「攻撃東京」、鹿退治!開幕戦で前回王者に圧勝!!

 

 

 「らしさ」は残してほしい、とは思っていた。

 2002年のシーズンはFC東京にとって変革の年となる。クラブ発足以降初めての監督交代が行われ、若く有望な戦力が大量に入団。原新監督は「攻撃サッカー」を旗印にこれまでのカウンター主体戦法からの脱却を目指すと宣言した。J1に昇格して2年、東京のサポーターはひたむきな「部活サッカー」でビッグクラブから思わぬ金星を挙げるチームに熱狂しながら、一方で強くもない相手にも得点を奪えず、結局は中位に甘んじる姿にある種の停滞感を感じるようになっていたのも事実だろう。「OUR NEW BEGINNING」とは東京スタジアムが完成した昨年のキャッチフレーズだが、大きく脱皮を図り「タイトル獲得」を目標に掲げる今年こそ、まさにその言葉がふさわしいのではないだろうか。天皇杯初戦敗退から3ヶ月、我々は期待と不安に胸を膨らませて開幕戦を迎えた。相手は三冠王者鹿島アントラーズ。新たな船出において「胸を借りる」には、実にいい相手であった。

 

 試合開始1時間ほど前にバックスタンド2階に到着。場内の入りは意外に少ない(最終的には、3万人余り)。今年はW杯イヤーでもあり、昨年8月の同カードはスタジアム初の大入り満員となったこともあって混雑を予想していたのだが、いったいどうしたのだろう。単に1年目の新スタジアム効果が消えた、ということなのだろうか。試合前の練習では、鹿島側のグラウンドにのみ報道カメラの列が並ぶ。さすがは三冠、さすがは日本代表7人。「ちっきしょー」。忘れかけていた反骨心がムクムクと沸き起こってくる。

 スタメン発表。FC東京はほぼ予想通りのメンバー。リハビリ中の藤山に代わって左SBには下平が入り、CBがジャーンと伊藤、右は小林稔。新加入の加地も見たかったのだが、練習試合での稔の好調さを買ったのだろう。ボランチにDF的な浅利ではなくパサーの宮沢が入っているところに、攻撃重視の思想が垣間見える。1トップのアマラオ、左から小林成・ケリー・由紀彦と並ぶ2列目は不動。一方の鹿島は中田浩二が出場停止で本田が入っているくらいで、あとはベストと言ってよいメンバー。シーズン前から先発出場がさんざん注目されていた本山の名前が、やはり目を引く。2トップはW杯でもそのまま代表のスタメンとなるかもしれない柳沢&鈴木。そして主審は、先日プロ契約を結んだばかりの「スペシャル審判員」岡田正義氏。この試合がシーズン全体の開幕戦(他の試合は日時が後)、大事な試合であることを感じさせられた。

 キックオフ前、「恒例」のホームゲーム・オープニングセレモニー。今年は新日本プロレスの蝶野によるPK始球式だ。黄色いアルファロメオに乗った蝶野が現れ、大音響の花火が打ち上がる中スタンドに手を振りつつ場内を半周し、ピッチに立つ。ここまでは良かった。しかし、そこからがちょっと…。まず、蝶野が行ったマイクアピール、あれはプロレス好きの奴には受けるのかもしれないが、しかしサッカーファンへの受けを考えるとまずかったかもしれない。しゃがれ声での絶叫はマイク音量の大きさと相まって何を言っているのかよく聞き取れず、内容も「鹿島ァー!東京ゥー!準備はいいかあー!!」って、こう、グッとくるものがなかったなあ。PK戦の相手も中学生だし(弱い者いじめじゃないんだから)、スタンドは盛り上がっている人2割、愛想笑いを浮かべている人3割、引いている人5割、といったところだったろうか。一昨年の「春一番」、昨年の「三杉君」の出来が良かっただけに、少々がっかりさせられた。それと、選手入場時にゴール裏で青赤色の煙が吹き上がる演出は、バックスタンドから見るときれいだし別に害はなかったのだが、ゴール裏の人は視界も奪われるわくさいわでえらいことになっていたに違いない。

 そんなこんなしているうちに、キックオフ。東京はやはりDFラインを高く押し上げ、前々から積極的にボールを取りに行く。力関係からいって守備的に行くのではないかと予想する向き(「サッカーダイジェスト」とか)もあったようだが、しかし原監督はおそらく信念の人なのだろう、相手がどこであろうとまずは自分たちのスタイルで挑もうという意志がしっかりと伝わってきた。鹿島の方も昨年と同様にFWレベルの高い位置からプレッシャーをかけてくる。立ち上がりからしばらくはハーフウェーを挟んで、両チームが狭いスペースを攻略しようと行き来する攻防が続いた。鹿島のパスの成功率がやや高く押され気味にも見えるが、しかし東京はDF陣が的確なポジショニングで落ち着いてはね返し、流れが大きく傾くことはない。

 9分、スルーパスからDFラインの裏に出た由紀彦のシュートがポストを直撃し、それを合図にしたかのように試合が動き出す。10分には右に流れた柳沢からパスを受けた名良橋が、東京CBの間に入る正確なクロスを上げてヒヤリ。そして11分、ケリーのスルーで右サイドのスペースに抜け出した由紀彦がややスピードのないグラウンダーのセンタリングを入れ、左サイドから猛スピードで走りこんできた小林成がDFの間を割って押し込み、ゲット。開幕前のハレルヤ戦から目立っていた、原監督待望の「鋭角的にゴール前に入ってくる動き」がいきなり出て、東京先制。ややクリアに躊躇したDFの死角から抜群のタイミングで入ってきたのも、いかにもセンスにあふれる小林らしいプレーであった。

 昨年までだとここで一息ついてしまうところだが、この日の東京は得点後も同じペースを維持。前へ出る動きを止めなかった。そして17分、鹿島陣中央での宮沢のFKはあっさりはね返されたが、それを拾った東京DFはすかさず前方へフィード。再びこぼれた球に宮沢が突っかけると、ボールは中央に入っていた小林成の足下へ。この時点で東京は4対3と人数的な優位に立っていたが、小林はさらにドリブルでCBファビアーノを引きつけてから左サイド上がっていた伊藤哲にラストパス。伊藤が冷静に決めて2−0。前にかける人数の多さ・内容(DFラインの要が最前線に!)からして1点目以上に「攻撃サッカー」を体現する得点であった。

 2点目後、東京はパスがスムーズに回るようになり、さらに前へ前へガンガン出て行く。ウイングハーフがボールを持てばサイドバックがダッシュで追い越して行き、中央からは宮沢が精度の高いミドルでアマラオの頭を狙う。サポーターも「攻撃ー!東京!!」「守るなー!東京!!」とコールで選手を後押し。場内は(鹿島側を除いて)ノリノリの雰囲気になっていった。一方の鹿島はリーグ戦前の連戦がこたえたのか、この時間帯は明らかに様子がおかしかった。全体的に動きは鈍く、自陣でも容易にパスをカットされて東京の攻勢を許し、守備でも東京の出足に戸惑ったのか局面での人数的なミスマッチ(戻りの遅さ?)や相手の動きを見てしまうプレーが目立った。注目の本山も得意のドリブルよりはパスを選択することが多く、簡単に倒れてしまう。前線の選手で一貫して怖さを感じたのは鈴木くらいだった。

 それでも前半半ばからは東京も攻め疲れが出たか、中盤のプレスが甘くなり、鹿島のチャンスと東京のファウルが増えていった。鹿島はボールを取るとダイレクトにつなぎ、東京の両サイドから中のFW・飛び込んでくる2列目の選手に合わせるパターンでゴールを狙う。ボランチといっても宮沢はかなり前目に位置するためDFライン前のスペースはどうしても空きやすく、東京のDFが前に出るか横に開くか躊躇したところで横にはたかれてしまう。クロスが上がる瞬間、もしくは上がったところで東京のDF陣(特に下平)は懸命にブロックに行き、失点は防ぐ。が、長時間守りに追われるうちにビルドアップの意識は低下し、クリアするとホッとする様子を見せてこぼれ球への反応は悪く、拾われてはすぐまたピンチになってしまう。「このシチュエーションならカウンターだ!」と言いたいところだが、39分、左サイドドリブル突破したケリーから逆サイドへクロスが上がり、中央の由紀彦までつないだもののシュートはバーのはるか上を越してしまう。41分にはペナルティエリア内で鈴木のヒールパスから小笠原の狙い済ましたコントロールショットを土肥ちゃんがぎりぎりはじき出し、42分には浮き球に反応した柳沢がDFライン裏に抜けるが、これも土肥ちゃんが何とか抑える。

 2点差ではまだ勝負はわからない。イヤーな感じになってきたロスタイム、東京は貴重な追加点をもぎ取る。鹿島陣、ヘッドの競り合いから浮いたボールをフリーになったアマラオが「とりもちトラップ」で確保。アマはゴール方向に振り向くや、すかさず左サイド名良橋の背中へ走り込む小林成へスルー。小林はダイレクトで中央へ折り返し、ゴール正面に走りこんでいたケリーが押し込む。これ以上はない時間帯、流れを再び呼び戻すゴールで3−0。この試合の解説を原博実がやっていたら、必ずや「いい時間帯にとりましたね〜」と言ったことだろう(いや、他の3点についても言ったかも(笑))。ともかく、我々がJ1昇格以来最大級にいい気分でハーフタイムを迎えられたのは間違いない。

 

 後半、鹿島は本田に代えて野沢を投入。あきらめない姿勢を見せて攻撃にかかるが、しかし東京も相変わらずしっかりしたチェックで決定機を許さない。7分の野沢のミドルも土肥ちゃんががっちりキャッチ。そして8分、東京はペナルティエリア付近のパス回しから右サイドの由紀彦へ。由紀彦は低く速いクロスを入れ、中央にダイブするアマラオが頭に当てて逆サイドに流し、きっちりファーに詰めていた小林成がGK曽ヶ端の股をぶち抜いてゴール。4点目。つーか、信じられないことだが、鹿島相手に4−0!!である。もう止まらない東京、さらにイケイケムードを持続させて攻撃を続ける。みんな、自己改造セミナーにでも通ったんじゃねえか(笑)。9分、稔がDFを背負いながら低く(笑)力強いドリブルでペナルティエリアへ進入、ケリーへラストパス(タイミングがずれて反応できず)。10分にはもはや棒立ち状態の鹿島DFを尻目に由紀彦→小林成にパスがつながり、ペナルティエリア内フリーのアマへ(切り返そうとして失敗)。

 その後は、精気を失った鹿島とひたすら前向きながら次第にガス欠気味になって行く東京とが交互に攻め合い、両チームの布陣も試合のテンポもやや間延びしていく。ゲームを通じて抜群の強さを見せてくれたジャーンは相変わらず鹿島の攻撃をチャンス一歩手前でことごとく止め、「新守護神誕生」をアピールしてくれた。つーか、ポジショニングと読みの良さもあるのだろう、あまりに一人で止め続けるので途中からは「またか」「またかよー」「(笑)」と、私はもうひたすら笑っちゃっていた。さすがに元セレソン、さすがドイツ人(ブラジル時代の愛称。誰だ、つけたの(笑))。対する鹿島は柳沢・鈴木に代えて平瀬・青木を投入。自慢の2トップに無理をさせたくない気持ちもあったろうし、ゲームの中で「やられた」気分になっていない若い2人に期待する気持ちもあったのだろう。結果的にはそれなりに当たる交代であった。

 24分、名良橋のクロスに対してファーサイドに走りこんだ野沢の弾丸ヘッドを、土肥がワンハンドでファインセーブ。ダレかけたところでこの一撃、ホントこの試合は飽きなかった。26分にはアマOUT、福田IN。福田を本来のゴールゲッターのポジションで使う原監督の方針には賛成したい。28分、本山に対して東京ゴール裏から「オカマ!」コールが浴びせられる。以前吉原もそう野次られていたのだが、色白の男子に対して偏見があるよなあ(笑)。30分、中盤で粘る福田から左サイドどフリーの小林成にパスが出るが、トラップミスしてハットトリックを逃す。もうこんなチャンスは二度とないのではないだろうか。惜しいことをしたもんだ。

 34分、鹿島は左サイド本山からの低いクロス気味のパスでDFライン裏に飛び出した平瀬が右足で土肥ちゃんの脇を抜き、1点返す。東京ゴール裏からは余裕しゃくしゃくの「東京みやげ!」コール(鹿島って、ほんっと〜に遠いからねえ)。東京はその直後、由紀彦に代えて18歳の馬場を投入。馬場は変に硬くなった様子もなくよく動いていたが、ちょっと簡単にボールを預けすぎているようにも見えた。せっかくプレッシャーもなくやれるシチュエーションだったのだから、もう少しドリブル勝負する姿を見たかったように思う。

 終盤はイラついた鹿島選手がファウル→警告を連発。43分には名良橋のシュートがポストに当たって土肥ちゃんの胸にスッポリと収まるなど最後までエンターティナーぶりを発揮した東京だったが、ロスタイムに秋田の意地のヘッドが炸裂、2点目を献上してしまう。この時の秋田のジャンプは遠めに見ても息を呑むダイナミックなもので、なんだか「てめえら、あんまり調子こいてんじゃねえぞ!!」と兄貴にどやしつけられたようにも思え、直後に終了のホイッスルが鳴っても妙に謙虚な気持ちにさせられたものだ。まあ、最後まで点差をキープできない詰めの甘さがいかにも若い(出場選手はそれほど若くなかったが)チームらしかったし、「負けて反省」できるのはむしろいいことなのだろう。結果自体は、誰がどう見ても、完勝。

 アントラーズには、やはりシーズン前の連戦(アジアクラブ選手権およびゼロックス・スーパーカップ)と日本代表合宿の疲れがあったのだろう。どの選手も、いかにも体が重たそうではあった。「おおっ!」と思わせたのは立ち上がりのパス回しくらいで、あとは積極性に欠ける攻めと受身がちな防御を繰り返す時間帯が多かった。まあ、この試合は参考外と言っていいのだろう。J屈指の実力を持っているチームであることに全く変わりはないし、ここ数年の傾向からしてW杯後、特にセカンドステージから調子を上げて帳尻を合わせてくるに違いない。ただ、ビスマルクを放出して本山をジョーカーとして使えなくなったことは確実に采配の幅を狭めるし、あと柳沢・小笠原・中田あたりはW杯後海外移籍の可能性もある。だから、オフに目立った補強がなかった(2連覇で年俸が高騰したから?)ことが終盤になって効いてくるような気がする。磐田も弱体化しているとはいえ、3連覇は容易なことではあるまい。

 東京は初戦から今季のテーマである攻撃サッカー、もとい、イケイケサッカー(by由紀彦)をど派手に披露。相手陣からの強烈プレスと怒涛の攻撃でディフェンディング・チャンピオンを粉砕し、全国3千万サッカーファンの度肝を抜いた(多分)。鹿島の不調もあったとはいえ、目指すサッカーの原型をプレゼンテーションしつつこれ以上ない結果を残したことで、とりあえず原監督に対するサポーターの見方も変わってくるに違いない(就任当初は懐疑的な見方が圧倒的だった)。つかみはオッケー、である。もちろんまだ1試合をこなしたに過ぎないのであって、采配や今季のチーム力に対する評価を下すには早すぎる。それでも私は、少なくともしばらくは、この試合で見せてくれたサッカーをとことん突き詰めていってほしいと思う。せっかく掲げたテーマである。行けるところまで行ってみて、壁にぶつかって(大量失点で沈むとか)はじめて立ち止まって考えてみればいいじゃないか。そうでなければ得られるものも得ることができないだろう。

 選手では、何といっても小林成光。2得点2アシスト。以前から攻撃センスの良さはチーム随一だったが、新スタイルの下「ゴール前に切り込んで点を取る」役割が明確になったことで輝きがいっそう増したように見えた。現代のサッカーオフェンスの要はサイド。右に続いて左の翼も安定した強さを発揮できれば、チームはそうそう得点力を失わない。あと、守備では下平の献身的な動きが目立ち、ジャーンの読みの良さと当たりの強さも素晴らしかった。フォーメーション的には昨年までは「4−1−3−1−1」(浅利がDFライン前で防波堤となる)だったのが、今年は中央に宮沢が入ってウイングハーフが前にせり出し、文字通りの「4−2−3−1」になっている。いくらラインを上げてプレスを激しくするとは言っても、どうしてもDFラインの前・横にアタッキングスペースが生まれてしまうのだ。となればむしろ、「全体に攻撃的な中でどう守るか」がチームの成績にとって重要になるのは言うまでもない。そうした意味でも、DF陣の頑張り(意地の2点は返されたが)は嬉しい材料だった。

 冒頭に書いたように、監督が代わることで戦術が変わるのは当然としても、「東京らしさ」は残してほしいと思っていた。正直言って、「堅守速攻」から「攻撃サッカー」に変わることでFC東京の戦いが変質してしまうのではないかと心配であった。だが、開幕戦を見て私が抱いた感想は、「ああ、やっぱり東京だ」だった。選手たちは、チャレンジャーだった。強い相手にも臆せず挑み、必死にボールを追い、「攻撃的スタイルへの転換」という課題に懸命に取り組んでいた。それを「部活サッカー」と呼ぶかどうかは、この際どうでもよい。決して強者のサッカーに陥らず、ひたむきさを忘れない。深い部分で、東京は変わらぬ魅力をたたえていた。今シーズン東京がどのような成績を収めるかはまだ見えない。でも、この日のようなサッカーを見せてくれれば、たとえ勝てなかろうと私は彼らを支持する。

 新しい戦いが、始まった。

 

2002年3月2日 東京スタジアム

Jリーグファーストステージ第1節

 

   FC東京 4−2 鹿島アントラーズ

 

 

[追記]
 本文中にも書いたように、この日はJ初の日本人プロ審判員たる岡田氏が笛を吹くということでも注目のゲームであった。岡田さんは毅然とした態度で特に問題なくゲームをコントロールしていたように見えたが、しかし東京の選手の危険なプレイには一発で警告が出る(これはこれで仕方がない)のに鹿島の選手のファウルにはなかなかカードが出ないように見えたのは、私の目にサポーター・バイアスがかかっていたからであろうか。


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