ジュビロの壁は厚し。高原の2発に沈み、完敗。

 

 

 ジュビロ磐田は、Jリーグの王者である。

 ここ数年、私にとってのジュビロとはそんな存在だった。常に優勝・準優勝を獲得する戦績、軽快なパスワークを中心とする「魅せる」プレースタイル、日本代表をズラリ並べたメンバーとその一方で安易な「豪華」補強に頼らない若手選手の育成、そして真っ青に染まるホームスタジアムと堅実な経営……。まさにジュビロは多くのJクラブにとってのお手本であり、良い目標であると言えよう。FC東京もまた例外ではなく、(もちろん真似することはないが)ジュビロ磐田は「追いかけるべき背中」なのだと思う。だからこそ、毎年のジュビロ戦は自分たちのクラブの進歩の度合いを確認できる、私にとって特別な試合なのである。

 

 キックオフ50分ほど前にスタンドに到着。この日はチケットが完売しており、通路もいつになく混み合っている。中央から端へどんどん座席が埋まっていく様は見ていて気持ちが良いが、しかし飲み物1杯買うのにもえらく行列するのは困ったことではある。まあガラガラの客席に比べると良いことには違いなく、文句を言ってはいけないのだろう。発泡酒をようやく手に入れ、ampmで買った夕食をとりながらスタメン発表を聞く。東京は先週と全く同じ先発メンバー。控えにはアマ、馬場、喜名、茂庭。磐田の方は中山隊長・西・鈴木秀が出場停止だが、それでも名波・藤田・高原・福西・服部らそうそうたるメンツが並ぶのはさすがというしかない。

 

 キックオフ。立ち上がりはやや東京ペース。4分、ケリーとクロスして真ん中を上がっていった宮沢が戸田を使った壁パスでペナルティエリア内に進入するが、磐田DF必死のカバーでクリア。8分には左サイドで藤山→福田→ケリー→戸田と素早くつないで戸田がGKと1対1に(惜しくもオフサイド)。こうしたタッチの少ないパス交換で相手ディフェンダーの裏に出る攻撃と右サイド石川の個人技が今の東京の生命線で、11分には石川からDFライン裏に絶妙のパスが通るが、飛び出した福田がオフサイドで得点ならず。一方磐田は攻撃時には前節の広島と同様、スピード不足気味の東京DFライン裏を縦に狙う意図が見られた。藤田・名波が前を向いてボールを持つとツートップの高原・グラウがスタートを切って東京CBを背走させる。で、カバーに入ろうと両SBが中寄りに位置するとすかさず脇のスペースに誰かが走り込み、パスが出る。ただ、結果としてCKが多くなっていたのは気になったものの、完全に崩された場面はなく、劣勢の印象ではなかった。

 試合が大きく動いたのは16分。磐田のFKをはね返したこぼれ球が名波にわたり、名波は東京がDFラインを上げてくるのを見るや左足のアウトサイドでゆるい浮き球を前線に送る。この意表を突いたプレーに東京守備陣は完全に裏をとられ、戻りが遅れた。名波の意図を感じて走り込んだ福西に対して慌てて土肥が飛び出すも交錯、こぼれ球が戻ってきた伊藤に当たって福西の前に転がり、逆サイドめがけてクロスを送るともうそこにディフェンダーはいなかった。きっちり詰めていた高原が苦もなくボールを転がしてゲット。東京からすればのどから手が出るほど欲しかった先制点だが、逆に一発のプレーで取られてしまった。

 先制した磐田はあまり前に人数をかけすぎずバランスを保ち、余裕をもってパスを回し始める。気温30度を超えたこの日のコンディションを考えて体力温存の意図もあったのだろう、とにかく無理のない戦い方で、能力の高い相手にこれをやられるとこちらとしては実につらい。東京はボールをとるために宮沢・下平が走らされ、ボールをとっても磐田の陣形が崩れずアタッカーへのマークがきついためパスの出しどころがなく、コースを探したあげくにパスミスという場面が相次いだ。ジリジリと時計は進み、観客のストレスが高まっていった。

 この日の東京で目立ったのは福田の出来の悪さ。ボールの収まりが悪いのは相変わらずだが、序盤からオフサイドにもかかりまくりで、それを気にして次第にスタートを試みる回数自体が減っていった。下がってケリーからどフリーでパスを受けたのにノートラップで後ろに返してしまい、それをカットされピンチに陥った場面ではスタンドのあちこちでため息がもれた。対照的に磐田の高原は足下にボールが入った時に強さを見せ、容易にとられない。一旦ボールを落ち着かせてからトイメンのディフェンダーと勝負する姿には風格さえ漂っていた。残念ながら、両チームのFWの差は明らかだった。

 それでも、磐田が完璧に試合を進めたというわけではなく、東京も数少ないながらチャンスは作った。30分、福田が右サイドへはたいたラインを割りそうなボールを石川が強引にダイレクトでクロス。34分にはジャーンがクリアミスした球をグラウが拾って土肥と1対1になるが、土肥は飛び出して体でセーブ、続く混戦で転んだ高原にはシミュレーションの判定でイエローが出された。36分にはスルーパスに反応した石川がDF山西の後ろをとって素晴らしいスピードでペナルティエリアに進入したが、シュートは惜しくもゴール左に外れた。決まりはしなかったが石川のプレーは気持ちと脚力と技術が融合したもので、持ち味爆発!という感じではあった。で、結局0−1のまま前半終了。

 

 ハーフタイムには「ファイヤーワークス」ということで花火が上がったのだが、バックスタンドに座っていた私は屋根のガラス越しに眺めることしかできなかった。あとは、大型ビジョンでですか(笑)。まあ、スタジアム全部から完全に見えるようにするのは無理だろうし(まさかピッチのど真ん中で上げるわけにもいくまい)、出口方向に子供たちが殺到していたのでコンコースに出るわけにもいかず、やむを得ないところか。

 

 後半、東京はアマラオ投入。いつもそうだが、原監督の采配は意外と(笑)常識的で理にかなっていると思う。いきなりアマが頭ですらしたボールがケリーの足下に入って戸田のクロスに結びつき、期待感が高まる。が、磐田は前半と同じように無理にペースアップせず、少ない選手で攻撃し(ここが個人能力の高さとリードしている側の強みなのだが)、決定機まで行かずともきっちりシュートで終わる。東京は低い位置からの攻撃の組み立てを余儀なくされ、なかなかチャンスまでたどり着けない。おまけに、前半走り回らされたのが効いたか、ボールを持っていない選手のフォローがどんどん遅くなり、ケリーやアマが孤立してボールをとられてしまう。辛い展開は変わらなかった。

 4分、左サイドケリーが持ち上がって右サイドにどフリーの選手がいる願ってもない形になったところで、ケリーは直前のプレーで倒れたDF大岩を気にしてボールをピッチ外へ。「いくらなんでもちょっとお人好しなのでは」とも思ったのだが、でも「クリーン東京」だから仕方がないか(笑)。次のプレーでの磐田のボールの返し方も非常に良く、またその後一旦外に出た加地がなかなかピッチへ入ることを許されず、やむなく東京が外へボールを出した際にもボールを返してくれたし、ジュビロって何だかいい奴じゃん、みたいな。ま、ただ単になめられてたという噂もあるが(笑)。

 10分前後、ジュビロにパスミスが続いて一時東京の攻勢になる。パスミスを拾ったケリーのスルーパスで右サイドアマラオが抜け、こぼれ球を下平が拾って再びスルーパスでアマがゴールライン付近まで進出。アマはグラウンダーでセンタリングするが、走り込んできた下平は一歩届かずノーゴール。これを見て「隠れた名将」鈴木監督はすかさず動き、スピードスター川口投入。川口のスピードに伊藤はついていくのが精一杯で、16分には切り返しでぶっちぎられてシュートを打たれる(コースはとんでもなく外れたが)。あっという間に磐田ペースに回帰。それを見て今度は東京が喜名を投入。両監督が必死に流れを呼び込もうとする采配合戦。東京も中盤でためを作ってアタッカーが上がれるようになったこの時間帯こそ、まさに勝負の分かれ目だったに違いない。

 が、しかし。さすがというべきか、ここでも先手を取ったのはやはり磐田だった。21分、中盤で喜名を囲んでボール奪取、服部から左サイドでスタートを切っていた川口へパスが通り、川口は弧を描いてあっというまにゴール前まで到達した。このシュートこそ土肥ちゃんがきわどくセーブするものの、混乱状態の中次のCK、藤田が蹴ったボールをニアにいた高原が完璧な角度のヘディングで叩き込んで0−2。大騒ぎになる磐田側ゴール裏、一瞬棒立ちになる東京の選手。ジャーンの悔しがる姿、前に出て檄を飛ばす土肥、素早くセンターサークルにボールセットするアマラオとケリー。重い2点目だった。

 追加点を取ってからは磐田の守備も多少タイトさが薄れ、東京はサイド中心にチャンスが作れるようになる。だが、疲れからアタッカーの上がりのスピードはますます遅く攻撃参加自体も減っていき、ペナルティエリア内で合わせに行く人数が足りない。たまにケリーや喜名が中央突破を試みても磐田のダブルボランチが立ちはだかって前進を許してくれない。服部の守備は見ていて職人芸を感じさせるもので、ケリーからあれほどきれいにボールをとれるディフェンダーはそうはいないだろう。27分には左サイド高い位置でケリーがボールを奪い、クロスに戸田が飛び込むがDF・GKと交錯してシュートが打てない。28分には喜名から左のスペースに走り込む戸田へボールが渡り、クロスにディフェンダーを振りきったアマラオがドンピシャのタイミングで合わせて叩きつける!……しかし、ボールはあえなくゴールポスト僅か左を抜けていった。41分にはジャーンが駆け上がってDFラインの裏へ飛び出し、ボールがゴールネットを揺らしたが、これまたオフサイドで得点ならず(しかしこの気合いの入った上がりには胸が熱くなった)。

 終盤の東京の抵抗で最も印象的だったのは、やはり石川だった。左にポジションチェンジし、様々なアプローチで磐田守備網の攻略を図る。31分には弾丸クロスをゴール前に入れるが飛び込んだ戸田がわずかに届かず。44分には左から切れ込んでミドルシュートを放ち、ボールが僅かにバーの上を通過。さらにロスタイムにはFKからのこぼれ球をペナルティエリア内で拾ってシュートを放つも、これもGKに当たってゴールならず。結局東京は無得点のまま試合終了。完敗ムードの中、石川の健闘は数少ない明るい出来事で、我々の心を多少なりとも癒してくれたように思う。試合後、先頭を切ってサポーターに挨拶に向かう姿も堂々としたもの。ゴール裏からは「いしかわー東京!!」のコールが送られた。

 

 

 今年のジュビロ磐田は、竜巻のような攻撃による無敵ぶりを誇った昨年に比べるといささかトーンダウンしているように思える。奥も抜けたし、清水も抜けた。前節さいたまスタジアムでの出来からすれば、出場停止が3人もいる今節は正直チャンスだと思ったのだが…。桑原体制以降構築・補強されてきた土台は未だ堅固であるようだ。高い組織力が個人能力を高め、高い個人能力が組織力を高める循環。正直、まだまだ実力が違うように思えた。名波はボールタッチは少ないながらも攻守のバランスをとりつつ肝心な場面で得点を演出。藤田は自在な動きとシンプルなボールさばきで攻撃の要となっていた。高原は……ここでいきなり復活するなよ、おめー(笑)というか(でも、病気が治ったのは良かった)。福西は相変わらず「くせ者」だし、服部や田中の技術の高さを感じさせる守備は金を払って見る価値があると思う。このチームに弱点があるとすれば、控え選手の層の薄さと、あとDFラインで山西がやや弱いのが気にかかるところか。まあ、少なくとも優勝争いはするだろう、間違いなく。

 東京の選手では、石川の健闘がとにかく光った。持っているプレーの種類が多くて、彼がピッチ上に存在するだけで攻撃のオブションがいくつも増える。かつて由紀彦が「おれたちーのー、ゆきひこー!!」というサポーターのコールを聞いて完全移籍を決意したように、ゴール裏のコールが彼を完全に「東京の選手」にしてしまえればどんなにいいことだろう。ケリーは相変わらずの働きだが、今日は周りの助けが無く結果的に「持ちすぎ」の場面が多くなってしまった。宮沢はジュビロの中盤に完全にあしらわれていた様子。前半から守備で振り回され続けたのが相当響いたようにも感じられた。動きの質をもっと高めなければいけないということだろうし、もう1人のボランチの助けがもっと必要ということも言えるだろう。アマラオは暑さもこたえていた様子で、30代半ばの彼に頼っている状況をいい加減なんとかせねば、と書くのはこれで何度目になるだろう(笑)。そういう意味では前節の戸田爆発もあって福田には期待していたのだが……ちょっとワントップはつらいのかもしれない。気持ちが点を取る方に向かいすぎていて、で、ボールを前で落ち着かせることができなくて、結局チーム自体の攻撃が散発的になって彼のところにもボールが来なくなる、という悪循環にはまっているように見える。果たすべき役割の理解が足りないのか、それとも単なる実力不足か。

 まとめてみよう。我らがFC東京、またして磐田を破ることはかなわなかった。実力の違いを見せつけられたというか、個々の状況判断でも役割意識の徹底でも差があったように思う。それでも先制点を奪えれば、あるいは撃ち合いになればチャンスはあっただろうが、最後までゴールを割ることはできなかった。磐田に比べても攻守にメリハリがなく、攻撃サッカーも相手ペースに呑まれてしまえばただの単調なサッカーに陥ってしまう。この課題(ペースの問題)については、今後また修正していかなければならない。今はまだチームとしての「引き出し」も経験も少なすぎるのだろう。これからジュビロのような強豪チームに追いつくためには、まだまだやるべきことはたくさんあるのだ。私はサポーターとしてその過程を見守り、ぜひとも後押ししたいと思う。

 次の、あるいはその次の対戦こそ。

 

 

2002年7月20日 東京スタジアム

Jリーグファーストステージ第9節

 

FC東京 0−2 ジュビロ磐田

 

 

[追記]
 この日のレフェリーは、馴染みの薄い村松さん。スタンドからは批判的な声も飛んでいたようだが、公平な感じだったし特に問題なかったのではないだろうか。むしろ問題は副審にあったような気がする。オフサイドフラッグというのは、パサーが蹴ったらすぐ上げるべきだろう、趣旨からすれば。


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