最後の詰めを欠き、逆転負けをくらう。ここが浮沈の分かれ目か?
前々節より戦術を変更、4−5−1フォーメーションを中心とする「99年J2スタイル」に戻して復調のきっかけを掴んだFC東京。連勝を伸ばして一気にリーグ戦序盤の躓き分を取り戻し、降格の恐怖を振り払いたいところだ。今回は、勝ち点で肩を並べるアビスパ福岡を迎えてのホームゲーム。これまで神戸や広島等、戦力的に同等と思われる相手に敗れているだけに、本拠できっちり勝って妙なコンプレックスを抱かないようにしたいものだ。
当日、晴れの予報だったにも関わらず、試合の1時間半ほど前から強い雨が降り出した。飛田給の出口付近でも、雨具を持たないサポーター達が恨めしそうに空を見上げている。駅前の小さなお店で傘を購入し足早に東京スタジアムへ向かう。昨年来、なぜか東京は雨に弱い。Fマリノス戦のように雨中快勝した試合もあるにはあるのだが、悪い内容で負けた試合の印象が圧倒的に強いのだ。どうしても良くない考えが頭を巡る。ゲートを入ってファンクラブカウンターのテントに着くとトランシーバーを手にした村林常務が立っており、周りの人とやはり天気の話をしていた。「このままあがってくれれば何の問題もないんだけどねえ…」。スタンドからピッチをのぞくと所々芝の剥げが目立ち、状態はあまり良くはなさそうだ。ますます心配になる。
スタメン発表。東京は由紀彦出場停止により、戸田がMFとして先発。一方福岡はビスコンティ出場停止により山下・松原の2トップを両サイドと野田・バデアのダブルボランチが支える。前から個人的に「日本代表の救世主となるのでは」と密かに思っている山下は現在絶好調で、「この試合だけは勘弁してくれ」と願う。GKは小島の怪我により尾崎先発。ジュビロ時代のチョンボの数々は記憶に新しく、今日も何かやってくれるのでは…と密かに期待(笑)。
キックオフ。雨やピッチ状態の心配を吹き飛ばすように、開始直後からFC東京は飛ばしまくった。いきなり2分、左サイドで小林が中へ切れ込む態勢をとってからライン際へ回り込んだケリーへパス。ケリーはワンタッチでゴール前へ低めのクロスを上げ、そこへファーサイドから福岡DFと並んで走り込んできた戸田が飛び込み、足で押し込んだ。ゴール裏、いきなりの『東京ブギウギ』炸裂。今季は先取点をとるのに非常に苦労し、またMFの得点が少なかったことも気になっていただけに(まあ戸田も本来はFWだが)、「らしい」形を作っての得点はこの上なく幸先の良い立ち上がりだった。
その後も東京は好調さを発揮、とにかく金を払って見ても損はない(当たり前か)スバラシー攻撃を展開した。ボールをスペースに運ぶタイミング、速いテンポでパスをつなげて突破しようとする意図、互いにフォローし合う動き、どれをとっても今季一番の出来だったと言えよう。大きなサイドチェンジがバシバシ決まった時にはJ2時代を思い出して「おおっ!」と興奮したし、ダイレクトプレーがつながってシュートまで持ち込み、ゴール裏から「セクシー!東京!!」のコールが上がったことも2度。守備の方も松原のスピード・運動量にかき回される場面やボール回しの危うさはやや目立ったものの相手アタッカーの前に出てボールをとる守備で主導権を相手に渡さず、裏をとられかけても小峯・サンドロが1対1に強さを見せ、ピンチは前半の内で1〜2度に過ぎなかった。怖い怖い山下も、「消えた」状態。いつでも追加点がとれるかのような雰囲気が場内に流れる。東京ゴール裏も、数十人しかいない福岡サポーターの応援を「聞こえない!」とちゃかすなど上機嫌だ(また極悪イメージを促進してはいかんので言っておくが、試合前にはちゃんと福岡サポに対して拍手も送ってました)。僕も、これほど余裕のある気持ちで東京の試合を眺めたのは久しぶり(甲府戦除く)だった。
しかし、チャンスを量産しながらも、なかなか2点目が入らない。再び左サイドから今度は小林が上げた好クロスは戸田が空振りし、戸田の折り返しからペナルティエリア内フリーになったケリーのシュートはサイドネットに突き刺さる。25分ケリーのFKに戸田が飛び込んだ場面もあと一歩届かずノーゴールで、直後にアマラオが放ったシュートも尾崎がセーブ。30分を過ぎると運動量がやや落ち始めたもののそれでも東京の優位は変わらず、終了間際には左サイド小林のセンタリングにケリーがヒール(?)で合わせるが、僅かにバーを越えていった。最後は東京の選手も無理はせず時間を稼ぐようなボール回しも見せ、そのまま前半終了。押しまくっていた割に1点とは正直言って不満だったが、リードはしていることだし慌てることはない、とその時は思っていた。
ところが、後半、たかをくくっていた我々を嘲笑うかのように事態は急変する。立ち上がりから東京イレブンの悪さが気になったが、案の定8分、右サイドから久永が東京陣ペナルティエリアへ進入しようとドリブルで突っかけたところ小林が倒し、FK。東京側はDFの数も揃っていてそれほど危ない場面ではなく、またこの日のレフェリーはファウルに敏感なところを前半から見せていたため小林には気を付けてもらいたかったのだが…。バデアが得意の左足で蹴ったFKは低い弾道でゴールへ向かって弧を描いて飛び、両チーム競り合う中頭一つ抜け出た久永が合わせてゴール、1−1。早い時間帯でのまさかの同点。ゴール裏から励ましの「東京!!」コールが飛ぶ。しかし、この一発でも東京の選手は目覚めない。前半飛ばし過ぎたのか雨中悪コンディションでのプレー(前半から、足を滑らす選手が目立った)のか、とにかく東京の選手の動きが重い。前半大活躍だった戸田・小林の両ハーフは特に酷く、上がれず戻れず、サイドをただうろうろするばかりで攻守への貢献が限りなく少なくなっていた。自ずと攻撃時にはアマラオにボールが集まるが、孤立してボールを奪われては福岡の逆襲の起点になってしまう(この過剰なアマラオ依存もJ2時代を思い出させるな)。対照的に、追いついた福岡は動きが活性化。前半は後方で球を捌くことが多かったバデアも次第に前線へ進出、もはや相手の前でボールをカットするのは福岡の選手の方で、速攻気味に東京DFライン前スペース(劣勢の中文丈の運動量が減り、浅利がDFラインそばまで下がるとここに穴があく)へボールを送ってはチャンスを作りだした。「追いついた方が強い」のはゲームの常。追い込まれた東京に流れを変えるきっかけが必要なのは明らかだった。
15分、スタンドの期待に応えて東京ベンチが動く。戸田OUT、下平IN。この交代にはそれなりの効果があった。下平は浅利のやや前あたりに位置して福岡攻撃時のパスの出所を抑え、パスを左右に散らして攻撃も活性化。前半のようなワイドな展開は見られないものの、藤山・内藤の上がりも復活し、ボールを前へ運べるようになる。ようやく形勢はイーブンか、やや東京有利に戻ったように見えた。しかし、やはり得点が入らない。ペナルティエリア付近までは行くものの、そこから裏へ出る局面でタイミングが合わず、数度にわたりオフサイドにかかる。バックパスを受けて処理に手間取った尾崎にアマラオが詰めてボールがこぼれた場面でも、続いて詰める選手がいなかった。33分文丈に代えて増田が投入されるが、いきなり「右サイドでボールをこね回し、結局DFに寄られてバックパス」という「ダーマスドリブル」を見せられ、失望。この時点ではまだスタンドも「勝ちか負けか」というより「勝ち点3とらないと」という雰囲気で、かえって「早く〜!」という焦りが広がっていった。
そんな空気の35分、流れの中でサンドロが何気なくバックパス。しかし詰めてくる福岡FWが目に入ったか土肥がクリアミスし、ボールがよりによってバデアに渡ってしまう。これを逃す福岡ではなく、東京DFラインに生じたギャップに素早いタイミングでスルーパスが入って反応した山下がライン裏に抜け出し、右足できっちり決めて1−2。それまでほとんど仕事らしい仕事をしていなかった山下のゴールで、劣勢にあったはずの福岡が逆転。ゴールの判定後、跳ねるボールを思い切りゴールネットに向かって蹴りこんだ小峯と自分への怒りを抑えきれない様子で固まる土肥の様子が、東京が受けたショックの大きさを表していた。
東京はそれでも残り時間必死に反撃。37分に浅利に代えて鏑木投入。藤山はほとんど上がりっぱなしになり、フラフラの小林も最後の力を振り絞ってドリブルにかける。しかし、どうしても点が入らない。藤山・小林・アマラオがシュートを放つが、いずれもゴールを割るまでには至らなかった。40分を過ぎると福岡は次々に選手交代。当然OUTになる福岡の選手はゆっくりゆっくりサイドラインへ歩き、これまた当然に東京サポーターはブーイングを浴びせる。しかし、よく見てみるとピッコリが大きなアクションで交代IN選手に指示を出し、直後、OUTの選手がサイドラインへ達する前にINの選手が走って入るシーンが見られた。もしかして、「(みっともないので)早く入れ!」という指示を出していたのだろうか。だとすると、ピッコリは男(甘ちゃん、とも言う)ということになるな。本当のところはどうなのか、聞いてみたいところだ。などと考えているうちにターゲットアマラオへの放り込みも実らず、ロスタイムも過ぎ去って試合終了。結局、逆転負け。前半の心地良さが、まるで遠い昔のようだった。
東京は、まことに痛い星を落とした。まず、勝ち点計算的には、この試合90分で勝っていれば5分に星を戻して一気に6位まで浮上するところだったのが、逆に福岡が6位浮上、東京は12位まで沈んで鹿島・横浜に勝ち点1差まで迫られることになった。また、この試合を最後にリーグ戦は1ヶ月近い中断期間に入る。勝って終わるのと負けて終わるのでは気分的にも大違いだろうし、中断期間のチーム強化の方針にも迷いが出よう。そして、何より内容的に勝たねばならない試合だった。なにしろ、前半の出来は最高に近かったのだ、フィニッシュを除いては。2点目が入っていれば、その後の展開も違っていただろう。運がなかったのは確かで、これをもって個々のプレーがどうの戦術が・選手起用がどうのと言うべきではないと思うが、こういう試合を落とすチームが転落の道をたどってしまいがちなのはここ2〜3年のJ1の歴史が証明している。とにかくこれまでの10試合の内容を再検討してチームを建て直し(個人的には、ここ3戦の方向性の継続を希望)、再びアクセルを踏まなければならない。再開後、最初の試合は「やりやすい」はずのFマリノスが相手。今から1ヶ月の間が、東京の浮沈の分かれ目になるのかもしれない。
個々の選手を見ると、小林は前半大活躍、しかしスタミナの無さを露呈した。これは短期的にはどうしようもない問題で、彼の攻撃センスの重みを考えれば、それこそ交代枠の活用でカバーするしかない。戸田は本来とは異なる右サイドのポジションでよく頑張り、先制点をマークした。他のアタッカーとのコンビネーションもだいぶ板についてきた印象だが、欲を言えば前半もう1点とってほしかった。チャンスはあったのだから。他の選手も概ね合格点だとは思うが、土肥だけは、あのクリアミスで敗戦の責任を問われても仕方あるまい。ゴールを許した後、明らかに意気消沈したのも、「最後の壁」たるべきゴールキーバーとしてはいかがなものかと思わないでもない。ただ……先週・先々週は土肥ちゃんのファインセーブで勝てたのだと思うし、他にも彼に救われた試合は数多い。GKは一度ミスをすればそれが勝敗に直結し、どうしても目立ってしまうポジションだ。だからこそ、土肥のミスについてもできるだけ温かい目で見てあげるべきなのだとも思う。がんばれ、土肥。
アビスパ福岡は元々アウェイでそれほど強いチームではなく、この日もいつもTVで見る博多の森でのパフォーマンスは最後まで見られなかった。しかし、それでも東京のミスにつけ込んでしぶとく勝ち点3をゲット。前半から後半へのシフトチェンジといい、最後数分間の時間稼ぎといい、何か「戦い」に慣れてるという感じだ。決勝点も山下らしくかつアビスパらしいゴール。山下という男には、プレーのうまさ云々ではなく、流れの中でひょいと出てきて決定的な仕事をする不思議な力がある。そしてその周りには、地味だがしっかり仕事をこなすバイプレーヤーも多い。ピッコリ大魔王に率いられた、個性と魅力を持った男達…。博多の森のファンが増え続けているのは、そういう姿に引き寄せられているということなのだろう。
試合終了後、力無く整列する選手達には、それでもスタンドから大きく温かい拍手が送られた。勝負所でミスが出て負けてしまったが、それでも選手達は彼らなりによく頑張っていた。おそらく皆、そういう気持ちで見ていたのだろう。ゴール裏から「土肥!」コールが飛ぶ。頭を深々と下げる土肥。こういう姿にはいろいろと意見もあるだろうが、スタンドのファン・サポーターのことをちゃんと意識して戦ってくれてることが分かるだけでも、何やら嬉しいではないか。99年J2第3節新潟戦、ミスパスで決勝ゴールのお膳立てをしてしまった小峯が試合後目を赤くしてゴール裏まで謝りに来たのを思い出した。皆がこういう気持ちでいられる限り、東京は大丈夫。そう、まだまだ勝負はこれからなのだ。
2001年5月19日 東京スタジアム
Jリーグファーストステージ第10節
FC東京 1−2 アビスパ福岡