闘志と気迫で強敵を倒す!リベンジ果たして開幕連勝!!
相手方はどうだったか知らないが、FC東京の選手・スタッフやファン・サポーターにとってこの試合は紛れもなく「リベンジマッチ」であった。4月のリーグ戦ではアウェイでケリー・ジャーンを欠いたとはいえ0−5の大敗。そして、つい3日前に行われたナビスコ杯準々決勝では戸田のゴールで先制しながら、後半ガンバの猛攻に屈して1−3の敗北。特に後者の逆転負けは、最近似たような負け方が続いているせいもあり、選手やスタッフに対する不満も大いに募るものであった。そうしたもやもやを吹っ飛ばすためにチームができることといえば「いいサッカー」をする他はなく、我々見守る側もまさにそれを期待して東京スタジアムに足を運んだのだった。「今度こそ」。
試合前のウォーミングアップで選手が出てきた時、ガンバ側スタンドで黄色い歓声が上がり、やたらフラッシュが焚かれたのには面食らった。以前稲本が在籍していた時には確かにそういう雰囲気だったのだが……今度は宮本か。バックスタンドでも最前列にズラリとファン(女性多し)が並び、カメラを向ける。さすが日本代表というべきか、「格好いいとは思うのだが、んな写真撮るほどのもんじゃないでしょ」というべきか。まあ、結局ガンバのファン層の多くがそういう人たちということなんだろう。吉原や遠藤もいるし。
メンバー発表。ガンバ大阪は中盤の「キモ」マルセリーニョを欠いた布陣。宮本率いる3バックの前に遠藤・ファビーニョの2ボランチ、両サイドに森岡・新井場で二川の前に吉原・マグロンの2トップ。GKはまた都築ではなく松代。個人的に都築は国内屈指の好キーパーだと思うのだが、どういう理由なのかはよく分からない(起用を巡って監督と衝突したという話は聞いた)。東京の方は最近お馴染みの、茂庭を左SBに据えたメンツ。先発FWアマラオのアナウンスにスタンドから大歓声が上がる。DFの控えが藤山なのは意外だったが、茂庭がどこでもできるので彼が痛んだ時にSBをやれる人材を入れてさえおけば確かに足りてしまう。当たり前の話だが、ユーティリティー・プレイヤーは便利だ。最後に、レフェリーは岡田正義さんで、ほっと胸を撫で下ろす。
キックオフ。まず目についたのは、ガンバの選手、特にDFの組織的な動きだ。守備時にはボールと相手選手の位置に応じて自在かつ統制のとれた動きで陣形が変形し、東京のアタッカーを追い込む。状況によってDFラインの枚数が3→5→4と次々に変化し、そしてボールを取るや両サイドハーフがFWに近い位置まで一気に上がっていく。どちらかではなく両方が一気に上がっていく様がいかにも攻撃的という感じであった。サイドの圧力に東京はDFラインを上げることができず、序盤からガンバの攻勢で試合が進む。2分、浮き球に反応した吉原がDFライン裏に出るが、シュートはわずか右へ外れた。4分にも新井場からのクロスがDFラインとGKの間を抜けていくも、逆サイドで待ちかまえた森岡のシュートは大きく外れる。9分にはゴールライン際突破を図る森岡から茂庭が巧みにボールを奪ったが、パスを受けた戸田が処理しきれず、吉原とのワンツーで森岡がペナルティエリア内に突入してシュート、バーの上をボールが抜ける。
一方の東京も出来が悪いわけではなく、全体的には押されつつも反撃を試みる。8分に加地のロングスローから戸田がファーストシュートを放ち、14分には右のペナルティエリア外で後ろからボールを受けた石川が反転一発木場をかわして突破、ニアサイドに強烈なシュートを放つ(松代ナイスセーブ)。18分には左サイドでパスを受けた宮沢が美しい弾道のクロスを上げるが、ファーで飛び込むアマラオにわずかに合わず、ノーゴール。懸案とされた左右のバランスも、茂庭がぎこちないがタイミングの悪くないオーバーラップを見せたり、宮沢が左に大きく張り出すポジショニングをしたりと、工夫によって克服しようという意図が見えた。ただ、カウンターに移れそうな状況でも七分くらいのスピードで上がっていく選手が多いのは相変わらず。
19分、相手ミスからペナルティエリア付近でボールをとったアマラオがドリブルで中へ入っていくところ、後ろからDFが追いすがり、接触してアマが倒れる。笛は鳴らず、岡田主審は両手を振って「ノーファウル」のジャッジ。この判定に東京ゴール裏からものすごいブーイングが飛ぶ。さらに直後に伊藤が相手を押してファウル、そのままガンバの波状攻撃になったことからブーイングが止まらなくなった。次のプレイに移っても、東京ボールになっても延々と続くブーイング。はっきり言って、不快きわまりないものだった。アマのプレーは確かに微妙に見えたが、東京ゴール裏からは最も離れた地点である。そして、アマラオにダイブ癖があるのは周知のこと。そう簡単にとってもらえると考える方がおかしい。だいいち、いったい何に対しての、何を目的としたブーイングだったのか。その後も岡田さんが東京のファウルをとるたびにどこからかブーブーブーブー声が聞こえた。だが、最近技術の向上しているように見える岡田さん(※追記)はたいていの場合ボールのすぐ近くで判定しており、文句を言う筋合いのものではなかった。情けない、みっともない、恥ずかしいブーイング。
その後もガンバの攻勢は続いた。ワイドな攻撃は東京のDF陣を左右へ振り回しサイドを次々に脅かす。24分、茂庭のパスを受けた宮沢が相手にかっさらわれ、マグロンのシュートがニアサイドのポストを直撃、続く吉原のシュートはバーを越えていった。ガンバの両サイドはおそらく互いを見ながら相手を引きつけつつ高い位置をとるため、東京DFラインの4人ではピッチの幅を埋めきれなくなってしまう。突破→クロス→はね返り(ないし折り返しを)を後続アタッカーが拾ってシュート、というパターンが何回も見られた。ただしシュートの精度はあまり高くなく、枠内ボールの少なさに助けられた印象だった。
そして30分あたりからガンバも攻撃のテンションが下がり、東京側がややリズムをつかむ。28分には戸田のポストプレーから石川がミドルシュート(GK押さえる)。38分には左サイドを突破しようとした新井場が加地を引き倒し、寄せたジャーンとも絡んでにらみ合いになる。以後、新井場がボール持つたびにブーイング(またかよ)と「引っ込め新井場!」コールが。43分には石川が中央を軽やかなドリブルで持ち上がり、倒されFK。ジャーンが強い球を蹴ったが、コースがGK正面だった。45分にはロングボールがペナルティエリア内のアマラオに入るも、DFのマークが外れず逸機。さらにロスタイム、茂庭がガンバ陣でライン際の浮き球をうまく処理してCKをとり、ジャーンがヘディングで狙うがわずかにバーの上を越えた。全体的にはガンバ優勢、終わり際に東京が流れをつかんだ前半だった。
後半開始。ハーフタイム明けからアタッカーを増やしたナビスコカップと異なり、この日は同点ということでガンバ側も特にやり方は変えてこず。ただし一息つけたのが大きかったか、再びガンバの攻勢となり、東京陣で試合が進む。右から左からクロスが入り、東京のDFは大忙しとなった。東京もパスをつないで前進しようとはするのだが、この時点で3バック+ファビーニョが守備に専念するガンバの守備陣にスキは少なく、孤立したり行き詰まってはロングボールを蹴ってボールを失う場面が多くなった。アマラオも走れなくなり、アマのキープから展開というお得意のパターンが出ない。19分には右サイドを二川に破られ、土肥がサイドに出てゴールを空けたところでクロスが入り、加地がアタッカーとぶつかりながら懸命にクリアして防ぐ。20分にはカウンターの形から右サイドでフリーになった吉原にパスが出、茂庭のカバーリングも間に合わずシュート!土肥ちゃんが尻もちをつくような体勢でかろうじてセーブする。
ところが、こんな流れでも変え得る力を持った選手が東京にはいるのであって、「キング」の称号はダテではないのだった。私がメモ帳に「一方的なガンバペース」と書きかけたその時、東京は相手陣中央でアマラオのキープから左サイドに展開、弧を描くようにサイドに流れていた宮沢がクロスを上げる。低く速い弾道でボールはガンバDFの間に飛び、走り込むアマの頭にピタリと合った。横っ跳びになる松代の手を弾いてゴールイン。思いがけぬ得点に興奮状態になる場内。ここぞという場面でこれ以上ないボールを蹴った宮沢、それを確実に決めたアマラオ。2人とも「素晴らしい」の一言だった。
そしてここから一気に試合が動く。得点直後、東京は下平に代えて何と福田を投入。よくわからない(得点前に用意していた交代をあえて取り消さず?)交代だったが、これが成功してしまうのだからサッカーはわからない。23分、中央で福田がDFをかわしながらキープ、アマ→ケリーとつなぎ、左サイドの戸田がナイスクロス。ファーに飛び込んだ福田が一瞬ゲットしたかに見えたが、残念なことにボールはサイドネットをかすめて抜けていった。24分には加地の裏をとった新井場がグラウンダーのクロスをゴール前に入れ、茂庭が懸命にクリアする。劣勢の東京側に先制点が入ったこと、福田投入で攻撃に活が入ったこと、ガンバの中盤が疲れ(中2日でアウェイの連戦)からか機能しなくなったことなどから目まぐるしい攻め合い(プレミアリーグのような、と言ったら言い過ぎか(笑)?)になった。ここで嬉しかったのは、リードしているにも関わらず東京のアタッカー達に「点を取るぞ」という気迫がみなぎっていたこと。最近先制してはダラダラとトーンが下がって追加点を奪えず逆転される展開が続いていただけに、これには燃えた。
27分、戸田を外し、守備的MFとして藤山を入れる。さすがに守備の事も考えずにはいられなかったらしい(笑)。同時にガンバは吉原に代えて松波を入れるが、これもよく意味が分からなかった。形勢的にアタッカーを増やさなくても「足りる」と考えたのだろうか。その直前にはアマラオのミドルシュートをGKが弾き、拾った福田がゴールライン際突破を図る。この日の福田は動きにキレがあり、積極性もあった。「その意気やよし」である。30分前後にはガンバの波状攻撃となり、東京はゴール前に釘付けになる。シュートにはポジションを問わず次々と詰め、クロスにはジャーンが立ちはだかる。こぼれ球がペナルティエリア外正面で待ちかまえる新井場の前に転がった時はさすがに駄目かと思ったが、加地が弾丸のようなスライディングタックルでボールを弾き出した。そこからカウンターになり、石川がディフェンダー3人を引きつけるドリブルを見せてチャンスになるも、ケリーがフリーのアタッカーへ出さず自らシュートを打って逸機。まさに息もつかせぬ展開だ。34分にはケリーが右サイドドリブルで2人抜いてペナルティエリアへ進入し、クロスのセカンドボールを石川が左足で強烈シュート、ボールがゴール左上をかすめる。
東京は守備に専念するようになったDF陣が頑張りを見せた。39分には正面FKをマグロンが狙うが、土肥がしっかりキャッチ。終盤にはガンバが宮本も上がる最後の猛攻を見せ、再びゴール前に釘付けに。が、はね返し、カバーし、しのぎ続ける。ここでチームを助けたのは石川で、1人でガンバの守備陣相手にドリブル勝負を挑み、得点の可能性を感じさせてくれると同時に味方に「呼吸をさせる」役割を果たした。43分にはゴール前の混戦からこぼれたボールに宮本が走り込み、前がぽっかり空いた状態でシュート!目を覆いたくなる場面だったが、土肥ちゃんが電光石火の反応でスーパーセーブ!!結局東京の全員守備は実を結び、そのままタイムアップ。辛勝ではあったが、何とかリベンジを果たすことができたのだった。
この日は連戦の疲労と決定力不足で負けてしまったが、3日前のナビスコカップも合わせ、今のガンバ大阪は戦い方が実にしっかりしていると思う。3バックと堅いボランチ、高い位置取りの両サイドハーフ、タイプの違う2人を揃えた2トップ。これで創造性溢れるマルセリーニョがいれば、バランスとしては実にいい感じに見える。元々新井場、吉原、宮本、遠藤といった若くて才能ある選手を抱えていたクラブだが、昨年までは素材と監督の戦法がチグハグで、乗れば驚異的な力を発揮するが一旦歯車が狂うとバラバラになってしまうという印象であった。「理論優先」早野監督から「現実主義」西野監督へのスイッチは「チームに勝つ味を覚えさせる」という意味で正解なのではないだろうか。1stステージで磐田と熱い「天王山」を戦った時の選手の厳しい顔つきは、今でも忘れることができない。短期決戦のJ1で早くも1敗を喫してしまったのは痛いが、しかし上位争いは確実にするのではないだろうか。落とし穴があるとすれば、西野監督もそれなりにアクの強い人なので、内紛・選手との対立(都築!)かな。
FC東京は、劣勢の時間帯をガンバのシュートミスにも助けられながらしのぎ、流れが相手側に傾いていた時間帯の一瞬のチャンスを逃さずものにした。その後はここしばらく続いていた「ズルズル引いては逆転負けをくらう」パターンを覆し、相手に一方的なペースを握らせることなく、攻め合いに持ち込んでギリギリしのぎきった。この試合の前ファン・サポーターの間に漂っていた「何かを変えてほしい」「何か手を打ってほしい」という期待に一応は応えたと言ってよいのではないか。何より私たちを興奮させたのは、先制してからの選手の目の色である。アタッカーのプレーぶりからは相手のボールをむしりとってさらなる点をもぎ取る気迫が、そしてディフェンダーの動きは絶対に相手を押さえ込む決意がうかがえた。そうした「懸命さ」こそが我々の求めていたものであり、それでこそFC東京と言えるだろう。嬉しかった。
個々の選手では、もはや石川の素晴らしさは言うまでもない。宮沢は美しいクロスで勝利を演出。左サイドのスペースを生かそうとする意図も良かったと思うし、それで彼がプレーの幅を広げてくれればもっと良い。福田は動きは実に切れていたのだが、しかし肝心のシュートは決まらず。もうそろそろ1点とらないとマズい。ケリーは飛び抜けてうまいのだけれど、後半カウンターの場面ではちょっと持ちすぎだったように見えた。茂庭は不得意そうな左サイドでよく健闘し、攻撃参加までして頑張っていたと思う(あくまでひいき目だが)。伊藤はボールに触る回数こそ少ないものの要所要所を押さえてDFラインにほころびを作らず、ディフェンスの中心としてチームを支えた。加地は守備でも軽快さを見せ、ジャーンは得点王マグロンを完封。この日の4バックは実に頼もしかった。そして、アマラオについては、もう拝むしかないだろう。
イライラする試合の多かった夏を越え、今最も勝ちたい相手に、強敵に、ホームで、苦しみながら、しかし気迫と闘志を表に出した末の勝利。スタンドはもちろん最高潮に盛り上がったし、私の周りでも満面の笑みが数え切れないほど見られた。選手たちもよほど嬉しかったのだろう、試合後にはいつもならタッチライン付近で挨拶するところ、看板を越えスタンドに近づいてファン・サポーターと喜びを共有。先頭に立ってはしゃぐ茂庭(この日が21歳の誕生日)の若い姿もほほえましかったし、アマラオの「シャー」が見られたのもなによりだった。この日、特に後半の選手の「点を取る」「勝つ」という意志がこの素晴らしい光景と雰囲気をもたらしたのは間違いない。「ああ、FC東京が好きでよかった」としみじみ感じられるのは、こんな試合を観た後なのである。
2002年9月7日 東京スタジアム
Jリーグセカンドステージ第2節
FC東京 1−0 ガンバ大阪
[追記]
主審の岡田さん、以前は走力はあるかポジショニングがまずく、ファウル(もしくは際どいプレー)があると離れた地点から笛を吹きながら、あるいは胸ポケットからカードを出しながら走ってくる姿ばかりが目立つ印象だった。フランスW杯の審判に選ばれて名をあげた割には上手くないな、と思って見ていた。しかし、先日の柏戦の時も思ったが、プロの待遇を受けるようになったのが効いたのか、最近はずっと上手くなっているようである。この日もファウル地点に走ってくるというよりは、すでにその近くにいて待ちかまえてとるような場面が多かった。少なくとも、Jリーグの他の大部分の審判よりマシな部類に入ることは間違いない。そういう審判に対して、ちょっと味方に不利(なように思える)判定があったからといってあんなしつこく酷いブーイングを浴びせるなんて、どうかしてるんじゃないかと思う。「ブーイングで主審にプレッシャーをかける」やり方は個人的にあまり好きではないし、冷静に考えてもかえって審判を意固地にさせてしまう(ないしホームの観客への悪意を助長する)というマイナスの効果があるのではないかと思う。自分が審判だと思って考えてごらん。帰りに身の危険でもない限りは、あんなブーイング浴びせられたら、絶対ホームの側に有利にしてやらないと思うだろう?