逃した魚は大きい。反撃実らず、3戦連続完封負け。
昨年とは対照的に、開幕早々連敗を喫してしまった2001年のFC東京。まだ3試合とはいえ現在14位、しかも東京の不調時に必ず見られる得点力不足の兆候が現れ始めているだけに、ファン・サポーターとしては気になる状況だ。今回は開幕以来のホームゲームで、相手は、呂比須・喜名の古巣たる名古屋グランパス。昨季第3節で名古屋に逆転勝ちしたことがJ1で戦う上で自信と勢いをもたらしたのは記憶に新しく、今季もぜひその再現を期待したいところ。3日前のナビスコカップ甲府戦に5−0で圧勝したことも我々の期待を高め、土曜夜の東京スタジアムには、好カードにふさわしく2万7千あまりの観客が詰めかけた。
スタメン発表。東京はやはりアマラオが欠場で、戸田(なぜか発表ではMF)を先発で起用。攻撃的MFにはケリー、増田、三浦文丈を並べ、由紀彦・喜名は控えに入った。サブのFWは今期初登場の鏑木で、名前がアナウンスされた瞬間、ゴール裏で大きなどよめきが。一方の名古屋は登録上のFWはストイコビッチ1人で、4人のDFに酒井・山口・ウリダのボランチ的MFが加わってやたら後ろの方が重たそうな布陣である。それにしてもメンバー表を見ると、昨年の清商トリオ追放事件以降名古屋のメンツがいかに激変したかがよく分かる。3年以上前からずっといるのって、ピクシーと大森くらいじゃないか?まあそれでも現在2位につけているのだから、さすがビッグクラブ、若手の層はそれなりに厚いと言うべきか。
試合は、FC東京ペースで始まった。名古屋はピクシーが1トップというよりフリーに動き、あとは4バック・3ボランチの前に滝澤とヴェズレイを配した陣形。いかにも前線は駒不足という感じであり、ボールを獲っても縦にはやいボールは入らずタイムロスが大きい。ピクシーさえ押さえておけばあまり怖くなさそうだな、というのが第一印象だった。一方の東京はMFがサイドを絡めつつ、ボールを早くペナルティエリア内に入れる意識を持っており、9分にはケリーがさっそくゴール前でいい形をつくるなど好感触の立ち上がりだった。ところが私の連れも「今日はいい感じじゃない?」などと話しだした12分、左サイドでパスを受けたピクシーが詰め切れないマーカー増田を引き連れつつ中へ入っていき、右サイドの酒井が斜めにペナルティエリア方向へ走りこむのを見るや絶妙のコース・タイミングのロングパス。酒井は追いすがる文丈を背中でがっちり押さえ、倒れ込みながらもシュートをゴール左隅へ打ち込み、名古屋先制。「今日は行けそう」との手応えを掴みつつある中、一発の、しかも唯一警戒すべきだと思えたストイコビッチのパスによる失点。まさに「出鼻をくじかれた」格好になった。
先制された東京はサポーターの声援をバックに反撃を図るが、意気込みとは裏腹に名古屋独特のスローペース(というかまったりペース)に巻き込まれていき、攻撃のリズムは次第に悪くなっていった。グランパスの選手がボールを持つと、まずは味方MF陣の上がりを待ってスローダウン。それを見た東京のマーカーが詰めていくが、個人のキープ力が高いためなかなかターンオーバーには至らず、じれて自陣でファウルを犯す場面が目立った(この日のレフェリーがファウルにやたら敏感だったこともあるが)。幸いにもセットプレーからの失点はなかったものの、頻繁に中断する試合に東京の選手たちはフラストレーションをためている様子であった。それでも東京はサイドからの速攻でペースを掴もうとはするのだが、上がりは遅い名古屋も帰りはやたら速く、カウンターの形をつくるだけのスペースがない。ケリー・増田のドリブルから名古屋とほぼ同じ数相手陣内でのフリーキックを得たのだが、こちらにはピクシーがいるわけでもなし、キッカーらしいキッカーを欠く状態ではどうしようもない。いつしか、ボールを持たない東京プレイヤーの動きまで悪くなっていた。
ただし前半も40分を過ぎる頃にはさすがの名古屋もまったりとしすぎたか、東京が完全にボールを支配し、ペナルティエリア付近でパスが回るようになる。43分、右サイドでボールを持った浅利がペナルティライン中央付近の呂比須へグラウンダーのパス、呂比須がダイレクトで右へはたくとそこにはケリーが猛然と走り込んでおり、瞬く間にDFラインの穴を抜けてシュートを放った。斜めに飛んだシュートは楢崎の脇を抜け、すわ同点ゴールかと観衆が立ち上がりかけた瞬間、ゴール左ポストが大きな音を立ててボールをはじく。「ああ〜〜〜あ」。場内に漏れるため息。しかし試合はまだ前半。終了間際に東京が見せた切れ味鋭い攻撃は、確かに後半への期待を抱かせるものではあった。
前半、呂比須がボールを持つたびに名古屋サポーターからブーイングが飛んでいたようだが、自分とこで追い出したくせにその扱いはないだろう、というのが東京サポの素直な感想。
後半立ち上がり、気合いの入った動きでボールに詰める東京の選手。しかしボールを奪った後早いタイミングで入れるハイクロスはことごとくはね返され、ならばと呂比須が外目からシュートを放つと枠に飛ばない。そして一度ボールを獲られると名古屋は前半にもましてゆっくり大きくボールを動かして時間とペースをコントロールした。東京側で比較的チャンスになったのはやはりケリーがボールを持った時で、「ため」が出来る分周りの選手は動きやすくなり、相手DFを崩す試みが多く出ていた。10分にはケリーが見事なトラップ・ターンからDFライン裏へスルーパスを通す。11分には触発されたように増田が右サイドからドリブルで持ち込んでDFライン裏へ浮き球を上げ、自ら走り込んだ。しかし、それでもゴールは割れない。
どうせスペースがないならボールを左右にさばける喜名の投入が必要だろう。そう思い始めた矢先、大熊監督が動いた。それまで見せ場のなかった戸田がOUT、そしてピッチに飛び出していったのは………喜名ではなく、なんと鏑木だった。ゴール裏は大いに沸き、「じゅうしちは〜♪か〜ぶ〜ら〜ぎ、かーぶゴール!」という聞き慣れた応援歌が東京スタジアムに響き渡る。ただ、カブも戸田に比べて特段スペースをつくったり裏に出る動きをするわけではなく、むしろ動きの性質がケリーとだぶる。チームとしての攻撃の効率は上がったようには見えず、かえってペースダウンにつながったようにも見えた。試合は再びまったり名古屋ペースに陥り、21分には逆にヴェズレイのヘディングがポストをかすめるピンチの場面もあった。
22分、浅利OUTで今度こそ喜名IN。この交代をきっかけにパスワークがスムーズになり、以後は東京が一方的な攻勢に出ることになった。そして23分、この試合で最大のチャンスが訪れる。左サイド藤山から大きくサイドチェンジのパスを受けた内藤が中央へドリブル、相手DFのタックルを受けたもののこぼれ球が中央の呂比須につながり、呂比須が早いタイミングでDFライン裏へ転がすと、まるで前半のリプレイを見ているようにケリーが走り込んでペナルティエリア内に侵入、シュート。そしてこれまたリプレイのような球筋で斜めに飛んだグラウンダーが横っ飛び楢崎の脇を抜ける。この場面、バックスタンドからは完全に決まったかのように見えたのだが……。なんと、またしてもゴールポスト直撃。このゴールライン寄りに跳ね返ったボール、ファーに詰めていたカブが押しこもうとするがボールは無情にもその前を素通りしていった。1度のみならず2度までもポストに阻まれるとは…なんという不運!それでもめげない東京は25分、増田とのワンツーでスペースへ出た内藤がセンタリング、呂比須がペナルティエリア内で受けるがシュートはブロックされてノーゴール。その後のコーナーキックを何とカブが蹴り、とてもプロとは思えぬ弱い弾道の球をあっさりクリアされたのを見てスタンドでは由紀彦投入を望む声が。
30分、増田OUT、由紀彦IN。さらなる攻勢への期待が高まったが、しかし名古屋のカルロス監督は冷静にピクシーを下げ、DF海本をを入れて守備固めに突入(ここら辺のかわいげのない用兵が、いかにもカルロスらしいと言えばらしかった)。リードを許したままがっちり守られては東京としては手も足も出なくなり、みたびまったり名古屋ペースに陥っていってしまった。気持ちは焦り時間ばかりが速く流れていくように感じられ、攻め手を失って延々パスを回し続ける東京の選手を見て思わず「ハリーーー!!」とでも叫びたくなったのは私だけではあるまい。結局、40分由紀彦のナイスセンタリングからケリーのヘディングシュートがバーを越えたのが最後のチャンスとなり、そのままタイムアップ。今の東京にとって序盤相手に先制を許したのはいかにも痛く、挽回ならず3連敗となった。
逃した魚は大きい、と思う。正直、この日のグランパスからは、相手を圧倒するような「強さ」は全く感じられなかった。ピクシーも調子悪そうだったし、すぐにもう一回やったら次は勝てるんじゃないかとさえ思える。タイプ的にも、名古屋は格上気分のビッグクラブで個人能力に頼りがちで運動量が少なくてプレーのリズムが遅くて…と東京にとって本来は「お客さん」であるはずのチーム。実際、ポストに阻まれたケリーのシュート2つはいずれもコンビとスピードで名古屋DFを完全に置き去りにしたもので、せめてどちらかさえ決まっていればその後は……。ホント、東京はつくづく運がなかった(ポスト直撃とは言え枠内に飛ばなかったのだから「運」の一言で片づけてはいけないとも思うのだけれど)。まあ、少なくともこの日のようなサッカーを続ける限り磐田に勝てるとも思えず、また2ndステージにはピクシーもいなくなってしまうのだから、今年も名古屋の優勝はないと見た。
FC東京の敗因は、名古屋に12人目の選手=ゴールポストがいたこと。というのは冗談にしても、この日の東京は是が非でも勝ちたかったろうし、私たちも勝たせてあげたかったと思う。呂比須のために、そして今後の上位進出、あるいはJ1残留のために。何しろこれで3試合連続完封負け、そして開幕から4試合連続で先制点を許している。選手は頑張っているしそれほど悪い内容でもないのに、何だかすっかり悪い流れになってしまった。昨年の今頃とはえらい違いである。
この日先発した戸田については、未だ「ここだ」という強みが見えてきてないのが気になる。指示された役割(それもはっきりしないが)に気をとられすぎているのか、それとも単にそのレベルの選手ということなのか。また、呂比須にはもっと中央寄りで勝負してもらいたいと思う。ケリーの決定的チャンスも、2度とも中央に位置する呂比須とのコンビから生まれたものだった。せっかくの代表候補FWも、左右に流れてプレーしては怖さがなくなってしまう。呂比須が中央に構えてこそ戸田や鏑木の役割、MF陣の攻めるべき方向も明確になるのではないか。あとチームとしての課題を挙げると、自分寄りの時間帯を長続きさせられないことだろうか。2〜3回ゴール前でチャンスを作ってもそれをはね返されると息切れし、途端にボールのない所での動きが激減して膠着状態に陥ってしまう。それが現状のチーム力と言われればその通りなのだが、今日のように相手ががっちり守りに入ってしまった時、動いて動いてしつこく攻撃を続ける体力・根気がなければ崩すのは困難だ。これは去年からの課題なのだが…。
いずれにせよ、東京はそろそろ風向きを変えなくてはやばい雰囲気である。次の浦和戦、アマや小峯の復帰も難しそうだが、それでも快勝しなければならないのだ。個人的には、ドリブルがいまいちチームのパフォーマンス向上に結びついていない増田よりもセットプレーや質の高いセンタリングという武器を持っている由紀彦を優先して使ってもらいたいところ。そして、とにかく何をおいても先に点を取ること。そのためにも、もっとアタッカーが動き回ってスペースをつくり、そこへダイレクトプレーから速いボールが入るサッカーが見たい。単調なクロスを上げ続けても相手DFと互角な体勢で競ってははね返されるばかりでゴールは遠いし、そんな無骨なサッカーはFC東京のサッカーではないはずだ。自分達の強みをもっともっと生かしてほしい。早く!そして、もっと速く!
2001年4月7日 東京スタジアム
Jリーグファーストステージ第4節
FC東京 0−1 名古屋グランパスエイト