対横浜4連勝はならず。が、しかし、主力5人落ちでもなお「負けず」。

 

 フィリップ・トルシエ流に言うならば、「これはラボ(実験室)だ」ということになるのだろうか。メンバー発表を聞いた時は、正直驚かされた。前節福岡戦で中払の超ダーティなファウルを受けてケリーと伊藤が負傷、キレたアマラオがイエローをくらって累積警告で出場停止、おまけに連敗で優勝戦線から脱落、と踏んだり蹴ったりの状態で迎えたこのFマリノス戦。大幅にメンバーをいじってくる(いじらざるを得ない)ことはある程度予想がついていた。で、実際、福田が先発では初めてFWに入り、小林・下平・山尾が久しぶりにスタメン復帰。ここまでは何となく想像していたのだが、そこから後がすごかった。何と、アッと驚く鏑木起用まだ1部でゴールをあげていないカブ。今年はほとんど姿を見ることもなく、J2時代からのファンは寂しい思いをしていただけに、嬉しいというか、「おいおい大丈夫かよ」というか(笑)。東京はおまけにサブに喜名も文丈も加賀見も入らず、これまたお久しぶりの榎本に加えリーグ戦で出場経験のない宮沢、そしてベンチに入るのさえ初めての小林(稔)が控え。優勝も降格もない立場を利用し、怪我人の休養も考えた意識的な若手起用には違いないのだが、事情をよく知らない第三者が見たら半ば勝負度外視ともとられかねないメンツで試合に臨むことになった。対する横浜は4日前のナビスコカップで優勝したばかりだが、川口が抜け、かつリーグ戦では未だ残留争いの真っ只中にいるという、「負けられない」気持ちが最高に高まっていそうな状況。「こりゃ苦しいな」というのが試合前の率直な感想だった。

 

 キックオフ。東京はアマラオ・ケリー不在の影響がはっきりと表れたサッカー。前線に明確なターゲットがなく、中盤でもパスが全くつながらない。各自の動きは有機的なつながりがなくバラバラな印象で、せっかく由紀彦が右サイドでボールを呼び込む動きをしてもいいタイミングで球が出ない。守備もラインの裏を突かれるわセカンドボールへの寄せが遅い(というか寄せに行く判断が悪い)わで、1stステージに比べるとどことなくプレーぶりが前向きな横浜にボールの支配を許す。前半の東京で最も目を引いたのはむしろ技術や戦術ではなく、トレードマークだったレゲエヘアーをばっさり切った鏑木の姿だった(笑)。あれは何かを自分で決意したのか、それとも監督に何か言われたりしたのだろうか。遠目で見るとあまりにもさっぱりとしていて、パンクバンドで無茶かましてた大学生が就職活動はじめたとたんに刈り上げリクルート姿に変身したのを目撃したような、妙な違和感を感じたのは私だけだろうか。

 少々たくましくなったようにも見える俊輔と地味な遠藤が中盤でしっかりキープし、さらにドゥドラの運動量がサイドを制して、ほとんど一方的に押しこむ横浜。ところが、いいところまでは攻め込むもののシュートエリアでは決定力のなさを露呈してしまう。とにかくFWのシュートが枠に飛ばない。それほど東京DFのプレッシャーがきつかったようにも見えないのだが、城などは前を向く場面はそれなりにあったもののラストショットが例外なくマウスをそれて飛んでいく。15分前後のCK・FKの連続も決められず、東京にしてみれば命拾いといったところであった。

 メンバー落ちとはいえあまりのふがいない戦いぶりに、東京ゴール裏からはいつしか「アマラオ!」コールがわき起こる。それと対照的に、意気上がる横浜サポーターのいつになく元気な声が場内に響き渡る。いつもなら「横浜ゴール裏、やっぱりイマイチだね」などと大口を叩いているところなのだが。

 前半半ば以降も東京の全体的な低調さと横浜の決定力不足は変わらなかった。俊輔のFKがゴール左上隅を襲い一瞬ヒヤッとするが、これは土肥ちゃんがナイスセーブ。さらに続けて俊輔のシュートがバーをわずかに越えて上部ネットを揺らす。松田は次第にど迫力の上がりを見せるようになり(でかいわ足元強いわ、手がつけられん)、さらにさらに35分前後にはダイレクトプレイからの突破で横浜アタッカー陣が数回に渡り東京DFラインの裏を襲う。しかし、それでも得点は入らない。東京側のチャンスは小峯の絶妙のタイミング(偶然だとは思うが)のスルーでDFライン裏に抜け出した福田のシュートがサイドネットに突き刺さったのと、あとは終了間際に由紀彦からクロスが2本ほど上がったくらい。結局、そのまま前半が終了した。 

 

 後半、横浜は足を痛めたブリットがOUT、清水から出戻りの安永がIN。しかしシュートの精度の低さは相変わらずで、煮え切らない展開が続いた。東京は攻め上がる過程でパスカットされまくり、横浜は俊輔がフリーで多くボールを持つも他のアタッカーの受けようとする動きがイマイチ鈍く、両チームとも手詰まり感が次第に増していった。

 状況を先に打開しようとしたのは東京の方。9分下平OUT宮沢INで中盤の活性化を図り、さらに小林に代えて戸田を投入しトップに入れる。これで、動き回る数人のFW調アタッカーに対し宮沢がステディなパス供給を続けるという一つの「型」ができ、東京は一時的に前がかりになることに成功。パス回しのスムーズさが改善し、広く展開しながら前進できるようになる。しかし、「あと一歩」がつながらず、決定機を作るまでには至らない。

 逆に20分あたりから東京の息切れを待っていたかのように横浜の再攻勢が始まる。松田は上がっている時間の方が多いくらいになり、さらにファウルに敏感な岡田レフェリーが俊輔らが倒れるたびに笛を鳴らしまくってFKが続き、サンドロが派手な倒し方でイエローをくらう。幸いにここは枠外シュートが続いたが、嫌な兆候が漂いだしていたのは確かだった。ちなみに岡田レフェリーは昨年のチャンピオンシップ第2戦で(第1戦のモットラムとは対照的に)鹿島の悪質なプレーを見逃し続けてサッカーファンにイヤーな気持ちを味あわせた張本人だったのだが……この日はとにかくファウルをとりまくった。あまりにとるので途中からは選手達のセルフジャッジが増え、それがしばしば試合の流れを悪くした。厳しいのが悪いとは限らないが、基準を教えてくれ、基準を。

 何となく点が入らないまま「このまま行っちゃうのかな」と思い出した28分、ついに東京の幸運も途切れる。ゴールキックから城が頭で流したボールがDFライン前で張っていた安永の足元に入り、すかさずヒールで左斜め前へ送る。この動作に虚を突かれた東京DFの対処が遅れたところ、加速して走り込んできた俊輔が完全に裏へ抜けて、今度こそ枠内に飛ばしてゲット。0−1。前半からの東京攻撃陣の出来を考えれば、果てしなく重く感じられる1点であった。しかし、振り返ってみると、ここで試合が終わらなかったことがこの日の最大の収穫だったようにも思える。

 横浜がベテランの上野を入れてきた30分、藤山がオーバーラップで敵陣へ切れ込んでから中央の宮沢へパス。宮沢はダイレクトでDFライン裏を柔らかく狙う。横浜DFと東京アタッカーが入り乱れたペナルティエリア内で由紀彦がかろうじてボールに追いつき、浮き球でセンタリング。何でもない弾道に見えたが、ゴール前中央にはなぜかエアポケットのようにDFがおらず、そこにはなんとなんと我らがスーパーカブが待ちかまえていた……。カブは滑り込むようにしてきっちり球をとらえ、ゴールネットに深く突き刺した。祝、1部初ゴール!お祭りだよ、お祭り!!

 ようやく勢いに乗った東京はこの後は互角の攻め合いを繰り広げる。33分には宮沢のスルーに反応した戸田がゴール前に飛び込み(GK榎本セーブ)、37分には右サイドで小峯がドゥドラとの1対1を制する。終了間際には福田に代えて榎本を左サイドに投入。42分とロスタイムには逆に横浜がチャンスを作るが、ゴールまでは至らず。両チームとも決着をつけることはできず、延長戦に突入した。

 

 はっきり言って、平日の延長戦はつらい。翌日は仕事や学校もあるし、みんな早く帰りたいというのが本音だろう。私も同点ゴールの時の高揚感はどこへやら、気がつけば「いいよ、もう、引き分けでさ〜」とつぶやいていた(笑)(ホントに引き分けだったから、なおさらたまらんよね)。ゴール裏からも「秒殺ー!東京!!」のコールが上がる。そうだ、早く終わらしてくれい。そんなスタンドの雰囲気が伝わったのかそれとも単に疲れただけなのか(後者に決まってますな)、延長にはいるとDFのミスも目立ちはじめてクロスやシュートの応酬となり、立ち上がりから攻防が続く。きわどかったのは延長前半5分のピンチで、土肥ちゃんのしょぼいクリアが松田の目の前に落ちてそのままシュート!……しかし、やっぱりサイドネット(笑)。11分には横浜は「ならば、これでどうじゃ!」とばかりに木島を投入して勝負に出る。この時間になるともはや松田はほとんど上がりっぱなしで、FWの下で将軍然と構え、攻撃時に俊輔よりもよっぽど目立っていた。松田という選手はホント、横浜の攻撃メーターみたいな男である。一方の東京は戸田もカブもフラフラ流れてしまい(榎本はどこにいた?)、攻撃しているのにゴール前に誰も入っていかない場面が目立つようになる。

 両チームの陣地入れ替えで榎本が東京側にやってくると、すかさず「ヨシカツ!!」コールが。お約束ですな。さらに「松永!」コールまで続いたのだが(笑)、私のつれ(20代前半)はこの意味が分からなかった模様。ああ、日産は遠くなりにけり。

 延長後半、東京は宮沢のミドルパスを軸に横浜は木島のドリブルを武器に攻撃を仕掛ける。しかしさすがに疲労の色は隠せず、時間が進むにつれて両チームとも攻めにかける人数は減っていった。よりひどいのは東京の方で、完全に撃ネタ切れという感じで沈黙してしまう。終盤はFマリノスの散発的なチャンスが続くが、東京は負傷の浅利に代えて小林(稔)を投入し守りを固める。13分、ペナルティエリア外正面でのFKのピンチもシュートは土肥ちゃんの正面に飛び、ロスタイム東京ゴール前に上がったクロスもわずかに合わず、結局1−1のまま試合終了となった。勝ち点1、ラッキー(120分見ているのは疲れたけど)

 

 試合を支配していたのは、間違いなく横浜Fマリノスの方だった。俊輔は怪我を引きずっていた時期の当たりに弱すぎ+ボール持ちすぎ状態からは脱しているようで、しっかり攻撃の基点になっていた。左サイドのドゥドラは強くよく動いてぐいぐいと攻防のゾーンを押し上げ、ボランチを2枚置いたことと波戸がDFラインに入ったことで守備も安定(これは東京の攻撃が弱かったとも言えるが)。あとは点を取るだけだったのだが……何せ肝心のFWがなあ。城はすっかり大人しくなってしまい、デビューの頃のようないわゆる「ストライカー」としての香りは全くと言っていいほど感じられない。頼みのブリットも負傷してしまったようだ(怪我の程度は不明)。残り4試合横浜の目標は当然「J1残留」しかないわけだが、今日のような試合を繰り返して勝ち点を失っていけば、いくら優秀な中盤・DFを抱えていようととても安心はできまい。ここのチームにはどこぞの緑チームのような「ウルトラC」を繰り出す執念も政治力もなさそうだし、神がかりの守護神ももういないし、あとはやっぱり俊輔頼みとなってしまうのだろうか。

 FC東京は披露したサッカーの質だけで言えば、この日は今季最低に近いレベルだったと思う。シュートの数は数えるほどだし、セクシーなダイレクトプレーは全く見られなかった。由紀彦さえも内側から絡んでくる味方がいないせいで無理な体勢からクロスを放り込まざるを得ず、あまり持ち味を出せなかった。いろんな面でアマラオとケリーの存在の大きさを改めて思い知らされたと言ってもいいだろう。ただ、それはそれ、この日は「テストと競争と経験の日」だったと割り切れば評価もまた変わってくる。鏑木は劣勢の中同点ゴールを決め、FWとしての存在感をアピールすることができた。宮沢は堅実に球をさばき、攻撃のビルドアップ能力があることを証明した。山尾は落ち着いた防御で小峯とはまた違った持ち味を見せてくれた。今季の試合出場の少なさを考えれば、この試合で彼らは充分に良くやったと思う。見方が甘いのは分かっている。でも、東京だっていつまでもアマラオに頼っているわけにはいかないし、これから自他共に認める強豪に成長していくためには限られた十数人だけでなく多くの選手が能力を伸ばし、層を厚くしていかなければならない。そう考えると、やはりこの日の試合はいい機会だったし、とても有意義だったと思うのだ。

 

 

2001年10月31日 東京スタジアム

Jリーグセカンドステージ第11節

 

   FC東京 1−1 横浜Fマリノス  

 


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