「サッカーの街」初見参、健闘も空しく衝撃の逆転負け…

 

 行って来ました、日本平スタジアムまで。

 東京からわざわざ清水まで足をのばした理由は三つ。一つ目は、もちろん我がFC東京の応援。二つ目は、せっかくのGWをほとんど家でゴロゴロではもったいないだろうということで、ちょっと遠出したくなったから。そして三つ目は、サッカーファンが「清水エスパルス」と聞けばすぐに「地域密着」という言葉が思い浮かぶが、実際どうなのか、ということを知りたかったからである。Jリーグの理念を背負って「市民球団」として発足し、ホーム・アウェイ問わぬ大応援団でその名を轟かし、昨年には経営危機を乗り越えて念願の初優勝を果たしたエスパルスだが、昨今スポンサーの撤退や観客動員減で再び苦境に陥っているという噂もある(昨年末の年俸を巡るゴタゴタも周知の通り)。私は清水サポーターのリズミカルな応援やチームを支える姿勢、選手のクリーンなプレーぶりに以前から好意を抱いているので、清水の現状は結構気になる。そこで、FC東京のサッカー王国初見参という折角の機会に、ちょっと様子を見てこようというわけだ。

 

 JR清水駅を出るとすぐに、駅前広場でエスパルスカラーのフラッグがお出迎え。商店街「清水銀座」の中にも多数のフラッグがたなびく。さらに、ふと通りかかった土産物屋の中からはエスパルスの応援歌らしき勇ましい歌声が。ふーん、やはりいかにも「市民みんなで応援してます」的な雰囲気がただよってるなあ、とここまでは「浦和もこんな感じだったなあ」という印象でしかなかったのだが、驚いたのはその次だ。

 無料バスにふらりと乗り込んで到着した先は、「エスパルスドリームプラザ」と称する複合商業施設。こ、これは…。内部・周辺に多数の飲食店やデパート・フットサル場・イベントスペースを持つこの施設、とにかくデカいの一言(東京在住の人にはお台場の「DECKS」並と言えばスケール感がわかってもらえるだろうか)だが、何よりイカしているのは全体がオレンジ色に塗装されており、かつ壁面に巨大なパルちゃんの絵が描かれているという点だ。海沿いの場所にそびえ立つ巨大なパルちゃんの勇姿…。そして店内にもエスパルスフラッグはためくこの施設は、サポーター姿の人はもちろん、とてもサッカーなど見そうにない感じの人も含め、非常に混み合っていた。おそらく清水市民が休日に出かけるハレの場所としては一番人気なんだろう(勝手な想像だが)。よそ者にとっては一目で「エスパルスの街清水」を実感できる空間。私も思わず入り口のパルちゃん像と記念撮影をしてしまった(笑)。

「エスパルスドリームプラザ」でパルちゃんと記念撮影をする私。
ちょっと前髪そろってるな…。

 ひとしきりはしゃいだ後、ドリームプラザ脇にあるオフィシャルショップ「S−POINT」(これはいまいちショボイ?)からシャトルバスに乗って日本平へ。バスの窓から、徒歩でスタジアムに向かう多くの人の姿が見られる。浦和や湘南と同様の、地域密着の香りが漂う光景。こういうのは良いよ、やっぱり。坂を上り、20分ほどで到着した。バスを降りてみると、いやあ、田舎だねえ(笑)。数戸の民家を除き、周りにはほとんど何にもない。まあ、サッカー観戦という娯楽に没入するためには町中からちょっと離れているくらいが良い場合もあるのだが、この交通アクセスはちょっと問題ではある(帰りは清水駅まで1時間以上かかった)。スタジアムの内部は予想以上にきれい。狭いながらもトイレや売店の数は多く、サービス面では頑張っている印象だ。高台だけに観客席裏から富士山が大きくきれいに見えたのも、良かった。

 当日券売り切れの大入り満員ということで、場内はムンムンとした熱気に満ちていた。ほとんどがオレンジ色に埋め尽くされたスタンド。その中で僅かな場所を占める東京サポーターが相変わらず熱いコールを送っている。アウェイ独特の戦いの雰囲気。バックスタンド端の最前列に腰を下ろすと、目の前で佐藤由紀彦がCKの練習をしている。由紀彦にとっては、かつて在籍し出場機会に恵まれなかった古巣清水は是非とも「恩返し」したい相手だろう。「頑張れよ」。心の中でつぶやいてみる。メンバー表を見ると、出場停止のツゥット・小林に代わって戸田・鏑木が先発。納得の行く起用で、これは期待が持てる。一方清水は澤登が欠場ではあるがアレックス・市川の両サイドは健在。ケガで欠場が予想された伊東もなぜか出ている。代表級を揃えたGK・DFと合わせ、凄いメンバーだ。試合前のセレモニーではエスパルスの公式応援歌が流れた。この日発表されたばかりなのか、周囲の清水サポも誰も歌わない。というか、こういう「作られた」応援歌で定着した例ってあるのだろうか。試合中に歌うようなテンポでもなさそうだし、ちょっと表現が大げさすぎるような気もする。まあ、東京サポにそんなことを言われる筋合いもないだろうが(笑)。

 

 今回非常にフィールド全体が見にくい位置に座ってしまい(選手が間近で見れ、迫力もあって嬉しかったのだが)メモもとっていなかったため、試合については印象中心で述べさせていただく。

 キックオフから清水ペースで試合は進んだ。前半10分までにいずれも左からのセンタリングから伊東・大榎がシュートを放ちゴールを脅かすが、東京DFの寄せとゴールポストの好守(笑)に阻まれて得点ならず。その後も清水はアレックス・市川を中心に東京のサイドを度々えぐってはセンタリングを放り込む。東京は内藤・藤山の両サイドバックが攻め上がりを自重し、浅利がバランスをとりつつ小峯・小池が清水攻撃陣にしつこく絡んで決定機を許さない。前半半ばになると焦れた清水側にパスミスが目立ち始め、逆に東京は20分頃には神野が縦に斬り込んでシュート、終了間際にも鏑木がペナルティエリア内でパスを受けてビッグチャンスをつくり出すなど、カウンターを武器に、全体的に押しこまれつつも健闘を見せた。結局前半は0−0で終了。

 後半になると清水はケガのせいか動きの重い伊東に代えて平松を投入。アレックスも左から中央に切れ込む動きが多くなり、ラインを押し上げて一気に畳みかけようとする。しかしアレックスのシュートがバーを叩いた直後の4分、東京得意のカウンターが炸裂する。DFからパスを受けた由紀彦が右サイドを駆け上がり、ペナルティエリアに入って清水DFを引きつけ、絶妙のセンタリング。これを神野がストライカーらしいボレーシュートで決めて東京先制!!スタンドの大部分は静まりかえり、東京サポーターは狂喜乱舞で、2階席からこぼれ落ちてきそうだ。おいおい、危ないぞ(笑)。その後も清水が押しこむ展開でCKを含めてピンチの連続となるが、東京は土肥ちゃんの安定したセーブ・小峯他のファイトあふれる当たり+幸運で何とかしのぐ。後半の東京は守備では小池、攻撃では由紀彦(やはりこの日は気合いの入りようが違うように見えた)が目立ち、さらにアレックスのマークから解放された内藤の上がりも見られるようになり、清水守備陣を攻撃に専念させない。22分には由紀彦のドリブルで取ったFKから、由紀彦がヘディングシュート(惜しくもポスト)。これは何とか逃げ切れるのでは…。そんな期待もわきあがってきた。

 20分、東京、戸田OUT榎本IN。戸田はさほどインパクトはないが前線守備や神野とのコンビで機能していただけに、この大事な場面で今季初登場の榎本投入は、いささか首を傾げたくなる采配だった。案の定、榎本は全く機能しなかった。中途半端なドリブルをしては味方に渡すだけのプレーが続き、運動量も少ない。才能に劣るチームがハードワークに欠けては、優位に立てるわけがない。足を痛めている神野が走れなくなったこともあり25分を過ぎると、東京はほとんどチャンスらしいチャンスを作り出せなくなってしまった。一方の清水は11分遠藤、29分ファビーニョと入れ、さらに時には森島や斉藤も上げて攻撃態勢を整えていった。

 35分を過ぎると東京イレブンの足は全く止まってしまう。神野はもはやボールを全く追えず、鏑木も攻め上がった後自陣に戻れなくなっていた。守備陣もボール獲得後の押し上げがきかなくなり、清水の波状攻撃を許してしまう。「前線でボールキープできる松田を入れるべきだ」。そう思ったが、大熊監督が採った手は鏑木OUT喜名IN。確かにカブは疲れていたが…、喜名はサイドでは生きない。どうせ使わないなら、松田ではなく浅野あたりがベンチに入っているべきだったのではないだろうか(アウェイだし)。

 何とか勝利も近づいてきたかに見えた41分、アレックスのグラウンダーを平松が右足アウトサイドで巧みに合わせて同点。さらに44分には内藤を完全に抜いたアレックス(まるで原子力発電みたいなスタミナだ)が再び左サイドからグラウンダー。久保山のシュートを土肥ちゃんが脇に弾き出すも、こぼれ球を平松が(ナイスポジショニングだ)押しこんで清水逆転。東京はあわてて山尾を入れてパワープレーを狙うが、アジアカップ王者がそこまで甘いわけもなく、一度もボールを触らないままタイムアップ。東京、最後の最後で力尽きての逆転負け。長い笛がなった瞬間、がっくりと膝をついた由紀彦の姿が印象的だった。

 

 エスパルスは澤登・伊東の不在やタイ遠征の疲れが響いたか、個人の力で圧倒しても組織的に崩す場面が少なく、冷や汗ものの勝利であったろう。しかしそれでも最後まで諦めずにきっちり勝ちきったことは、経験を重ねたチームの底力であり、ホームでの大声援のおかげでもあったのだろう。それにしても清水の選手の個人能力というのは本当に凄い。特にアレックスは、ほとんど反則技だと言いたい(もちろん、ホメ言葉)。彼を止めるのに東京は内藤・小池・時には由紀彦まで動員せざるを得ず、また由紀彦の攻め上がりの際にはきっちりディフェンスに戻っていた。まさに一人で二人分、三人分の活躍である。また、安永・久保山の2トップもシュートで終わろうという意識が高く、怖いFWだ(榎本、見習えよ!)。市川とDF陣の能力の高さは言うまでもない。それから、平松も俊敏でなかなか良い選手であった。平松は風貌からして面白い(金髪にヒワイな感じの髭)が、清水サポの皆さんにも愛されているキャラらしく、ヒーローインタビューでは場内の笑いを誘っていた。何だかエスパルスをベタボメしてしまったが、実際強いと感じたんだからしょうがない。これからの課題は中央から組織的に崩せるかどうか(サイドは個人能力で十分でしょう)だが、澤登と伊東さえ万全ならばそれもクリアされ、磐田に次ぐ存在になれるだろう。

 清水サポ大応援団の統制のとれた応援には、今回も楽しませてもらいました。数千人もの観客があまりに揃った踊りを見せるものだから、同行した私の彼女は「これは一週間に一回、いや一日一回どこかに集まって練習しているのではないか。学校でも体育で『エスパルスの時間』とかあるに違いない」と真顔で言っていた(笑)。応援団以外の客席の方々も良くサッカーを知っている様子で、的確なツッコミが多く、不快な野次などもほとんどなかった。市川やアレックスがボールを持つとひときわ大きな歓声が起こるのも、チャンスとなる場合を良く知っているからだろう。楽しく観戦させていただきました。街の様子を見ても今期初の2万人近い動員を見ても、このチームはまだまだ大丈夫そうだ。問題は、スタジアムへのアクセスだけか。

 FC東京は、まだJ1の強豪相手に僅差で逃げ切るほどには実力も試合運びのうまさもないということなんだろう。前半から度々危ない場面があったが運にも助けられていたし、たまたま終了間際に失点したからといって、選手を責めたくはない。ただ、采配には大いに不満が残る。出す選手出す選手全く機能していなかった。大熊監督もまだ試合運びを勉強中といったところであろうか。まあ、東京は選手層がまだ薄いのでケガ人や出場停止が出るととたんにコマ不足になるところは否めないので、監督は気の毒でもある。こういう経験をこれからに生かしてほしい。問題は、次のフロンターレ戦。ここを勝てば勝ち点が20の大台にのり、1stステージ残り試合の勝ち点は全て「貯金」として年間順位に生きてくる。早々と一部残留を決定してもらいたいものである。

 

 当日夜、帰りの静岡駅でのこと。新幹線ホーム下の売店前で彼女がトイレから戻ってくるのを待っていると、目の前をスーツ姿でアディダスのバックを抱えた屈強な男が横切り、何となく見ていると目が合った。小峯だった(笑)。その時周囲には人もおらず声をかけるには絶好のシチュエーションだったのだが、「人違いだったらどうしよう」「今日は負けてしまって落ち込んでいるだろうし疲れているだろうし、そっとしておいてあげた方がいいかも」と思い、黙り込んで直立不動になってしまった(変なヤツだと思われただろう)。今思えば、「お疲れさま」くらい言ってあげれば良かった。ごめんね、小峯。お疲れさま(他のみんなも)。

 その後小池の姿なぞ見つつホームに上がると、由紀彦がファンにつかまって記念撮影している。今日の由紀彦は本当に頑張っていたし悔しかっただろうに、丁寧に応じてイヤな顔一つ見せない。その姿を見て、私も私の彼女も「惚れた」の一言。彼こそはFC東京の宝。みんなで支えてあげましょう。

 東京駅に到着後、浅利・藤山・土肥の3人とすれ違う。こちらは周りにそれほど注目されていない様子。不合理な話だ(笑)。さらに改札を出る際、後方に鏑木発見。他の選手が黒・グレー系のスーツで決めている中、彼だけは青のジャージー姿(しかもぴっちりファスナーも止めて、これから銭湯に行く貧乏学生みたい)で現れた。お前、ホントにプロサッカー選手か(笑)?一人だけそんなカッコで怒られないのか?いや、なんだかよくわからんが、コイツはものが違う。最後にいいもの見せてもらいました。

 

 

2000年5月3日 日本平スタジアム

Jリーグファーストステージ第10節

 

清水エスパルス 2−1 FC東京        

 


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