「攻撃東京」復活!戸田の爆発で笑顔の再スタート!!

 

 

 世界のスターたちによるスーパープレーはもちろん特別に楽しいものだったが、「私たちのクラブ」を応援する楽しみに代わるものではない。W杯による長かった中断もようやく終わり、待ちに待ったJ1リーグがついに再開した。今季FC東京は開幕戦鹿島に圧勝して最高のスタートをきったものの、その後は続出する怪我人に苦しみ、中断前のリーグ戦は7試合で勝点わずか8の10位に沈んでいた。しかし中断直前のナビスコカップ予選グループでは新鋭の活躍もあってトップ通過しているだけに、リーグ戦の再開にあたってはその勢いをぜひとも引き継ぎ、再びロケットスタートをきりたいところである。相手は12位の広島で場所はホームの東京スタジアム。舞台は整っていた。

 

 両チームの練習時間、まずはスタメンを確認。広島はトップ下に残念ながら(あのくらいの選手がどれだけやれるのか見たかった)NAC移籍が消えた藤本、FWは久保と大木、見たかった森崎兄弟はなぜかサブにもおらず、怖い怖い高橋は控え。DFラインは上村が負傷で川島・トゥーリオ・ビロングと並び、2〜3年前の3バックとは全く様変わりしてしまっている。東京の方はアマラオが温存(?)のサブで福田と戸田が先発、右サイドには石川が入った。由紀彦は怪我なのかそれとも別の理由なのか、ベンチ入りもしていない。喜名が復帰したのは我々にとってまことに心強いことだ。あと、主審は初めて見るフィスカーさん。バックスタンド側で熱心にアップするこのレフェリーが、モットラムさん並であることを願った。

 この日は「サンバナイト」ということで、キックオフ前に小さなパレードがとり行われた。サンバのリズムが響く中お尻をほとんど丸出しにしたおねいちゃんたちの姿が場内ビジョンに映し出されると、野郎密度の高いゴール裏からひと際大きな歓声が上がった(笑)。私の座るバックスタンドは家族連れが多いので普通に手拍子で盛り上がっていたが、多くのお父さん達は「おお!」という感じであったろう。私?もちろん身を乗り出してましたよ(笑)。

 

 

 キックオフ。東京はいつものごとくというか、ホイッスルとともにアタッカーがダッシュし、積極的に前へ陣形を押し出していく。基本的には戸田が左・ケリーが中央に位置し、福田は前に張る1トップ。中盤でボールをカットしては、タッチの少ないパスワークで右へ左へ広島DFの網の目をぬうように前進していく。3分にはFKからジャーンのヘディングが枠に飛び(GK下田セーブ)、9分には宮沢の右足(!)弾丸ミドルがゴール右を襲う(下田横っ飛びで弾き出す)。幸先の良い立ち上がり。だが、東京のペースは長くは続かなかった。

 10分を過ぎた頃から、広島がボールを支配し始める。広島は3バックと中盤の底に2人、さらに両サイドのうち1人が下がり気味になるやや守備的に見える陣形だが、各々の距離感がしっかりしていてパスの回りが良く、東京は前から追ってもなかなかボールを取れない。そして攻撃ではとにかく「裏を狙う」ことで意思の統一がなされていた様子で、久保・大木の後ろで藤本が縦横無尽に動き、さらに両サイドのどちらかが機を見て思い切り前へ。で、その誰かがDFラインの裏へ飛び出す瞬間を逃さずパサーが狙う。東京のDFラインは意識が前に向いていたせいもあるのか、あっという間に体勢を入れ換えられる場面が目立った。17分には藤本の長い浮き球に反応した久保がDFライン裏に抜け、勇気を持って飛び出した土肥がパンチングで防ぐ。26分にはFKからの早い仕掛けでチャンスを作り、大木からスペースに入った久保にパスが渡り1対1になるが、これも土肥ちゃんが飛び出してセーブ。27分には後ろからの浮き球をDFライン裏でうまく捌いた藤本のシュートがバーを直撃し、さらに29分にはまたしても後方藤本からのロングボール、久保のスピードに伊藤がついて行けず1対1になるが、シュートはゴール左に外れてノーゴール。広島が決定力を欠いたのは我々にとってこの上ない幸運だった。

 広島の攻撃の圧力を受けているうちに東京は全体的にジリジリと下がっていき、個々の選手の足も止まりがちになっていった。陣形的に言えば、宮沢と下平はDFライン前で並列に並ぶことが多かったのだが、広島の攻撃は縦の長いボールで彼らの頭の上を通過してしまう。ボランチのところでボールをとってこそ東京は広い展開(人数が上がる時間的余裕が生まれる)が出るわけで、この2人が「死んで」しまってはいい形がつくれない。ケリーも次第に後方に下がって孤立し、状況を打開しようとジャーンや藤山がオーバーラップを見せるが散発的なものに終わった。ライン際で原監督が大声を出す姿も目立つ。「宮沢を前に出す(下平を後ろに下げる)か、攻撃的な選手(つまりは喜名だ)を増やすべきだ」。しかし、実はそう思って私がイライラしていたその間に、戸田がケリーと入れ替わって静かに前へ上がっていたのだった。

 37分、石川が相手陣中央でボールを持つ。石川はやや右に持ち出しながら前の状況を見て、早めのタイミングでDFラインの裏、ぎりぎりディフェンダーの足が届かぬコースへゆるやかに弧を描くスルーパスを放った。そこへドンピシャのタイミングで走り込んでいたのは戸田。加速でディフェンダー2人の間を割り、GK下田が出てくるところで右足でタッチ、ゴール右隅に流し込んだ。スタートのタイミングの勝利。押されていた時間帯の、伏兵(失礼!)によるあっと驚く先制点。戸田の今シーズン初ゴールは、とてもとても価値のあるものだった。何しろ状況に関わらず、得点ほどチームに活力を与えるものはないのだから。

 案の定、とたんにキビキビと動き出す東京の選手たち(それまでは何だったんだ(笑))。宮沢らが中盤で前に出てボールをカットできるようになり、そこから大きく展開する、つまりは東京お得意の攻撃が見られるようになる。39分には相手ペナルティエリア内で下平のロングフィードを受けた戸田が胸トラップ一発でディフェンダーをかわし、ワンバウンドのボールを右足で叩く。残念ながらシュートはバーの上を越えたが、しかし戸田のいつにない(笑)「ストライカー」ぶりと広島守備陣の緩慢な動きがハッキリ目立ったシーンだった。そして43分、東京は相手陣でボールを奪うと左サイドの戸田→斜め後ろ中央の下平→右斜め前の宮沢とつなぎ、宮沢がゴール方向へ駆け上がる戸田へダイレクトに折り返す。この大きな平行四辺形を描くような攻撃に広島の守備陣は全くついていけず、再びDFライン裏に飛び出した戸田が下田との1対1を制してゲット。この日から夏服の原監督も思わずガッツポーズの、会心の2点目。この上なく良い形で前半を終えることができた。

 

 後半、広島はビロングOUT井手口IN。ビロングはしばしば東京陣に攻め上がってミドルシュートなどで脅威を与えていただけに、これは少々消極的な交代に思え、こちらとしては正直助かった。そして、後半になっても東京のペースが続く。ただし前半終わり頃に比べるとテンションは明らかに下がっており、ボールをとってもボールホルダー以外のフォロー・上がりが遅い。イケイケというよりも点差とペース配分を考えたような攻撃であった(単に暑さで足が止まっていただけかもしれないが)。一方点を取りに行かなければならない広島の方は人数をかけて攻めに出るが、東京のDFラインは広島アタッカーの背中方向への飛び出しをよりケアするようになり、下平もしっかり下がって守備に参加。久保が突破を図ってもディフェンダーで囲んでプレーの選択肢を奪い、前半ほど決定的な場面は与えなかった(ペナルティエリア内でシュートを打たせても、コースはGK正面しかなかった)。試合は落ち着き、そこそこのチャンス・ピンチを繰り返しながら時間が進んでいった。

 そして再び前でパスがつながらなくなってきた14分、東京は福田に代えてアマラオ投入で膠着状態の打開を図る。この交代の結果、東京は前線でのボールの収まりが良くなり、その周りをケリーが動き回る事でチャンスが増えていった。いつも通り枠にはなかなか飛ばないが(笑)、ケリー・アマラオのシュートが相手ゴールを脅かす。そして23分、東京ペナルティエリア内の間接FKから広島が早く仕掛けるも、これをきちんと見ていた土肥がブロック。こぼれ球を拾ったケリーから石川にパスが渡り、石川はドリブルで攻め込んでペナルティエリア外やや右の絶好の位置でFKを得る(この時、前のプレーで痛めた大木が東京陣で倒れていたのに石川がプレーを止めず広島の選手が怒っていたが、クイックリスタートしたのは自分たちなのだから文句を言っちゃいかんだろ)。2万近い観衆の期待が集まる中、宮沢が期待をそのまま表現したかのような「曲がる弾丸」FKをゴール右上に放つ。威力あるシュートは反応した下田の手に当たりながらも枠内へ吸い込まれ、3点目が決まった。これで勝負あり。

 あとは東京は時間を使うだけだったはずだが、そこは「攻撃東京」、点を取れば取るほど攻撃的になる性質(笑)だ。ここで特に際だっていたのは石川の暴れん坊ぶりで、サイドから中へ切れ込んでのドリブル勝負、思い切ったシュート、ヒールを使ったトリッキーなパスはいずれも魅力的で、決定的な場面を作る力があることを存分にアピールした。余裕の東京はケリー・アマが下がり気味の位置からのコンビネーションでチャンスを作って前で戸田・石川にシュートを打たせる心温まる攻撃(笑)も見せ、サポーターとしては実に気持ちよく試合を眺めることができた。

 そして38分、センターサークル付近でパスを受けたアマラオがドリブルで持ち上がり、左サイドどフリーで上がるケリーに決定的なパス。ケリーは自分で打つこともできた場面だったが一度切り返し、ためをつくってから逆サイドでフリーになった戸田へディフェンダーの頭越しにパス。棒立ちになる広島ディフェンダーを横目に戸田は落ち着いて胸トラップからボレーを突き刺し、とうとうハットトリックを達成した。チームとしても開幕戦以来の4点目。不器用に両手を上げてサポーター席の方向へ走る戸田。サポーターも「東京ブギ」の万歳で応える。全ての状況を把握しコントロールしたかケリーのプレーは、まるで天使のような優しい振る舞いに見えた。その後東京は久々の喜名もピッチ上へ送り出し、戸田を拍手喝采の中交代させる余裕まで見せて完勝の試合を締めくくった。もちろんスタンドでは(広島サポーターを除く)誰もが、満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 この試合はスコア的には大差がついたが、しかし前半の展開を考えれば実は勝敗は紙一重だったようにも思える。サンフレッチェ広島は、結果的に決定力のなさに泣くことになった。久保が1対1の決定的な場面を外したのはいかにも痛かった。「とにかく裏を狙う」意図(いつものことか、東京対策なのかは知らないが)がはまりかけていただけになおさら惜しまれるところだろう。それとDFラインの緩慢な動きはいささか問題があるように見える。川島とトゥーリオはタッパはあるが足下(を狙う速い攻撃)には弱い感じで、それを補うために途中から井手口を入れたのだろうが代償としてビロングの攻撃力を失ってしまった。まあ堅守の伝統があるチームだけに建て直しのノウハウももっているのかもしれないが、緊急補強の効くような財政状態でないと推測されるだけに、連戦を前にしての大敗は大きな不安材料だろう。位置的には、下位グループに呑まれるか上位に食いつくか微妙なところにいるのだが。

 FC東京はリーグ戦久々の勝利。それも「「攻撃東京」が戻ってきたぜ!!」という感じの4得点。インタヴュー等から察するに原監督が意図しているのはアマラオ・ケリー以外のアタッカーの得点を増やすことだと思うのだが、開幕直後の小林の爆発、宮沢の成長、そして今回の戸田のブレイクと、成果は着々と上がっているように見える。東京の特徴・事情からすると特にそうだが、特定の決定力ある人間におんぶにだっこで行くよりも、「下手な鉄砲もなんとやら〜」ではないがそれなりの得点力のある人間を複数作っておいた方が安定した力を発揮できるのは確かだ。この調子で(ヒーローは日替わりでかまわないので)バシバシ点を取っていってほしいものである。一方守備は大いに不安のあるところを見せてしまった。特にセンターバックのスピード不足は明らかだが、これは急にどうすることもできない部分でもある。DFラインを引いてしまうと今のチームコンセプトに合わなくなってしまうし、そこはオフサイドトラップ崩れ等で失点する場面も覚悟しつつ、伊藤のバランス感覚に期待するしかないだろう、今は。

 個々の選手では、何と言っても戸田に驚かされた。4月頃、某赤鹿FW並のへたれプレーを見せていた選手と同一人物とはとても思えない。中断期間中に原監督お得意のビデオ洗脳(笑)でも効いたのだろうか。あれだけゴール前で落ち着いて、かつ勝負してくれれば多少の失敗など気にならず、見ているこちらも「どんどん行け」となるのである。おみそれしました。一方、対照的に途中で代えられてしまった福田だが、どうもトップに置いておいて落ち着かないというか、安心してボールを預けられないところがあるような。アマラオほど懐が深くなるのは無理にしても、もう少し縦にパスを入れた時の収まりが良くなってほしいと思う。クロス職人の由紀彦がいない状況では、なおさらボールに触らなくては。あと石川は心身ともに攻撃能力が高いというか、ケリーと同等の働きができるとしたら彼しかいない。彼がこの日くらい活躍すれば、今マークが集中しているケリーももっと楽にプレーできるだろう。由紀彦が戻ってきた時の使い方が気になるが、タイプが違うので単純にどちらとはならないし両方使うこともできるのではないかと思うのだが(しかしケリーも戸田もいるし、まあ悩むところだね)。そして、圧勝の陰に隠れる形にはなったが、勝利への貢献ということで忘れてはならないのは土肥ちゃんだ。勇気のある飛び出しと安定したハイボール処理で決定的なピンチを幾度も防いだ。あとはキックがもう少しうまくなってくれればいいのだが(笑)、ちょっと高望みだろうか?

 宮沢にはもう驚かない。あれくらいで驚いてはいけない。

 ともあれ、東京は最高の形でリーグ再開初戦を飾ることができた。次の相手はジュビロ磐田。強敵だが、相手も出場停止や怪我人で万全ではなく、この勢いとホームの力を持ってすればいい戦いができるに違いない。ぜひ快進撃を、また。

 

 

2002年7月14日 東京スタジアム

Jリーグファーストステージ第8節

 

   FC東京 4−0 サンフレッチェ広島

 

 

[追記]
 レフェリーのフィスカーさん、最初の接触プレーで藤本にイエロー出したり久保のダイブをとったりして「ホーム寄りの笛を吹くのかな?」と思わせたのだが、その後は東京の「危険なプレー」で間接FKをとったし、まああまり偏りもなく無難なレフェリングだったのではないだろうか。


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