またしても主力を失い苦戦。残業続き、お疲れ様の勝ち点1。

 

 

 開幕戦こそ華々しい戦いぶりで世間を驚かせたFC東京だったが、その後は三浦文丈の戦線離脱等もあってやや苦戦続き。この日はW杯のための長い長いリーグ中断前最後の試合でもあり、ぜひともスカッとした戦いを見せてほしかったのだが…。

 

 昨シーズン磐田戦以来の国立開催。開始30分ほど前に22番入口の上に陣取る。ぱっと場内を見渡した感想は、「きゃ、客が少ねえ……」。バック中央と東京側ゴール裏こそまとまった観客がいるものの、それ以外のスタンドは閑散としている。完全にJ1昇格初年度に戻ってしまったような光景だ(公式発表1万4千人)。おまけに選手紹介時の音響も屋根の無いせいか響きが悪く、盛り上がらないことこの上ないというか、しょぼさ満点というか、とにかく「ああ、もう我々の『ホーム』は東スタ以外にないのだなあ」と実感させらてしまった。まあのどかな雰囲気と言えないこともなく、別に私自身は「これはこれでよし」という感じだったのだが、しかし西の方の盛り上がりとは対照的に東の方ではFC東京人気はここ2〜3年全然変わっていないということなのだろうか?

 メンバー発表。東京は由紀彦が腰痛で欠場。サブメンバーで尾亦・前田の名前が呼ばれ、場内が沸く。怪我人続出の中、原監督にしてみれば「ここで若手を使わずしていつ使うんだ」ということなのだろう。もうノリノリイケイケである。今年入団してきた若手は(彼ら個人としては)運にも恵まれているのかもしれない。ま、加地や茂庭はどこへ行ったんだ、という気もするが。市原の方はミリノビッチ・大柴が欠場。昨年のホームでチンチンにやられた記憶のある村井はなぜか控え。相手は相手で苦しそうな布陣ではあった。主審は柏原氏。スタンドのあちこちから「えー!」と不満の声が上がっていた。

 

 キックオフ。しばらく両チームが中盤でボールを取り合っているのを眺めていたら、突然東京ゴール前でうずくまるジャーンの姿が目に飛び込んできた。異様にどよめくスタンド。心配の声があちこちから飛ぶ。が、結局12分に小峯と交代。現在防御の要がジャーンであることは誰の目にも明らかで、さらに治療を受けている間に崔のヘディングシュートが枠をかすめたこともあり、いきなり彼を欠いたことは我々にとてつもない不安をもたらしたのだった。「やばいよなあ」。ただ、救いはサブに小峯が入っていたこと。ハードタックルが身上の小峯と判断力で勝負する伊藤なら、組み合わせとしてはそう悪くない。

 立ち上がりこそ市原の速い寄せにパスコースが見つからず、アマラオへのロングボールをはね返され続けていた東京だったが、アクシデントにもめげず次第に前目でつっかけてボールをとり、それなりに攻撃の形を作れるようになる。特に宮沢のところでボールを取るか、攻めの早い段階で宮沢に渡るとボール回しの滑らかさが1段階上がり、高い確率でチャンスになる。11分にはアマ→星→ケリーと渡り、ケリーがゴール前でキープしてアマのシュートにつなげるが、これは櫛野が横っ飛びでセーブ。18分には宮沢のスルーで星がDFラインの裏に飛び出すもオフサイド。ただ、由紀彦を欠いている現状では、ボールの奪取率は上がってもそこからの崩しにおいて手詰まりになるシーンがとても多い。星は無難にはプレーしているのだが、まだケリーや小林稔と通じ切っていないように見受けられた。35分にはペナルティエリア右からのFKで宮沢が意表をつくグラウンダーを入れ、ケリーがシュートを放つが惜しくも右に外れた。

 一方の市原は序盤からとにかくサイドを基点に、あるいは早めにロングボールで崔めがけて入れるベタなサッカーを展開。もう明々白々バレバレ(さながら「崔大作戦」ですな)のターゲットなのだが、それでも競り勝ってシュートまでもって行く崔は「すごい」の一言。屈強な体を生かすだけでなく、大きなストライドで巧みにマーカーのタイミングを外して「半ズレ」の体勢に持ち込む。松田あたりには見習ってほしい技術だ。

 そして、入る確率はともかく崔が一人でシュートを打ち続け、それを土肥がセーブし続けているうちに市原のパス回しのテンポが次第によくなり、前半の終わり頃には完全にペースを握られてしまう。39分、それまで目立たなかったFW羽生がタックルを次々に外し、ペナルティエリア前まで持ち込む。ここで伊藤が倒してしまい、正面でのFK。阿部のシュートを土肥がかろうじてワンハンドで弾き出す。市原はワンタッチ・ツータッチでパスを回し、崔に当てると同時に2列目以降の選手がオーバーラップしてくる。それまでは何だったんだと言いたくなるような活性化ぶり。一方の東京は息切れしたか、前目でかかっていく守備が消え、ファウル以外で止めることができない。43分には左サイドからのクロスを崔が落とし、坂本がノーマークでシュート。ボールは土肥の手をかすめ、ポストに当たってかろうじてノーゴール。そしてスコアボードの時間表示が消えた45分、ペナルティエリア斜め前からのFK。阿部の東京DFラインとGKの間を狙ったクロスに対し、マークがずれていたのかただ一人DF茶野が飛び出し、あわてて土肥が前に出てクリアしようとするが一瞬遅く、ボールはゴールの中へ。劣勢の中、「このままハーフタイムになればいい」と思っていた時間帯の痛い失点。それまで土肥ちゃんが好セーブを連発してくれていただけに、あっけないやられ方にスタンドも唖然としたまま前半が終わった。

 

 後半立ち上がりも引き続き市原ペース。東京の守備陣は市原のパスワークに全くついていけない感じで、よって全体的に引かざるを得ず、せっかくボールをとっても今度はアタッカーの絶対数が不足するという悪循環に陥っていた。3分には羽生がオフサイドラインの裏に抜け、土肥が一対一をかろうじて防ぐ。こういう展開になると土肥ちゃんはどうしても仕事が増えてしまうが、しかし仕事量が少ないときに限ってポカをするGKなので逆に安心して見ていられたりして。

 7分、セットからの早い仕掛けに反応した浅利が逆サイドのスペースに走りこんでパスを受け、久しぶりのチャンスに。ケリーがチェックに入ったDF1人をかわしてからゴールライン際まで進入、中央のアマラオに合わせたがシュート際どいタイミングでブロックされる。しかし、この浅利の機転の利いたプレーが流れを呼び込み、一転して東京がペースをつかむ。浅利の積極的なフォローが加わったことで右サイドで数的優位を作れるようになり、チャンスが続く。ここで問題となったのはやはり星で、クロスの弾道は悪くないのだがあまりに淡白すぎてゴール前でマークのズレが全く起こらず、決定機には至らない。前にスペースが開けていてもえぐらずに確率の低いクロスを繰り返したプレーぶりは、由紀彦との力量差を感じさせるものであった。そして逆サイドの小林もこの日はイマイチ。球離れが悪く、ドリブルでも抜けずにチーム全体のリズムを壊し気味であった。彼もコンディション的に万全でないのだろうか。また、市原の3バックはなかなかの安定度で、特に中央の中西は抜群の身体能力を生かして広い範囲をカバー。彼の素早い詰めでシュートチャンスを逃す場面が何度もあった。

 しかし15分、ついにゴールが生まれる。ケリーが右サイドからオーバーヘッドで上げたクロスにアマラオが競り、CK。右サイドから宮沢がニアに入れてDFが小さくクリアしたセカンドボールに対し宮沢が自ら詰め、ペナルティエリア角付近から火花の出るような強シュート!ボールは鋭く転がって櫛野の脇の下を破り、ゴールネットが大きく揺れた。技巧派レフティーが突如見せた豪快なプレーに総立ちのスタンド。ただならぬ歓声、絶叫が響き渡る。いつもは我ながら比較的クールな私も、この時ばかりは喉をからすくらい大きく叫んでしまった。そのくらいにインパクトの強い、一発でこの日のチケット代を回収できたようなシュートだった(まあ冷静に考えれば、単なる櫛野のミスという気もするが(笑))。その後も波状攻撃で攻め立てる東京。19分にはサイドチェンジから右へ展開、そこから上がったクロスをファーサイドでアマが落とし、櫛野がこぼしたところをケリーが詰めてゴール!狂喜乱舞の場内!!………しかし柏原主審は無情にもノーゴールのジェスチャー。オフサイドの判定(ホンマかいな)。

 21分にダーマスに代わって村井が登場。ここで再び試合の流れが変わる。交代直後、カウンターからさっそく村井がDFラインの裏に抜け、一対一になった土肥がかわされかけるが、東京のDFは泥臭く飛び込んで部活ブロック!はね返りを拾った崔のシュートも折り重なるようにして防ぐ。26分にはムイチン(だったっけ?)にかわされかけた小峯が倒してペナルティラインぎりぎりのFK。ムイチンが狙ったシュートがバーを叩く。村井はDF2人をかわしてFKを取るわ、はね返りを狙い済ましたロングシュートで枠に飛ばすわの大活躍。なぜ途中からの出場になったのか全くわからないが、しかし一気に流れをジェフ側に取り戻した。東京も不調の小林に代えて松田を投入するが、攻勢に出ることがなかなかできない。

 34分、ペナルティエリア付近での崔との競り合いの後、小峯のユニフォームの背中から何やら白いものが見える。どうやらユニフォームを破られたようだ。いかにも小峯らしいちょっとかっこ悪い光景に、スタンドからも笑いがこぼれる。が、自らサイドラインの外に出て着替えるよう小峯に指示しておいて、着替えを待つ小峯を置き去りにしたまま柏原主審がゲームを再開すると、一転してブーイングの嵐に。相手のファウルでユニフォームを破られたのに、何でこちらが不利を被らなくてはならないのか。「ジェフの選手のユニフォーム破いてやれ!」の声も飛ぶ。そもそも試合全体を通じて基準のよくわからない判定を連発してスタンドの怒りを買っていた柏原主審は、場の混乱を全く落ち着かせることもできない。季節外れの長袖を着込んだ小峯が再登場するまでに失点しなかったのが、せめてもの救いか。

 終盤になると両チームとも中盤でプレスがきかなくなり、ノーガードの攻め合いに近くなる。左サイドえぐられたところからのシュートをまたまた土肥ちゃんがセーブ。42分には左サイド下平からのアーリークロスを松田が頭ですらして後ろに落とし、どフリーの星が抜けるが、トラップが大きくシュートは大外れ。ロスタイムにはケリーの反転スルーからまたしても右サイドを浅利が抜け、センタリング。松田が渾身のヘディングシュートを放つが、櫛野が横っ飛びでセーブした。結局ゴールを割ることはかなわず、東京にとっては3試合連続の延長戦となった。

 

 延長に入ると市原はスピードのある林を投入して勝負に出る。一方の東京は、星OUTで初出場の尾亦がIN。ここからはいかにも延長戦らしい、両チームのゴール前を「行ったり来たり」のサッカーになり、ペナルティエリア内で両チームにシュートチャンスが山積み。しかし、なかなか試合は決まらない。アマラオのシュートはわずかにバーを越し、尾亦のシュートは左へ抜ける。市原はサイドをえぐっては(星にもこれくらい思い切った攻めがあれば…)ゴールを脅かすが、東京DFの粘りもあって中央へ決定的な折り返しが入らない。

 東京は、4分に頼みのケリーが負傷退場、前田が初出場となったのだが、夕方の照明の下でただでさえ見づらい上に見慣れぬメンツが多く、フォーメーションさえもよくわからない。尾亦と前田の姿・ポジションをようやく確認したところで、気がついたら前半が終わっていた。

 

 後半開始直後、セカンドボールに反応した下平の目の覚めるようなロングシュートが枠に飛ぶが、しかし櫛野がまたまた横っ飛びでセーブして決まらず。東京は途中出場の若い連中も全くひるむことなく「普通に」プレーしている様子で、ワイドな展開もあり、主力を何人も欠いている割にはそれなりのサッカーを展開。が、それも最初の5分までだった。伸びきった中盤は両チームとも同じながら、一番前に強い崔・速い林と異なるタイプのまだばてていない(崔はアマほど守備に帰らないからね)FWを揃えている市原の方が攻守ともに余裕があり、東京のイレブンは守備に奔走させられることになった。

 5分にはロングボールから林がラインの裏へ抜け出しかけるピンチを、DFがゴール前土のうの様に積み重なって防ぐ。7分には左サイド林からのクロスに崔が足で合わせるが、わずかにゴール左へ抜けた。さらに直後の林のシュートも、土肥の伸ばした腕の外を抜け、わずかに枠の左へ。その後の時間帯も東京は市原のクロスへの対応に追われ続け、ボールをとった時でもクリアが精一杯。みんなフラフラした様子で組織的な攻撃など全くできない。結果として前線に張ったアマラオがひたすら走り続けることになるのだが(老人虐待だな)、親子ほども年の違う尾亦や前田が平然とアマの前方めがけてボールを出していたのは、ちょっといい光景だった。13分にはロングフィード一発で崔と小峯が一対一になり、崔が鋭い切り返しからシュート!速いグラウンダーに土肥の手も届かない。「うわ!!」、スタンドで叫び声が上がった瞬間そのボールを防いだのは………またしてもゴールポストだった。バックスタンドの一部からは「ポスト!ポスト!!」のコール(笑)も上がる。そうこうしているうちにホイッスルが鳴り、「お疲れ様」の勝ち点1が両チームに与えられたのだった。

 

 ジェフ市原の印象は昨年とあまり変わりがなく、飛び抜けた選手は崔くらいしかいないが「そつなくまとまった好チーム」だ。ベルテニックが2年間かけて築き上げた土台はしっかりと受け継がれているようで、少なくともシーズンを通じて大崩れはしないように思える。実際この日もミリノビッチ・大柴という主力を欠きつつも、組織的な攻撃と防御で優位に試合を進めていた。まあパンチ不足と言えばパンチ不足なのだが、クラブの経済的事情で補強が制約されている以上、現有戦力を生かして地道に勝ち点を拾っていくしかない。そういう意味ではここで勝点3がほしかっただろうし、ジェフサポーターはさぞかしゴールポストが恨めしいだろう(笑)。個々の選手では崔のゴール前での存在感、羽生のトリッキーな動き、村井のサイドでの切れ(なぜ先発で使わない?)、セットでの阿部の正確なキックといったところが目立った。あと、昨年来DFラインの安定度にはそれなりの定評があったように記憶しているのだが、今回リベロの位置に中西を入れたのは正解だろう。あれだけ広い範囲を激しくカバーできる選手がいると、攻撃側としては間際のプレイでとてもシビアな状況になってしまうものだ。「後ろがしっかりしている」というのも、今年のジェフが堅調な成績を収めるだろうという私の予想の根拠である。

 FC東京はこれで3試合連続延長戦を戦い、2分け1敗。開幕から連勝した勢いを考えればいささか物足りないようにも思えるが、それでも文丈・由紀彦・ジャーン・ケリーと次々と主力を失う中でこの日はよくぞ勝点1を拾ったなあ、というのが正直な感想だ。チャンス以上にピンチが(それも終盤に行くに従って)多くなり、ポストにも3度ほど助けられたのだから。それにしても、文丈の戦線離脱はやはり痛い。痛すぎである。今年の東京のチームコンセプトの本質は、要するに相手ボールの時でも「ゴールを守る」のではなく「攻めるためにボールを奪う」という意識付けにあると思うのだが、先頭を切ってそれを実践できる中盤リーダーを欠いたことにより、コンセプトを守れている時間帯がどんどん少なくなってしまっている。中断期間まであと2試合、次節はケリーが出場停止でもあるし、少ない駒でどうやりくりするか。もはや今日のように「若手を使えてよかったね」では済まないのかもしれない。

 個々の選手では、今日も土肥のセーブには非常に助けられたし、小峯も急な出場ながらよくジャーンの穴を埋めたと思う。あと、浅利が反転で相手をかわしたり積極的にサイドに出て行ったりと、これまでの自分の殻を破ることに挑戦するかのようなプレーぶりを見せていることは評価したい。文丈も喜名もおらず若手の実力も未知数な今、中盤を支えられるのは彼しかいないのである。星はタイプ的に由紀彦と違うのは確かなのだろうが、反対サイドの小林もどちらかと言えば中へ寄っていってしまうだけに、彼にはもっとゴールライン際へ飛び出してDFラインを逆走させるプレーを見せてほしい。松田も、途中から出てアマラオに運動量で負けてしまっては言い訳できないだろう。そして宮沢は……もはや彼がいないと攻撃が成り立たない。急速に、「チームになくてはならない選手」になりつつあるように思える。電撃の同点シュートにはシビレた。

 最後に、柏原主審について。個人差というものがあるのだから、接触に厳しい審判も緩い審判もいるのは当然だろう。また、日によって状況によって基準が変わることもあるだろう。だけど、1つのゲームのうちでそれらがコロコロ変わってしまうのはいかがなものか。選手は何をよりべにしてプレーし、観客は何を基準にして観戦すればよいのだ。おまけに(というかそれゆえに)、ゲームのコントロールも全くできていないのだから最悪である。改善を望むし、できないのならいっそ下部リーグからやり直してほしいとさえ思う。ちなみに私のつれは帰り道、「あの審判、切りすててやりたい!鬼武者になりたい」とエキサイトしていた(笑)。ホント、頼みますよー。

 

 

2002年4月6日 国立競技場

Jリーグファーストステージ第5節

 

   FC東京 1−1 ジェフユナイテッド市原

 


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