「熊の日」に大熊采配的中!スペクタクルなゲームで連勝!!
「ホームで勝てない」。これが最近のFC東京の特徴である。今年のリーグ戦、東京スタジアムで勝利を収めたのは開幕のヴェルディ戦とアントラーズ戦のみ。あとは内容はそれほど悪くはないのだが、勝利という結果の出ないゲームばかりであった。2ndステージもアウェイでは2戦とも快勝していながらホームの2戦はいずれも先制しては追いつかれ、やはり勝ちきれない展開。先週のガンバ戦で万博陸上競技場に掲げられた横断幕「かてかてかてかてホームやろ」には、思わず共感してしまった東京サポーターも多いのではないだろうか。降格の心配が薄れた今、ファン・サポーターのモチベーションは「目の前で勝つ姿が見たい」であり、上位争いに食い込むためにもホームゲームで負けてはいられないのである。私も「今度こそ」という気持ちを抱き、東京スタジアムにおもむいた。
この日の相手はサンフレッチェ広島で、「テディ・ベアデー」と名付けられ、入場時にぬいぐるみの当たる抽選券を渡される。場内の放送を聞くと「テディ・ベア&大熊のタッグが広島のマスコット『サンチェ君』(熊)と対決」というコンセプト(笑)だったようだが、駅用宣伝ポスターのど真ん中に大熊監督のアップを入れていたのは度胸があるというか、無謀というか。あと、「サンチェ」と聞くと水虫で有名だった読売巨人軍の抑えピッチャーを思い出すのは、私がオジサンだからであろうか。いずれにせよ低迷する広島にしてみればそろそろ降格も現実味を帯びてくる頃であろうから、この試合も熊さんごっこどころの話ではなく、崖っぷちの気持ちで挑んでくることは必至であった。
ガラガラのスタンド(最終的には1万4千入ったが)に響き渡るスタメン発表。東京は東スタ初お目見えの福田君が左サイドハーフに入り、あとはいつもと一緒。広島は久保・藤本・大木がトップにならぶいわゆる4−3−3という布陣。DFからはポポビッチが抜け、かつての鉄壁ラインで残るのは上村一人になった。全体的には地味といっていいメンツだ(向こうから見りゃ東京の選手も「誰だお前」なんだろうけどさ)。レフェリーは、石山でも奥谷でも長田でも砂川でも北村でもましてや恩氏でもなくモットラム。何だかホッとしたよ。
その後、突然近所の中学生の団体がゴール裏スタンド前で踊り出したんだけど、あれは何だったんだろう。
キックオフ前、スタジアム全体で黙祷。いかなる場合にこれをやるかについては色々議論もあるだろうが、我々がテレビ画面を通して数千人が犠牲になる瞬間を目の当たりにしたのはつい数日前。今回は自然な流れだろう。黙祷の最中にも、頭上で飛行機の爆音が聞こえた。サッカーというのも社会の一部であり、Jリーグも日本の、世界の中にあるのを忘れてはいけないと思う。
キックオフ。立ち上がり続けて2本右サイドからセンタリングが上がり、良い兆しだと思ったのもつかの間、先に点を入れたのは広島の方だった。4分、フィールド中央の藤本からのスルーパスに抜け出した久保が右サイドに流れ、逆サイドに走り込んだ藤本に折り返す。藤本は中央に切れ込み、ペナルティエリアすぐ外で小峯の中途半端なブロックを外しながらシュート。これはそれほど強いものではなかったが、絶妙の弾道を描いてゴールマウス右上隅に決まってあっさりと先制された。印象としては広島の3トップに対し東京の守備フォーメーションがうまく「噛み合わず」、ボランチとDFラインでマークの受け渡しに追われて間を詰め切れないところでやられたというところか。
8分、アマラオがロングパスに反応、うまく体を入れてDFライン裏に抜けかけたところペナルティエリア内で倒されるがノーホイッスル。アマラオはダイブ常習者として目をつけられてしまっているのか、DFの足がかかっていようがいまいがとにかくもうきれいに飛んでは笛を吹いてもらえないようである。広島はアマ・ケリーに対してペナルティエリア外からボランチがついて抑える守備戦術で、2人のどちらかにボールが渡るとどちらかには必ず密着マークがつき、サンフレッチェの攻撃的布陣を警戒してか東京はいつもよりもボランチ以下のフォローが乏しく、結果、孤立してボールをとられる場面が目立つことになった。
サンフレッチェは「フィールドに満遍なく選手が散る」「スペースを埋める」意識が高いサッカーのようで、とにかく大きなスペースを東京に与えない。攻撃の時には3トップ+MFコリカがしきりにポジションを入れ替えながら前進、ボールが片側によれば逆サイドのスペースに3トップの一角もしくはオーバーラップしたサイドバックが走り込む。、4−3−3のフォーメーションが基本だがボールの位置と状況によりトップが下がって4−4−2になったり東京ボールになるとマークにつくボランチが下がって5−3−2になったり、とにかくよくシステム化されている印象だった。ただ、選手の意識のせいなのか能力のせいなのか、良いところまで攻め込んでいながらパンチ力不足は否めないな、という気もした。
17分、左サイド福田からのバックパスを受けた藤山がドリブルで加速してDFを引きつけ、中央でフリーになったケリーに渡してシュート(GK下田セーブ)。この時間帯は先制したサンフレッチェが無理せずボールを回したこともあって試合は膠着、ゴール裏の歌もやんで淡々と時計が進んでいくのみであった。注目の福田君はこの時点までにドリブルで入って行こうかという場面が1度あったくらいで、あまりボールに絡めていなかった。ちょっと守備と左サイドへの位置どりの意識が強すぎるのではとも思ったが、そこのところは監督の指示もあるだろうから何とも言えない。
26分、右サイドFKを蹴ったアマがそのままサイドライン際に流れたところ、ようやく福田君が中へ入り、藤山のスルーパスに反応してペナルティエリアに進入、強烈なシュートを放った(再び下田セーブ)。「それでいいんだ!」と心の中で叫ぶ。だいたい、左ウイングハーフらしい選手なら既に小林がいるのであって、こういうプレーが出てこそわざわざFW調の選手をサイドに置いておくことに意味が出てくるのである。29分には中央のケリーから右サイドフリーで駆け上がる由紀彦に渡り、カバーに入ったDFオレグが届かぬ絶妙のグラウンダークロスが入るが、アマラオのシュートは下田の正面であった。なかなか点の取れない展開にスタンドのイライラがつのり、不利な判定やらミスやらにやたらブーイングがとぶ。私の方はそんなブーイングに対して「いちいちいちいちブーブー言うな!」とイライラしたのであった。
その後は一進一退の状況に。34分、藤本のセンタリングを久保がヒールで折り返してペナルティエリア内でコリカがシュートを放つピンチがあったがサンドロがブロック。37分、ハーフライン付近FKからゴール前に上がったロングパスにアマラオが競り勝って強烈なヘディングを放つが、またしても下田がワンハンドでセーブ。40分には自陣で浅利のトラップミスからピンチとなるが、コリカと久保が必要以上にパス交換をしてくれて助かった。44分、広島DFの連携ミスをついてケリーがバックパスに飛び込むが下田が懸命の飛び出しでまたまたセーブ。結局0−1のまま前半が終了した。
後半立ち上がりも状況は変わらず、双方とも詰めが甘くグラウンドの両側をボールが行ったり来たりするのを眺めることになった。ビハインドを背負った側にしてみればひたすらジリジリイライラ。腕をブンブン振り回して体をグニャグニャ曲げつつドリブルする久保の姿を楽しむ余裕もない。
流れが変わったのは12分。自陣サイドライン際で守備に入った福田が倒されながらもボールを両足で挟み込んで転がり、奪取。このプレーでスタンドは大いにどよめき、拍手がわき起こった。こういうプレーって大切だよなと思っていた14分、ケリーがハーフウェー付近からゆっくりペナルティエリア前まで持ち上がり、DFラインがケリーの左右に走ってきているアマ・由紀彦に気をとられた瞬間に自分でシュート。これはまたしても下田が横っ飛びで弾くが(ホント、いいキーパーだ)、こぼれ球はアマの足に当たってからゴール前左サイドに走り込んできた福田の前に。福田はストライカーらしく、落ち着いた切り返しでDFを外してから右足でニアに叩き込んだ。同点。ゴール裏からは「東京ブギウギ」に続き以前岡元の応援で歌っていた「ジンギスカン」が響いてきた。ここまでは福田のプレーに対しては不満の声の方が多く上がっていたようだが、この一撃でようやく「ようこそ東京へ!」の雰囲気になったのはまことに良かった。
追いつかれた広島はより前の人数を増やして前がかりになり、対する東京はお得意のカウンターで切り返しを狙う。18分、MF森崎から右スペースに走り込む大木に長く正確なパスが渡り、中央フリーで走り込んでくるコリカがシュートを放つピンチ(DFブロック)。21分、由紀彦が右サイドライン際でDFを引き連れながら数十メートルにわたって高速ドリブル、DFに当たってコースの変わったクロスにファーサイド福田が飛び込むが足に当たらず。25分には敵陣でのボール回しをカットしたアマがペナルティエリア内で上村をぶっちぎってシュートするが、下田の飛び出しもあってボールはわずかにポストの右外。29分にはDFに囲まれつつ粘ったケリーがDFラインの裏に浮き球を落として文丈が走り込むが、オフサイド。
そして、ここから先に点を入れたのも広島だった。33分、東京陣で広島が波状攻撃をかけたところ、小峯がアタッカーを倒してFK。ちょん蹴りからコリカが放ったグラウンダーのシュートは壁の間を抜け、左ゴールポストに当たってからインゴールへ吸い込まれた。残り時間あと15分ほどでの失点。場内には「またかよ」の雰囲気が漂う。しかし、この日の東京はここからが違った。
失点直後、福田OUT加賀見IN、続いて浅利OUTで喜名IN。得点力のあり、いざとなればパワープレイの局面でも使えそうな福田を外すのはちょっと疑問ではあったし、交代直後は疲れもあってかチーム全体のパフォーマンスがかえって低下、単調に縦に入れては奪われて逆襲をくらうケースが目立つようになった。38分、39分にはペナルティエリア内でシュートを許すピンチ。しかし、結果として、大熊監督の交代策はズバリ当たることになる。
41分、この日あまり攻撃参加していなかった文丈が左サイドを持ち上がり、DFを引きつけてからフォローに入った加賀見へパス。スペースも時間も充分に与えられた加賀見が狙いすましてゴール前へクロスを入れると、そこではなぜか、本当になぜだか全く分からないのだが、超どフリーのアマラオがいた。頭で叩き込んで同点ゴール。さすがの下田も至近距離だけにどうしようもなかった。
再び生気をとりもどした東京は皆別人のように上がり、広島ゴールを攻め立てる。広島は藤本に代えて高橋を投入、攻撃にカツを入れにかかるが、しかし時既に遅かった。45分、ペナルティエリアすぐ外で加賀見が左から中央に切れ込み、右サイドに張る由紀彦にパス。由紀彦はDFが寄ってきたところで中央からDFライン裏へ斜めに走り込むケリーを見つけ、ダイレクトで置くようなやさしいスルーを通す。ボールを受けたケリーはシュートのフォームを見せるが、それはあわててブロックに飛び込む上村を嘲笑うかのように見事タイミングのフェイント。センタリングが上がり、これまたなぜかどフリーで真ん中に走り込んできた加賀見が右足で合わせて楽々ゴール。わずか5分間での逆転劇。踊り狂うスタンド、半狂乱の私のつれ、そして叫びすぎてのどがかれた私。投入した加賀見が1アシスト1ゴールとは、すげえぜ大熊。ビバ!テディ・ベア!!
東京はロスタイムに入ってからはボールをつないで時間を稼ぎ、MF沢田のロングシュートも土肥ちゃんがはじき出してフルタイム。FC東京、久々にホームでスカッとする勝ち方を見せてくれた。これなら全く文句ありません、ハイ。
試合後、ヒーローインタビューはなぜか途中交代の福田。一瞬「人選がおかしいのでは?」とも思ったのだが(普通に考えれば加賀見だろう)、しかし気迫あふれる守備と豪快な同点ゴールがチームに活気を取り戻してくれたことを考えれば、あながち的はずれという訳でもなかろう。「やっとチームの一員になれました!」「これもサポーターのおかげです!」「(東スタの雰囲気は)最高です!!」と、サポーターのツボを押さえたコメントを連発する福田君。スタンドもいちいちどよめき、大喜びである。ちょっといい子すぎるような気もするが、しかしウケを狙うことはある意味気をつかうということでもあるし、まあ勝ったからなんでもいいや(笑)。
サンフレッチェ広島は、上にも書いたようによく訓練されているチームなのだが、最後の一押しに欠ける印象だ。攻撃の中心たる久保を筆頭として、ある程度までパスワークで攻め入ったらドリブルなりシュートなりで勝負する意識(「ジュビロ的意識」とでも言おうか)に欠けるように見えるのだ。また、守備では終盤の集中力欠如が目立った。最後の最後、肝心な場面でアマラオをフリーにしてしまったのは致命的であったし、交代出場で意気込んで入った加賀見に対するケアもまた不十分であったと言えよう。攻守とも、決して選手の才能が足りないわけではないのだろうし、システム上の欠陥でもない。だからこそ深刻で、根が深いとも言える。ともあれ、これでブービーのヴェルディとは勝ち点差3。堅実なチームカラーだけに大崩れしない印象があるが、このまま低レベルで安定してしまうのはまずい。ただ、お金が無いチームだけに補強という起爆剤も使えないし……サポーターは不安でたまらないだろうね。
FC東京は、ホームでスペクタクルな展開の快勝、という最高のゲームだった。立ち上がりとセットプレーといういつもの苦手なシチュエーションで失点したのは残念だったが、これは選手と監督の方が痛いほどよく分かっていることだろう。それよりも、なかなか追いつけず追いついてから再び離されても、最後まであきらめずに一定以上のテンションで攻め続け、結果逆転に成功したことは評価して良いだろう。そして、新加入の福田。あの守備での気迫、そして今までの鬱憤を集約したような右足の弾丸シュート。東京に頼もしい戦力が加わったことは、すでに疑いようもないだろう。あとは左サイドという慣れぬポジションにいかに適応し、かつそこで自分の色を出して行けるか。せっかく加入しながら起用法が合わず、力を発揮できずに去っていった呂比須(だけではないが)の二の舞だけはやめてもらいたいものである。
この勝利で東京は総合勝ち点30を突破、2ndステージの順位も4位まで浮上した。首位アントラーズとは勝ち点差が4あり、すぐに優勝争いが云々とは言えないが、まずは昨年の総勝点「43」を上回ってもらいたい。そして、もし残り4〜5試合の時点でこれをクリアすれば、自ずと優勝争いには絡んでいるはずだ。一つ一つ、全力で行こう!!
2001年9月15日 東京スタジアム
Jリーグセカンドステージ第5節
FC東京 3−2 サンフレッチェ広島