悔恨の2点、痛恨の1点…。またも3点を奪われ、悔しい悔しい惜敗。
11月8日のJリーグセカンドステージ再開後、わずか中2日で次節の試合である。Jリーグは、長期の中断がリーグの盛り上がりや選手のコンディションに与える影響とかファンの欲求だとかにもう少し敏感になった方がいいんじゃないだろうか。
で、今回の相手は、1stステージ0−3で完敗した憎っくきヴェルディ川崎。FC東京としては、7月以来公式戦での勝利がないこともあり、また「プレ東京ダービー」としても、絶対に負けたくない大事な一戦である。球団フロントもそこは百も承知で、一ヶ月ほど前からサポーターのウェブサイト(「うまねんWEB」含む)にバナー張り付けを依頼するなど、駒沢競技場を赤青で埋め尽くすべくキャンペーンを張っていたのであった。
キックオフ20分ほど前に駒沢に着いてみると、既に客席の半分ほどが埋まり、その大半が赤青のグッズを身にまとっていた(最終的には7割ほどの入りで1万1千人)。昨年の今頃同じ会場でベガルタやヴァンフォーレと戦っていたことを思い出し、感慨にふける。4千人とかそんな入りでどの席でも座れ、抽選では小峯のナビスコカップユニフォームを余裕で当てたりしてたよなあ。今の盛況、いいのやら悪いのやら(もちろん、いいことに違いない)。一方ヴェルディは来年からのホーム東京での開催というのに、ゴール裏の一部を埋めるのがやっとである。とりあえず試合前の状況は、東京の圧勝であった。
スタメン発表を聞くと、東京側はサンドロ・内藤の欠場に対し一部で噂されていた迫井のDF起用はなく、山尾・古邊のCBに小峯・藤山のSBというちょっと、いや非常に不安な布陣となった。アマラオは控えで代わりに神野が先発、注目の右サイドハーフはまたしても増田であった。川崎側は飯尾が欠場して廣長がFWで先発。しかし派手さはなくなったとはいえ、よく見てみると中澤、米山、石塚、金、廣長など結構実力派揃いである。これで、なんであれほど不人気なんだろう。親会社の傲慢さで全てを失ってしまうこともあるといういい例であろう。なお、今回、バックスタンド側は逆光で視界が悪く、遠目に見たプレーでは選手の判別が大変困難であり、以下の観戦記も固有名詞が少なくなっているのでご了承願いたい。
キックオフ。とにかくこの試合、前半の東京は今季最悪といってもいい出来だった。開始早々攻め込む場面もあったが、5分を過ぎた頃から一方的に押し込まれる展開に。まず、守備が信じられないくらい
ザルであった。どうも後から聞くに、前線から網をかける新しい守備戦術を試してみたらしい。確かに、浅利も含めたMF陣がこの日はやけに前がかりになっていたのだが、それが機能していなかった。増田や小林が積極的に前に突っかけて行くのはいいのだが、その際に小峯や藤山らとのマークの受け渡しあるいはポジショニングの連携ができていないためにタッチライン際にスペースとフリーのアタッカーがしばしば生じ、両サイドは明々白々なウィークポイントとなっていた。例えば、先制された後の時間帯に右サイドの増田が左サイドに移動して小林とのスイッチを行おうとしたのだが(これ自体はしばしば成功してきた攻撃戦術)、小林の右サイドへの移動が遅れ、さらに小峯がCBの習性からか中に絞り気味になってしまい、右サイドのディフェンダーが誰もいないという事態さえ生じた。2点目の三上のゴールは、そうした状況の中どフリーで上げたセンタリングがたまたま風に乗ってゴールに飛び込んだという、ある意味不運な、しかし必然性を含んだものだった。また、やはりサンドロ・内藤の不在はペナルティエリア付近の守備でも大きな影響をもたらしてしまった。山尾・古邊は身体能力でしのぐタイプではないだけに、サイドを破られ、ライン防御が崩れた形になるとヴェルディの敏捷性豊かなアタッカーに翻弄されまくってしまう。ヴェルディの先制点も左サイドから切り込まれ、DFがかわされかけたところ、「つい足が出て」引っかけた形になった。2点をとられてからも東京は度々サイドから崩され、土肥の好セーブで何とかしのいだものの、意図していた「前でボールを獲得する」形は微塵も見えなかった。攻撃面でも東京は苦戦。風下の影響もあったのだろうが、とにかく押し上げが遅い。中盤でボールを持ってもキャリアを追い越していく動きに乏しいためにパスのチャネルが限られ、結局相手の守備網を前にボールをこね回し横パスを続けるという一昔前の日本代表のようなプレーが目立った。内藤の攻撃面での貢献を思い起こさせるものでもあったし、小池・浅利がサイドの守備に神経を使わざるを得ない事情もあった。また、前節ジュビロ磐田戦と同様、時たま前線の神野に楔のパスが入るのだが、押し上げがないために孤立、結局ドリブルを仕掛けてボールをとられることが多かった。ツゥットについても同様。ボールを奪った時には攻撃陣がそれなりに動き出しをしているのだが、どうも意図がかみ合わず、スムーズにパスが出ない。シュートさえ打てない時間帯が延々と続いた。
一方ヴェルディは4−4−2のタイトな陣形でとにかく東京にスペースを与えず、ボールをとるやいなや必ずと言っていいほどサイドに開き、そこからセンタリングを上げていく非常にオーソドックスな、しかしこの日の東京に対しては有効な戦術を採っていた。東京がヴェルディのサッカーに合わせてしまっていたと言っても良い。とにかく前半のヴェルディには隙がなく、東京は反撃の糸口をつかめない。私個人としては、守備の意識が薄く、動き出しだけは積極的にするものの味方の意図に合わせないためにほとんどが無駄走りになり、またボールをもらっても得意のドリブルで突っかけることをしない増田に対して相当腹が立ち、あと少しで「返品だ!!」と大声で叫ぶところであった。結局0−2でハーフタイム。
後半開始から、東京はアマラオを投入。これが当たった。神野に比べてキープ力・パス能力のあるアマラオが前線に入ったことで周りの選手は目標ができて動きやすくなり、またアマを起点としたコンビネーションプレーが増加、前半とはうって変わって東京が攻勢に出ることになった。8分には小池OUT喜名IN、中盤のボール回しもよりスムーズになってたたみかける。それでも風下にたったヴェルディは引いて耐え、なかなか得点できない。
嫌なムードになりかけた20分、東京がようやく待望の1点を入れた。山尾から右サイドタッチ際の小峯へパス。これがライン側にそれて出そうなところ、小峯が半ばクリア的なロングフィードを前線へ。これが偶然にも絶妙のタイミングで川崎DFラインの裏をつく形になり、素晴らしいダッシュ力で走り込んだツゥットが相手DFを背負ったままシュート、ゴール。ヴェルディの2点目もそうであるが、サッカーというのはあっけないときはつくづくあっけないものである。これで東京の攻撃は調子づき、後方からツゥットめがけた長い縦パスも送られてしばしば川崎DFを脅かすようになる。27分にはそれまでなかった大きなサイドチェンジで右サイドの増田にボールが渡り、絶妙の方向・タイミングで折り返したセンタリングにツゥットが走り込み、GKの脇を破って同点。赤青で埋まったスタンドはこのエキサイティングな展開に大狂乱となった。こうなれば、もうイケイケである。東京は一気に勝負を付けようとさらなる攻勢に出、藤山のオーバーラップなども織り交ぜつつ押し込んでいく。2点目の直後には左CKにアマラオが飛び込んで叩きつけ、ボールがバウンドしすぎてバーを越えるという惜しい場面も作った。しかし、あくまで試合後に振り返って分かることではあるが、ここであまりに前がかりになったところに落とし穴があった。後半も35分を過ぎると東京の選手にも疲れが見え始め、ボールを奪取された際に自陣へ戻るのが遅くなって来た。というより、得点をとることに熱中しすぎたあまり、攻守のバランス自体を放棄していた選手も多いように見受けられた。東京がなかなか3点目を奪えずにいるうちに、ヴェルディがカウンターで東京DFと3対3、2対2といった場面を作りはじめる。山尾・古邊の必死のディフェンスと川崎アタッカーのミスで決定機になることはなかったものの、あとからすれば、もっと警戒すべきだったのかもしれない。しかし、東京の選手もスタッフもサポーターももう3ヶ月以上も勝利というものを味わっておらず、また相当有利に思える試合展開だっただけに、あそこで冷静な状況判断をするのもまた困難であった。
ロスタイム、東京が押し込みながらシュートまで持ち込めなかった攻撃のあと、ヴェルディのカウンターアタック。気が付けばもはや東京のアタッカーは誰も戻ることはできず、さらにSBまで上がっている最悪の状況に陥っていた。ヴェルディは難なくゴール前までボールを運び、シュートに持ち込む。飛び出した土肥が味方と交錯しつつ一度は好セーブを見せたもののリバウンドは無情にもヴェルディ平本の下へ。無人のゴールにボールが突き刺さり、結局「プレ東京ダービー」は1stステージに続く東京の2連敗に終わった。試合後、ショックのあまり芝生に座り込む選手たちの姿が痛々しかった。
ヴェルディは、派手さはないが堅実なサッカーをするいいチームだ。選手の顔ぶれも、あくまで若手中心のある意味「安っぽい」チームだが、将来性がありそうな素材を揃えてはいる。この試合でも、中澤・米山の両CBは後半度々きわどい場面で鋭い読みに基づいたカバーリングを見せ、東京に3点目を許さなかった。また、攻撃陣も、厚みはないものの切れがあるメンツでそれなりの怖さがある。すぐに優勝云々とは言えないだろうが、広島や福岡と肩を並べる「中堅どころのいいチーム」ではあるだろう。来年、サポーターの数はともかく、成績でこのチームを上回るのは容易ではない。本物の「東京ダービー」では厳しい戦いを覚悟しなければならないだろう。嫌いなチーム(選手はいやじゃないけど)だけに、やっかいなことである。
東京は、これで引き分けを挟んで6連敗。5連勝に浮かれていたのがはるか昔のようだが、既述のとおりこの日の前半の出来は連敗中でも最低のものだった。終了間際の失点よりも、やはり前半の2失点がなんといっても重かった。選手個々の出来不出来よりも、正直言って采配・作戦に疑問を感じる。「堅守速攻」こそ東京サッカーの本質のはず。いくら中断期間があったとはいえ、なぜそれを半ば放棄するような守備戦術を採用するのだろう。特にこの日はレギュラーDF2人が出場停止で、前節から中2日しかない試合で、しかも前半は風下だった。ならば、まずはいつもと同様にしっかりとサイドを含めて守備を固め、相手の出方を探り、相手が出てきたらカウンターという選択肢もあったのではないだろうか?「画一的なサッカーしかできない」というのは東京のサッカーをネガティヴにとらえた場合の常套句だが、苦しい時だからこそ自らのスタイルに立ち返るべきだと思うのだ。
とにかく、長きに渡った(試合数はそれほどでもないが)J1初シーズンもあと3試合。ホームゲームはあと1試合である。このままズルズル終わってしまったのでは、我々サポーターとしても来年の降格争いを思わず想像し、夜も眠れない状態でオフシーズンを過ごすことになってしまう。端的に言って、そんなのは嫌だ。3勝してくれとは言わない。せめて、11月23日のホームゲームだけでも気持ちよく勝ち、すっきりした気分でオフを迎えさせてほしい。そのためには、まず「本来の自分たち」を取り戻すこと。つくづく、そう思う。
2000年11月11日 駒沢陸上競技場
Jリーグセカンドステージ第12節
FC東京 2−3 ヴェルディ川崎