1stステージの悪夢再現。東京、連敗で窮地に陥る!!

 

 2ndステージに入って破竹の5連勝を記録したFC東京だが、前節ではサンフレッチェ広島のカウンターサッカーに完敗。そして今節の相手は1stステージで破れており、かつ現在東京・鹿島とともに首位争いを展開しているガンバ大阪。8節〜10節まで強豪との対戦が続くこともあり、ここは東京にとって、様々な意味で勝たなければならない一戦だ。私にとっても1stステージでの雨の中の辛い敗戦は忘れがたく、東京がリベンジを果たす場面は是非とも見届けたい。よって、はるばる大阪の北のはずれ万博陸上競技場まで足を運んだ。

 万博陸上競技場には大阪駅から阪急電車・モノレールを乗り継いで1時間ほどで到着。駅のすぐ目の前にあり、モノレールの本数が少ないことを除けば、アクセス的にそう悪いという感じもしない。メインスタンド裏離れたところに岡本太郎作「太陽の塔」が見えるのが印象的。中に入ってみると結構こじんまりとした、ローカル色の強い競技場だ。ゴール裏の席は芝生だし、コーナーにはハンマー投げ用のネットが置きっぱなしになっているし。その中でさすがスポンサーがパナソニックのチームだけあって、立派な大型ビジョンが目立っている(解像度が高いらしく、とてもきれいな映像が映しだされていた)。お客さんは半分ほどの入り(7千人)で、あんまり熱気漂うという感じではなく、場内の雰囲気はいかにも夏の夜ののんびりとした風であった。

 メンバー発表。東京は前節でチームの要たる浅利が負傷したため、この日は迫井が先発。リーグ戦デビューとなったフロンターレ戦では配球等でそこそこの活躍を見せたものの、それ以外ではカバーエリアの小ささとポジショニングの不安定さで頼りない印象を残している。不動の2トップとDF陣はいつもの通り。中央には好調の喜名が入り、両ウィングは由紀彦・増田。増田はこれまでチームにフィットした姿をほとんど見せていないだけあって、やや不安が残る。一方のガンバはセンターラインに吉原・稲本・宮本・都築の五輪軍団を揃える豪華なメンツ。他にも控えも含めて小島・山口・松波・柳本など実力派が揃う。優勝争いをしていることが少しも不思議でないメンツである。1stステージは何だったのだろう。

 

 キックオフ直後、東京はいつものように労を惜しまずボールを追って奪い、シンプルにダイレクトパスをつないで攻め込もうとする。1分には由紀彦が右サイドからアマラオとGKの間に通る好センタリングを上げた。しかしそれもつかの間、2分に増田から喜名への弱いバックパスを二川にスライディングでカットされ、カウンターをくらう。ニーノブーレが味方の攻め上がりに合わせてゆっくり右サイドから中央へ持ち上がり、左に回り込んだ二川へ。二川が早いタイミングで逆サイドの吉原に渡そうとしたパスを迫井が胸でブロックし損ね、ちょうど良く勢いの殺されたボールが吉原の足元に。サンドロの懸命のブロックも届かず、吉原が右足で豪快に左サイドネットに突き刺してガンバ先制。これまでの戦いでさんざんわかっているように、東京は先取点をとられるとカウンターが機能せず苦戦する傾向がある。相手の出方もわからない時間帯に奪われた先制点は、会場で見ていて実に嫌な感じのする失点であった。

 ガンバは先取点をとったせいもあってかその後守りをしっかり固める作戦に出た。東京の強力2トップを警戒、4バックはしっかり下がってオフサイドを無理に取りに行かず、稲本も上がりを自重し、さらに東京ボールになると山口やビタウまで後退して二重の防御網を敷いた。東京は喜名がドリブルでキープしつつガンバディフェンスの穴を探すもスペースはなく、前に入れてはそれ以上パスが繋がらないという嫌な展開に。機能しない両ウイングを補うように次第に内藤・藤山の両サイドバックが高い位置をとり、攻撃に絡み始める。

 この時点で既に東京の苦戦は強く予想された訳だが、しかしサッカーとはわからないもので、得点の予感など全くしていなかった20分、幸運な1点が入る。サンドロからのロングフィードをアマラオと競ったダンブリーがヘッドでバックパスを送るが、何故かGKの都築は前へ飛び出しており、ボールは無人のゴールへ。その場で見ていた限りダンブリーのプレーに不自然さはなく、むしろ都築が何故飛び出していたのかが不思議だった。都築の指示がダンブリーの耳に入らなかったのか?いずれにしてもガンバにとっては正ゴールキーパーの不在を嘆きたくなる、一方東京にとっては幸運としか言いようのないコンビミスによる同点劇だった。

 同点に追いつかれたガンバはそれまでの受けの姿勢から、より前がかりに戦術をシフトさせてきた。新井場・柳本の両サイドバックも積極的に攻撃参加を見せ始める。DFラインあるいは中盤の底からミドルパスを攻撃的MFやニーノブーレに送り、受けた選手がサイドに流れて東京DFを引きつけると逆サイドにできたスペースに後方の選手がオーバーラップをかけていく。あるいは中盤の高い位置でボール獲得に成功すれば早いタイミングで縦に走り込む吉原目がけて放り込む。チームとして機能する場面が少なく個人の能力に多くを頼っていた1stステージとは違い、意図のはっきりした組織的な攻撃が目立った。やや頭でっかちに思えた早野サッカーも次第にチームに浸透してきたということなのか?一方東京も喜名のドリブルを起点にカウンターを狙うが、宮本を中心とする強固な守備網をなかなか崩せない。アマラオ・ツゥットが個人能力で突破を図ってもダンブリー・新井場が体を張って防ぎ、中盤からの展開はほとんど稲本によってその芽を摘まれた。

 前半半ばを過ぎて、スタンドから見て明らかになったのは由紀彦のダメぶりだった。何しろ走らない、守備をしない。攻め上がる時にはダッシュするがその後の戻りがあまりにも遅く、またセットプレー時や逆サイドで攻防が行われている時にはダラダラと歩いて何もしないため、ガンバ左サイドの山口・新井場はほとんどプレッシャーを受けずにプレーすることができた。30度を超える暑さの中、スタミナの温存を考えたのかもしれないが…。しかし新井場あたりに完敗してサイドの主導権を握られては、東京のサッカーは機能しない。

 35分を過ぎると一方的なガンバペースになった。35分に柳本が効果的なオーバーラップからぴったりのセンタリングをニーノブーレに合わせ(ヘディングが枠を外れてノーゴール)。その後2〜3分の間に右から吉原が、続いて左からビタウがペナルティエリア内に侵入。38分にも吉原がペナルティエリア内で2度に渡ってシュートを狙った。ボランチの迫井は両サイドまでケアする余裕がなく、頭上や脇を抜かれて全くボールに絡めず。由紀彦−増田の両サイドが効果的な攻めを作れないためにサイドバックが上がり気味になっていたその後ろに展開されて度々ピンチに陥った。完璧に制空権を押さえた土肥ちゃんの頑張りと小峯の体を張った守備のおかげでかろうじて失点は免れる。また、ふと気づくとグラウンドの選手達からほとんど声が出ていない。指示を出しているのはGKの土肥ちゃんくらいで、あとは黙々とプレーして黙々とやられている感じ。明らかにチームとしてうまくいっていない状況の中、大熊の怒鳴り声だけが延々響いている。これは異常な光景だった。ふがいない戦いぶりにゴール裏のサポーターも応援をストップ。さらに悪いことに終了間際、頼みの喜名が負傷退場。最悪の雰囲気でハーフタイムを迎えることになった。

 

 後半開始早々は、相変わらず東京はボールが前へ進まず、ボールをとられるとすぐにサイドからセンタリングに持ち込まれる状況も変わらなかった。それでも喜名の代わりに入った小池が精力的な動きを見せ、さらに声を出してチームのバランスを保つことに努めたためか、5分過ぎから珍しく東京がボールを支配する時間帯に。ただ、それでもペナルティエリア付近まで前進するのに時間がかかり、相手DFの人数が揃ったところに突っ込んでいくために得点の気配は薄かった。10分を過ぎると東京の選手の足が止まりはじめ、再びガンバが主導権を握る。MFはおろかサイドバックまで戻れなくなる場面が見られるようになり、簡単にペナルティエリア内までボールを運ばれた。それでも、土肥ちゃんの好セーブ連発で何とかしのぐ。

 15分、増田OUT、神野IN。劣勢に陥ると直ちにFWの人数を増やしたくなるのは大熊監督の悪い癖だが、なぜこの時、由紀彦ではなく増田を代えたのだろう。この日は由紀彦の出来があまりにもひどく、また増田は攻撃では影が薄かったが守備では比較的健闘していたために、普段は増田に批判的な私も首を捻らざるをえない采配だった。一応神野を一番前に置き、ツゥットをやや左目に置く意図だったようだが、ツゥットはどうしても内寄りにポジションをとるため左サイドには広大なスペースがぽっかりと空き、ビタウらに好き放題やられる結果になった。小池がこのサイドの危機に気づいてカバーしようとしてはいたが、結局このスペースは最後まで埋まらなかった。

 20分過ぎからは暑さのため両チームとも動きが重くなり、単発的な攻撃を交互に繰り返す状態。ただ、ガンバの方がビタウ・柳本が右サイドで自由にプレーできる分、有利であろうと思われた。しかし25分にガンバが山口に代えて小島を投入、この交代が東京にとって追い風になった。同タイプの小島・吉原の役割分担が不明確な上、MFを一人抜いたために大阪もバランスを崩してしまったように見えた。俄然、試合は動き出す。

 26分、右サイド下がり気味のツゥットの左足のアーリークロス。ゴールに向かってカーブしたボールは柳本の頭を越え、神野が胸で巧みにトラップし強烈なボレーを放つが、GK都築が弾いてノーゴール。この試合初めてと言ってもいい東京の見せ場に、ようやくゴール裏からも大きなコールが上がり始める。続いて27分、左サイドでダンブリーのスライディングをかわしたアマラオがタッチライン際から内へ切れ込んでシュート(やはり都築がナイスセーブ)。28分には、逆にガンバ吉原がペナルティエリア内でシュートを放つも小峯がスライディングしてブロック。29分東京はようやく由紀彦を外して小林投入。小林のドリブルは独特のリズムでガンバの守備陣をかき回し、劣勢の試合にも光明が見えたように思えた。

 一方ガンバも33分に松波IN吉原OUT。はっきり言って交代の手順が違ったとは思うが、ともかくもこれで「松波に集める」という攻撃の意図がはっきりし、ガンバのサッカーが落ち着きを取り戻す。38分には二川とのワンツーから柳本が右サイド突破、松波のヘッドが枠をかすめた。そして40分、この試合東京にとって最大のチャンスが訪れる。小林が中央やや右から左サイドへ流れ、その後に出来たスペースに内藤が走り込んでロングシュート、ボールは定規で引いたような直線の弾道でゴール右上隅に飛び、バーに当たって跳ね返った。都築は横っ飛びの体勢のまま倒れ込んでおり、そしてゴール前には小林が走り込んでいる。すわ、決勝点か!!と思った瞬間、バーから跳ねたボールは無情にも地面で高く弾み、小林の頭に合わない!さらに宮本が足を高く上げたまま小林に体当たりし(PKとは言わんが危険なプレイだぞ)、シュートを放てず無人のゴールを前に無念のノーゴール。終了間際にはガンバが猛攻をかけるも、守護神土肥の堅実なプレーと松波のシュートの精度の低さのため得点を奪えず、延長戦に突入した。

 

 延長前の休憩時間、東京の選手にどうも活気がない。大熊が必死に指示を与えている様子だが、聞いているのやら聞いていないのやら…。前半から気になったピッチでの指示の少なさ、延々怒鳴り続ける大熊の姿。チーム内で何かあったのだろうか?そう思えてしまうこの日の東京のおかしさだった。

 延長前半1分、東京は小林→神野のスルーが通りGKと一対一になりかけるが、都築のタイミング良い飛び出しに阻まれてしまう。逆に2分、東京からすれば何度となく狙われているガンバ右サイドをノープレッシャーでガンバMF(誰だかはよくわからなかった)が悠々と持ち上がり、ビタウへスルー。ビタウはファーサイドへのセンタリングを狙って強いボールを蹴るが、蹴り損ねて足の外側でミートしてしまう。だが(ガンバからすれば)幸運にもアウトサイドへのカーブがかかったボールはゴール右隅へ飛び、センタリングに備えていた土肥ちゃんは逆をつかれて反応しきれず、そのまま決勝Vゴール。苦闘92分、東京のリベンジはついにならなかった。

 

 ガンバ大阪は1stステージとは別のチームのようだ。意図のある攻撃、組織的な守備。いずれも当たり前のことだが、これらは1stステージでは実践されていなかった。理論家早野監督の指示を消化するのに時間がかかったということなのか、それとも解任の危機を経て早野が選手側へ歩み寄った(理解しやすい戦術に絞った)ということなのか。いずれにせよ、まっとうにチームとして機能さえしてさえいれば、そしてまっとうな采配がなされれば(この日も小島と松波の登場が逆だったら90分で勝っていた可能性は強い)メンツ的にはこのまま優勝まで突っ走ってもおかしくはない。もっともシドニー五輪に主力選手の多くをとられるため、最終的には5位前後に落ち着くのではないだろうか。五輪代表GKの都築は今日初めて見たが、飛び出しのタイミングやシュートへの反応はなかなか良く、DFとのコンビネーションさえ合えば岡中を追い越す日は意外と近いと思われる。そしてこの試合に関してのMVPを選ぶとすれば、やっぱり稲本だろうか。攻め上がりの回数は少なかったが、その分全体のバランスに気を配り、守備では東京の中盤を起点できっちりつぶしてチャンスを作らせず、攻撃では前線に的確なフィードを行った。個人的には、派手に攻撃参加するよりもこの日のような中盤の底での安定したプレーの方がボランチとして価値があると思うので、これからの稲本はより期待を持って見たい。

 東京は、上にも書いたがチーム全体が何かおかしい雰囲気だった。そのときの戦術がうまくいっていないならいないで、修正しようとする姿勢が一部の選手を除いて薄い。特に攻撃的MFにはもう少し工夫(この日であれば、稲本をサイドに引っ張り出す動き)が欲しいところだ。そしてそもそも、大熊監督の采配がここのところちょっとおかしい。由紀彦と増田と小林で言えば、最も好調なのは小林だと思うのだが…。いつもは増田にこだわりすぎ、この日は由紀彦を引っ張りすぎ。基準も意図もよくわからない。試合中の攻防の流れに適した交代を行っているわけでもない。ライン際で怒鳴りまくるのももう少し自制したらどうだろうか?TVゲームじゃないんだから、選手の集中力がかえってそがれているような気さえする。そして不安定な采配の結果なのか、大熊監督の怒鳴り声がずっと続いているのに、選手の反応が乏しいような気がするのが気がかりである。選手と監督の関係はうまくいっているのだろうか?苦しいときこそ、チームには結束(もちろんピッチの上での話だ)が求められるだろうに。

 いずれにしろ、東京はこれで連敗。これから柏・名古屋・鹿島と対戦が続いていくだけに、何とも痛い星を落としたものだ。そして浅利に続いて喜名も負傷。迫井はまだ経験不足で、由紀彦も調子(あるいはモチベーションの問題か?)が戻らない。今こそ、浅野らベテランや加賀見らの生え抜きの出番だと思うのだが、どうだろうか。次の柏戦は落とせば優勝争いから脱落する大事な一戦だが、さて、大熊監督はどのような手をうってくるだろうか。そして、選手は奮起して再び良いプレーを見せてくれるだろうか。注目したい。

 

追記:この日の石山主審はヒステリックにイエローカードを連発し、その基準も不明確。最低だったと思う。

 

 

2000年7月29日 万博陸上競技場

Jリーグセカンドステージ第7節

 

ガンバ大阪 1−2(Vゴール) FC東京

 


2000年目次へ            ホームへ