油断か?実力か?東京、J2ビリチーム相手に悪夢の初戦敗退

 

 今年の天皇杯のトーナメント表を見た瞬間、「イケる!」と思った東京サポーターは多かったのではないだろうか。不勉強にして天皇杯の組み合わせがどう決まるのかは知らないが、とにかく決勝戦を境に2つにブロック分けしてみると、はっきりと強豪チームの偏りが見られたのだ。優勝候補と思われる磐田・横浜・鹿島・G大阪・柏・名古屋といったところが全て東京とは逆のブロックに入っており、東京は順当に行けば初戦がJ2でダントツビリの甲府、続いて相性の良い市原、準々決勝ではアジアスーパーカップの強行軍で消耗しているはずの清水と当たり、準決勝も西澤抜きのセレッソかサンフレッチェが相手である。そして何より、東京は東ガス時代からトーナメント戦には滅法強い。これはマジで決勝進出も夢ではないぞ…。もしかするとそう考えた時から、油断が始まっていたのかもしれない。はっきり言って初戦の甲府戦など、ただの通過点あるいはトレーニング代わりとしか思えなかった。私の視線はもっと先を向いていたのだ。

 そして、この試合は今年の東京都内でのラストゲームであり、またツゥットや堀池・浅野・神野らがチームから離れることが発表された後ということもあって、サポーターにとっては絶対に見逃せない、また選手にとっても有終の美を飾るべき大事な試合であった。負けることなど考えられなかった。「悪くても2−0、いや去年までと違ってツゥットや増田の突破力があるのだから、圧勝もあり得るな」。今から思えば甘すぎる見通しだったが、期待に胸膨らまして我らが青赤軍団の今年最後の雄姿を見届けるべく、懐かしい西が丘サッカー場へと足を運んだ。

 

 キックオフ30分ほど前に雨上がりの西が丘に到着してみると、既にバック・メインと東京側ゴール裏はほとんど埋まっていた。昨年までのヴァンフォーレ戦は、試合が始まってもスタンドはガラガラだったが…。J1に上がるとやっぱ違うね。というか、これも今年の東京の健闘ゆえと思えばやはり嬉しいし、家族連れや子供の姿が目立つのも、先のことを考えれば非常に嬉しい。また、ツゥットや堀池らのことはやはり皆気になるようで、ウォーミングアップの時にも真っ先に彼らの姿を探す人が多かった。まあ、全体的には久しぶりの西が丘と弱い相手・日曜日ということで、アットホームな雰囲気だ。一方、甲府側のゴール裏を見てみると、昨年は2つに分裂していたサポーターが今年は1つになっている。統合したのか、1つが消滅したのか(笑)。また、サポーターがお揃いの青い旗を振って応援しているのも昨年との違い。クラブとしては経済的に相当苦しいと聞いているが、どこか新規にスポンサーでも付いたのだろうか。

 メンバー発表。東京は負傷の土肥ちゃん、浅利、由紀彦が欠場で堀池が今期初の先発。「GK堀池洋光、背番号1」のアナウンスが聞こえたときには場内から相当な歓声と拍手が飛んでいた。最近東京のファンになった人も、フロンターレ戦でのサポーターの喜びようなどから、彼が東京にとってどれほど大切な存在であったか知っているのだろう(それだけにまた残念な気持ちがわき上がってくるのだが…)。ボランチは久しぶりの迫井。7月の江戸川で見た時は配球と状況判断に難があったように見えたが、どれほど成長しているかが楽しみであり、また不安でもあった。対するヴァンフォーレ甲府だが、すいません、よく分かりません。スカパーで見ていて「いい選手だなあ」と感心していた金晃正も出てなかったし。まあ、昨年のナビスコでFC東京のメンバーを見た横浜ファンも、きっとこういう感じだったんだろうな。

 

 キックオフからしばらくは、完全な東京ペースになった。甲府が「専守防衛→ロングキックで一発狙い」の作戦を採ったこともあり、J1チーム相手では考えられないくらい、押し込み、押し込み、押し込みまくった。DFの人数が揃っている相手中央の突破が難しいとみるやサイドを中心に攻め立て、小林・増田の両ウイングに加えて両サイドバックもほとんど上がりっぱなしに。中央で構える喜名が左右へ散らし、ボールを受けたウイングがサイドバック・FWとトライアングルをつくって細かいパス交換・ダイレクトプレーで突破を図る。特に目立ったのは藤山で、今年守備に追われた試合の多かったうっぷんを晴らすかのようにペナルティエリア付近までドリブルで進出し、アマラオや小林とのコンビを織り交ぜて切り込んでいった。また、守備でもサンドロ・小峯が安定したカバーリングを披露。小峯のオーバーラップ時など状況に応じて迫井がDFラインに入る柔軟さも見せた(迫井は相変わらず周りから大声で指示されまくってたが)。3分にはディフェンス網の狭い隙間を縫う藤山とのパス交換から小林がゴール至近でシュート(GKセーブ)、12分には小林のミドルをキーパーがはじいたところアマラオが押しこみかけ(またGKセーブ)、18分には壁をこす浮き球のFKに増田が飛び込み(またまたGKナイスセーブ)、22分には内藤からドンピシャのセンタリングがアマラオに。ペナルティエリア内での甲府DFの粘りでなかなか得点は奪えないものの、ここまでは「先制点をいつ取るか」という、あくまで楽勝の雰囲気であった。

 ところが、東京の意図的なペースダウンもあったのか、試合は次第に膠着していく。ボールを持っていない選手の動きがやや単調になり、相手DFの分厚い壁を前に横方向へのパスで「逃げる」場面が目立つようになった。こういう場合、喜名の球離れが遅くなってくるのが、一つの危険信号である。東京の攻撃にテンポがなくなると甲府の思うつぼ、ボールキャリアはあっという間に3〜4人のDFに取り囲まれ、ボールを奪われていった。また、この日はツゥットの調子がいまいちで、パスに正確さがなかったと同時に強引にシュートに持ち込む積極性にも欠け、スタンドからも「ツゥット〜!なにか悩み事でもあるのかあ〜!!(笑)」というツッコミが飛んでいた。

 それでも、32分には内藤の絶妙のセンタリングに喜名が飛び込んでこぼれ球がアマラオの前に落ち(アマラオ、「やはり」というべきか(笑)思いっきりふかしやがった)、38分にはCKからアマラオのヘッドがゴールの枠内へ飛ぶ(ゴール内のDFがクリア)など単発ながらチャンスはそれなりに作り、40分・ロスタイムのひやりとする場面を防いだこともあって未だ「そのうちなんとかなるだろう」という雰囲気のまま、前半終了。「こんな試合、J2の頃にはよくやっていたよな」などという感想も周りからは聞かれ、全くその通りだと思った。また、ピッチの近さに「選手がでかいよ!」と喜び、ヴァンフォーレ20番倉貫のドリブルに「あいつうまいじゃん!!」と賞賛の声が上がり、40分過ぎに負傷のせいで相手が一時9人になった時も「ハリー!ハリー!(笑)」の声が飛び、さらにハーフタイムにも例の「オ・ヤ・ジ!」コールを合唱する(なぜか甲府サポーターもやっていたが(笑))など、私の文章に(笑)マークが連発されることからもわかるように、スタンドはとことんリラックスムードであったと言えよう。

 

 後半開始直後、東京は相手陣で立て続けにFKのチャンスを得るが、いつものごとくツゥットが枠を外した弾丸ライナーを飛ばして無得点。シーズン初めに比べれば惜しい弾道になっているとはいえ、セットで得点の気配が感じられないのはこういう試合では痛い。その後は東京の攻めが前半にも増して停滞、というか甲府が前半ほど引かずにやや前目でプレッシャーをかけるディフェンスに移行し、逆にパスカットからカウンター気味にいい形をつくる場面が多くなっていく。9分にはペナルティエリア内で阿井が切り返しでサンドロを振り切る大ピンチも生まれ、ここは堀池の好判断と迫井懸命のカバーリングで事なきを得るも、この辺からどうもうまく行っていないまずいぞ、という雰囲気がスタンドにも漂ってきた。東京は縦に浮き球を入れるパターンで打開を図り、ツゥットや内藤・増田がサイドを突破するも、中央をがっちり固める甲府DFの前になかなかシュートに持ち込めない。中央でアマラオがキープしてもMFの押し上げが伴わずに孤立してボールを失う場面も見られ、次第にコンビネーションがチグハグになっていくのがはっきりと分かった。

 で、18分、東京は小林に代えて鏑木を投入するのだが、ここが勝負の分かれ目になった。はっきり言えば、この交代が大きな敗因の一つになったのだ。まず第一に、この交代はどういう意図の下に行われたのだろう?この日小林はペナルティエリア内に積極的に入って行き、それなりにいい動きを見せていたと思うし、この場面ではスペースのほとんどないゴール前をどう攻略するのが課題であり、鏑木の特性がその課題に合っていたかと言えばはなはだ疑問だ。甲府のような堅い守りを崩すにはサイドから攻めるのが定石で、鏑木をひたすらタッチライン際に張らせるのならそれなりに理もあろうが、カブはそういうタイプではなく、案の定フラフラと中央に寄っていっては他の選手と重なって攻撃のバランスを崩すことが多かった。また、この交代の直前に喜名が太股の裏を痛め、迫井が足をつらせていた。確かに小林の交代を止められるかどうか微妙なタイミングだったとは思うが、結局この2人も28分までに交代し、小林と鏑木の交代を焦ったことで結果的に東京は3人の交代枠を有効に使えず、FW4人が同時にピッチに立つといういびつなフォーメーションになってしまった。

 20分を過ぎると東京の攻撃は全くコンビネーションが合わなくなり、バラバラになって行く。遠ざかる得点機。それでも無失点で行ければまだ良かったのだが、27分、ヴァンフォーレの左CKを甲府FWが頭ですらしてファーへ抜けたところ、キャプテンの仲田に蹴り込まれて先制を許してしまう。守りを固めてカウンターを狙っていたチームに先制を許してしまうと、これほどやっかいなことはない。以後甲府は攻撃に全く人数をかけず、ひたすらゴール前を固めて逃げ切りを図る。東京もようやく攻撃のペースを上げて波状攻撃をかけるが、甲府の守りは相変わらず粘り強く、また東京の攻撃もコンビネーションに欠け、攻め込んでははね返されるシーンが延々と続いた。32分にはゴール前のツゥットにボールが渡り、切り返しでDFを振り切るもののシュートは枠の外へ。

 35分を過ぎるとプレーにも焦りがもろに現れてパスミスが目に見えて増え、単調にボールを放り込むパワープレイ気味の攻撃になっていく。41分には阿井が2枚目の警告で退場になるが、直後の絶好の位置でのFKを増田がミスキック。この時間帯、ヴァンフォーレの選手たち、特にFWの吉田が非常に楽しそうな表情でプレーしていたのが忘れられない。どっちがJ1なんだかわからない余裕の持ちようであった。また、ペナルティエリア内に過半数の選手が入る甲府に対しては明らかにサイドから崩すしか方法はなかったように見えたが、カブも戸田も中央へ寄っていってしまい、サイドに空いたスペースを生かせない。「横から崩すんだよ!」「もっと動け!」。ゴール裏の懸命の声援の他、バックスタンドからはそんな声が盛んに飛んでいた。ロスタイム、堀池を残して全員が攻め上がる必死の攻撃も功を奏さず、結局無情のホイッスルが鳴ったのは時計が48分を回った頃だった。………信じられない敗戦に、茫然自失。

 

 スタンドのほとんどが沈黙した中で数十人ほどの甲府サポーターの歓喜の声が響く試合後、うなだれた選手達がバックスタンドへ向けて歩いてきた。本来ここは、ブーイングでもかましてやるべきなのだろう。実際、周りでは「お前ら正月なしだ(怒)!」などという声もあった。油断もあったとはいえ、今年最後の「ホーム」で甲府相手に完封負けを喫するとは、何たること!許されるべきではない。しかし、その選手達の中に堀池の姿があった。長年に渡り、東京を支えてきてくれた守護神。クラブから戦力外通告された後も、サポーターとチームのために長年戦ってきた西が丘で元気なプレーを見せてくれた「僕らの」守護神。………。なんだかんだ言って、東京も今年は(そして堀池はもう永久に)これで見納めだ。ここは今日の戦いぶりには目をつぶり、暖かく迎えるべきなのだろう。私は黙って、立ち上がり拍手をした。堀池のために、そして一年間頑張ってくれた選手のために。帰り際、ゴール裏の方を見ると、選手達にブーイングをかましていたサポーター達が、堀池とツゥット(「サポーター ありがとう」などとベタな文句入りのTシャツを着込んでいた)には盛んにコールを送っていた。それはそれで、全く正しい態度だと思った。

 

 ヴァンフォーレ甲府は、東京との実力差を意識した戦術で見事勝利をもぎ取った。ねばり強く守って得点を許さず折り返す展開も、後半27分という先制点の時間帯も、まさに理想的であったと言えよう。確かに個々の選手の能力が高いとは思えないのだが、複数人でボールキャリアを囲い込むディフェンス(まるでラグビーで言うところの「スウォーミング・ディフェンス」だった)とシンプルだが時間と手数をかけずシュートまで持っていくオフェンスは、選手の意識付けが徹底されていたこともあり、この試合では非常に効果的だった。選手のモチベーションも高く(そりゃそうだよな)、吉田の笑顔に代表されるように最後まで充実した気持ちで戦っていた様子がうかがえた。何でもこの試合、やはり戦力外通告を受けている選手も多く、監督は「もう一度いい夢を見よう」と言って戦いに臨んだという。リーグ戦でいいところのなかった今年、選手達にも、そしてはるばる駆けつけてきたサポーターにも、シーズンも終わり近くでいい夢が待っていた。

 FC東京は、まるで昨年J2での連敗時を見ているような感じだった。守りに入った相手をなかなか崩せず、先制されて焦っているうちに試合が終わるという、サポーターがデジャブーに襲われる敗戦。まあ今年の戦績等からどうしても油断やモチベーションの低さがあったことは否めないだろうし、そもそも戦術や選手の能力的には昨年より桁違いにアップしたわけでもない。格下相手でも苦手なパターンにはまった時には押し切るだけの実力がまだないということなのだろう。セットプレーの弱さ・不合理な選手交代・リードされた時の慌てようなど、修正すべき点はしっかり修正し今後の糧にして行けば、致命的な敗戦になるとも思えない。しかしそれにしてもなあ…。やっぱり今年最後の大会で1年間の成果を見せてほしかったことに加え、堀池とツゥットの最後の試合(まあツゥットは敵として今後も見られるけど)がこんな形で終わってしまうのは残念というか、寂しいというか、言葉に言い表しきれないものがある。最後の最後、勝って一緒に喜びたかったよなあ……。

 

 

2000年12月10日 国立西が丘サッカー場

天皇杯3回戦

 

      FC東京 0−1 ヴァンフォーレ甲府

 


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