アマラオの頭に期待がかかる。が、ここでも絶好調小針が東京の前に立ちふさがった。ジャーンがDFの前に入ってそのままゴールへなだれ込むようなヘディングも、体を張ってゴールライン上で押さえる。まったくもって、賞賛すべきプレーぶりだった。それでも東京は39分、ペナルティエリアやや外で藤山がゴールライン方向へ行くと見せかけ、逆方向から走ってきたケリーへ入れかわりにヒールパス。ケリーはドリブルで持ち込んでからDFラインの穴へ右足でシュートを放ち、ついに小針の壁を破ってゴール!1−2。直後、ゴール内でボールを拾うのを邪魔しようとした小村に対し東京のアタッカー陣がよってたかって飛び込んで(これはラグビーか?)ノックアウト(笑)する場面もあり、場内はエキサイト。両チームとも頭に血の上った状態で、「さあこれからだ」と思ったのだが…。

 直後、勝負はあっけなくついた。41分、冷静さを失った東京がふらふらと前がかりになったところ、またしても岩本が左サイドを破る。DFの反応が遅れ、ついていったのは宮沢のみ。テルは余裕をもってグラウンダーのセンタリングを入れる。それ自体は何ということもない球に見えたのだが、あろうことか近い側にいた東京DF(下平か?)が足に合わせそこない、ファーに流れたボールを山下が押し込んでゴールとなってしまった。わずか1点差、ロスタイムも合わせれば時間はまだまだあったはずなのだが、自ら勝負を捨ててしまったに等しい場面であったと思う。東京の数人の選手はがっくりと肩を落とし、別の数人は明らかに腹を立てた風だった。悪い流れの時とは、こういうものなのだろうか。その後はフラフラになった加地をいたぶるかのごとく岩本が左サイドで暴れまくり、ロスタイムに得た絶好のチャンスもジャーンのシュートは枠をそれ、東京は最後の最後まで詰めの甘いままタイムアップ。

 

 試合後、東京サポーターの「財前!」コールをきっかけに、両サポーターのコール合戦が始まった。

   仙台「FC〜東京!FC〜東京!」
   東京「ブランメル〜仙台!ブランメル〜仙台!」
      「まっちがっえた!まっちがっえた!(笑)」「ベガルタ〜仙台!ベガルタ〜仙台!」
   仙台「由紀彦よこせ!由紀彦よこせ!」
   東京「誰〜もいらない!誰〜もいらない!(笑)」
   東京「フォ、ル、ツァ!フォルツァ東京!!」(ベガルタの応援コールのリズムで。よく即興でまねできるもんだ)
   東京「蓮見!蓮見!」(もういねえって(笑))(注2

こういうかけ合いについてはもしかしたら批判的な人もいるかもしれないが、少なくとも敗北で落ち込んでいた心を多少は明るくしてくれたし、スタジアムにいた人々の多くにとって幸福な時間だったのではないだろうか。昨年の日立柏サッカー場のような。

 

 

 素晴らしいスタジアム、素晴らしいサポーター、素晴らしいチーム作り。3つ要素の相乗効果が仙台の好成績をもたらしていることは疑いようもない。この試合の小針が典型例だと思うが、ほどよく閉じた空間でスタンドの盛り上がりが選手をのせ、選手の頑張りが観客を熱くする。それこそがプロサッカーの醍醐味であり、仙台の人々が今充分に満喫しているであろうことは、その誇りと自信に満ちた表情からよくうかがえた。「ああ、楽しいよなあ、この時期は」。2年前を思い出し、自分のひいきチームの停滞した状況(むろん、多分に不運によるものではあるが)と比べてちょっとうらやましく思ったり。応援にも相手チームを変に貶めるような部分がなく、あくまで自チームを「サポート」することに主眼を置いていて、とても好感を持てた(何てったって、同じJ2出身だしね)。あの素晴らしい応援に負けないよう、我々も頑張らなければならないのだ。

 この日の仙台は出場停止・体調不良などにより幾人かの主力アタッカー不在で、特に前半は攻撃にキレを欠いた。しかしピンチにもしつこく食い下がる小村・リカルドの守備が東京攻撃陣のシュートを微妙に狂わせ、苦しい時間帯をしのぎきった。キャプテン森保は要の位置で存在感を見せ、チームの冷静さを最後まで保った。岩本テルはスペースさえあれば左足で破壊力抜群のキックをくり出せることを再確認できたし、山下も華麗さはないが大事なところでふと現れるところが「見えざる力」を持つ彼らしかった。こうした新・旧の戦力を織り交ぜてバランスの良い、崩れにくいチームを作った清水監督の力量はやはり大したものだと思う。

 対する東京は、決して悪いサッカーをしていたわけではない。前からボールをとりに行くプレーはそれなりにできていたし、両SBのオーバーラップも織り交ぜた攻撃は見ていて迫力の感じられるものだった。あとは先取点さえ取れていればなあ……。もし前後半で両チームの陣が逆であったなら勝敗もまた違っていたのではないか(前半小針が東京サポーターの前で守る事になったから)、とさえ思う。確かに怪我人も多くベストメンバーは当分組めないが、藤山の復活や加地が戦力として目処が立ったこと、ケリー・ジャーンが意外と軽症であったことなど明るい材料も少なくない。決して悲観するような内容ではなかったのだ。あとは決定力か。もう何百回と言っているような気もするが、いい加減アマラオに頼りすぎてはいけない。ブレイクスルーする役目を担うのは、福田か、戸田か、それとももっと若い選手なのか。本来「実験場」たるべきであったナビスコ杯は、もうすぐそこまで来ている。

 あと、この日は、なんてったって小峯を先発で使ってほしかったなあ。

 

 

2002年4月21日 仙台スタジアム

Jリーグファーストステージ第7節

 

ベガルタ仙台 3−1 FC東京

 

[注]
 試合後の原監督のコメントによれば、「どうしても勝ちたかった試合で、あえて控えにゴールキーパーを入れなかった」とのこと。確かにJリーグはリーガ・エスパニョーラなどと比べるとベンチ入りできる人数が少なく、選択肢を多く持とうとすればこういう発想が出てきてもおかしくない。基本的に私は勝負処で博打の打てる人間というのが嫌いではないし、原さんを監督にするというのはつまりそういうことなんだろう

[注2]
 ちなみに元東京ガス、昨年までベガルタ仙台の選手だった蓮見氏は現在仙台のコーチの職についております。私も一応そのことは知っていたのですが、コールがフィールド方向に向けられたように思えたので「そこにはいないよ」という意味で書いてみました。仙台サポの方からご指摘がありましたので、念のため。


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