戸惑いと不安の中、辛くも連敗脱出!でも…。
2000年のJ1リーグも、はやあと2試合。2ヶ月半も中断していたくせにその後20日足らずで5試合をこなす慌ただしいスケジュールのため、本当にあっと言う間にシーズンが過ぎていく感じだ。今回は、FC東京今年最後のホームゲームでもある。連敗地獄にはまり込んでいる東京の今回の相手は、例年通りシーズン終盤に底力を発揮し、前節には好調アビスパ相手のシーソー・ゲームを制してJ1残留をほぼ確実にしているジェフ市原。東京に勝つか引き分ければ残留決定という状況だけに、実にイヤな相手である。が、東京とて負けられない事には変わりない。
しかし、試合前日になって非常に気がかりな情報が入ってきた。なんと、我らがKING OF TOKYOこと
アマラオの移籍志願である。「東なめ」発のこの情報、にわかには信じられないが、しかし「東なめ」本文を読めば事態は深刻であるようだ。練習場にも通わない、またチームの内幕情報にも疎い(というか興味がない)私にはその真偽を判断する術はないのだが、そういった話が持ち上がってくる事自体が、今の東京のゴタゴタぶりを表しているようにも思える。ともあれ、試合当日、心の中に戸惑いと不安を覚えながらいつもよりもやや早めに国立競技場に向かった。青山門に到着してみると、東京ゴール裏の面々がアマラオ移籍に抗議する横断幕を作成している最中だった。1枚はアマラオ自身に残留を呼びかけるもの、もう1枚は球団のアマチュア体質を批判するもののようだった。これまで、他のJ1チームには見られないような蜜月の関係を築いているかに見えたFC東京の球団とサポーターだったが、これを機にその関係も解消へ向かってしまうのだろうか?まあ、ここまでが順風過ぎたとも言えるし、意見の食い違いは衝突してでも明らかにし、解決へ向けて球団を動かす(あるいはサポーター自身が行動する)べきだろうとは思うのだが…。入場後、ファンクラブカウンターでいつもの様に選手写真入りのカードをもらうと、悪い冗談のようだが、この日はアマラオのカードだった。偶然とはいえ、私の中のブルーな気分はさらにふくらむ。スタンドに上がってみると、心なしかゴール裏は密集度がいつもより高く、ピリピリと緊張感が漂っているようだ。家族連れや一見さんの多いバックスタンドとは対照的である。ウォームアップで東京の選手が登場すると、早くもアマラオコールの大合唱。ところが、いつもならばくどいほどの連続コールにもいちいち手を上げて応えてくれるアマラオが、この日はなぜか反応しない。やっぱり何かがあるんだ、との思いを強くする光景だった。
試合前、スタメン発表。市原は、小倉・ベンソンの2トップで、バロン・林が控え。四日市工トリオも酒井も健在で、気になるのは阿部の名前が見あたらないくらいか(DFの喜多という選手は、あまり見たことがないが)。一方東京は、内藤が復帰してほぼベストの陣容。由紀彦はサブに回り、増田が先発。また、ボランチは前節に続いて浅利・浅野のコンビだ。さすがにスタメンの名が呼ばれる間は個々の選手に喝采していた東京サポーターも、サブの紹介になる頃にはまたしてもアマラオコールを連発。もうアマ以外は目に入らない様子である。で、選手紹介が終わるといつもなら「You’ll Never Walk Alone」が流れるところだが、今日は一向にその気配がなく、代わりに派手な衣装のお姉ちゃん達がバックスタンド前に現れる。「パラパラオールスターズ」って言ったっけ?何と間の悪いことか!今日はとてもそんな雰囲気ではなく、ゴール裏からはブーイングも聞こえる。まあ、何週間も前から決まっていた企画ではあるのだろうが、そもそも
内容自体がハズしている感じであり、流れるアップテンポの電子音も空しすぎる。気恥ずかしくて、とても正視できなかったな。踊っている女の子達も、可哀想すぎるよ。
ともあれ、試合開始。前半は両チームともタイトな陣形で臨み、中盤での潰しあいとなった。ジェフは「プレッシング・サッカーの権化」ベルデニック監督らしく、統率された動きで組織的にスペースを埋めていく。東京は相変わらず攻撃陣の連携が悪いこともあってマイボールを前線に運びきれず、パスミスやカットが相次ぎ、なかなか攻撃の形を作れなかった。前半途中からは2トップ目がけてシンプルに入れる縦パスが増えるが、キーパー・DFラインに予期されて有効性は低かった。一方ジェフも小倉や中西を軸として東京陣に攻め込むものの、東京はV川崎戦のような前線からの囲い込みはせず、守備的MF以下がしっかりマークするディフェンスで崩れない。市原攻撃陣では、前節福岡戦を見ても分かるように小倉が万能タイプの「司令塔」として機能しうるのだが、この日はベンソンら周りの選手に彼の視野の広さを生かす動きが乏しく、小峯の密着マークもあって思ったほどの働きができない。むしろ前半は、中盤の底からフリーでボールを持ち上がってくる中西や縦に強いベンソンの方が怖かった。東京側で光ったのは、浅野・浅利のボランチコンビ。特に浅野は足腰の頑健さと出足の素早さを見せて度々ボール獲得に成功。プレッシング破りの常道とも言える「頭の上を越していく」大きなサイドチェンジも見せ、チャンスらしい場面の多くを作り出した。浅利も、浅野のいる安心感からかいつになく積極的に前線へ進出してボールに絡んだ。前半、両チームとも決定機と呼べるのは1度ずつ。15分に増田が縦のロングボールをDFラインの裏で待ち受けるがシュートは空振り、40分にはベンソンがDFと競り合いながら縦に走り込んでシュートしたが土肥ちゃんの好セーブに阻まれ、結局0−0でハーフタイムを迎えることになった。
後半開始から、東京は好調の浅野に代えて喜名を投入し、攻勢をかけようとする。しかし、これが裏目。中盤を市原に支配され、出だしの10分は守勢に回ることになった。小倉もフリーでボールを受けるようになり、2分には大柴がゴールライン際へ抜け出てセンタリング、ペナルティエリア内で小倉・ベンソンとつないで酒井が至近距離でシュート(喜名クリア)。5分には壁パスから小倉がDFラインの裏へ抜けかけ(サンドロが長い足でボールを引っかけクリア)、6分にもゴール前のベンソンにボールが渡るなど、完全なジェフペースとなった。
ところが、この時間帯をDF陣の踏ん張りでしのぐと、前がかりになったジェフの中盤がルーズになり、逆に東京が素早いパス回しから攻撃の形を作るようになる。12分には喜名から右サイドに開いた浅利へ渡り、きれいなセンタリングがゴール前へ(惜しくも合わず)。13分にはドリブル(やっと出た!)で中西をかわした増田の強烈なシュートが枠をかすめ、さらに15分にはツゥットのスピードに乗ったドリブルから3対3の場面を作る。これまでさんざんブーイングを浴びてきた増田の、積極的なドリブルと献身的な戻りでの貢献が目立った。一方ジェフも負けずに林を投入、両軍とも決定力を欠いてなかなか得点は入らないものの、殴り合いの様相を呈してきた。18分にはDFライン前でフリーになった小倉がミドルシュート、私の位置から見ると完全に「やられた」という弾道だったが、幸運にもボールはバーに当たって枠外へ。その直後、東京はツゥットに代えて鏑木を投入、スタンドこそ大いに盛り上がったものの、カブにツゥットほどの突破力・キープ力は望めず、かえって攻撃のリズムが狂い、流れは再びジェフに傾く。25分には中西がDFライン裏に抜け出、29分には左サイド突破した小倉から(こうして書いていると、いかに彼の存在が大きいか分かるね)マイナスボールのセンタリングがジェフFWの頭にピタリ。「またしても、勝利は遠いのか」。嫌な予感が頭をよぎった。
後半31分、小倉OUTバロンIN。ジェフは前線でボールをキープできず、さらに5バック陣形で攻撃にほとんど人数をかけなくなった。
もしかしてベルデニック、延長制度を知らなかった(笑)?というのは冗談だが、ジェフにしてみれば引き分けでも残留が決まる状況だけに、この交代の主眼が「勝ちに行く」というよりも「負けない(あわよくば勝つ)」ことにあったのは明らかだろう。ともあれ、ここしばらく終了間際の失点に苦しんできた東京からすれば、ジェフの攻撃に怖さがなくなり、非常に助かったと言えよう。以後、試合終了まで一貫して東京の攻勢が続くことになる。そして39分、待ちに待った由紀彦の投入。スタンドも、一気にイケイケムードである。40分にはカブの振り向きざまのシュートが当たり損ねて絶好のセンタリングとなり、さらに42分には左サイドから切り込んだ小林が浮き球でDFの頭を越し、オフサイドと勘違いしたDFラインがフリーズする隙に由紀彦が超どフリーに。決勝ゴール間違いないかと思われた場面だったが、喜多が斜め後ろからこれがPKでなければ何がPKとなるんじゃあ的タックルをかましてノーゴール。ちなみにこの場面、スタンドで見ていると由紀彦がセルフジャッジで自ら止まり、チャンスを逃したかにも見えた。ビデオで見直すとそんなことは全くなかったのだが、私の周りの席からは「何やってんだ!」という突っ込みが多々飛んでいた。もしあのまま負けていたら、アジアカップ決勝の柳沢並の男下げっぷりだったろうが、良かったね、由紀彦君。さらにさらに44分には喜名との壁パスから右サイドを突破するなどこの日は由紀彦の好調ぶりがひたすら目立ったのだが、それでも得点は入らない。
で、延長に入るとジェフは明らかな引き分け狙いで、攻撃といえばバロンの頭と林の脚だけ、あとは5バック+3ボランチで守りきろうとする専守防衛体勢に突入。東京イレブンも疲労から足が止まり、両軍DFの頑張りもあって試合は完全に膠着した。0−0のまま延長後半へ突入。
後半になっても相変わらず膠着状態が続たが、意外なところであっさりと試合は決まった。7分、左サイドで小林が楔のパスを縦に入れ、アマラオがペナルティライン際でキープしたのち、右サイドへ横パス。オーバーラップしていた内藤が丁寧なクロスをゴール前に入れると、一瞬躊躇したGK櫛野とカブが衝突、走り込んでいた由紀彦がこぼれ球を押し込んでVゴール。由紀彦のポジショニングの勝利。そしてFC東京、公式戦では実に4ヶ月ぶりの勝利である。スタンドでの「東京ブギウギ」も、勝利が伴ってのものだけにひときわ嬉しい。ようやく一息つけた、といったところだろうか。そして試合後、またしてもゴール裏ではアマラオコールの大合唱。アマラオも、今度ばかりはスタンド前まで来て「しゃあ〜!!」のパフォーマンスで応える。ただ今日は事前に得ていた情報が情報だけに、つい「もしかしたらこの光景が見られるのも、これが最後?」などと考えてしまい、心の中にもやもやしたものが残ったのもまた事実ではあった。あと、久々の活躍でヒーローインタビューを受けた由紀彦が、スタンドまでわざわざ駆けてきてもサポーターはアマラオコールの一点張りで、寂しそうに戻って行ってしまったのは見ていてあまり気持ちの良い光景ではなかったなあ。
総括。ジェフ市原は、前半非常に訓練の行き届いた動きで、新監督の戦術が少しずつではあるが浸透し始めていることが伺えた。もともと、選手の潜在能力から言えば残留争いなどしていてはおかしいチームなのだ。酒井、小倉、阿部、山口、中西…。このメンバーでなんで神戸や東京や広島より下なのよ、という感じである。ベルデニックが続投するのかどうか知らないが、このまましっかり鍛え直せば、来年こそそこそこ上位でやれるんじゃないだろうか。優勝争いのためには、攻撃陣にインパクト・プレーヤーがもう一人欲しいかな。
東京は、最近試していた、「前からの守備」をとりあえず凍結し、東京らしい「まずは中盤以降でしっかり守ってカウンター」というスタイルに戻った印象。内藤復帰もあって守備には特に穴がなく、課題の攻撃でも由紀彦の復活で何とか結果を出した。ヴェルディ戦でもこれができていればなあ…。ともあれ、長かったシーズンも、あと1試合。色々と紆余曲折もあったが、最後の最後は本来のサッカー、今年の6月までに見せていたサッカーを見せ、年間8位以内+年間勝ち越しを達成して欲しい。色々な意見もあろうが、1年目としてはそれで合格点でしょう。
最後に、アマの件について(以下、「『東なめ』の記事が事実であれば」という仮定の上に書きます)。まず、冷静に考えて、今の東京にアマラオを手放す戦力的な余裕などない。2ndのヴェルディ戦が典型だが、彼がいるといないとでは攻撃の破壊力がまるで違う。ツゥット・神野・鏑木・戸田のいずれもが中心的なポストプレーヤーというよりは衛星型のFWであり、アマラオの様な万能型の周りを動いてこそ生きるタイプだ。たまたま今季はアマラオ不在の試合でも結果が出ているが、試合会場で見ている感じではまだまだ「脱アマラオ」は遠い。W杯イヤーをJ1で迎えるには、彼の残留が必須に近い条件となってくるだろう。また、思い入れの面から言わせてもらうと、アマラオこそは「キング・オブ・トーキョー」の名の通りFC東京というチームの象徴であり、J1昇格までの最大の功労者であり、サポーターのマスコットであり、何より東京の魂であるだろう。そのアマラオを、記念すべき東京スタジアムでの開幕を待たずして手放してもかまわないというのは、狂気の沙汰としか言いようがない。「東なめ」によって伝えられたアマラオの指摘は、かなり厳しい。厳しすぎると言っても良い。今年の快進撃でいい気になっていた私も、冷水を浴びせられたような感じで、あまりいい気持ちはしない。だが、そこには、幾分かの、いやかなりの真実が含まれているのも確かであろう。耳を傾けなければならないと思うし、何よりこんな気持ち・雰囲気のまま彼が去ってしまうのは、私にとって耐え難いことだ。FC東京の球団を運営している皆さん、どうか彼を手放さないでください。そしてアマラオ、お願いだ、残ってくれ。東京スタジアムでのあなたの雄姿が見たいんだ!!
2000年11月23日 国立競技場
Jリーグセカンドステージ第14節
FC東京 1−0 ジェフ市原