弱点暴露、お疲れ東京セットプレーに沈む

 

 FC東京にとっては、始まる前からとにかく流れが悪かった。

 名古屋・柏・磐田・鹿島という強豪との4連戦を何とか2勝2敗で終え、今節は今季未勝利のガンバ大阪とホームで対戦。しかも当初の予定ではガンバは4月1日、5日、8日とリーグ戦を行った後、12日に札幌でコンサドーレとナビスコカップ1回戦を戦うというハードスケジュールになっており、私の頭の中にも「連戦と長距離移動でヘトヘトになった弱敵(失礼!)をホームで叩き、勝ち点3ゲット」という青写真ができあがっていた。多くの東京サポーターも今回は楽勝と考えていたことだろう(サポーターのウェブサイトでもそんな記述が多かった)

 しかし、世の中そううまくはいかないものだ。有珠山の噴火で札幌−ガンバ戦が延期になった辺りから雲行きが怪しくなり、鹿島戦でのアマラオの負傷が判明(秋田あー!!)。さらに試合週の半ばには内藤・喜名も相次いで負傷。トドメに、「東京戦に破れた場合、ガンバの早野監督は即刻解任」という情報が入ってきた。油断気味の東京(選手や監督に油断はなくとも、鹿島戦を終えてほっとしたことは確かだろう)、ケガ人だらけの東京に対し、死にものぐるいでかかってくるだろう未勝利のガンバ。試合前から、不吉な予感がしていたのは事実である。

 

 降り注ぐ雨の中、キックオフ15分前に国立に到着しスタンドを一目見て、観客の多さに驚いた。この日の観客数は6千6百人ほどでキャパからすればガラガラの状態であるし実は国立開催Jリーグの最少観客記録だったのだが、昨年の平均動員数が3千人台だったことを考えれば、わずか1年で雨の日にこれだけの観客を呼べるとは…。国立という会場のアクセスの良さや東京初のJチームゆえのメディアでの露出の多さもあるだろうが、何よりもここまで6試合の試合内容の熱さ・面白さが リピーターを生み出しているものと思いたい。ありがたいことだ。

 いつもの通りバックスタンドややホーム寄りに腰を下ろしてメンバーを確認すると、今季初めてスターティングイレブンに変化があった。左ウイング(「ウイング」との呼び方が古いという人もいるだろうが、東京における両サイドはまさに「ウイング」と呼ぶに相応しいポジションなのだ)は小林に代わって、前節までベンチにも入っていなかった岡元が先発。小林はケガという話は聞いていなかったが、なぜか控えにも名前がない。また、控えメンバーの中に負傷の喜名の名が無く、神野が復帰し、やはり今季初お目見えの鏑木が入っている。控えMFが浅野一人ということもあり、どうも先発と控えとで選手の特性がだぶっているような気がする。まあケガ人が多いし、「部活サッカー」だし。

 

 ずぶ濡れのピッチで行われた前半、東京は特に見るべきものもない内容だった。滑りやすいピッチに苦戦し、攻撃ではパス交換がうまく行かず、守備でもスライディングや当たりがかわされてピンチを招く場面があった。初先発の岡元は味方とのコンビネーションが合わず、攻撃に絡むことができない上に守備時のポジショニングも悪い。小林を外して起用した意味は理解できず、由紀彦やツゥットが突破をはかる一方で左サイドはピンチを招く場面が多かった。中盤は普段通り小池・浅利のダブルボランチだが、相変わらず守備に手一杯でポジショニングが低い。ただ、それでもいつもは素早く前線にボールを運んで2トップ+由紀彦の3人で何とかチャンスを作るのだが、悪コンディションの中前線へのボール運びのスピードが鈍ると、ボランチの位置の低さは余計にマイナスに映る。東京の鮮やかな速攻は開始直後に1度見られただけだった。

 ガンバ大阪も迫力のない攻めを繰り返した。ポストプレーに秀でた松波とスピード豊かな小島の2トップなのだからそのキャラを生かして勝負すればいいと思うのだが、どうも中盤重視のきれいなサッカーをしようとし過ぎるようだ(いかにも理想家早野監督らしい)。東京陣で細かいパスを出そうとして失敗する姿が目立った。宮本を中心とするDFラインはよく言えば安定感がある、悪く言えば攻撃性が薄くてアクティブさに欠ける動きだった。もっとも警戒すべき稲本も、上がる回数が少なくどうもおとなしい。才能あふれる選手が実力をもてあましているようなサッカーだった。

 前半40分に東京は機能していない岡元に代えて鏑木を投入するが、結局膠着状態のまま0−0で終了。しかし今季東京は得点のほとんどを後半にあげており、同点でハーフタイムを迎えたことでスタンドの勝利への期待は一層高まっているように思えた。

 

 ちなみに、私はガンバ大阪の試合を初めて生で観戦したのだが、そのもどかしいサッカーの他に目に付いたことが一つあった。サポーターの集団が2つにはっきり分かれているのだ。アウェイ側ゴール裏の前列部分には女の子を中心とする穏やかな(「普通のJリーグ」的な)応援をするサポーターが多数陣取っていたのだが、そこから離れたスタンド後列部分に少人数で陣取っている野郎どもの集団がおり、これが実にガラが悪い。スピーカーや鳴り物でがなりたてるのはまだいい。禁止されている紙吹雪も「やっぱり関西人ってマナー悪いのね(偏見)」で済まそう。でも足を押さえて倒れている選手に向かって「くたばれ東京!」コールはやめてくんないかなあ(テンカウント数えたときはそれなりに許せたが)。シャレにならないし、だいいち面白くない。相手を罵倒するのはいいが、時と方法を考えろよな。遠目に見て、前列部分のガンバサポも引いている様子だったぞ。余談だが、私が通っていた大学には関西出身の人間が多く、ことあるごとに「関東の人間はつまらん。関西人の方がずっとオモロイで」などと言われていたものだが、あれはやはり嘘だったようだ。嘘でないというのなら、大阪や京都や神戸のサポーターには一味違う笑える応援を望む。

 

 後半開始直後も互角の展開が続いたが、4分、ショートコーナーに東京DFが反応できずマークが外れたところをフリーのビタウがセンタリング、稲本がダイビングヘッドで押し込んでガンバ先制。グラウンドコンディションが悪い時のセットプレーは普段にも増して要注意なのだが…。その後はガンバが全体的に引いたこともあって東京が押し気味に試合を進めるが、決定的な形にはなかなか持ち込めない。初登場の鏑木は中央からの浮き球でアマラオのポスト直撃シュートシーンを演出したものの、ピッチの悪さで持ち味のスピードを殺されたこともあり、なかなかサイドを突破できない。中央からいい球がでないのも相変わらず。アマラオは足が痛そうで、決定的になりそうな場面であと一歩でパスに追いつかないことが多かった。逆にガンバは後半動きの良くなった山口を中心にカウンターで東京ゴールを脅かし、攻撃に専念させてくれない。

 それでも16分にツゥットのパスを受けたアマラオが宮本をフェイントで交わし(よく考えたら、凄いことだ)、岡中の足をはじき飛ばすシュートで同点。「また逆転勝ちか?!ワッショイワッショイ!!」。スタンドは傘を振る観客でまるで神宮球場のライトスタンドのようだ。しかし、この日東京側観客席が心底沸き返ったのはこの時だけ。

 19分、東京はまたしても集中力を欠いてしまう。右サイドを簡単に突破されて許したCK。得点した直後のもっとも危ない時間帯であるのに、マークにつかずにつっ立っている選手が多い。よく見ると、稲本がフリーになっている。「危ない!」、あわてて東京DFが稲本にマークにつこうとしたものの僅かにマークがずれたように見えた瞬間にボールが蹴られ、東京の選手棒立ちの中小島が楽に押し込み、ガンバ勝ち越し。

 その後、運動量では自信を持っているはずの東京の選手の動きがガクッと落ちてしまう。開幕からとばしてきた疲れと悪コンディションのせいか、味方のパスに追いつかない場面が増え、イーブンボールも多くをとられてしまう。前半にも増して東京らしくないサッカーであった。頼みのツゥットもドリブル突破に切れがなく、シュートもふかしてしまう。

23分に小池に代えて浅野を投入しても流れは変わらない。一方ガンバは攻撃に人数をかけず、5バック、時には6バックの体型で東京のサイド攻撃を封じ込め、前線では山口と小島が鋭いドリブルを見せる。「ガンバは後半に弱い」との前評判だったのだが。

 28分、浅利に代えて神野投入。鏑木を右に回して由紀彦を中央に置く布陣をとり、ようやく東京も球を散らしていい形を作れるようになったものの、DFラインの運動量が低下しているために押し上げがきかず、波状攻撃には至らない。38分、ビタウがDFラインの裏に抜け出し(オフサイドでは?)、DFを引きつけて小島へパス。小島が右足で確実に決めてガンバ追加点、ジ・エンド。先制され、追いついたもののすぐ突き放され、カウンターで追加点を許す。完敗である。

 

 結論から言えば、やはり危惧していたとおり、東京の弱点である相手に引かれた場合の攻め手の少なさが出てしまった。東京の攻撃パターンからすれば、サイドにスペースがなくては2トップの個人技に頼るしかないが、アマラオやツゥットだって毎回大活躍という訳にはいかないだろう。そういう意味でも喜名の欠場は痛かった。後半30分頃から見せた、由紀彦を中央に置くオプションを用いる場面が今後は増えるかもしれない。また、疲労の蓄積からか全体的に選手の動きが鈍く、大事なところで集中できなかったのも事実である。特に元々の弱点であったセットプレー(攻撃も守備も)において気の抜けたところを見せてしまったのは、今後にも不安を残す。マリノス中村の言った「部活サッカー」という言葉はひたむきに戦うFC東京の魅力を表したものととりたいが、ペース配分や戦術の柔軟性に欠け、常に全力を出さなければ戦えない東京のチーム力を言い表していることも確かだ。開幕後、ひたすら全力で走ってきた東京がここでどうギアを入れかえてペースをつかむか。リーグ戦はまだ先が長い(上位でなければ1st・2ndは関係ないからね)。

 一方ガンバは、勝利への飢えが良い方向に出たと言えるだろう。モチベーション面で完全に優位に立っていた。前述の通り前半はきれいにやろうとし過ぎてプレーが小さくなっていたが、後半の積極的なボールへの働きかけやカウンターはなかなかに迫力があった。選手の才能に見合ったコーチングを得れば、大いに飛躍できるのではないか。逆に、前半のようなサッカーを続けていくとするならば、2部落ちの危機もある。 

 試合終了後、ガンバイレブンがサポーターに挨拶に行ったとき、ガンバ女性サポーターの黄色い歓声とフラッシュはアウェイとは思えないボリュームだった。稲ギャル(笑)恐るべし。ただ、ガンバは稲本・宮本・小島と人気どころを揃えて、何でホーム平均8千人ほどの観客しか集められないのだろう。今年はともかく、毎年そこそこの成績は残しているのだが。やはりあのガラの悪い野郎サポーター連中のせいか。ああいう応援じゃあ、一見さんは引くわなあ。サポーターの「分裂」と言えばヴェルディ川崎、「ガラの悪さ」と言えばヴァンフォーレ甲府(ここは分裂もしている)を思い浮かべるが、どちらも観客は極めて少ないからなあ。

 

 

2000年4月15日 国立競技場

Jリーグファーストステージ第7節

 

FC東京 1−3 ガンバ大阪

 


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