2年目のJ1シーズン、東京に期待するもの
さて、いよいよFC東京にとってJ1二年目のシーズン開幕が近づいてきた。昇格初年度の昨シーズン、切れ味鋭いカウンターを武器とする「セクシーフットボール」と泥臭いがしかし新鮮な「部活サッカー」をJ1の世界に持ち込んで旋風を巻き起こしたのは記憶に新しいが、さて今度はどのような活躍で我々サポーター・ファンをハラハラさせ、楽しませてくれるのだろう。同じ面子の首脳陣、それなりの補強を行ったプレーヤー、東京スタジアムの完成、ヴェルディの移転など様々な要因が我々の期待と不安をかき立てるわけだが、開幕まで1週間を切った今、とりあえずいくつかの項目を立てて整理してみたいと思う。
<戦力の変化について>
ま、ようするに不安のほとんどはここにあるわけだが(笑)。とにかく、ツゥット、いやトゥット(笑)の抜けた穴は大きい。昨季の東京の活躍がチーム全体のコンセプトの正しさと選手の頑張りに裏付けられたものであるのは確かだが、劣勢からトゥットの個人技でものにした試合も少なくなく、彼の破壊力が年間総合7位という成績に大きく寄与したことは間違いない。で、彼の代わりに入ってきたのが呂比須だが、トゥットとは完全にタイプが異なりアマラオと2トップを組んだ場合にはカウンター時のスピードが不足する危険は否めないと思う。神野を放出し新外国人の合流も遅れ、得点力の不足ははっきり心配だ(昨季連敗の泥沼にはまった時も、点を取るのに苦労した)。ここはとりあえず三浦文あたりがトゥット並の運動量を発揮し、由紀彦らMFがより一層得点に絡む(ペナルティエリアにどんどん入っていってほしい)ことを期待するしかないだろう。
中盤からDF陣に関しては、結局インパクトのある補強はなかったものの(遠藤獲得の噂は何だったのだろう)、層は確実に厚くなった。特に下平の加入はチームに経験と守備力の強化をもたらすだろう。センターラインのしっかりしているチームは崩れない。土肥・サンドロ・下平とつながる筋が太く丈夫そうなのは、大いなる安心材料である。問題は、メンツが多様すぎて大熊監督が組み合わせに困る(笑)ことか。浅利を使わないとグラウンドを広く使ったサッカーができなさそうだし、喜名・三浦・加賀見をどの位置で使うかにも頭を痛めそうだ。競争するのはいいことだが、コーチの構想と見る目が厳しく問われることにもなる。途中交代の選択肢も増えそうで、腕の見せ所、というか熊采配に不安がよぎる。あと、梅山が帰ってきて内藤のバックアップが出来たのは意外と大きいと思う。<采配について>
前言撤回。戦力云々よりもこちらの方が不安が大きいかもしれない。特に、繰り返しになるがプレーヤーの選択肢が増えた分、采配面での負担も確実に大きくなる。スタートダッシュできれば良いが、いったん躓くと大熊監督は修正能力に欠けてそうなだけに……やはり不安だ。ホント、頑張ってくれ、というしかない。ま、一つ好材料を挙げると、経験的に言ってこれまでJで極度の不振に陥ったチームは頻繁な監督交代が関係していることが多く、長期政権の場合はおおむね大丈夫であろう、ということだ。いや、きっと大丈夫だ。大丈夫に違いない(と思いこむことにしよう)。
戦術についてはキャンプもプレシーズンマッチも見ていないので何とも言えないが、それなりの変化はあるとしても、昨季のスタイルを激変させることはしてほしくない。はっきり言って未だ日本代表に一人も選出されないような戦力なのだから、変に凝ったシステムを採用するよりも、シンプルで基本に忠実なこれまでのサッカーを軸にした方が良い。「相手が守りを固めてきた時にどうするか」という課題はそのままになるかもしれないが。<リーグ情勢の変化と「2年目」>
昨季昇格チームらしからぬ活躍をしたからには、それなりのマークを受けることは覚悟せねばなるまい。とは言え、今季の各チームの戦力を見てみると、はっきりと戦力増強したのは浦和・柏・東京V・G大阪くらいで、あとは昨季並か、あるいは札幌・市原・横浜のように明確に弱体化しているところもある。東京のリーグの中での戦力的な「格」自体はそう変わらないように思える。よって、戦い方を間違えなければ昨季並の成績は望んでも良いだろう。日本代表はおろか各年代の代表が誰もいないというのもまことに悲しいことではあるが、リーグ・カップ戦についてはその分有利になる。<東京スタジアムの完成と緑チームの来襲>
東京スタジアム、スタンドとピッチの距離を除けばなかなかの出来らしい(未見)。京王線が特急を止めてくれるおかげで交通の便も良く(駅の混雑がいささか心配だが)、都心から遠ざかることによる観客動員の減少もどうやら心配なさそうな雲行きである。むしろ事前に受け入れ準備を進めてくれた三鷹・調布・府中の方々のお陰で、地域密着色を前面に出して新たなスタートを切れそうだ。あとは立派なスタジアムに恥じぬプレーを見せるだけ。私も東京競馬場通いと合わせて、週末はあの地域に入り浸りになりそうな気配である。
緑チームの東京移転に関しては正直納得がいかない面もある(特にチームエンブレムの「FC NIPPON」の文字)のだが、東京ダービーというリーグの目玉が出来たこと、目の前にまず倒すべきライバルが現れたことは素直に喜びたい。昨季の等々力・駒沢でのガラガラの緑サポーター席を目撃してしまった身としては、とにかく力業で人気選手を引っ張ってきた今季のヴェルディがどれだけの人気を集めるのかには、正直言って興味もあるし。FC東京がヴェルディに魅力で劣るとは全く思わないが、ヴェルディ側スタンドにどんな人種が座るのかが気になる。ミーハーファンが数千人単位で増えるのではないかと予想するのだが、どうだろうか。向かい側が急激に黄色い歓声で包まれたら、昨年とのギャップを大いに馬鹿にしてやりましょう(笑)。戦力的には、大いに強化された分対抗するにはなかなか厳しいものがあるが、監督が松木というところに活路を見いだしたい(笑)。お得意の内紛も希望(笑)。<今季のFC東京に期待するもの>
で、分析(というほどのものではないが)は以上にして、あとは私の個人的な希望を書いておきたい。
今シーズンのFC東京にはもちろん好成績を、できれば優勝を目指してほしいと思う。しかし、だからといって東京らしさをなくしてほしくはない。何が「東京らしさ」かはもちろん客観的には決められずサポーター・ファンそれぞれが胸の内に抱えていると思うのだが、私にとっての「東京らしさ」とは、常にチャレンジスピリットを忘れず(「部活サッカー」!)、ひたむきさがはまった時にとてつもなく輝く(「セクシーフットボール」!!)という特性だ。色々意見はあろう。昨年末のアマラオ騒動のようなこともあるし、当然頂点を目指す気持ちは忘れてはならない。でも、私としてははっきり言って鹿島のような常勝軍団に魅力は感じない。常に勝つために汚い「マリッシア」やつまらない「横綱相撲」が必要だというのならば、そんなものは要らないと思うのだ。ゲーム運びが下手で良いという意味ではなく、戦う姿勢として、真っ直ぐなひたむきさをむき出しにしてほしいのである。
東京スタジアムの開幕戦は既にチケットが完売した。まことにめでたいことに、東京スタジアムのこけら落としでもあるFC東京の「初ホームゲーム」は5万人の観客が見つめる理想的な状況で行われることになりそうだ。しかし、だからこそ、その一見さんも多く含むであろう大観衆を楽しませ、東京の、そしてサッカーの素晴らしさを大いに見せてその心をがっちりと掴まなくてはならないのだ。事は、勝敗云々に限られるものではない。昨年の国立での名古屋戦や磐田戦のような、抜群に魅力のあるサッカーを見せ、FC東京が日本のサッカー界になくてはならない存在であることが広く認知される。そういうシナリオの実現を目指さなくてはならない。東ガス時代から通じて、これまでFC東京はサッカーとスポーツの楽しさ・素晴らしさを私たちに改めて教えてくれている。今シーズンも、そしてこれからも、挑戦することの素晴らしさ、全力を尽くして勝ち負けすることの楽しさを見せてほしいと切に願ってやまない。
2001年3月4日