「大熊東京」あっけない幕切れ…。2年連続J2チームに初戦敗退。

 

 天皇杯というのは、非常に難しい大会だ。ノックアウト方式(いわゆる「トーナメント」、「負けたらおしまい」)の厳しさももちろんあるが、それ以上にリーグ戦後の契約更改シーズン、多くのチームにおいて監督交代や戦力外選手の発表がなされた後の時期に行われるゆえのモチベーション維持・平静さを保つことの困難さが各チームの戦いに確実に影響を及ぼしてしまう。東京もまた例外ではなく、7年間在任した大熊監督が天皇杯限りで退任して原新監督を迎えることになり、梅山・鏑木・小池など数年に渡って我々が親しんできたJ2(あるいはJFL)時代からの「仲間」の解雇もまた発表された。複雑な心境、交錯する思い。勝つことに集中するのが難しい状況だったのは確かだろう。それでも私たちはチームのため、そして残る選手・去る選手個々の未来のためにも、この天皇杯は一丸となって頂点を目指してくれることを期待したのだが…。

 

 キックオフ1時間ほど前、久しぶりの「ガラガラ」バックスタンド(主催者発表で6千人)に到着。相手がJ2下位の横浜ということもあってか、辺りは妙にのんびりした空気。我々もゆっくりと弁当を平らげつつ試合開始を待った。練習に出てきた選手の中にアマラオとサンドロの顔がないことにはすぐに気がついた。スタメン発表を聞いてみると、意外なことに福田は入っておらず、戸田とケリーの2トップらしい。中盤に最初から喜名と文丈を並べるのもあまり記憶にない布陣だ。手術の藤山(これはいかんともしがたい)の代わりには小林稔。「まあ、初戦はジーサンは温存して色々な選手も出さなくちゃね…」。一方の横浜のメンツでは、昨年東京にいた神野と東京からレンタルで行ってる迫井に目が行く。あとは、後藤がまだ頑張ってるのがちと嬉しかったり。そして、選手入場。「大熊東京!!」のコールが起こり、「大熊と一緒に年越しを」(だっけ?)の横断幕が出るなど、「さあ、最後の始まりだ!」となかなかいい雰囲気になった。

 リーグ最終戦ではメインスタンドに座ったので気付かなかったが、この季節、午後のゲームだとバックスタンドは西日がまぶしくて選手の判別が難しい。途中から雲が出てやや日差しを遮ってくれたからいいようなものの、それまでは黒いシルエット同士が試合しているような感じに見えた。

 

 試合開始。序盤から攻勢に出たのは、やはりというか横浜FC。信藤監督になってからの攻撃的サッカーの噂(何しろ「2バック」というではないか)は耳にしていたが、TV観戦も含めてじっくり見るのはこれが初めて。なるほど、なるほど。横浜のシステムの構造はすぐにわかった。まずトップ・ハーフ・バックが2人ずつ3列に並び、それぞれの距離を小さく保ってコンパクトな陣形をとる。両サイドの2人はユニットとして常に連動して動き、攻撃時には2人で前へ出てハーフとのトライアングルで前へ進み、守備時には後退して後ろの選手はバックと同じ位置まで下がる。だから守備時には4−4−2に見えるフォーメーションがボールを取るや3−4−3になり、さらに波状攻撃の時には2−4−4に近い並び方になる。ひと言で言えば「中盤での積極的な守備からサイドへのはやい展開でゴールを狙う攻撃サッカー」ってやつですか。とにかく戦術は徹底されており、局面で数的優位を作る意識も高い様子だった。さらに加えて挑戦者の立場ゆえかモチベーション満々にも見え、前線からガンガンプレッシャーをかけてくる。東京ガスやJ2のFC東京が快進撃を見せた頃には、J1チームから見た我々はちょうどこんな感じだったのだろう。シュートの数は横浜が圧倒。

 一方の東京は攻めあぐね続ける。攻撃的戦術の当然の帰結として横浜のラインは高く、サイドバックの裏には広大なスペースが広がっている。そこを見越して早め早めにラインの裏を狙って縦のボールを入れていくのだが、後方からのフィードの精度自体が低いことと、たとえアタッカーが裏へ抜けても中盤からのフォロー・押し上げがなく、結局孤立して無理なドリブル・パスをカットされる場面が続くことになった。それでも初めの頃はケリーの突破を中心に何度かゴール前まで攻め込み「あと一つパスがつながれば」までは行ったのだが、半ば頃からは前にパスがつながらなくなって一方的に押しこまれることになる。どちらが1部なんだか見ていて全くわからないほどの質の低いサッカーだった。ケリーが裏を狙うあまりうまくハーフ陣とからまないため、サイド攻撃も低調。それと目立ったのは戸田の消極性で、本来ならばケリーより前でガンガン飛び出していかなければならないはずなのに次第にジリジリ後ろに下がっていき、おかげでケリーがボールを求めて下がってくると前線に誰もいない(笑)という妙な光景も見られた。前半の最後頃だったか左サイドで戸田がボールを受け、目の前にはゴールラインまでぽっかりと無人のスペースが広がっていたのだが、戸田はわざわざ中央に寄っていって攻撃をスピードダウンさせ結局チャンスを作ることすらかなわなかった、という場面もあった。小林あたりのフォローを待ったのかもしれないが…。彼を筆頭として、全体的に「攻める気あんのか?!」と叫びたくなるプレーがいくつも見られた。

 それでも、劣勢ながら両チーム無得点という状況に「このままハーフタイムまで行けば…(立て直しもきくだろう)」と思っていたのだが、そうは問屋がなんとやら。35分、MFのミドルシュートを土肥ちゃんが前に弾いてしまい、すかさず走り込んでいた(ここできっちり詰めているところがこの人らしく、素晴らしい)神野が押しこんでゲット。0−1。2ndステージ終盤は全く先制点が奪えなかった東京だが、この日も結局ビハインドを背負うことになってしまい、アマラオ抜きの攻撃陣に不安が募るのだった。そのまま前半が終了。

 

 後半開始前、こちら側の守備位置に着いた迫井に対してゴール裏から「さこいー!わかってんだろうな!!」の声(植田朝日さんかな?)。さらに追い打ちをかけるように「裏切り迫井!」のコール。迫井君、頼むから本気にしないでね

 後半は頭から戸田に代えて(当然だ)加賀見を投入。入ったのが福田じゃないところはまたしても意外だったが、しかしこの交代は効果があった。アマラオほどではないにせよ前線に明確なターゲットが出来たことで東京は裏狙い一本槍の攻撃から脱却、一旦前にあててためをつくってからケリーや由紀彦らMF陣がフォローして壁パス等で相手DFラインを脅かし、次々とチャンスを作り出す。最も目立ったのは喜名で、右へ左へ積極的に顔を出して56分にはCKからシュートを放ち、63分にはパス交換からペナルティエリアへ進入し倒される(笛は…鳴らず)。しかし、先制したことで守りを固めに入る横浜DFを最後の最後で崩しきれない。「泥臭くとももっとシュートを打てるやつが必要だ。福田を入れろ!」。

 64分には私の心の声に応えるかのように小林成OUTで福田IN、加賀見はやや下がり目の位置に。待望のストライカー投入だったが、しかし結果的にはこれが裏目に出たように思える。福田のセンターフォワードでの起用を訴え続けていた私だが、この日の福田の動きは期待はずれというか、はっきり言ってがっかりさせられた。前線で全く基点になれず、セカンドボールへの反応も鈍い。ゴール前で相手DFに競り勝つ場面もほとんどなし。あれでは、「アマラオの代わり」などとはとても言えない。彼についてはもうちょっと頑張ってくれないと、少々見方を変えなくてはならなくなるかもしれない。

 横浜FCの方はさすがに前半のような人数をかけた攻撃は出来なくなっていたが(それとも、あえて控えたのか?)、今度は局面局面で数的優位を作り出す意識を守備時に発揮、自陣をがっちり固めるサッカーへ転換。迫井などもJ2でもまれたおかげかそれともボランチよりセンターバックの方が合うのか、東京にいた頃とは見違えるようにしっかりしたディフェンスを見せる選手になっていた。東京の選手を半ばはね飛ばしてボールを奪う姿を見たときには、感嘆の声を挙げずにはいられなかったし、来季はサポーターのひどいコール(笑)に負けず東京に戻ってきて欲しいと真剣に思った。そして横浜は劣勢ではあったが東京が前がかりになっているだけにカウンターの形にはなりやすく、横パスをカットするなどいい形でボールをとると薄い東京の中盤守備を容易にかわしてボールをゴール前まで運び、確実にシュートで終わらせた。幸いシュートの精度がそれほどでもなかったため追加点が入ることはなかったが、J2下位チームのしっかりした組織的な戦いぶりを見ていると、後半半ば以降の東京の形を崩して個人能力を全面に押し立てる戦い方がひどく情けなく思えてくるのだった。

 東京は71分にDFの梅山を外して宮沢を投入。宮沢は中盤からのフィードボールにそれなりの冴えを見せて攻撃に活を入れ、さらにキレた(笑)由紀彦の猛ドリブルが右サイドを崩し始めたのも重なって東京の攻撃が再び加速する。しかし、やはり最後の最後の詰めのところで押し切れない。81分には由紀彦がペナルティエリア内でつぶれたボールを稔君が拾ってシュートを放つが、ボールはGK正面。この頃になると東京はDFラインと前線の間が果てしなく広がって小峯が後方からフィードボールを入れようとするのだが、小峯自身の調子がイマイチだったのと、前線の選手の動きが少なかったこともあっていいボールが全く入らない。バックラインでパスを回してはゴール裏からブーイング、無理矢理放り込んであっさり相手ボールになるとまたブーイングの悪循環。

 終盤には右の狭いスペースを駆け上がる由紀彦から鋭いクロスが上がりまくるが、バックからメイン方向に強く吹いていた風のせいかなかなかピタリと合わない(逆サイドからのクロスは向かい風で弱くなり、相手にカットされることが多かった)。福田のヘディングシュートは枠の外に逸れ、ロスタイムのケリーのオーバーヘッドもゴールネットを揺らすことはできなかった。結局そのまま、タイムアップ。こう言っては失礼だが、まさかの相手にまさかの敗戦。これほどあっけなく今シーズンが、そして大熊監督のFC東京が終わってしまうとは、正直なところ想像もつかなかった。喜びを爆発させる横浜側スタンド(気がつけば、バックスタンドも1/3くらいは横浜ファンだった)に対して、沈黙する我々東京側。選手退場の際には再び「大熊東京!!」のコールがかかり、大熊監督もそれに応えて両手を振る。が、せめてもうちょっと強い相手にいい負け方をして終わりたかった、という気持ちが私の胸を離れることはなかった。

 

 横浜FCは前評判通りの攻撃サッカーで、内容面でもJ1チーム相手に圧倒した。シュート数は東京の9本に対し横浜17本。この数字がほとんど全てを物語っていると言ってもいいだろう。印象としてはまさに「積極果敢」という感じで、格上の相手から堂々と勝利をもぎとった、選手にとってもファン・サポーターにとっても会心の勝利だったことだろう。選手は他チームからの放出・レンタル組が中心でJ1やJ2上位に比べると見劣りするのは否めないが、しかし明快な戦術とその徹底は選手の能力の低さを補う可能性のあるものだと思う。相手に研究されればDFの薄さを突かれて失点も増えてしまうだろうが、それはそれとして、「相手にいくらとられても、それより1点でも多く取れればOK」という哲学でガンガン攻め続けてほしいものである。そういうチームカラーってのも、間違いなく魅力的であるだろう。

 FC東京は2年連続でJ2チームに不覚をとって初戦敗退。シーズン最後にしては寂しすぎるものだし、これで大熊さんやカブ・うめ・ペルーらとお別れかと思うと、あまりにあっけなさ過ぎて悲しくなってしまう。もうちょっと大騒ぎしたかったものだけど……。ただ、この敗戦を見て「またか」と既視感にとらわれたのも事実だった。前半だらしない攻撃で攻めあぐんでいるうちに集中力の欠如やミスから相手に先制点をとられ、後半別人のように必死の反撃も実らず敗戦、というのはもはやパターン化しているようにさえ思える(まあ負け試合というのは往々にしてこういう形になるものではあるが、それにしても同じようなやられ方が多い)し、アマラオがいないと点が取れないというのも毎度の話。リーグ戦終盤の失速といい、クラブ発足3年目でややチームとして停滞しているのかな、という考えも頭に浮かぶようになった。となると、クラブが監督交代に踏み切った訳もなんとなく理解できるのだ。それを「脱皮」と呼ぶか「進化」と呼ぶか「再出発」と呼ぶかは人それぞれだろうが、やはり変わらなくてはいけないのだ、このチームはとりわけ、優勝するためには。来年3月、ワールドカップイヤーに新しくなった(そして、これまでの魅力の多くも受け継いだ)FC東京が快進撃を見せてくれることを今は信じたい。

 そして、大熊さん、今まで長いことありがとうございました。東京ガスの昔をよく知らない私としては、「大熊監督のFC東京」こそがスタート地点ですし、これからもそこに東京サポーターとしての自身の原点を求めることに変わりはないでしょう。願わくば、これからもFC東京に関わり続けて、いつか監督として帰ってきてほしいものです。それから、今季でチームを去る選手も、今までどうもありがとう。新しいチームでの活躍を心から祈っています。

 

 それでは、また来年。

 

 

2001年12月9日 東京スタジアム

第81回全日本サッカー選手権 天皇杯 3回戦

 

FC東京 1−0 横浜FC

 


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