ホームでまさかの大惨敗…。どうしたFC東京!!
前節終了後、某サイトの掲示板で「ジェフ戦は中間試験みたいに思えて嫌だ」という趣旨の書き込みを見かけた。正直、言い得て妙だと思った。つまり、ジェフ市原に対してはまことに失礼な言い方になるが、ジェフ戦は「それほど困難ではない相手で、必ず結果を出さなければないというプレッシャーのかかる試合」ということだ。この2年間FC東京はジェフ相手にナビスコカップ・リーグ戦合わせて3勝1敗と勝ち越しており、今季も今のところジェフは下位に低迷。前節浦和戦、幸運な勝ち方でようやく連敗を脱した東京にとってこの試合はJ2陥落の影を早々に振り払うため、そして上位進出のためには必ず勝たなければならない試合だった。
東京スタジアムにはキックオフ1時間ほど前に到着した。この日はあいにくの雨。しかしそこはさすが新スタジアム、スタンド全面を覆う屋根のために快適な環境の下で観戦が可能だ。1階席の最前列あたりは少々雨の吹き込みがあるのか人が近づかないようだが、バックスタンド2階席に陣取る私は照明に浮かび上がる雨粒を遠目に眺めるだけである。屋根が全面にあるって本当、素晴らしい。この素晴らしさに気づかず雨ざらしのスタジアムを何十年も作り上げてきたのだから、そりゃあ日本にスポーツ文化なんてないわな。
スタメン発表。ジェフはチェ・ヨンスと大柴の2トップ。チェ1人ならば封じやすいが、大柴にちょこまか動かれてマークがずれるのが怖いな、という印象。GKは櫛野だが、ジェフは何のために鳥栖から高嵜を連れてきたのだろう。東京側は「キング」アマラオが復帰も、サブメンバー。呂比須・戸田の2トップと三浦文丈・増田・ケリーのMF陣に、センターバックにはチェ対策ということか、伊藤ではなく小峯を起用。控えMFに喜名と佐藤由紀彦が入った。
試合開始。東京は立ち上がりから守備・攻撃ともにぎこちなく、一方的なジェフペースに。市原が早め早めにプレスをかけてきたこともあってか東京はコンビネーションが機能せず。攻撃時にはパスの成功率が悪く、守備時にはマークの受け渡しがずれて各所でギャップが生じた。いきなり4分、フリーでボールを受けたMFムイチンからきれいなスルーパスがペナルティエリア内斜めに流れる大柴に通り、左足ダイレクトで放ったシュートが決まってジェフ先制。この場面、周囲には6〜7人の東京DFがいたのだがマークの受け渡しが混乱して詰めが弱く、右往左往という感じで数的優位を全く生かせなかった。続いて8分、レフェリーの判定がはっきりせず棒立ちになったところ、クイックでスローを入れられるピンチ。ここはゴール前でサンドロが大柴を潰しチェのシュートもゴール僅か右へそれて事なきを得たが、集中力を欠いたプレーに東京のいつにない不調ぶりが明らかになった。11分には東京最初のシュートを文丈がはるか上空にふかし、16分には右サイドを突破されセンタリングがFWにぴたり合うピンチ。
両チームを比べると、ジェフの方は攻撃時ボールキャリア以外の選手も積極的にパスコースをつくる動きをしているのに対し、東京側はそうした動きが乏しい。また東京は自陣で緩慢にパス回しをしていてボールをとられる姿も目立ち、その際の戻りもまた極めて遅いのであった。結果、2階席の視点から見ていると、ジェフの方はきれいな幾何学的な陣形が一貫して保たれており(各局面でいわゆる「トライアングル」になっている)、チームとしての機能が明確であるのに、東京の方にはそうした統一感は感じられなかった。20分、ケリーが右サイドで孤立した際も、東京のアタッカー達は前線に張ったまま誰も助けに行かず。複数のジェフDFに詰められ詰められついに奪われてカウンターをくらいかけるという、まことにみっともない姿をさらしてしまった。サポーターからは当然、大ブーイングである。
個々の選手を見ると、ジェフ側は特に目立つ選手はいないものの、DFライン〜中盤がお互いをフォローし合いつつ2トップへ球を運ぶ。前線ではチェがしっかりボールをキープして攻守に時間を稼ぎ、大柴が動きの鈍い相手をあざ笑うかのように走り回った。東京側ではチェにも当たり負けしない小峯が光っていたが、全体的にプレーにスピードが足りない。内藤と増田の出来の悪さは尋常でなく、ほとんど攻撃に貢献できないどころか、たびたびボール奪取されてジェフのカウンターの起点にさえなっていた。また、呂比須もテンポの悪いプレーを繰り返してブレーキ。28分には中央のケリーが左にはたいたボールをフリーにも関わらずトラップミスしてスタンドから非難の声を向けられていた。
前半半ばを過ぎたあたりで、東京がようやくペースをつかみかける。28分、チェのシュートを小峯がブロックした跳ね返りがセンターサークル付近の呂比須に渡り、カウンターのチャンス。ケリーから右サイドへ流れた戸田につながっていい弾道のセンタリングが上がり、ゴール前3人がフリーだったがジェフDF必死の戻りの前にゴールならず。32分、戸田の突破で得た右サイドのFK、ファーに上がったセンタリングに戸田が競り勝って頭で落とすが、惜しくもポスト左に外れる。ところが、ここで押せ押せになれないのがこの日の東京のおかしさ。攻撃時に中盤で組み立てを行えず、前線と浅利以下の間がぽっかりと開いてしまう。前線でひたすら「並んで」「待って」いるアタッカー陣の姿を見て、「バカヤロー!、動け!!」と叫びたくなったのは私だけではなく、ゴール裏からも同様のコールが上がっていた。いったいFC東京は、いつからそんな省エネサッカーが許される身分になったのだろう。
その後は一進一退の攻防が続き、39分、ケリーが右サイドからDF2人を背負いつつ中央に切れ込み、呂比須に速いパスを通す。呂比須はダイレクトでゴール前に流すも、走り込む者がなく逸機。41分にはオーバーラップした浅利がロングシュートを放つが、櫛野がしっかり押さえて×。そうこうしているうちに43分、ジェフに東京陣でのFKのチャンス。壁からの跳ね返りを再びペナルティエリア内に放り込んだ球が右サイドへこぼれ、フリーでいた中西の足下へ。中西はそのまま中央へ切れ込んで東京DFを一人二人ひらりひらりと交わしていき、左から寄ってきた長谷部にボールを渡す。長谷部は中西と交差して右足を振り抜き、芸術的な弾道でゴール右上隅に決めて0−2。早くも場内に鳴り響くアマラオコール。
後半、FC東京は戸田に代えてアマラオを、そしていいところなしの増田に代えて喜名を投入。投入した2人、そして増田のOUTは納得がいったが、呂比須ではなく戸田を代えたのは、アマラオとの組み合わせを考えても疑問だった。そして反撃する間もない1分、左サイドライン際をジェフの村井が疾走、内藤を完全に振り切ってフリーの態勢からグラウンダーのセンタリング。土肥は横っ飛びでボールに触れたが、不運にも変わったコースにちょうど大柴が走り込んでおり、ゴールライン上でクリアを試みた藤山のスライディングも実らず0−3。ここで早くも勝負は決まった。
東京は喜名を経由することでやや中盤の流れが改善、遅まきながらある程度ボールを支配できるようになる。しかし相変わらず攻め上がり・戻りの遅さが目立ち、両軍のプレーのスピード感が逆転するまでには至らなかった。6分、アマの頑張りでとったCK、ケリーがしょぼいキックで台無し。10分、再びオーバーラップした浅利が文丈とのワンツーからDFラインの裏へ出るも、シュートは枠の外に外れる。頭を抱える浅利。そしてこの頃からジェフの選手(特に3人の外国人)が軽い接触でもバッタバッタ倒れ始め、それを布瀬レフェリーがことごとくファウルにとるもんだから、東京サポーターのフラストレーションはさらに急上昇していった。退場するんじゃないかというくらいに膝を抱えて痛がっていたチェが、担架でライン外に出された瞬間に何事もなかったようにスッと立ち上がったのには思わず笑ってしまったが。
21分、内藤OUT由紀彦IN。由紀彦はこの日は明らかに「いい由紀彦」で、右サイドライン際吉田・村井との戦いを制し、好センタリングを度々上げることになる。彼を通すとかなりの確率でチャンスになり、今度こそ東京のペースが継続していく。しかしはっきり言って、出すの遅すぎ。27分カウンターの場面、呂比須がペナルティライン前でスローダウンし、左右にジリジリとドリブルして結局パスをカットされてしまう。ゴール裏からは「シュート打て!」のコール。30分の左サイドFK、呂比須のシュートはゴールポスト右をかすめて抜ける。直後、村井がゴールライン際までドリブルして中央でフリーのチェにクロスが入るが、幸運にもシュートは枠の外へ。32分、左サイドでアマラオにパスが渡り、柔らかく浮かしたセンタリング、由紀彦が頭で落とすもシュートはゴールポスト左外。34分のチャンスでもシュートが枠へ飛ばない。前半の組み立て段階の出来の悪さに加えて、後半のこの決定力のなさである。スタンドで見ている方としては、もう泣きたいというか笑うしかないというか…。
35分を過ぎるとジェフが時間稼ぎ気味にゆっくりボールを回すようになる。東京もわかってはいるのだがカットできず、とってもつなぎのパスが雑ですぐにボールを渡してしまう。40分、ジェフはチェOUT林INでいよいよ逃げ込みを図る。43分、ジェフ陣右サイドFKのチャンス、由紀彦から低い弾道のクロスがケリーに合うも、GKの正面をついてノーゴール。ロスタイムになるともはや東京は相手ペナルティエリアに入ることすらままならず、逆にジェフの林を中心としたカウンターにゴールを脅かされる始末。結局、そのまま0−3で試合終了となった。まさか、この試合で、こんなことになるなんて。
まことに悔しいことだが、この日のジェフ市原のサッカーは完全にFC東京のそれを上回っていた。繰り返しになるが今のジェフに飛び抜けたインパクト・プレーヤーはいない。しかし小粒な個々の選手が己の役割をしっかり認識し、90分間忠実にそれをこなしていたように見えた。爆発力はないが、大崩れもしなそう。ベルテニックの目指すコンパクトなサッカーが次第に姿を現してきたということだろうか。まとまりが良すぎて無色透明とも感じられ、面白みはあまりない(個人的にはあまり好きになれない)けれども、まあこのまま行けば例年ほど降格にビクビクすることもないのかもしれない(とか言ってるうちに精神的なもろさが出て落ちていくのもまた例年のパターンではあるのだが)。
FC東京にとっては、間違いなく今季最低のゲームだった。立ち上がりに先制点を与えて後半反撃するも時すでに遅し、というのは昨年も見られた悪いパターンだが、今年は開幕から6戦連続で先制を許している。得点力不足にも悩む現状でそれじゃあ勝てるわけがない。同じことを繰り返すというのは、リーグ戦で求められる学習能力が欠如しているとしか言いようがないだろう。そして、この日はそれに加えて運動量と味方に対するサポーティングまで少なくなっていた。FC東京は、いつから悠長に受けても勝てるほどの強豪チームになったのか?素材に劣るチームが、走らず、集団で助け合わずにどうして1部リーグで勝利を手にすることができるというのだろう。今のFC東京は、昨年、いやJ2時代よりも弱く、かつ魅力のないチームになっているように見える。この2年間の補強はいったい何だったのだ。そして、あの惜しみない動きとダイレクトプレーを軸にした、「東京の」サッカーはどこへ行ってしまったのだ。
また、この日はピッチ上でのプレーと並んで、選手起用にも大いに不満が残った。劣勢の後半、喜名を入れ由紀彦を入れて反撃態勢を整える。それはそれで間違っているというわけではないが、しかし開幕から5試合で3完封負け(この試合を含めれば4完封負け)という極度の得点力不足に悩み、インタビュー等でも繰り返し「先制点が欲しい」と言っていたにも関わらず、なぜ最初から後半のような「攻撃態勢」をとらないのか?この日、はっきり増田はダメだったし、喜名・由紀彦を入れた効果もまた明らかだった。あと、呂比須を最後まで代えなかったのにも疑問が残る。呂比須・増田に関してはアンタッチャブルにするべき理由が何かあるのだろうか?大熊監督に聞いてみたいものだ。
それと、中断期間を挟んだ時に限って次の試合の動きが悪く、たいていは負けている。これも何か理由があるのか?オフにあれだけ走り込み、日本代表遠征の間もじっくり調整できたはずなのに、いざ試合になって全く動けずフィジカル負けする。明らかな調整失敗と言っても良いのではないだろうか。これは今に始まった話ではなく、昨年も同様だった。もしかして、トレーニングに何か重大な欠陥があるのかもしれない。
試合終了後、ゴール裏はおろか、メイン・バックスタンドからもしばらくの間ブーイングが響いてやまなかった。一礼し、肩を落として引き揚げる選手達。アマラオがゴール裏に対して、何かジェスチャーで訴えかけている。彼に限らず、選手やスタッフの中にはあのブーイングに不満を感じている人もいるかもしれない。でも、よく考えて欲しい。ファン・サポーターはなぜあのようなブーイングをするのか?それは、あくまで、「俺たちの」FC東京を応援しているからだ。単に試合がつまらなく入場料に見合わないなどと考えたのなら、黙ってスタジアムを出て2度と足を運ばないだけだ。そうではなく、好きなチームに歯がゆさ・じれったさを感じているからこそあのブーイングになるのだ。雨の中1万7千人が来てくれて、そしてブーイングをしてくれるだけまだ幸せだとも言える。この日のような試合を繰り返していれば、いつか歓声やブーイングではなく、閑古鳥が鳴くことになりかねない。そこをしっかり肝に銘じて戦ってほしいと、切に願う。
2001年4月29日 東京スタジアム
Jリーグファーストステージ第6節
FC東京 0−3 ジェフユナイテッド市原