七夕の夜はとびきり暑く、熱かった。東京、前年度王者に快勝!!

 

 キリンカップで1週お休みを挟んだJ1第13節。我らがFC東京は、ホームで鹿島アントラーズを迎え撃つことになった。今季東京は開幕戦でVゴール勝ちした後、東京スタジアムではなんと3連敗(ナビスコカップ除く)。「東京スタジアム効果」か大幅に増えているお客さんの前でふがいない試合が続いているだけに、また今回は試合日が7月7日ということで『七夕ナイト』の特別キャンペーンを張っているだけに、そして相手が順位的にすぐ下の鹿島だけに、ここは是非ともいいゲームを見せたいところ。幸い、ここ2戦はアウェイながら2連勝で流れはいい。一方の鹿島は前年のチャンピオンながら今季は下位に低迷。ここ数試合で盛り返してきてはいるものの、今回は好調柳沢が出場停止、小笠原と相馬がケガで長期離脱と苦しい状況だ。コンフェデレーションズ杯で名を上げた鈴木・中田あたりが頼りか。

 

 チケットの前売り状況と飛田給駅の混み具合からある程度覚悟はしていたのだが、キックオフ1時間前にスタジアムに入るとすでに観客席の6割以上が埋まり、後からも続々と人が押し寄せてくる状態。30度を超える気温とも相まって、開幕戦の東京ダービーと同等かそれ以上の熱気だ。東京のキャンペーン大成功、という感じである(入口でもらった特製うちわのデザインはイマイチだったが)。

 バックスタンド2階席に席を確保し、さっそく本日の(試合以外の)最大の目的であるビール(先着1万5千名まで特製カッププレゼント)を買いに行く。東京側スタンドはどこも50人以上が行列する状態だったので鹿島側まで遠征して20人ほどの列を見つけ、ほっとして並ぶ。しかし、ここがとんでもない地雷だった。売店脇に設けられたそのドリンク売り場には売り子さん(10代、どう見てもバイト)が3人いたのだが、彼らの要領があまりにも悪すぎた。一人がビールをカップにつぎ、一人がカップを奥から運び、一人がお金を受け取って渡す。このフォーメーションはそれはそれとしていいのだろうが、こいつらいかなる状況においても自分の持ち場分しか働かないために一回流れが途切れるとすげえ非効率な動きになる。見ていて「この暑さで客のほとんどはビールしか頼まないんだから、どんどんカップにつげよ!」とか思うのだが、「つぎ係」はあくまで一人だけらしく、そいつがついでる間他の2人は何もせず見てやんの。お前らチームだろ!互いで互いを補えよ!!今時、プレステのサッカーゲームでももうちょっと融通きくぞ。いっこうに列は進まず、だんだんイライラしてくる。私の後ろに並んでいた鹿島のレプリカをきた女の子(と言っておこう、一応)たちも切れかかっていたらしく、「まるでスターバックスの店員みたい」「たくさんお客が来るのに慣れてないんじゃないの?」と言いたい放題。すいませんね、何しろ2年目なもんですから。結局、30分待ってようやく購入。疲れた。

 席に戻ると、さらに大変な状況になっていた。すでに見渡す限りあらゆる席が埋まり、それでも空きを探す人々が通路に列をつくって移動もままならない。サッカー観戦に慣れていない人も多そうで、皆苛立っているようだ。誘導の人も見あたらず、「どうなってんだよ、これはよ!」などといった怒鳴り声も聞こえる。「楽しいはずの夜が……」。私もすっかりブルーになり、おとなしくフライドチキンにかぶりつきつつキックオフを待つことにした。

 ふと、後ろから強く肩を叩かれた。「何やってんの?」。振り返ると、大学時代の同級生の顔がそこにあった。「お前こそ何やってんだ?(サッカー観戦に決まってるけど)」と聞き返すと、彼はTシャツの胸に付いたFC東京のエンブレムを嬉しそうに指さし、「応援団」と言う。………いや、ホント、嬉しかった。数年来会ってなかった友達がいつの間にか僕と同様にFC東京を好きになってくれているという事実が。たとえその友達が、酔っぱらうとすぐ脱ぐ男で、昔渋谷ハチ公前で全裸になった事がある奴だとしても(笑)。

 そんなこんなでメンバー発表もろくに聞けないうちに、キックオフ前の特別イベント、ゴスペラーズによる『You’ll Never Walk Alone』の合唱が始まった。心配していた(いや、信じてましたけどね)鹿島サポーターによる妨害もなく、場内に鳴り響く美しい歌声。いやあ夏の夜にお似合いだね、と耳を傾けていたその時、すぐ脇で「ドズン!」という音が。驚いて見ると、子供が階段で転倒して頭から最前列の壁に突っ込んでいた。相当な勢いでこけたようで、その子は痛いのかそれとも気が動転したのか立ち上がろうとしてなかなかうまくいかず、足もちょっと痙攣しているようでもあった。周りの人と父親に抱えられてようやく通路の方へ立ち去る。が付くと、ゴスペラーズの歌は終わっていた。つくづく、落ち着かせてくれない夜であった。

 そうこうしているうちに選手が入場し、試合開始。この日は4万8千大観衆の熱気に押されたか、序盤から白熱した展開になった。立ち上がりこそガツガツとした激しいつぶし合いでなかなかパスが通らなかったものの、東京は左右のスペースを生かすワイドな展開からケリー・アマラオの2トップめがけて入れるパターンで、鹿島は鈴木のポストプレーと中田・ビスマルクの展開力を武器に、次第に相手ゴール前に迫っていった。

 先にペースを掴んだのは東京で、10分頃(2杯目のビールを買いに行ってて見てないのだが)、守備的MFとDFラインの間のスペースでドリブルを開始したアマラオが秋田をかわしてシュート→バー直撃の惜しい場面をつくる。18分にはペナルティエリア内左寄りで球を受けたアマラオが倒されるが、あまりにわざとらしいジェスチャーに笛は鳴らず、チャンスを逃した。この時のアマは両手を大きく広げ、「アー」とか叫びながら両足を揃えて倒れるような感じで、東京サポーターといえども「いくら何でもそれはやりすぎ」と突っ込みたくなるシーンだった。

 そうこうしているうちに20分頃から鹿島の方が流れを掴みだし、2トップの鈴木・平瀬に当ててから走り込んできたMFがミドルを打つパターンが目立ちはじめる。22分にはペナルティエリア外で得たFKをDF池内が頭で落とし、土肥ちゃんが弾いたところに鈴木が飛び込むが、ノーゴール。23分には奈良橋のアーリークロスに再び鈴木がファーサイドで飛び込むがわずかに届かず。この時間帯に限らず、鈴木の存在感は凄いものがあった。とにかく身体・足元が強く、倒れない。ゴールに向かう突進も迫力があり、いったいいつの間にこんな凄い選手になったのだろう。国際試合で得る経験・自信とはかくも大きいのだろうか。ただ、その鈴木の強さ・速さを周りの選手(特に相棒の平瀬)が生かし切れていない印象もまた強かったのだが。28分には左サイドビスマルクから逆サイドへのロングパス一発でMF野沢がフリーになりかけるが、伊藤の必死の戻りで事なきを得る。いずれにせよ、鹿島にとっては押せ押せの、東京にとっては厳しい時間帯だった。

 そんな31分、東京は自陣でボールを奪うと浅利が素早く左へ展開、小林からサイドへ流れていたアマラオにパスが渡る。アマはややキープした後絶妙のタイミングで逆サイドのスペースへクロスを上げ、走り込んでいたケリーがGK曽ヶ端の前でダイレクトに合わせて見事ゴール。じりじりと押し込まれていただけにこの先制点はいかにも効果的だった。得点後、さらに前がかりに押し込む鹿島、一方でカウンター狙いの東京という構図がはっきりしていく。野沢がペナルティエリアに侵入するピンチを小峯が粘ってしのぐと、33分にはケリーがドリブルで抜けてシュートを放つ(曽ヶ端セーブ)。41分には右サイドケリー・左サイド小林から続けてゴール前のアマにクロスが入るがDFがブロック。戦いは激しさを増し、小峯が鈴木のクラッシュ(やっぱりやりやがった)で額から血を流し、伊藤とビスマルクにもイエロー。熱い雰囲気のまま前半が終了した。

 

 後半になっても「押し込む鹿島、返す刀の東京」の構図は変わらない。東京はアマ・ケリーを軸にカウンターの形を作ろうとするが全体的に押されているのも事実で、開始直後からケリー・浅利・小峯が立て続けに警告をくらう。5分には鹿島DF中村のシュートが枠をかすめ、イヤな雰囲気が漂いだしていた。

 しかし、こういうポイントでズルズル行かないのがこの日の東京の良いところ。6分には由紀彦の突破で逆襲の形を作った後小林が浮き球を中央のケリーへ。ケリーは胸で大きくトラップして右のゴールライン際でDFを引きつけ、センタリング。ゴール前にはアマラオが超どフリーでいたのだが、これをアマラオはなんとバーのはるか上へ宇宙開発してしまう。で、普通のチームなら「あ〜あ」となるのだが、「アマラオだけに仕方がない(むしろ面白い)」と思うのがFC東京。めげずに逆襲を狙い続ける。8分には藤山が長駆攻め上がってシュート、10分にはケリーの逆襲から由紀彦がシュートを放つ。一方の鹿島は頼みの鈴木にボールを集めるが、小峯・サンドロのマークで思うように展開できない。そして11分、土肥ちゃんのゴールキックをフィールド中央でアマが頭ですらし、落としたボールをペナルティエリア前で拾ったケリーがDF池内を軽くかわしてからゴール右に叩き込み、2点目。

 こうなれば多少攻められようがなんだろうが自陣でがっちり守って逆襲する東京サッカーが効いてくるわけで、アマラオのオーバーヘッドクリアで場内やんやの喝采を浴びた後はカウンターから度々良い形を作るようになっていった。追いつめられた鹿島は17分に本山を投入するが、しかし東京DFは目立って崩れはしない。さらに25分に長谷川IN、平瀬OUT。平瀬は東京ゴール裏の「バーモント!」の声に送られ、鹿島サポーターの「ハーセーガーワー」コールも同じメロディでの「あーまーらーおー」コールで対抗されるのであった。この後、東京側から「やなーぎさーわー!!」コールが上がった時には「やべえ、ちょっと調子に乗りすぎじゃん」とも思えたのだが、幸いにして鹿島サポーターは浦和のヤンキーとは違った模様で、誰も囲まれはしなかった(笑)。

 さらにさらに鹿島は守備的MF本田を下げて攻撃的な内田を投入して反撃を図るが、しかしそれでも東京DFは変にラインを上げたりせずセーフティに守って崩れない。さすがの鈴木も倒れる回数が増え、本山を起点として左サイドから上がってくるクロスも土肥ちゃんがことごとくキャッチした。30分を過ぎると両チームとも足が止まりはじめ、中盤の守備が消失して淡泊な攻め合いに。30分、こぼれ球を拾った藤山が単身ペナルティエリア内に突入してシュート(曽ヶ端セーブ)。33分には奈良橋のシュートがバーを叩き、36分には本山のヘッドがゴール僅か右へ抜けていった。東京は37分増田・42分三浦・44分呂比須と交代枠をきっちり使って時間も稼ぎ、相手DFの前で無意味に横へ流れていくダーマスドリブルも披露。ロスタイムには本山のスルーパスに対しサンドロと藤山が衝突して鈴木が抜けたところ、土肥ちゃんが一対一を止めるという見せ場もつくり、結局2−0のままタイムアップ。満員に膨れあがった大観衆の割れんばかりの拍手が東京の選手たちを迎えることとなった。もちろん、試合前のイヤなことなどすっかり忘れて私もはしゃぎまくっていたのは言うまでもない(結局、ビールも3杯飲んだしね)。

 

 鹿島アントラーズはやはり柳沢の出場停止が痛かったのだと思う。中盤で中田・ビスマルクのパス能力があっても全体的にMF陣の前に出る圧力が弱く、本山・長谷川が入るまでは鈴木さえ抑えておけばそれほど心配はいらなかった。むしろ、平瀬ではなく長谷川先発の方がよっぽど怖かったと思う。DFも秋田が一人に大きな負担がかかっている感じ。奈良橋も攻め上がりで貢献する余裕はなさそうだ。小笠原・相馬の不在がいかにも大きく(野沢らもそれなりに良い選手だと思うけど)、現在の順位もそれなりに頷ける印象だった。逆に言えば、この試合にいなかった選手たちが戻っていたらまだまだそう簡単には勝たせてはもらえまい(今季も、降格までは心配しなくてもいいだろう)。東京にとっては、まことに幸運な状況だった。

 FC東京はようやくホームの大観衆の前で結果を出すことができた。まことにめでたい。この日はサイド攻撃はいつもほどには機能していなかったが、ケリーとアマラオの破壊力がそれを充分すぎるほど補った。やっぱり東京のフロントは外国人選手のセレクトに関しては外さない。前述の友人も、試合後「ケリー、最高!!」と吠えていた。ホント、最高っす。守備陣も鈴木や本山に振り回されつつもねばり強く食らいつき、暑さの中最後まで集中力が途切れなかった。あとこの試合について強調しておきたいのは、浅利が果たした役割の重要さ。押し込まれる状況の中攻守の繋ぎ目となり、ワイドな展開力も見せて幾度もチャンスにつなげた。東京不動のスキッパー。3人の外国人と並んで不可欠な選手と言えるだろう。

 この勝利で東京は7勝6敗と勝ち越し、7位に浮上。1stステージラストの強敵相手の3連戦(鹿島・G大阪・清水)、まずは順調な滑り出しである。シーズン当初の不調ぶりを考えればよくぞここまで盛り返してきたものだと思う。次節はホームながらケリーと小峯が累積警告で出場停止と苦しい状況になるが、ここでしっかりしたゲームをして最終戦につなげ(できれば1stのうちに降格の影を振り払い)、2ndステージではいっそ優勝を目指してほしいものだと思う。かなり困難なのは百も承知だが、磐田さえ減速してくれれば不可能ではあるまい。むちゃくちゃ暑いけど、頑張って行こう。

 

 

2001年7月7日 東京スタジアム

Jリーグファーストステージ第13節

 

   FC東京 2−0 鹿島アントラーズ

 


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