前期閉幕は手痛い一撃で。またも悔しい逆転負け。

 

 

 どうにも乗り切れないFC東京。「攻撃サッカー」を掲げつつもここ数試合は得点がアマラオ1人に偏り、先制しても追加点を奪えぬうちに逆転負けする試合が続いている。この日は1stステージ最終戦。相手は連勝中の名古屋。上位争いは他人事となってしまった東京だが、2ndステージへ向けて、せめて強豪相手に好ゲームで締めくくってほしいというのがサポーターの願いであった。

 

 試合前のウォーミングアップでも、見ているこちらの先入観もあるのか、どうも選手たちの動きにキレがないというか元気がないというか。スタンドの入りも、国立の横浜戦に食われたのかイマイチな印象(最終的には2万人。微妙なところだ)。土肥はいつも通り真っ先に出てきて、精力的に練習。スタンドのガキんちょ子供たちからさかんに声援を浴びていたのが印象的だ。でかくて(わりと)顔も良くて、わかりやすい格好良さがあるからだろうか。グッズ売り場に「ドイ超合金人形」(変形・合体機能あり)とか置いたら売れるかもしれん……いや、売れないな、やっぱり(笑)。

 スタメン発表。名古屋はウェズレイとヴァスティッチの2トップが突出して怖い感じ。あとは若い中村がトップ下に入っているのが目立つ(そういや、三原はどこ行ったんだ?)。平岡・古賀・海本というのはJ1屈指の地味地味3バックではないだろうか。GKは、個人的には世間から過大評価を受けまくっているように思う楢崎。7月の市原戦でも何でもないシュートを自軍ゴールに押し込んでいた。東京は小林稔を左サイドバックで起用。右には加地が入っており、はまれば超攻撃的な両サイドとなりそうである。最近攻撃が右に偏っているのを気にしての起用だろうか。レフェリーは「日本のコッリーナ」(見た目だけは)こと奥谷氏。かつて見た迷判定が脳裏に浮かび、思わず「助けてくれー」※追記1)と叫ぶ。

 

 キックオフ。まずはベルデニック指揮で名古屋がどう変わったかに目が行くのだが、3−5−2の布陣で全体のバランスを重視する、非常にソリッドなスタイルになっていた。特に3バックとその前に構えるディフェンシブMF山口は決して単独行動はとらず互いを見ながら距離を保ち、ユニットとして動こうという意識が伺えた。山口は指示出しも盛んに行い、守備面の現場指揮官という感じ。両サイドは攻撃時にフリーになっていてもえぐっていく場面は少なく、どちらか1人はDFライン近くに残っている。攻撃参加は2トップも含めて3〜4人で、一言で言えば「守備重視」のサッカー。いつもそうなのか、それともアウェイだからこういう戦い方をしてきたのかはよく分からないが、おそらく最近の傾向なのだろう。ともあれ、2階席から見ると名古屋のフィールドプレーヤーの並びは幾何学的な美しさを保ち続けていた。一方、東京の方はいつも通り右サイドからの崩しを中心とするサッカーだが、宮沢は自重しているのかそれとも体が重いのか、ほとんど攻め上がるシーンがなく代わりに下平の方がやたら元気で攻守に顔を出す。それと両サイドバックの上がりも少な目で、ここ数試合の反省からかこちらもバランス重視という印象であった。

 やや東京攻勢で試合は進む。ケリーの個人技からボールをつなぎ、右サイド石川がさっそく2〜3度抜けるがいいクロスが上がらず、アマラオには合わない。名古屋の方は、どちらかと言えば東京の攻撃を受けとめた上で陣形の崩れた部分にアタッカーが走り込む、カウンター狙いの攻撃。7分、東京陣左サイドでフリーになったヴァスティッチが切り込んでシュートを放つが、土肥が横っ飛びでセーブ。10分には中央を持ち上がったケリーからDFラインのギャップ(これを見つけられるようになったのが戸田の成長したところ)に飛び込んだ戸田に決定的なスルーパスが通るも、シュートはわずか右に外れた(ここがまだ成長できるところ(笑))。18分には右スローインをゴールライン付近までドリブルで持ち込んだアマが意表を突くヒールパス。ブレーキをかけるようなプレーに守備陣形が乱れフリーのケリーからゴール前へ飛び込む戸田へグラウンダーの折り返しが入るが、必死にカバーリングに入るディフェンダーともつれる形でシュートは枠外へ。22分には右サイドでケリーが山口を軽くかわしてクロスを入れ、ディフェンダーのクリアがきわどくサイドネットを直撃する。とにかくこの日はケリーがキレキレでチャンスを量産するが、しかしゴールは遠かった。

 そうしているうち、24分にFKのクイックスタートからヴァスティッチの放ったシュートがバーを直撃し、いや〜な感じがし始める。30分には敵陣でボールを奪った宮沢からDFラインの隙間に走り込むケリーに絶妙のタイミングでパスが出るが、しかしあっという間にディフェンダーに囲まれ、苦肉のスルーパスもオフサイドとなって逸機。前半半ばを過ぎたあたりから名古屋はジリジリと前に出て、両サイドの攻撃参加も増えていった。東京は守備の面では2人のセンターバックを中心に安定していたが、攻撃はどうしてもケリーを通す形になってしまい、ケリーのマークが厳しくなると(必ず1人はディフェンダーがついていた)次第にチャンスも作れなくなってしまう。

 が、先制点はそんな流れとはほとんど無関係に生まれた。38分、敵陣中央でこぼれ球を拾った石川が一旦右サイドに流れてから縦に入り、思い切ってシュート!距離・角度とも難しい地点ではあったが、しかし強烈なボールがゴール右に飛ぶ。ここで楢崎お得意の「ニアのシュートを味方ゴールに押し込むプレー」が出て、はっと気がつけはボールがゴール右奥でネットを揺らしていた。攻め続けていた時間帯にまったく入らず、テンションが下がっていた場面ではあっけなく得点。サッカーというのは本当に難しい、意外性のスポーツである。これで名古屋にも火がつき、40分にはヴァスティッチの強烈なFKを土肥がパンチングで逃れ、続く連続CKをアマラオのブロックなどでしのぐ。44分にはウェズレイのクロスを土肥がかぶり、ファーでヴァスティッチが飛び込むも、ボールはバーを直撃して冷や汗ものの守備。何とか前半は1−0で終えることができた。

 

 ハーフタイム、サブの選手たちが出てきて練習。試合前のアップの時もそうだったが、福田のシュートがポスト・バーに当たって外れまくっているのが気になる。練習は練習だし僅かの差といえばそうなのだが、しかし入ると入らないとでは大違いだという認識は大事だろう。

 

 ここのところイヤな時間帯(味方がとれば「いい時間帯」となるあたりね)に失点するケースが多いだけに気がかりな後半立ち上がりだったが、結局またやってしまった。3分、左コーナー付近からペナルティエリア角方向へドリブルする中村が切り返したところで加地がついていけず転倒してしまい、強烈なミドルシュートが土肥の手をはじき飛ばしてゴール右へ突き刺さった。1−1。苦労して奪った前半のリードが振り出しに戻ってしまう「こたえる」1点。柏戦ではここから盛り返し京都戦ではそのままズルズル崩れたのだが、さてこの日はどうなるか。興味深く、楽しみでもあり、また怖くもある展開だった。

 で、この日の東京にはそれなりの反発力があった。ここからはほぼ終始攻勢を続けていく。9分にはスローインからDF裏に飛び出した石川がゴールライン寸前までえぐってからクロスを上げるが、中で待ち受けるアマラオと戸田の間のディフェンダーに合ってしまいゴールならず。13分には加地のアーリークロスに反応しファーに流れたアマラオが懸命のヘディングでゴール右上を狙うも、あえなくボールは枠を外れていった。試合前の練習・指示による修正に加えて比較的暑くない気温も味方したか、前線とDFが分離して中盤スカスカになっていた最悪の頃に比べると陣形の崩れも少なくバランスは決して悪くない。

 ただし、東京の攻撃はあまりにも右に偏りすぎていた、ケリーとのコンビで石川が抜けてクロス(あるいはアタッカーが上がりきるのを待って加地のクロス)→アマと戸田は名古屋3バックに完全にマークされていて競り勝てず→はね返りをダイレクトで宮沢が狙う→宇宙開発というパターンが何度かあった。さらにケリーも周りを使うというより自分の技頼みになりすぎており、31分にはカウンターの形になってここぞとばかりにアタッカーたちが上がっていったのだが、ケリーはそちらに出す気配もなくボールをこね回したあげくに力のないシュートを放ってしまう。アウミールの姿とダブって見えたのは私だけだろうか。煮え切らない戦いの続く中、東京は戸田に代えて福田を投入。古巣相手の福田の爆発力に賭けたのだろう。しかし戸田の裏を狙う動きも貴重なもので、むしろここは中盤に喜名を入れて攻撃的にすべきだったのではないだろうか。結局福田投入を最後に試合終了まで東京ベンチは動かず、連敗中ゆえの消極性がかいま見えた。

 終盤になっても攻めたてる東京、カウンターを狙う名古屋という構図は変わらない。33分には30m近いヴァスティッチの弾丸FKを土肥が横っ飛びで防ぐ。東京の方は相変わらず戦い方そのものはしっかりしており何度もクロスが入るが、あともう一歩、パンチが足りない。「戦え福田!」コールもゴール裏から起こるが、それではまるで福田が戦っていないようでなないか、とちょっと腹が立つ。福田に欠けているのは技術や周りとのフィットであって、決して気持ちで戦っていない訳ではない。名古屋相手だから鼓舞するつもりのコールだったかもしれないが、私が福田だったら誤解してチームを飛び出てもおかしくはない。39分には加地から速いクロスがゴール前に入るも、やはりアマラオのヘッドは枠に飛ばない。

 で、ロスタイムに入って1分ほど、「延長戦の覚悟を決めねば」と思ったその瞬間。右サイドでヴァスティッチがカウンターの体勢にはいると東京のディフェンダーはそちらに引きつけられ、逆サイドでウェズレイがフリーに。すかさずヴァスティッチはスルーパス。これがピタリと合えばGKと一対一の場面だったが、しかしパスが強すぎボールはファーへ流れていく。命拾いか?が、この時中に入ってくるヴァスティッチをしっかりと抑えておけば良かったのだが、ゴール前のディフェンダーが一瞬彼を放してしまう。ウェズレイから素晴らしいコントロールのクロスが入ってきた瞬間に勝負は決まっていた。ヴァスティッチのヘッドがゴール右隅に決まり、非常に悔いの残る勝ち越し点。ロスタイム残り時間、クロスに福田・アマラオらが必死に足を伸ばして飛び込む攻撃も実らず、東京はまたしても逆転負けを喫した。

 

 本サイトの昨年・一昨年の市原戦の観戦記を読み返してみると、「訓練の行き届いた動き」「コンパクトなサッカー」「幾何学的な陣形」「爆発力はない」「面白みはあまりない」とあり、それはこの日の名古屋のサッカーにもほぼそのまま当てはまるように思える。名古屋といえば「まったりサッカー」の権化だったが、そこから脱却しようとベルデニックを招致。ジェフに比べて選手の能力が高いせいかそれとも監督の指導の説得力が増しているせいか、より早く戦術が浸透し結果が出つつあるようだ。ただし、戦い方がソリッドになると選手の能力が制限されてしまうリスクも増えがちであり、ともすれば「好成績を収めるが優勝には決して手の届かないチーム」になる可能性もある。確かに、バランスに気をつかいすぎて思い切りの良いプレーやスピード感といったものには欠けていたような気もする。おそらくベルデニックは、今の戦い方が安定した時点で、両サイドアタッカーのダイナミックな攻撃をスパイスとして加えたいのではないだろうか。はたして2ndステージではJリーグ2強の一角に迫れるか。

 FC東京はここ数戦の反省からバランスを修正してきた様子で、戦いぶりは終始安定していたと思う。ただし、その代償として攻撃に面白みと柔軟性が欠け、試合中の采配にも迷いが出てきたように見えた。攻撃については、もう完全に「右サイド」と「ケリー」の2つの経路しかなくなってしまった。結果としてクロスは待ちかまえるディフェンダーの餌食となり(アマが競り勝つ場面も減ってきている)、ケリーはボールを持ちすぎてこれまた格好の標的になってしまう(それでも、幾度も個人技でチャンスにしてしまうところは凄いが)。両サイドバックの組合せはバランス良くかつ積極的にサイドを使っていこうという意図だったと思うが、稔は何度か上がって行くもほとんど使ってもらえず、加地も石川と絡んで突破するよりもアーリークロス上げ係になってしまっていた。今のパターンのままではちょっと苦しい。あと、京都戦のあと原監督のコメントにあったような「攻める時は攻め、引く時は引く」はもっともだが、これはこれで実行が難しい事柄だ。後半の中頃、東京がペースを握りつつも攻めきれない時間帯、やはり喜名を投入して叩き潰しにかかるべきだったのではないだろうか。リードしていたのならあのままでも良かろうが、点をとって勝ちに行かなければならない状況にあったのだから。2ndステージまでにチームコンセプトの整理と再確認が必要だろう。

 あと、最近サポーターからの批判がとみに高まっているらしい宮沢だが、この日もまた元気がないと言えばなかった。攻撃参加の少なさにしろ可能性の低いミドルシュートにしろ、あれしかできないのかそれとも指示によるものなのか。おそらく後者だとは思うのだが、チームの戦法的にも彼にとって厳しい状態になってきているようにも見える。というのも、今の東京は開幕時のようなFWからDFラインまでの距離が少なく相手を陣内に押し込み、ボールを取るや速攻で点をとってしまう「イケイケサッカー」ではなくなってきているからだ。相手陣内で守備をしてダイレクトにゴールを狙うサッカーなら宮沢の守備力でも充分だしキープ力を問わず左足の威力が生きるのだが、しかしDFラインをあまり上げず中盤が広いままでケリー・石川の個人技に頼る今の戦い方だと、あっさりドリブルで抜かれたりキープしきれない場面がどうしても目についてしまう。宮沢びいきの私としてはスタンドから罵声を浴びる彼の姿を見るのは結構つらい。レベルアップを期待したいが、チームとしての結果が出ない中そぐわない戦術に無理に合わせさせるくらいなら、いっそ使わないのも手ではある(代わりのセットプレーキッカーがいれば、の話だが)。

 

 ステージ最終戦ということで試合後には選手たちが(ベンチ入りしてないメンバーも含めて)スタンドに挨拶。怪我している連中やサテライトで頑張っている連中の姿も確認できた。スタンドからは「ナビスコとれよ!!」※追記3)のコールが飛ぶ。そう、まだまだシーズンはこれからなのである。今のこの悔しい気持ち、次の舞台ではらしたい。それは選手もスタッフもファン・サポーターも同じだろう。もちろん私もそうだ。

 

 

2002年8月17日 東京スタジアム

Jリーグファーストステージ第15節

 

    FC東京 1−2 名古屋グランパスエイト

 

 

[追記1]
 奥谷レフェリーは、予想に反して(と言っては失礼だが)真っ当に試合をコントロールしていたようだった。割とボールの近くで見ていたように見えたし、カードが出なかったのも良かったと思う。先日の長田さんといいこの日の奥谷さんといい、悪い先入観を持っていた審判がちゃんと試合を裁いてくれるとかえって嬉しさが増したりもする。たまたまその試合で微妙な状況がなかっただけか、それとも審判の技術が向上しているのか。後者だったらとても嬉しい。

[追記2]
 私の斜め後ろに座っていたオッサンがジャーンがヘディングするたびに「ジャーン!」と叫んでいて、その行為自体が嫌とは思わないのだが、試合がうまく行っていない時でもそれをやられ続けるとイライラしてくる。ワンパターンには気をつけよう。もっとイケイケの時にやろうぜ。

[追記3]
 この日の東京スタジアム、ピッチに近い高さでコウモリがはばたいているのが何度も視認できた。あれはきっと宮本の手先に違いない。ナビスコカップの偵察に来たのだろうか(笑)。


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