往復7時間+観戦2時間、その末の敗北(泣)。東京、ヤナギに翻弄される。

 

 「東京なんぞからわざわざ来る方が悪い」と言われりゃそれまでだが、それにしても鹿島は遠かった。家を出て渋谷から銀座線→丸の内線、東京駅から総武線「エアポート成田」に2時間あまり揺られ、鹿島神宮駅のホームでしばらく待たされてから鹿島臨海鉄道(単線)で一駅乗ったところがカシマサッカースタジアム。家を出てから入場するまで、優に3時間半以上はかかった。おまけにこの日は雨。駅からゲートの間のわずかな距離も冷たく強い風が吹きすさび、はるばる初めての鹿島にやってきた我々はまことに手荒い歓迎を受けることとなった。

 入場ゲートでの荷物チェックは非常に甘く、しかももぎりのお姉さんが半券を切り忘れる(笑)。さらにスタンド入口ではボランティアのおじさんに「ここじゃないよ。ずっと向こうの入口だよ」と言われ、困惑しつつとりあえず中に入ってみるとすぐそこに買っていた指定席があった(笑)。そして、TV等で上空からの画を見ててっきりスタンド全面が屋根でカバーされているものと勘違いしていたのだが、屋根はほとんど2階席しか覆っておらず、メインスタンド5列目の我々は当然雨にさらされることに。そういえば、交通にしても駐車場はやたら広いようだが駅は先ほど降りた臨時ホームしか見あたらなかったし、ハード・ソフト両面にわたって「本当にここでW杯をやるのか?」ととても心配になった。大丈夫なのか?ただ、芝の美しさやスタンドは文句なしに素晴らしく、また専用競技場ゆえのピッチの近さなども東京者にとってはとてもうらやましいことではあった。

 スタンド裏の通路で雨をしのぎつつ昼飯を調達。「神栖町商店街」の売店(近くの町ごとに売店が出ているようだった)で天ぷらうどん・モツ煮込・お好み焼き・はまぐりカレー(「名物」だそうな)を買ってつれと2人で柱のそばに座り込んで食す。天ぷらは売店内で揚げていてサクサクしており、アウアツのモツ煮込はアッという間に胃の中へ。カレーもルーになかなかコクがあり、はまぐりのむき身が何個も入っていた。食べ物に関しては、これまで遠征したサッカー場の中では間違いなく上等の部類に入るだろう。東スタのケンタも悪くないけど、ファーストフードばかりじゃ、ね。

 そのまま通路で選手紹介を聞く。東京はアマラオの後ろに由紀彦・戸田・小林が並ぶ布陣で、中盤の底は下平が受け持つ。サブとはいえケリーと伊藤が復帰したのが心強い。対する鹿島は…と耳を澄ませると、いかにもJのスタジアムDJにありがちな、感情込めすぎ力入れすぎのアナウンスが大音響で流れてきた。これが結構笑っちゃうんだ、初めて聞くと。秋田のことを「アイアン・プロフェッサー」(だっけ?)とか紹介した時には、口に含んでいたお好み焼きを吹き出しそうになった。まあ、でも、その後「行くぞー!」とか言ってDJとゴール裏がコールを連呼する場面があり、あれはそれなりに悪くはないような気もした。ともあれ、鹿島はベストメンバー。

 キックオフ直前になってスタンドに入り、席につく。アウェイ側コーナー付近とはいえ周囲の8割くらいは鹿さんサポーター。当然、ホーム側ゴール裏は、そして試合が始まった頃からはバックスタンドも、赤一色真っ赤っ赤。対して東京側ゴール裏は3分の1くらいの入り。関東でのゲームということを考えれば少なめで、やはり距離の壁は偉大ではある(考えようによっちゃあ、札幌ドームより辛いもんね)。降り続く雨のせいでメモもとれなかったためゲームの詳細について述べることはできないが、以下記憶を頼りとして、感想を中心に試合を追ってみよう。

 苦戦が予想された東京だが、意外なことにキックオフ後すぐ、あっけなく先制する。中盤で得たFKのこぼれ球をアマラオが左サイドでキープ、中寄りをオーバーラップしてきた藤山に渡し、藤山が胸でワントラップしてからスルーパス。反応よく抜け出した文丈がマイナスに折り返した球は鹿島DFの足にからんでこぼれ、ゴール方向へ走り込んでいた小林が蹴り込んでゲット。最初から引いては厳しいという意識があったのか、積極果敢な攻撃を挑んだ東京。その甲斐あってアウェイでは大事な大事な1点をものにした。

 しかし、その後はやはりというか、一方的に鹿島が押しこむことになる。風上に立った鹿島はそれほどテンポの速くないパス回しで次第にラインを上げ、センターバックがハーフウェーに位置するまでシフトし、さらに右サイドを名良橋がオーバーラップしていく。この時東京ゴールは私から見て反対側にあったため(そして私が低い席に座っていたため)遠近感がよくつかめず、鹿島が攻め込んで歓声が上がってもそれがどの程度のピンチなのかがわからない。全体的には「何か遠くの方でやってるなあ」という感じでいまいち緊迫感に欠けたのだが、ただ一つ明らかだったのは2トップ柳沢と鈴木の運動量だ。右に左に前に後ろに互いの位置に気を遣い入れかわりながらマーカーをかき回し、小笠原やビスマルクからのパスを受ける態勢に入る。特に柳沢は見事で、柔らかい動きで神出鬼没、遠目にも山尾がつくのに苦労しているのがよくわかった。

 そして、さらに鹿島の優位を後押ししたのがレフェリーのジャッジだった。この日の主審はキム・ヨンジュ氏。この人は元々あまりファウルを流さない印象があるが、この日は赤い大観衆の声援にも押されたか(ホームのアドバンテージとはそういうものだ)、敏感に笛を吹きまくった。東京が2人がかりでコースを切ればすぐオブストラクションをとり、ボールに行ったタックルもキャリアーが倒れればすぐに笛が鳴る。それでいてアマラオが倒れても(わざとらしすぎるという説もあるが)そのままプレーは続行する。名良橋・小笠原が続けざまに直接FKを狙うが、これらは幸いにも枠をそれていった。

 一方の東京も何もせずただ耐えていたわけではなく、ボールを取るやアタッカーが素早く反応、カウンターの態勢に入る。前がかりになっているだけに鹿島のDF網は薄く、東京のMF陣は動き回ってよくパスコースをつくり、何度かいい形になりかけた。しかし、これまでの経験から考えても確かに「これはそのうち追加点を奪えるのではないか」という雰囲気はあったのだが、気になったのは若い攻撃陣がアマラオに頼りすぎたことだ。由紀彦にせよ小林にせよ戸田にせよ前を向いてボールを持っていてもアマが寄ってくるとすぐにボールを渡してしまう。それはもちろん自分が前にダッシュしてリターン等で抜け出ようとする意図ではあったのだが、しかしアマの動きにそれほどキレがなく、さらに途中からは鹿島DFがアマを狙い撃ちにして囲い込んできたため、攻め込んだところでアマがボールを取られて一転守勢に回る場面が多く見られた。それでも、中盤の底で攻守を支える下平を中心に守備のバランスは決して崩さず、何とか失点は逃れ続けた。

 だが、鹿島はさらにテンポを上げ、ダイレクトプレーの割合も増していく。そして29分、ついに東京の守備にほころびが生まれる。中盤に下がってきた鈴木がポストで落として中田浩に渡し、前線にスルーパス。「なぜか」DFのついていない柳沢がラインの裏に出てダイレクトシュート、ボールは左のゴールネットに突き刺さった。何が起こったのかはすぐに場内のビジョンに流れたリプレイを見てわかった。柳沢にはやはり山尾がついてはいたのだが、中田のスルーパスが出た瞬間弾かれたように中央から右よりのスペース(外側のDFとの間)に飛び出した柳沢の瞬発力についていけず、フリーでのシュートを許した。ヤナギの完全なスピード勝ち。せっかく得たアドバンテージを前半の内に失ってしまい、非常に苦しい展開となった。

 しかし、ここから試合はやや均衡する方向へ動いた。キムレフェリーに立ち上がりとのバランスをとる意識があったかどうかはわからないが(あったと思うよ)、自陣で東京が激しい防御を見せて鹿島アタッカーが倒れてもファウルになる回数が目に見えて減った。それまでと変化した基準に選手は戸惑ったようで、以後、ノーファウルなのに両チームとも審判の方を見て流れが止まる場面(こういう場面が嫌いな私のつれは大声で「セルフジャッジすんな!!」としきりに叫んでいた)が増えていった。ともかくこれで鹿島の猛攻は一旦流れをせかれ、遠目からのミドルシュート・DFを背負った悪い態勢からのシュートが次々と枠を外れ、枠に飛んだ弱いボールも土肥ちゃんのえじきとなった。東京にしてみれば惜しかったのは35分のプレーで、GK曽ヶ端がペナルティーエリアを飛び出して小さくクリアしたボールがまん前の文丈の足下へ。文丈は無人のゴールへグラウンダーのシュートを放つ。メイン側からはシュートの方向はわからず(DFが追うのをやめたのだけは見えた)「入れ!いや、入っただろ!!」と叫んだその瞬間、ボールは減速しながらゴール左側に外れていった。これ以上はないチャンスではあったのだが…。そのまま1−1で前半が終了。

 

 あまりのやられぶりにいい加減見かねたのだろう、東京は後半開始から山尾に代えて手の負傷も癒えぬ伊藤を投入し、後方に安定感を求めた。さらに8分には小林に代えてケリーを投入。ケリーは負傷以前と変わらぬ運動量・キープ力を見せて周りのアタッカー陣を生かしまくり、アマラオの負担も減って東京の攻撃が見違えるほど活性化した。ケリー自身の2度のシュート(しかも枠内)に加え、クロスやパスがさかんに鹿島ゴール前に飛ぶ。しかしここは曽ヶ端ががっちりとマウスを守りきる。一方鹿島もアウグストの直接FKがゴールポストわずか外を抜けるチャンス。ほぼ互角の展開か、もしくは東京やや有利のまま時間が過ぎていった。

 後半は近くで柳沢のプレーを眺めることができた。ボールを持っていない時の彼の動きは何だか一種の魚みたいだ。DFの前で右に左にスラロームを描くように動いたり、ゆるやかにサイドに流れていって真ん中のスペースを空けたり、かと思うとパスの出る瞬間を見計らって逆方向に「キュッ」と(これが魚的)切り返して行ったりと、とにかく労を惜しまない、相手にしてみれば予測困難なパターンで動いてチャンスをつくる。「あっ!」と思わず叫びそうになったのは、何分だったか、右サイドでフリーになった鈴木がドリブルで持ち上がって、中央ではサンドロ・伊藤の両センターバックと柳沢が平行しまっすぐ東京ゴール方向へ移動していた場面。鈴木が中を見た時点ではまだ伊藤と柳沢はほとんどくっついた状態のまま。そして皆が再び鈴木に注目してセンタリングが上がろうとしたその瞬間、柳沢は急速に、しかしさりげなくファーサイドへ方向を変え、実際にクロスが入った時にはもう伊藤とは3メートルほど離れていた。あれがいわゆる「質の高い動き」というヤツなのだろう。FWとして当然の動きではあるのだが、しかしそれを極めて自然な感じで、しかも絶え間なく実行できてしまうところに柳沢の強みがあるのではないか(DFも90分間ずっと集中力を保つのは無理だからね)。

 勝ち越し点を目指して先に動いたのは東京。27分、下平に代えて喜名を投入。これを見て鹿島も29分に鈴木OUT、本山IN。後から振り返って見れば、ここが勝負の分かれ目だった。いつもならば喜名投入は攻撃を加速させるところだが、この日は違った。下平はDFライン前でボールキャリアーにくいついて鹿島の攻撃をスローダウンさせる守備と着実なアタッカーへのフィードでチームに大きく貢献していたが、彼が抜けたことでDFラインとアタッカー陣の間にプレッシャーの弱いエリアが生じてしまった。喜名は前がかりになりつつタメをつくったり左右に散らしたりするのが持ち味だが、中盤後ろ寄りのゾーンをカバーするのは得意ではない(だから、決して「守備的MF」ではない)。また、もう一人のセンターMF三浦文丈もどちらかと言えば前への飛び出しと左右への動きを得意とするのであって背中方向に強いとは言えない。そしてそこにスピードある本山が入って攻撃的に動き回ったのだから、東京としてはたまらない。結果、前線にいいボールが全く入らなくなり、守備時にはMFは背中から追いかける形、DFラインは前に出れず待ち受ける形になって鹿島の自由な攻撃を許した。由紀彦はひたすら縦を切られるようになり、それを後ろで支えるべき小峯もパスを出しあぐねる姿が目立った。

 30分過ぎに本山がDFライン裏にチョロッと流したボールに柳沢が走り込んだ場面は土肥ちゃんの飛び出しで何とか防ぐが、その後も鹿島のシュートが続く。そして37分、ゆっくりボールを回してからフリーになった名良橋がロングシュート、土肥が弾いたボールを本山がボレーで蹴り込んで均衡が破れた。1−2。流れからすると少しも不思議さはない、必然のゴールだった。さらに東京の反撃も思うようにいかないまま試合終了も近くなった44分、本山が左サイドをワンツーで突破し、ゴールライン際まで切り込んでからGKとDFラインの間に速いグラウンダーを通し、走り込んでいた柳沢が難なく合わせてゴール。1−3。これが駄目押しとなった。その後は下がってきてボールをとろうとするアマラオの頑張りも空しく、東京は大した見せ場もつくれぬまま終了のホイッスルが甲高く鳴り響く。ようやく雨もやんだ曇り空の下、周囲の鹿島サポーターの満足げな会話と意気盛んなゴール裏の「ヴェルディ東京ぶっ飛ばせー!!」コールが場内に鳴り響くのを聞きながら、すごすごと退場することになった。はるばる3時間半かけてやってきたのに……残念である。

 

 鹿島アントラーズは首位を行くチームだけに、自信を持って戦っているのがよく伝わってきた。先制されても慌てず騒がず、冷静に押しこんで東京のカウンターも許さなかった。個々の選手では小笠原に以前の輝きが見られないのがやや気になるが、中田浩二やビスマルク等のMFは前線にいい球を送るという仕事をきっちりこなし、あとは名良橋の弾丸のような上がりも相変わらずだった(後半ややペースダウンしたのは仕方ないか)。そして何より、2トップの強力さ。うまい柳沢に強い鈴木というのはもちろんいい組み合わせだと思うし、状況に応じてこれにあの本山を組み合わせられるんだから強いよね、そりゃあ(終盤でのリズムの変化を見ると、トニーニョ・セレーゾ監督が本山のサブ起用にこだわるのがわかる気がする)。あと2試合、次がヴェルディで最後がサンフレッチェか。磐田との勝ち点差も4に広がったし、2ndステージの優勝は間違いないところだと思う。チャンピオンシップはチーム力ジリ貧のジュビロが相手になるし、2年連続リーグ制覇の可能性もかなり高い。とっとと優勝して、ヤナギはとっとと外国行きなさい(セリエAは薦めないけど)。

 FC東京は、まあこの試合に関しては完敗というしかないだろう。押しこまれ続けていたのは事実だし、終盤の交代では攻守の構造に関する読み合いで完全にやられた形となった。下平の貢献度の高さが目立ち、山尾の頼りなさは隠せなかったが、あとの選手はそれほど調子が悪いようには見えなかった。特に前半に明らかになったのは、相も変わらぬアマラオ依存。一旦彼に預けるのは別に悪いことではないが、あまりに頻度が大きくなりすぎると相手に読まれるしアマ自身の得点力を生かせなくなる。そして、キープ力の高さは日本人ばなれしているとはいえ(そもそも日本人じゃないって?ああ、そうか)、複数の相手DFを手玉にとって状況を打開する力は今のアマラオにはない(周りの若い選手に比べるとスピードで劣るし)。あと、この日も小峯を右サイドで使っていたが、どうせなら小峯を中、伊藤を右サイドで使うべきだろう。サイドバックとしての小峯は、スペースのカバー力もパス能力も足りないと思う。ただ、ケリーと伊藤の復帰は明るい材料に違いない。ケリーが入るとアマラオの負担が減り、攻撃の全ての局面が好転するのはこの試合の前後半を見比べれば明らかだろう。伊藤の復帰は記述の通り小峯の「人に強い」特質をセンターバックで発揮させる条件となる。

 ともあれ、長かった今シーズンもあとわずか2試合。現在東京は5位で、首位との勝ち点差は14。優勝争いをしていたころがはるか昔のようだが、しかし賞金3千万の出る3位はまだ手の届く位置にある。次のホーム最終戦、そして最後に控える2度目の東京ダービーを制してスッキリした気分で今シーズンを終わり、天皇杯でのタイトルチャレンジに向かいたいものだと思う。

 

 

2001年11月10日 カシマサッカースタジアム

Jリーグセカンドステージ第13節

 

鹿島アントラーズ 3−1 FC東京  

 


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