ツゥットの攻守に渡る活躍で「昇格ダービー」制す!

 

 前節アウェイ清水戦で衝撃の逆転負けを喫したFC東京だが、休む間もなく今節は自他共に認めるライバル川崎フロンターレと「昇格ダービー」の一戦。今季的確な補強でスタイルの継続・強化に成功した東京に対し、川崎は大幅な選手の入れ替えが裏目に出てわずか2勝の15位と苦戦。前日代々木体育館前でのサポータートークライブでは「フロンターレは味方」との発言も出た(理由は元東ガス監督の今井氏が川崎Fの監督に就任したこと、ヴェルディという共通の敵ができたこと、一緒にJ2を戦ってきたこと、可哀想だから(笑)等々)のだが、次節に強敵セレッソ戦が控える東京にとって、ここはしっかり勝ち点3を確保しておきたいところである。また、昨年オフにフロンターレから戦力外通告を受けたツゥットにとっても、見返す絶好のチャンス。私の中では、今回はファーストステージ最重要試合であった。

 

 試合前にスタンドを見渡してみて、あらためてお客さんの増加ぶりに嬉しくなる(1万1千人超)。東京側ゴール裏では立ち見も出ているようだ。また、見た目からして「東京応援してます」的な人の割合が客数以上に増しているようだ。今回はJ2・JFL時代にもたびたび使用していた駒沢が会場であり、昨年の風景と見比べてみてもその違いは歴然としている。昨年比で全体の客数は2倍、見た目赤青の人・「You’ll Never Walk Alone」の時にタオルマフラーを掲げる人は3倍といったところだろうか。

 選手紹介でツゥットの名が呼ばれると川崎サポーターから拍手。そうだよなあ、バリバリの中心選手だったんだもんな。一昨年のJ1参入決定戦でのキレぶりや昨年の成績、伸び盛りの年齢であることを考えれば、何で放出したのかよくわからん。東京サポーターも「一部死守」コールで川崎にエールを送る。昨年まで「川崎ウンコターレ」などと言って攻撃していたのが嘘のようだ(フロンターレが復調してきたらすぐ元に戻るような気がしないでもないが)。

 ピッチに出てきた両チームを見ると、東京は小林・ツゥットが復帰でアマラオ負傷の現状ではベストメンバー。川崎側では今季初登場の中西がストッパーに入っている。ついに出てきたか、というか、何故今まで出てこなかったのだ。ゼッカはいったい何にこだわっていたのだろう。コイントスで東京はホームゲームでは今季初めて、前半にサポーター席に向かって攻める陣になった。これまでほとんどの得点を後半サポーター席前ゴールに叩きこんできただけに、ちょっと気になることではあった。

 

 キックオフ直後川崎FWが積極的に前へ出てボールを獲ろうとする姿が見られ、「おお、さすがに今日は気合いが違う!」と感心したものの、それも最初だけ。東京はバランスの良い守備体型から簡単に川崎のパスをカット、すぐにペースを握る。2分には気合い入りまくりのツゥットが由紀彦から球を奪って強引にドリブルからシュート。東京は浅利の配球、由紀彦・内藤のコンビネーションともに良く、たびたびチャンスをつくり出す。9分には内藤から由紀彦に渡って絶妙のセンタリング。完全に決まったかと思われたが神野が頭で思いっきりボールをふかして外す。やっぱり神野だ、マリノス時代から変わっていないと、妙に納得させられた。ツゥットは10分・13分と立て続けにシュートを放ち(いずれも菊池セーブ)、守備でも積極的なチェイスで川崎に自由なボール回しを許さない。また、ボランチの小池が奮闘を見せ東京は中盤をも完全に制圧。得点は時間の問題かと思われたが、前半からあまりに押しこんでいるものだから、かえってカウンターをくらうのが心配になった。

 幸いフロンターレのカウンターは散発的なものにとどまった。要注意のFW浦田がしばしば突破をはかるが、DFがあまりに引いていて後方からの押し上げがほとんどないのと、パラグアイ代表アルバレンガを2トップの一角に置いたために後ろからいいパスが出ず、チャンスらしいチャンスはほとんどなかった。

 ところが、東京も攻め疲れか次第に動きが鈍くなり、35分にDFラインの裏に出た由紀彦のシュート(GKを抜くが奥野が戻ってナイスクリア。さすが!)を最後にチャンスが作れなくなる。結局前半は0−0で終了。圧倒的に攻め込みながら相手が引いてもう一歩で点が取れず、試合を決められない。これでは、まるで昨年J2で下位相手に苦戦していた時みたいではないか!前半の最後にだれたこともあり、後半に向けて不安の残る展開だった。

 

 後半、予想通りフロンターレが攻勢に出る。東京は中盤でパスをカットされるようになり、アルバレンガがマーカーを惑わすような動きを多く見せたせいか、小池が誰につくのでもなくフラフラする姿が目に付くようになる。逆にフロンターレはペドリーニョの上がりが目立ち初め、攻めに厚みが出てきた。7分には浦田のシュートがサイドネットを突き、続いてペドリーニョのシュートが東京ゴールを襲う(土肥ちゃんナイスセーブ)。やばいなあ…。そんな悪い雰囲気を打破したのは、東京らしい閃光のようなカウンター攻撃だった。

 10分、川崎FKからの切り返し。ツゥットからのパスを小林がダイレクトに頭で落とし、受けた神野がドリブル。小林の機転の利いたパスが効を奏しこの時点で2人対2人。相手最後尾のDFを引きつけた神野が絶妙のタイミングでスルーを出すと小林はあっという間にGKと1対1になっていた。さらにここで小林は彼らしからぬ(失礼!)落ち着きを見せ、ドリブラーらしい足さばきで菊池をも抜いて無人のゴールへシュート。今季ここまで無得点のコバが見せた最高の動きで東京は先制した。この時、ツゥットが自陣ゴール前から全力疾走で駆け上がり、小林のフォローに入っていたのも印象的だった。

 16分、鬼木・今野OUTに池田・森山INでフロンターレ勝負に出る。事実この交代は効果を上げ、東京は前半から危惧していたように次第に運動量が落ち、交代選手+森川のオーバーラップで攻撃に人数をかけるフロンターレが圧倒的にチャンスを作るようになる。大熊監督は20分に喜名を投入して鬼木・今野のいたスペースを攻めようとするが、喜名はディフェンスに忙殺され持ち味を出すことができない。この時間帯、2列目以降に戻ってただ一人抜群の運動量で守備をこなすツゥットの活躍がなければ、東京のディフェンスは崩壊していたかも知れない。

 25分にはアルバレンガOUT、伊藤INで川崎は完全にペドリーニョや森川から前線へ長めのクロスを放り込む中盤省略の戦法をとる。しかしその戦術が機能するまでの間隙を縫い、またしても東京のカウンターが炸裂。小林→ツゥット→小林からサイドチェンジで内藤へきれいにパスが渡り、最後はピンポイントのクロスをツゥットが頭で押しこんで2点目。苦しい状況の中、セクシーフットボール(笑)の片鱗が見えたような攻撃で東京が突き放した。

 しかし、まだ終わらない。35分、東京陣ペナルティエリア外で東京DFがなかなかクリアできないで混戦になったところを池田がシュート、DFの足にあたったボールは土肥ちゃんの頭を越えてゴールにすっぽり。さらに、川崎の伊藤・森山・浦田へロングパスを放り込む戦術が効果を上げ始める。特に39分に小峯と競りながら森山が飛び込んだシーンでは、心臓が止まるかと思った。小峯はしっかり体を寄せて競りに行くから見た目ほど危なくはないのだが、彼はなにしろあの身長なので、見ている方にすればサンドロではなく小峯を狙うクロスは怖くて仕方がなかった。また、この時間帯になると神野はまたしても走れなくなっていた。神野はもともと精力的に走り回る方ではないし貴重なポストプレーヤーなのだが、味方の上がりが期待できなくなっている状態では宝の持ち腐れである。「頼む、大熊、はよ代えてやってくれ!まだ先は長いんだ」と心の中で叫ぶ。

 そんな私の期待に応え(笑)、40分に神野OUT戸田IN。戸田はボールに触る回数は少なかったものの、よく守備し、43分には相手ゴールライン前まで抜け出してキープ、小林との連携でCKをとるなど、よく頑張っていた。44分にはツゥットに代えてDF山尾を投入、ロスタイムのピンチも全員がペナルティエリア内に入って守りきり、東京は冷や汗ものながら何とか逃げ切りに成功した。

 

 東京は最後メタメタになりながらも前節と違って逆転されずに済んだのは、もっぱら対戦相手との力関係によるところが大きかったろう。フロンターレにはアレックスのような決定的なアタッカーがいなかった。1点とられた場面は事故のようなものだが、その後にスピードある選手を入れてカウンターを狙うなりMFを入れて相手のパスの出所を押さえるなりしてもう少しスマートに逃げ切らんと、年間総合順位8位は苦しい(J1残留?ここまできたら、それが目標じゃいかんでしょう!)。それでなくとも、ここ数試合後半にめっきり運動量が落ちてしまうのが目立つ。今季初めの数試合で東京を支えたのはまぎれもなく「90分間落ちない運動量」であるが、長いシーズンいつでも「部活サッカー」がやれるわけではない。交代選手の活用も含めて戦い方の再検討が必要かもしれない。

 個人としてもっとも活躍したのは言うまでもなくツゥットだ。前半のチャンスメイク、追加点のゴール、そして何といっても豊富な運動量を生かした守備で多大な貢献をした。文句なしのMVPである。今頃フロンターレのサポーター・選手・コーチ陣・フロント、そして松本育夫はツゥットを手放したことを死ぬほど後悔しているであろう。

 フロンターレはシーズン当初の「バラバラ」としか表現できない状態よりはまともになっているように見えた。ゼッカ解任の効果はあったということだろうか。後半にスピードあるFWを集中投入してきた時は確かに迫力があり、最後まで諦めずに戦う姿勢も見せてもらった(タイムアップの時も中西が凄い表情を見せていた)。巻き返しのチャンスはまだまだあるだろう。ただ、前半はアルバレンガがほとんどボールを持てず、両サイドも全く上がれなかった(東京の両サイドの出来が良かったせいもあるのだが)。いっそのこと最初からアルバレンガをもう少し後ろに下げ、浦田や伊藤あるいは森山によるカウンターに徹するような割り切り方が必要かも知れない。いずれにせよ、川崎はJ2を一緒に戦ってきた「戦友」。レッズの甘ったれ選手を初めとするJ2蔑視の傾向(「40戦全勝」だあ?)をうち砕くためにも、健闘を祈る。

 

 試合後、テレビ東京の「バモバモ!サッカーテレビ」(だっけ?)の女の子(名前は忘れた)が出てきてゴール裏サポーターと「1,2,3,バ〜モ、バ〜モ!」とポーズをとっていた。いやあ、度胸あるなあ。もしスタンドが応えなかったらどうするつもりだったんだろう。個人的には、「日の丸先生」にも出てきてほしかったなあ(笑)。

 

 

2000年5月6日 駒沢陸上競技場

Jリーグファーストステージ第10節

 

  FC東京 2−1 川崎フロンターレ

 


2000年目次へ            ホームへ