熊采配的中!ツゥットの高速ドリブルでアジア王者撃破!!

 

 初のJ1シーズンにおいて横浜・福岡・名古屋相手に3連勝と申し分ないスタートを切ったFC東京だったが、前節では微妙な判定もあって柏にVゴール負け。JFLやJ2・カップ戦では実績のある東京もJ1ではあくまで新参者。勢いに乗って勝ち進んできたからこそ、連勝がストップしたときが正念場となる。しかも相手はアジア王者のジュビロ磐田。東京は果たしてJ1で堂々とやっていけるのか、それとも3連勝はフロックだったのか。この真価が問われる試合には、雨模様の平日夜という悪条件ながら、1万2千を超える観客が詰めかけた。

 

 試合は磐田の一方的な攻勢で始まった。服部から質の高いミドルパスが前線に送られ、高原・中山の強力2トップがDFをかき回しつつシュートを狙う。小峯やサンドロの必死の守備ではじき返されたボールもことごとく藤田や奥が拾い、サイドに散らして自らゴール前へ駆け上がる。加えてスピード豊かな西が右サイドを駆け上がり、東京DFを置き去りにする。とにかく「強い」という印象。全体のバランスの良さやコンビネーションはもちろん、個人のパスの精度や「第一歩の速さ」も非常に優れている。これまで東京がJ1チームと戦うのを何度も見てきたが、その中でも磐田は段違いに強いと思った。

 東京も得意のカウンターでゴールに迫ろうとするが、中盤で全くパスがつながらない。強敵相手に慎重になったのかそれとも磐田DFが強力なのか(その両方であったように見えた)、「手数をかけない」東京本来の攻撃からは程遠く、相手陣でパスを回そうとしてはカットされ、シュートにまでいたらない。藤山のオーバーラップも西の攻め上がりに封じられ、佐藤由紀彦も山西のマークがきつくチャンスを作れない。中央の小池に至っては服部に度々パスをカットされ、逆にパスを左右に散らされて振り回される姿ばかりが目立った。

 それでも前半30分過ぎまでゴールを割らせなかったのは、東京DF、特に小峯と内藤の頑張りのおかげであった。小峯はヘディングに弱さを抱えるものの、小さな体を投げ出す勇気あるプレーで中山にペナルティエリア内で仕事をさせず、内藤は安定感あふれるディフェンスと由紀彦へのマークの間隙を縫った攻め上がりで数少ないチャンスを作り出していた。

 均衡が破れたのは前半35分。CKから井原のヘッドで磐田が先制。スタンドのホーム側は一瞬静まりかえり、逆にジュビロサポーター(いつもながらその数の多さには感心する)は沸きかえった。それまでジュビロサポを「女声!」(笑)とからかったり井原(オフに東京移籍の噂あり)にコールを送るなど余裕をかましていた東京サポーターも、現実を突きつけられたような(笑)感じで活動一時停止。それまでFC東京がほとんどチャンスらしいチャンスを作れていなかっただけに、やばい雰囲気が漂う。結局、めげずに頑張る東京サポの熱い応援にも関わらず、前半は0−1で終了。試合巧者磐田が相手だけに名古屋を逆転した時のようにはいかないだろう、今日はダメか…。正直、そんな気持ちが私の心の中にもあった。

 

 後半、突如として東京ペースへと流れが変わる。流れを呼び込みこの試合のキーポイントとなったのは、MF喜名の投入だった。日本人監督の多くがそうであるように東京の大熊監督も選手交代には慎重であり、特に今季は後半も半ばを過ぎてからでなければカードを切らなかっただけに、この交代には驚かされた。しかし、前半不調の小池に代えて新戦力の喜名を投入したこの采配は、ズバリ的中する。

 どちらかと言えば守備色が強い小池は、同タイプながら攻撃のセンスをも兼ね備えた服部に振り回され続けてしまった。しかし小気味良いパスとドリブルを持ち味とする喜名が中央に入ったことで磐田のMF・DFは常に彼のスルーパス・飛び出しに気を遣わねばならず、中盤でのパス回しが甘くなった。さらに守備陣形が中央寄りに偏ったことで東京の両ウイングのアタッキングスペースが生まれ、サイドからのチャンスの数が俄然増加した。特に由紀彦は目立たなかった前半とうって変わり、喜名に引き付けられた山西の裏をとって磐田の左サイドを切り裂き、切り裂き、切り裂きまくる。後半10分、ジュビロのDF陣がパスを出しあぐねたところ、由紀彦が井原からボールをカットし、ツゥットへラストパス。ツゥットがゴール右隅に流し込んで同点。そしてその後は一方的な東京ペースになる。藤山の上がりも目立ち始め、東京自慢の2トップ、ツゥットとアマラオがペナルティエリア付近でボールを持つ機会が多くなり、由紀彦が鋭いセンタリングを放り込む。東京のスピードに乗った攻撃に磐田は対応しきれず、チャンスの連続。スタジアム全体がイケイケの雰囲気に包まれた。

 しかし、さすがというか、やはりというか、磐田は磐田。東京の勝ち越しは時間の問題と思われた後半24分、自陣ペナルティエリアわずか外側で小林が痛恨のファウル。服部がFKを直接蹴りこんで磐田勝ち越し。余談になるが、服部は本当にうまくなった。フランスW杯の頃には「ボール扱いは下手だがハードな密着マークでならす一芸DF」という印象だったが、次第にテクニックを向上させ、名波が抜けた今季はセットプレーも任されて完全にイメージ一新(髪もド派手な金色になったし)。今ではもう立派なテクニシャンである。ともかく、服部の蹴った球が美しい弧を描いてゴール左上に吸い込まれた時、ジュビロサポーターは完全に勝利を確信したことだろう。東京が攻め続けた約15分間を耐えての磐田の勝ち越し。普通なら完全に試合は決まりである。

 ところが、理由は良くわからないが、東京はあくまでイケイケであった。今季まだホームで負けていない(といっても2試合だが)自信がそうさせるのか、熱いサポーターの声援が後押ししているのか、それとも「なにがJ1じゃ、J2の地獄も知らんで!」とでも選手が思ったのか(笑)、両サイド同時オーバーラップを含め、多少防御が甘くなろうとも何かにとりつかれたように攻め続ける。スタンドもイケイケドンドン、97年の天皇杯対鹿島戦を思い起こさせるキレようだ。後半26分、左サイドから斜めに切れ上がった藤山のパスをツゥットが右サイドから弾丸のようなスピードで走りこんで受け(X攻撃!)、磐田DF3人を振り切ってシュート、同点。さらに後半38分にはペナルティエリア左脇に走りこんだツゥットへのパスを奥が手ではたいてPK。アマラオが負傷の足を引きずりながら冷静に決めて勝ち越し。東京、アジア王者相手に怒涛の攻撃である。

 その後数分間は磐田が意地の反撃を見せたが、東京は土肥のファインセーブや小峯の体を張ったディフェンス(体当たりとも言う。しかし反則ではない)で防ぎ、何とかタイムアップ。シーズンが始まる前は想像もしていなかったことだが、なんとFC東京がジュビロ磐田に勝ったのだ。スタンドはゴール裏の青赤軍団もメイン・バックの常連さんも、スーツを着込んだ一見さんも皆跳び上がって大喜びである。ああ、嬉しい。

 

 磐田はやはり強かった。攻守のバランスが非常にとれており、選手の個人能力も高い。経験豊富で、どのような試合展開になってもある程度の対応をする力を持っている。選手の能力の単純な合計値なら名古屋や横浜と変わらないかもしれないが、「チームとしての」力は他には無いものを持っていると言えよう。Jリーグ独特の(不合理な)システムの下で優勝できるかどうかはわからないが(昨年はそのシステムのおかげで優勝できたのだが)、年間通算順位で上位にくることは間違いない。敵は異常な過密日程だけであろう。

 その強い磐田(しかもフルメンバー!)から勝利をもぎとるパフォーマンスを見せたのがこの夜のFC東京だった。さすがに5試合目ともなれば研究もされているであろうし、実際前半は2トップ+由紀彦が完全に封じ込められてカウンターが機能せず、苦戦した。しかしそれでも後半逆転できたのは、名古屋戦と同様、90分間衰えない運動量と絶対あきらめないメンタリティのおかげである。東京はチームとしての完成度が高いとはいえ、選手の個人能力は磐田や名古屋や横浜とは比べ物にならない。それでも、サッカーは微妙なスポーツであり、同じカテゴリーであればどんな実力差のあるチームの間にも「勝敗の境目」は存在する。そしてサポーターの声援を受けつつ「これしかない」戦術を遂行し、ひたむきさを忘れなければ何回か、あるいは何十回かに一度は必ず勝利は転がり込んでくるものなのだ。FC東京は昨年の2部制導入と同様の、あるいはそれ以上のインパクトをJリーグにもたらすことになるのかもしれない。今季東京がどれだけの成績を残せるのかまだわからないが、上位に食い込めなくともきっちりJ1に残留し今日のような素晴らしい戦いを続けていれば、東京スタジアムを大観衆で埋めることも不可能ではない。

 東京の課題を挙げるとすれば、やはり中盤のパス回しと攻め手の少なさであろうか。中盤のセンターから攻撃をつくれるのは今のところ喜名一人である(その気になれば由紀彦もやれるのだろうが)。また、今季得点を挙げているのはアマラオ、ツゥット、由紀彦の3名のみだ。「手数をかけない」カウンターが決まっているうちは良いが、相手が引いてきたらどうするのか。次節の鹿島戦を終えれば上位との対戦は清水戦のみを残すことになり、あとは実力伯仲の相手との試合になる。当然、これまでのように敵は前がかりになってはくれないだろう。そこでどうするか。大熊監督の腕の見せ所である。

 今季これでFC東京はホームゲーム3試合を消化した。その3試合で挙げた得点は7点。いずれも後半、東京サポーター側のゴールに入れている。つまり前半は相手の攻勢をしのいで後半相手の運動量が落ちてきたところをしとめるパターンが確立されてきており、またゴールはサポーターの目の前で決め、その場でサポーターと選手が喜びを共有できているのである。元々FC東京はサポーターと選手の距離が近いチームであるが、今季はまさに一丸となって快進撃を続けているのだ。これが幸せでなくてなんであろうか。オフに川崎フロンターレから戦力外通告を受けた、今季大活躍のツゥットも言ってくれた。「東京は自分を本当に暖かく迎え入れてくれた」。この素晴らしき戦いがまだまだ続くことを願わずにはおれない。

 

 

2000年4月5日 国立競技場

Jリーグファーストステージ第5節

 

FC東京 3−2 ジュビロ磐田

 


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